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カルロの心境

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「あの野郎、謝りもせずにどこかへ行きやがった!なんたる不届き者!!」
そばにいた町民が、ピノキオが走り去っていた方向を見ながら憤慨した。

「お前も落ち着けったら!そら、お前たち、散った散った!もう騒ぎは終わったんだ!早くどっか行きな!!」
バナーレが周囲の町民に呼びかけると、野次馬根性剥き出しで集まっていた連中は、蜘蛛の子散らすように去っていった。


「新町長さま、あいつのご無礼をお許しくださいませ。あれほどのことがあった上で、こんなことを申し上げるのはどうかと思うのですがね、ピノキオにも思うところがあるのです。いろんな事情があるのです」
町民がみんないなくなると、バナーレはすまなさそうにカルロに許しを請うた。

「許すだなとど、私はそんな威張った口を聞ける立場ではありませんよ。私があまりに考えなしだったのです。だから、ピノキオさんはあんなに怒ったのです」
今度はカルロがすまなさそうな顔をする。

「ところで新町長さま、いきなり話は変わりますがね」
「なんですか?」
「あなた、ピノキオに惚れなすったんでしょう?」
バナーレが言うと、カルロの頬にさしていた赤みが、耳まで届いた。
「わかってしまわれるのですね。そうです、一目惚れです」
自分の下心が見透かされていたとわかったカルロの頬の赤みはどんどん濃くなって、耳まで染まっていった。


「なあに、ピノキオに惚れない人の方が珍しいものですよ。アレも子どもの頃は、どこにでもいるようなやんちゃな悪ガキだったんですがねえ。成長していくにつれてキレイになっていって、ある歳を越した途端に、みんなしてピノキオに惚れて夢中になりました。もともとの気質は優しい子でしたし、成績だって良かったものだから、なおのこと惹かれていったんでしょうな」
「バナーレさんも、ピノキオさんに惹かれたことがあるのでしょうか?」
「いや、私は惹かれるよりも先に、アレが心配になりましたよ」
バナーレは首を横に振った。

「心配…とおっしゃいますと?」
「私はアレの父親とも知己でしたからね。アレが子どもの頃から顔を知っているのです。だから心惹かれることはありませんでした。親戚の子のような感じがするのです。それだけに、あの特異な見た目や生まれ育ちで苦労するんじゃねえかと不安でしたし、その予感はまあ見事に的中しました」
バナーレが、どこか懐かしむような様子でピノキオのことを話し出す。

「子どものピノキオさんに、何があったのです?」
「人形から人間になったというだけでも特異ですからね、学校では少しばかり浮いた存在でしたよ。子どもは残酷ですからね、そのことであれやこれやとピノキオを責め立てるのです」
「なんとまあ…」
カルロが顔を顰めた。

「でもね、それくらいなら心配には及びませんでした」
バナーレは続けた。
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