黄金龍と妖魔王Ⅱ~飢餓の街編~

神辺真理子

文字の大きさ
5 / 11

第5話

しおりを挟む
パーピーの森へ降りようとすると下からギャアギャアとやかましい音が近づいて来た。
「パーピーだ。気をつけろ」
シアンの声が飛ぶ。
「白龍。剣を」
綺羅が声をかけると六角柱が黄金に光って綺羅の手元に黄金の剣が現れる。
だが、襲って来たパーピー達を見て綺羅は動けなくなってしまった。
「う・・・・・・」
鳥のような体に女性の顔をしている。ただ、その顔はガリガリで青白い。
『綺羅危ない』
『剣を振って』
赤龍が体当たりしてパーピーを退ける。
「・・・・・・。ありがとう」
お礼を言うが声が震えてしまう。
おぞましい姿だ。
灰色の羽に鋭い錐のような爪。人面という部分を除いても美しいとは言えない。
さらに、やかましい鳴き声。
だが、ギャアギャアと泣き喚く声は、綺羅の耳に飢餓の苦しみを訴えているように思えた。
綺羅は意を決意して黄金の剣を振るう。
「在るべき場所に戻って」
願いを込めて剣を振るった。
黄金の光が放たれ、綺羅の周囲にいたパーピー達が消えた。
「やった」
ホッと一息を吐く。しかし、綺羅の下では他のパーピー達がまだギャアギャア騒いでいる。
「青龍、赤龍、行くよ」
『行こう行こう』
『助けてあげよう』
綺羅は青龍に乗り、赤龍と共に森の中へ突っ込んで行った。
その途端、パーピー達が襲って来た。
「痛い。痛い。ちょっと待って」
パーピーに突っつかれる。
綺羅は剣を手放さないようにしっかり握りしめる。
「みんな元に戻って」
パーピー達に突っつかれ、引っかかれながら綺羅は無我夢中で剣を振るった。
森の中に居るパーピー達、みんなが元に戻れるように願いながら。
黄金の光が森を包み込む。
あまりの眩しさに綺羅は目を閉じた。
ふわっと自分の身体が浮くのを感じて目を開けると、パーピーの森が眼下に見えた。
「あれ?」
綺羅は時間が戻ったのかと思った。
しかし、先程までのギャアギャア喚くような鳴き声は聞こえない。
森の緑も先程までは暗い深緑色だったのが、青々しているように見える。
「パーピー達が居なくなって森が浄化されたのだろう」
しれっと姿を現したシアンが解説する。
綺羅は溜息を吐く。
毎度毎度のことなのでもう慣れたが、呆れずにいられない。
綺羅を護るという契約をしたから一緒にいるのではないのか。
それなのに、シアンは闘う時になると居なくなってしまうのだ。
「それより、パーピーにされた人達は元に戻れたの?」
「あぁ。遭難者の中に家族が居る者は隠れ家に帰しておいたぞ」
「そう。じゃあ、ケンタウルスの山に行きましょう」
「おい」
「何?お礼は言わないわよ」
「そうじゃない。パーピーに引っかかれただろう。手当をしないと毒が身体に回るぞ」
「あぁ、じゃあお願い」
綺羅は顔をシアンに寄せて目を閉じた。
ペチッ。
「痛い。何するのよ」
おでこを叩かれたのである。
「これで、毒は抜けたぞ」
シアンは口の端だけで笑う。
「シアンが笑った・・・・・・?」
綺羅は、なんだか恐ろしいものを見たような気がした。
青龍に乗ったままの綺羅とシアンはケンタウルスの山を目指した。
ケンタウルスの山は、昨日の雪に覆われていた。
「ケンタウルス達はどこに居るのかしら」
遭難者達は人間の匂いがするとケンタウルス達はどこかに隠れてしまうため、どこに棲んでいるのかわからないという。
「シアン。私の匂いを消せる?」
「誰に聞いている」
シアンは鼻で笑う。
「じゃあ、お願い」
綺羅は自分の匂いが原因でケンタウルス達が隠れているのだと思ったのである。
だが、シアンは何もしない。
「シアン。早く」
「もうやった」
ジロリとシアンが睨む。
「・・・・・・。あ、そう」
言ってくれないとわからないのに、という思いを綺羅は飲み込んだ。
だが、龍達には伝わったらしい。
『言ってくれないとわからないね』
『言わないとわからないよね』
「ありがとう。青龍と赤龍」
綺羅は2匹の龍を撫でる。
龍達はキャッキャッと喜ぶ。
ところが、待てど暮らせどケンタウルス達は現れない。気配すらしない。
「どこに居るのかしら」
「奴らは夜行性だ。もう少し待つしかない」
夕方になって気温が下がる。綺羅はぶるっと身体を震わせた。
「人間は不便だな」
シアンは独りごちる。
綺羅は何も言わずにシアンを睨む。だが、その直後に綺羅の身体が温まって来た。
「シアン何かしたの」
「お姫さんが凍死したら困るからな」
「素直に優しくないのね」
「・・・・・・。お互い様だ」
シアンがボソっと呟いたのが聞こえたが、綺羅は聞こえない振りをした。
「ケンタウルス達を呼ぶ方法はないかしら」
いつまでもここで待っているわけにはいかない。
「ケンタウルスは酒と女が好きだったな」
シアンが呟くように答え、綺羅はビクッと肩を振るわせた。
「まさか、私を・・・・・・」
前回の囮作戦を思い出して綺羅は不安に駆られる。
