貴方の思い描く、異世界とは違う物語が存在します。格好の良い勇者も魔王もいない世界の物語を綴った本棚にお越しください。

南悠

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秘術の末 ①

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勇者は苦しみ続けていた。
魔王軍は占領都市から人族を兵士として徴兵し、連合国への壁としている。
その為、勇者は魔王軍と戦う時点で人を倒さなくてはならない。

赤い血飛沫。倒れる人。苦しみの喘ぎ声。
勇者の心を少しづつ蝕んでいく。

夜な夜なうなされる勇者。しかし、明日も敵兵と戦わざるを得ない。

堪り兼ねた賢者が、勇者に秘術を話した。
「昔も勇者が同じ悩みを持ち続けました。その苦しみを逃れる為に、この魔法が造られたと聞いております。但し、これを使う事は、貴方様の大事な物を失う可能性が、非常に高くなります。それでも使いますか?」
「賢者殿。この苦しみから逃れられるなら、お願いしたい。」

賢者は、王国から内密に密命を受けている。
【勇者に出来る限り、早くこの秘術を使わせる様にと・・・。】
賢者は悩んだ。そして、ある決断を下した。

その後 熟慮の末、秘術が使われた。

勇者は、苦しむ事は少なくなったが、戦闘に支障が出る事は無くなり、魔王軍を追い詰め、殲滅した。

王都への凱旋に華やかなパレード。
煌びやかな宮殿での受爵式とパーティー。
そこにお似合いの勇者は、まるで、この地に生まれた住人の様に違和感が感じられなくなっている。
その姿を賢者は、遠くから躊躇いながら眺めている。

彼は、戦いの僅かな時間で、勇者から多くの話を聞いていた。
地球での、家族の事。友達や思い人の事までも、その度に帰りたいと呟いた事。あの遠くを見つめる視線の先を。あの嬉しそうに話す表情を。そして帰れない悲しい表情を・・・賢者は、決心した。

連日連夜のパーティー。
美女を両手に満面の笑顔で踊る勇者。

躍り疲れた勇者に、賢者は近寄り密かに語った。
「勇者よ。貴方は大事な何かを秘術により、無くした。その大切な物をお返ししたいが、それは今の貴方に本当に必要ですか・・・」

しばらくの沈黙。
勇者の表情は、躊躇いと疑問。

賢者は失望した表情で静かに席を立ち、城を出た。
二度と勇者と会う事は無かった。

※秘術は、異世界人の記憶を失わせ、この世界に生まれ育った記憶を植え付ける魔法。
死が軽い異世界では、人を殺す抵抗感が、非常に小さく、慣れる適応力が非常に高い為、それ程の苦しみは無い。

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