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第2編 消えた人々の行方
城で暮らした後のこと
ジャンティーとウォルターが結婚してから、半年が経過した。
最初のうちは変貌したウォルターに驚いていたシャルルも、1ヶ月半もすればすっかり慣れてしまって、今では「ウォルター殿」「義父上」と呼び合うほどに距離が縮まった。
あれから3人は何不自由なく、城の中で平穏に暮らしていた。
そんな最中で、ジャンティーがこんなことを言い出した。
「ねえ、ウォルター様。ぼく、街まで出てみたいのですけれど構いませんか?」
ある日の夕食後、ジャンティーに当然そう切り出されたウォルターは心底驚いた。
ジャンティーは城で暮らし始めてから半年間、まったくと言っていいほど、城の敷地内から出たことがなかった。
これはシャルルも同様だ。
シャルルは、ここで暮らしてから1ヶ月ほどは商売を続けていた。
しかし、店は相変わらず閑古鳥が鳴いていたし、高齢の体に鞭打って働いたものだから、体調を崩す日が続いた。
そこで店の切り盛りをジャンティーが引き継いだのだけど、閑古鳥が鳴くのは変わりなかった。
店の経営状況は一向に良くはならず、売れ残りの在庫を山と抱えてにっちもさっちもいかなくなり、やむなく店を畳むことになったのだ。
これにより負った借金は、ウォルターがジャンティーに贈った宝石類を換金して返済した。
そんなわけで、ウォルターにジャンティー、シャルルはこの城の中で散歩したり、音楽を奏でたり、読書をしたりしながら、日々を過ごしていた。
魔法のかかったこの城の中では、大抵のことができてしまえる。
家事労働も庭仕事も着替えも風呂も、見えない召使いが全てやってくれる。
したがって、食品の買い出しや仕事を理由に外に出る必要はないため、ジャンティーとシャルルは何ヶ月も城から出ていなかった。
「どうして急にそんなことを?」
「お世話になった人たちがいるのです。その人たちにどうしても会いたいのです」
「世話になった人?」
はて、世話になった人たちとは誰であろうか。
ジャンティーの話によれば、以前住んでいた一軒家に引っ越してからは、あまり他者と交流していないと聞いていた。
「仕事先のご主人と、その仲間たちですよ。ここに来る前は日雇いのお仕事をたくさん貰っていました。そのおかげで、なんとか食べていくことができたのです。ご主人と仲間たちにはとてもお世話になりました。それなのに、何の挨拶もしないまま去ってしまったから申し訳なくて。あの人たちは僕らのことをとても気にかけてくださいましたから、きっと心配しているはずです」
過去に世話になった人々のことを話すジャンティーは、どこか生き生きとしていた。
当時は常に困窮していて、生活の維持はなかなか大変だったはずだが、決して不幸ではなかったのだろう。
そんなジャンティーを見て、ウォルターは頬が綻ぶのを感じた。
「ですから、彼らに今も元気にしていると直接会ってお伝えしたいのです」
「そうか、そういうことなら構わない。それを使いなさい。使い方はわかっているね?」
ウォルターはジャンティーの左手薬指にはめられている金の指輪を指差した。
最初のうちは変貌したウォルターに驚いていたシャルルも、1ヶ月半もすればすっかり慣れてしまって、今では「ウォルター殿」「義父上」と呼び合うほどに距離が縮まった。
あれから3人は何不自由なく、城の中で平穏に暮らしていた。
そんな最中で、ジャンティーがこんなことを言い出した。
「ねえ、ウォルター様。ぼく、街まで出てみたいのですけれど構いませんか?」
ある日の夕食後、ジャンティーに当然そう切り出されたウォルターは心底驚いた。
ジャンティーは城で暮らし始めてから半年間、まったくと言っていいほど、城の敷地内から出たことがなかった。
これはシャルルも同様だ。
シャルルは、ここで暮らしてから1ヶ月ほどは商売を続けていた。
しかし、店は相変わらず閑古鳥が鳴いていたし、高齢の体に鞭打って働いたものだから、体調を崩す日が続いた。
そこで店の切り盛りをジャンティーが引き継いだのだけど、閑古鳥が鳴くのは変わりなかった。
店の経営状況は一向に良くはならず、売れ残りの在庫を山と抱えてにっちもさっちもいかなくなり、やむなく店を畳むことになったのだ。
これにより負った借金は、ウォルターがジャンティーに贈った宝石類を換金して返済した。
そんなわけで、ウォルターにジャンティー、シャルルはこの城の中で散歩したり、音楽を奏でたり、読書をしたりしながら、日々を過ごしていた。
魔法のかかったこの城の中では、大抵のことができてしまえる。
家事労働も庭仕事も着替えも風呂も、見えない召使いが全てやってくれる。
したがって、食品の買い出しや仕事を理由に外に出る必要はないため、ジャンティーとシャルルは何ヶ月も城から出ていなかった。
「どうして急にそんなことを?」
「お世話になった人たちがいるのです。その人たちにどうしても会いたいのです」
「世話になった人?」
はて、世話になった人たちとは誰であろうか。
ジャンティーの話によれば、以前住んでいた一軒家に引っ越してからは、あまり他者と交流していないと聞いていた。
「仕事先のご主人と、その仲間たちですよ。ここに来る前は日雇いのお仕事をたくさん貰っていました。そのおかげで、なんとか食べていくことができたのです。ご主人と仲間たちにはとてもお世話になりました。それなのに、何の挨拶もしないまま去ってしまったから申し訳なくて。あの人たちは僕らのことをとても気にかけてくださいましたから、きっと心配しているはずです」
過去に世話になった人々のことを話すジャンティーは、どこか生き生きとしていた。
当時は常に困窮していて、生活の維持はなかなか大変だったはずだが、決して不幸ではなかったのだろう。
そんなジャンティーを見て、ウォルターは頬が綻ぶのを感じた。
「ですから、彼らに今も元気にしていると直接会ってお伝えしたいのです」
「そうか、そういうことなら構わない。それを使いなさい。使い方はわかっているね?」
ウォルターはジャンティーの左手薬指にはめられている金の指輪を指差した。
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