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ピノキオの疑い

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ピノキオだって、悪さばかりしていた時期はあったけれど、子どものうちに更生してみせたし、郷里を追われるほどの悪さなどしていない。

自分はかつて人形であったというだけで、それ以外には何ら変わりはないのだ。
少なくとも、ピノキオはそう思っている。

「エウジェニオに頼めば良いのでは?」
ピノキオは、カルロの頼み事をエウジェニオに押し付けるような形で拒絶した。
この町は狭いし、よく見知った場所だから、案内するなんて大した手間ではないけれど、そこまで親切してやる義理もない。

「もちろん、無償でなんて言いません。手間賃を差し上げますから」
ピノキオの心情を悟ったのか、カルロが懐から金を出してきた。
金を出せば簡単に懐柔できると思われているのかと腹が立つ一方、心が揺らいだ。
そんな自分にも腹が立つ。
反面、金に困っているのは事実だったから、貰えるとなるとありがたい気持ちもあった。

ピノキオは、この町の大半の町民と比べればはるかに高給取りではあるが、いつでも金がなかった。
稼いだ金を日々の生活費に割かねばならない上、この古ぼけた家の維持費が異様にかかるからだ。
築何年かもわからないこの家はすっかり老朽化してしまって、ひび割れや木材の腐敗を発見しては修繕、発見しては修繕を繰り返していた。
今だって、ドアノブが上手く回らないからまた修繕する必要が出てきている。

──仕方がない…

「かしこまりました。そこまで仰るなら引き受けましょう」
カルロは結構な金額の金を出してきているし、修繕費の足しにでもなればとピノキオは渋々ながら承諾した。

「ありがとうございます!」
ピノキオの返答を聞くや否や、カルロは嬉しそうな顔をして礼を言った。
ひょっとして、彼もロメオのような下心からこんなことをするのだろうか。
でなければ、こうも自分に構う理由が見つからない。

「それで、明日の何時にどこでお会いしましょう?」
少しの警戒心を抱きながら、ピノキオはカルロの顔を見た。
その顔は、どこか嬉しそうだ。

「何時でも結構ですよ、ピノキオさんの都合のいい時間をお願いします」
「では、13時ではいかがです?」
ピノキオは言われた通り、都合の良い時間帯を述べた。

こんなことのために朝早く起きたりするのは勘弁だが、遅い時間に辺りが暗くなってからでは道案内どころではない。
それに、夜間によそ者の男と歩いていたら、わけのわからない噂を立てられる危険性があった。
この狭い町では、そういう噂は簡単に伝播して大事に発展することも多い。



「13時ですね、構いませんよ!」
カルロは、人好きのする笑顔を浮かべた。
なるほど、こうして見ると、エウジェニオがピノキオのことをベラベラ話す気持ちもわかる気がする。
身なりも顔つきも整った男が、こうも気さくに接してきたとあっては、たとえよそ者であっても邪険にはできまい。







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