そんな綺羅をシアンは小馬鹿にしたように、鼻で笑う。
「ケンタウルスは女が好きなんだ。乳臭いガキに興味はない」
「失礼ね。騎士服で見えないだけで私は大人の女よ」
シアンは常に無表情だ。だが、こういう時だけ表情豊かになるのが綺羅の怒りを増幅させる。
「前にも言ったが、すぐにムキになるのが子供の証拠だ。さぁ、酒でも用意しておびき寄せるぞ」
「・・・・・・」
悔しいがシアンの言うとおりである。
それに、囮に使われると思った自分が恥ずかしい。
綺羅は黙って唇を噛むしかない。
シアンは酒樽をいくつも出現させ匂いが広がるようにフタを外す。
たちまち酒の匂いが周囲に広がり、酒に弱い綺羅は匂いだけで酔っぱらってしまいそうだ。
「お姫さんには刺激が強すぎるな」
シアンが言うと綺羅の鼻は、酒の匂いを感じなくなった。
「何をしたの?」
黙って術をかけられたことに腹を立てる綺羅にシアンは、無表情で綺羅を見つめる。
「・・・・・・。何?」
綺羅は沈黙が怖くて口を開いた。
「酔っ払ったままケンタウルスを相手にできるのか。奴らはパーピーのようにはいかないぞ」
シアンの指摘に綺羅は反論できない。
「・・・・・・。ごめんなさい」
ケンタウルスを見たこともなければ性格すら知らない綺羅は、素直に謝るしかなかった。
パーピー族のことも本でしか見たことがなかった。
彼女達を目の前にして、そのおぞましい姿に正直怯《ひる》んだのである。
「謝っている暇があればすぐに剣を振れるようにしておけ」
シアンは酒樽に視線を向けたまま指示をする。綺羅は素直に従った。
白龍を呼び出すと黄金の剣に変化させ、ケンタウルスを待つ。
しばらくすると蹄の音が聞こえて来た。
綺羅は知らなかった。ケンタウルスには、さまざまな種類がいることを。
「嘘・・・・・・」
上半身が人で下半身が馬というのも、間近で見るとかなりグロテスクなものだ。しかし、酒樽に群がるケンタウルスの中には下半身が牛やロバ、獅子に豚までいる。
各々が斧や槍、弓などの武器を背負っていた。
「酒だ。酒がある」
「おぉ。また、誰かの親が来たのか」
「人間の匂いはしなかったぞ」
「だったら、この酒はなんだ。罠か」
「まぁ、いい。呑め。呑め」
ケンタウルス達は酒を飲み始めた。
綺羅はケンタウルス達のおぞましい姿に吐き気がしてくるのを感じた。
だが、彼らは妖魔に姿を変えられた被害者だ。
綺羅が意を決し、剣を振ろうとした途端に綺羅は急に寒さと獣の匂いを感じる。
「何?」
困惑する綺羅。
酒を飲むケンタウルス達も急にそわそわし始めた。
「人間だ。人間の匂いがする」
「女だ。女の匂いだ」
それまで酒を飲んでいたケンタウルス達が綺羅を探し始めた。
蹄の音がし始め、ケンタウルス達が武器を手に山を走り始める。
焦った綺羅は思わず立ち上がり、ケンタウルス達の前に姿を現してしまった。
「女だ。それも金の女がいる」
綺羅と一番初めに目があったケンタウルスが叫ぶ。
すると他のケンタウルス達も集まった。
「本当だ。でも、妖魔じゃないのか」
「人間の匂いがするぞ。妖魔じゃない」
ケンタウルス達が武器を手に綺羅に近寄って来る。
綺羅は目を逸らしたくなるのを堪えた。
「みんなが待ってるわ。貴方達を帰す」
綺羅の言葉にケンタウルス達の表情が変わった。
「ふざけるな。誰が帰るか」
「そうだ。こんな姿を見せるわけにいかない」
「お前、何者だ」
ケンタウルス達が怒りの感情を露わにした。
「大丈夫。元の姿に戻すから」
綺羅が今度こそ黄金の剣を振ろうとすると、ヒュンっと矢が飛んで来た。
『危ない』
『大丈夫?綺羅』
青龍と赤龍が耳元の六角柱から出て来て矢を尻尾で払い、ケンタウルス達から綺羅を護るように立ちはだかる。
「うわぁ。龍だ」
「龍だ」
「龍使いか」
ケンタウルス達はそろそろと後退る。
「俺は人間に戻っても帰る気はない」
弓を構えたケンタウルスが言った。
「どうして?」
綺羅は不思議そうに、弓を放ったケンタウルスを見る。
「こんな姿を見られたのだ。だから戻れない」
他のケンタウルス達も「そうだ」と頷く。
「どうして?妖魔のせいで姿を変えられたのでしょう。貴方達は悪くないのに」
「龍使い様に関係ない。帰れ。二度と来るな」
怒気を孕む口調で、弓を放ったケンタウルスは綺羅に背けて走り出すと、他のケンタウルスも続く。
「あ、待って」
綺羅は剣を振るうべきか迷う。
そこへバリトンの声が響いた。
「何をしている。剣を振れ」
綺羅はシアンに背を押され、黄金の剣を振るった。
「みんなが待ってるわ。在るべき場所へ戻って」
ケンタウルスの山が、黄金の光に包まれた。
「これで良かったのかしら」
ケンタウルス達の気配が消えたが、綺羅の心には不安が募る。
「・・・・・・。余計なことしてくれるよね。ホント」
綺羅はシアンの方を振り返ると、見知らぬ妖魔が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...