黄金龍と妖魔王Ⅱ~飢餓の街編~

神辺真理子

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第10話

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「でも、私が黄金龍の使い手だと皇帝陛下は知らないはずでは?」
「誰かが皇帝に密告したのだろう。それよりもやっかいなのは、龍宮国の役目を忘れている者がいることだ」
「・・・・・・?」
綺羅には思い当たる人がおらず、首を傾げた。龍宮王は構わずに続ける。
「天から龍を遣わされているのは全人類を護るためだ。どこかに肩入れするわけにいかない。しかし、龍宮王代理になった時雨しぐれは皇帝に心酔している。」
「時雨様が・・・・・・」
皇帝兄様は初恋の人だが、龍宮国を抱き込むのは間違っているし、黄金龍の力を使って世界征服などもってのほかだと思う。
時雨は龍宮王弟の1人息子であり、龍宮国で最も強力な結界を張ることができる。
しかも、半妖嫌いで綺羅に散々嫌がらせをしてきた従兄弟である。
「時雨の強力な結界はやっかいだ。その時雨が皇帝に力を貸せば、綺羅でも手を焼くだろう。儂は死期が近い。だから、儂の龍を綺羅、お前にやろう」
強い決意を宿した龍宮王の目に見つめられ、綺羅は胸がいっぱいになった。
「そんなことを言わないでください」
久しぶりに見た龍宮王が痩せて弱々しいと思っていたが、このような決意をするまで弱っているとは思わなかった。
「黄金龍の力で、陛下を治せないかしら」
綺羅は涙を零しながらシアンを見上げた。
「妖魔が関わった病ではないから無理だ。龍宮王の病気は人間の手によるものだ」
シアンは冷たく言い放つと、傀儡の侍女に訊ねた。
「いつから龍宮王は弱った」
「こちらにお越しになってからです」
「ここに来てから身の回りの世話をしたのは誰だ」
「望月様と王妃様です。お2人が世話を始めてから陛下の容態が芳しくなくなりました」
傀儡の侍女が機械的に答えた。
「まぁ、私は望月に陛下のお世話を任せていたわ。そうでしょう。望月」
「王妃様の仰る通りです。陛下の身の回りのお世話をさせていただきました」
望月は素直に答えた。
「そんな、望月が・・・・・・?」
信じられない面持ちで望月を見つめる綺羅。
次の瞬間、バチンという音が響き渡った。
立ち上がった王妃が望月の頬を打ったのである。
「やはり貴方だったのね」
「・・・・・・」
望月は驚きのあり声も出せずにいた。
「嘘でしょう。望月」
綺羅は信じたくなかった。
何故、望月が龍宮王に手をかけなければならないのか。
「綺羅様。私ではありません。信じてください。」
望月は凜然と言い放つ。
「・・・・・・。」
綺羅は望月を信じたい。だが、龍宮王が弱っているのは事実だ。
そこに王妃が確信を持ったように言った。
「望月は私達を憎んでいたでしょう。龍宮王は黄金龍の使い手である綺羅に厳しかった。私は母親なのに綺羅に冷たいとよく文句を言っていたでしょう」
「はい。確かに陛下や王妃様の仕打ちは我慢ならないものがありました。だからといって、殺そうなんて・・・・・・。」
望月は弁明する。
だが、冷たい両親から綺羅を護ってくれ、優しく包み込んでくれたのは望月だった。
信じたい思いと疑念がない交ぜになる。
綺羅の目から涙が零れ、胸が引き裂かれるような痛みが走る。
「私の、私のせいなの!?」
綺羅は望月の前に立つとすがりついた。
「違います。私は何もしていません。」
「だが、皇帝の熱狂的な信者なのは間違いないな」
今まで黙っていたシアンが口を開いた。
「シアン」
何故、今そのようなことを言うのだ、と綺羅は憤る。
「そうだろう」
シアンは鋭い視線で望月を射貫く。
「えぇ。あの方はこの世界を導く方です。皇帝陛下と綺羅様が一緒になれば、世界中の人々を救えます」
望月は喜々として語った。
「望月」
望月の目に狂信的なものを感じて綺羅は望月から手を離す。
「綺羅様?」
「どうしたの望月。何か、おかしいわ。今の望月は私の知っている望月じゃない」
綺羅がさらに後ずさりするとシアンに抱き留められた。
「それもそうだ。この女は皇帝の飼い犬だからな」
「皇帝兄様の飼い犬?」
「そうだ。皇帝の嫁にするためにお姫さんに皇帝の良いことばかり吹き込んでいたんだ。龍宮王を手にかけたのも、皇帝が嫁に望んだのに、最後まで首を振らなかったからだろう。療養という目的で軟禁し、その間に首を縦に振らせるつもりだったようだが、上手くいかなかった。だから、お姫さんの保護者を亡き者にして強引に嫁取りをするつもりだった。違うか」
シアンがまくし立てると、望月は首を横に振った。
「望月。言ったはずだ。お姫さんの意に添わないことをしたら承知しないと」
シアンが冷たく言い放つ。
「妖魔の手にかかって死ぬほど落ちぶれていないわ。」
望月はドレスの隠しポケットから短剣を手に取ると、首筋に斬りつけた。
「見るな」
シアンの手が、綺羅の目を塞ぐ。すると、音まで聞こえなくなった。
それでも綺羅は望月に思いとどまって欲しいと口を開く。
「望月!!」
綺羅の悲痛な叫びが部屋に響いた。


