二次元だって、裏切ります

若目

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編集者

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「たかがマンガ、されどマンガ。江久さん、もうちょっとファンの気持ちになって考えてみてくださいよ。後々になってみれば、「あー、すごくバカなことで悩んでたんだなー」「あんなことマジで怒っちゃってバカだったなー」って済むけど、悩んでるときはほかのことなんて考えられないもんですって」

「そういうもんでしょうか?」
「そういうもんですよ。めちゃくちゃ怖いホラー映画見た後とか、怖い話聞いた後、しばらく恐怖が残って夜中トイレに行けなくなったことありません?アレに近いカンジ!」
「子どもの頃にはありましたけど、今はホラー映画なんか見ないのでなんとも言えませんね」
真紀子は子どもの頃の記憶を反芻してみるが、成人した今となっては難しいと考えて諦めた。

「まあ、なんですかね。彼女たちも、飽きたら案外あっさり忘れてまた別の何かに夢中になってるんじゃないですかね」
編集者は話題を切り替えた。

「ありえますねえ。オタクのみなさん、びっくりするぐらい熱するのが早いけど、びっくりするぐらい冷めるのも早いんですよ」

「ああ、オタクに限らずどこなりいるね。アニメキャラでもアイドルでもホストでもね。特定の何かにめちゃくちゃ入れ込んでたのに、アニメ終わったとか推しが結婚したとかホスト辞めたとか、理由はいろいろだけど。案外、その特定の何かが無くなってしまってもケロッとしてることが多いんですよね」

「いますね。いわゆる推し活にお金をつぎ込むために、生活費削って風俗嬢してまで某声優に入れ込んでた人に会ったことあるんですけど。その人、声優が不祥事起こして干された途端に別の声優に入れ込みはじめました」

「うわあ、強烈…風俗嬢までするとか……」
編集者は唖然とするあまり、さっきよりも声が小さくなった。
「ええ、強烈でしょ?その人が入れ込んでた声優、ハッキリ言って、そこまでするほど魅力的には見えないんですよね。アレ、ホントに何なんでしょうね?何がそこまでさせるんでしょうね?」

「オレが思うに、たぶんそういう人たちが求めてるのは「宗教」ですね」
「宗教?」
編集者の言っていることが分からなくて、真紀子は首を傾げた。
そんな真紀子の反応など半ば無視するような形で、編集者は語り続ける。

「ここ最近の情勢は不安定でしょう?未曾有のウイルス騒ぎで失業率や生活保護受給率は格段に上がってる。物価は上がってる一方で平均所得は下がる一方。それに伴って出生率も下がってる。世の中がこんな有り様じゃあ、不安も日々大きくなる一方だよね。その不安から逃れるために、みーんな何かにすがりながら生きてるわけだ」

「つまり?」
話が脱線していないかとは思ったが、真紀子は聞き役に徹した。

「みんな不安でたまらない。そこである人は小説の投稿を始めたり、ある人は手芸に凝ったり、ある人は絵を描き始めたり、ある人はスピリチュアルにハマったり、ある人はアイドルや俳優の追っかけを始める。それで、襲い来る不安から逃れようと躍起になるわけだ」
編集者が意味ありげにニヤリと笑った。
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