数十秒後、綺羅が目を開けると、ソファーに望月が倒れており龍宮王夫妻が呆気に取られていた。
望月の遺体から出血したはずの跡は消され、首にも傷はない。
ソファーに横たわった望月は眠っているようだ。
「どうするつもり?」
「妖魔に関わったせいで運命を変えられた人間は、黄金龍の力で蘇る」
シアンは機械的に言った。
「黄金の剣を使えば、望月は蘇るの?」
「あぁ。どうする?龍宮王を衰弱させたのが望月なら、お姫さんは反逆者を生き返らせたことになる。望月をどうするかは、お姫さん次第だ」
シアンは難しい選択を綺羅に突きつける。
「やめなさい。綺羅。貴方も反逆者になるのですよ」
王妃が止めた。
しかし、綺羅は無言であっさりと左手を振った。
「望月が龍宮王を手に掛けるなら、もっと機会があったはずよ。それに・・・・・・」
綺羅は言いかけて龍宮王夫妻をチラリと見る。
「なんだ?」
シアンはあえて訊ねたが綺羅は首を横に振った。
「なんでもないわ。さぁ、望月。還って来て」
綺羅は黄金の剣を振った。
部屋中が黄金の光に包まれた。
すると、綺羅は誰かの思いに引きずり込まれた。

王妃は結婚して半年だというのに苛立っていた。
所作や言葉遣い、一挙手一投足について「姉上なら・・・・・・」「違う。姉上はそのような振る舞いをなさらなかった」と、口うるさく言った。
結婚してすぐの頃には、王妃自身王族や貴族出身ではないことを引け目に感じていたので、「申し訳ございません」と頭を下げ、立ち振る舞いを勉強して直した。
しかし、半年経っても龍宮王は「姉上」「姉上」と姉を慕っている。
気に入らない。
自分は王に乞われて王妃になったのではないのか。
王妃の思いとは裏腹に、龍宮王は何年経っても「姉上はこうだった。なのに、お前は・・・・・・。」と言い続ける。
さらに王妃を悩ませたのは、龍宮王との間に子供が授からないことである。
これは社交界で格好のネタになった。
王妃である自分は、周囲が噂のネタにしていても笑みを浮かべて聞き流さなければならなかった。
さらに、自分が見初められたのは忌々しく思っている姉上に顔立ちが似ているからだという噂を耳にした。ついに王妃の我慢は限界を超えた。
結婚当初から王妃は、龍宮王への不満を王弟に相談していた。
その関係は相談相手から次第に恋仲へと変化をし、王妃は身籠もってしまった。
さすがに腹が膨らめば龍宮王にバレてしまう。
そうした悩み事のせいか悪阻のひどかった王妃はガルシャム皇帝から招待を受け、静養すると偽って時雨を出産した。
王妃は同行していた龍使い兼侍女に時雨を預け、王弟と結婚させたのである。
もちろん、侍女は時雨の乳母であり、龍宮王と王妃の仲をカモフラージュするためだけに存在するはずだった。
しかし、2人で時雨を育てていれば、恋愛ではなくとも自然と親愛は生まれる。王弟と侍女の間に絆が生まれ、数年前から王妃は王弟とも上手くいかなくなった。
王妃は邪魔になった侍女が太ってきたことに悩んでいることを聞きつけると、身体が衰弱する茶を「自然と痩せられるお茶」と偽って飲ませた。
侍女はみるみるうちに痩せて喜んだ。
しかし、王弟は尋常ではない痩せ方に、お茶の出所が王妃とわかると王妃を問い詰めた。
王妃は王弟夫妻付きの女官を買収して、同じお茶を王弟にも飲ませた。
お茶を飲み始めて1年もしないうちに侍女は亡くなり、後を追うように王弟も亡くなった。
2人を亡き者にすると、実子の時雨が龍宮王になることだけが、王妃の楽しみになった。
両親を亡くした時雨は、幼い頃から優しかった王妃を母のように慕い、何かと王妃の元へ来る。
王妃は時雨を龍宮王に擁立しようと計画した。
しかし、龍宮王は綺羅が黄金龍であると見抜き、綺羅を龍宮王に据えるつもりだった。
綺羅を追い出したいという一派は王妃に付いたが、ほんの一部である。
2匹の大龍を扱い、龍宮王の厳しい特訓に食らいつく綺羅を認める龍使いは多かった。
さらに、諸外国のトップ達は綺羅が龍宮王になるのが当然だと思っている。
不利な立場を自覚した王妃は、秘密を共有するガルシャム皇帝に泣きついた。
皇帝は龍宮王が加齢による体調不良があるなら帝国で静養させ、綺羅には妖魔絡みの案件を依頼するから同行させるようにと提案した。
王妃は、その間に時雨が龍宮王代理を務められると喜び、ガルシャム皇帝の誘いに乗った。


黄金の光が消えると、目を開けた望月が不思議そうに綺羅を見つめていた。
綺羅はハッと我に返る。
「望月。わかる?」
「・・・・・・。はい」
綺羅は龍宮王夫妻の方を見ることができない。
「ねぇ、望月をちゃんと休ませたいわ。ソファーでは眠れないもの」
綺羅はシアンの傀儡である侍女に言うと、侍女は頷くと望月を連れて部屋を出る。
「もうこんな所にはいられないわ。陛下。龍宮国へ戻りましょう」
王妃が興奮して立ち上がる。
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