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3章 恋の証明
25 精一杯
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ふたりの意外そうな声に、私は後ろめたい気持ちになって肩をすくめた。
フルール化粧品は、リリーバリーの香料を使って化粧品を作っている一番の得意先企業であり、同業種でもあったから、インターンシップに行けばきっと学ぶことが多いと思ったし、事実その通りだったと思っている。
リリーバリーが駄目だった場合に、フルールに勤められれば、リリーバリーと何らかの繋がりができると思ったけど……試験日が被ってしまったとなれば諦めざるをえない。
私がインターンを考えていた会社は全て多かれ少なかれリリーバリーの取引先か関連会社だった。
取引先とひと言で言っても色んな業種があって、どこを受けようか悩んだけど、リリーバリーの表向きの知名度が化粧品の会社だったから、挑戦する会社は化粧品会社一本に絞った方が面接の対策が立てやすかった。
「初耳」
「ごめんね、言わなかったから」
「最初からずっと?」
千夏の言葉に私は頷く。
「でも、どうして?」
……不純な、動機だろうな。
ふたりからしてみれば。
私は千夏と涼子に他言しないで欲しいと伝えてから、リリーバリーは雅の家族が経営してきた会社であることを打ち明けた。
私のやろうとしていることを止めようとはしなかったけど、驚いて話を聞いていたふたりの顔は徐々に曇り、私のことを心配している様に見えた。
今まではずっと、淡白だった私が恋愛に前向きになっていくことをただ純粋に喜んでくれていたけど、もうそうではないことをふたりの表情からは感じ取れた。
私の恋もここまでくれば、痛々しいだけで応援に値するものではないのかもしれない。
そうだよね。
我ながら馬鹿なことをやっている。
パソコンと向かい合って、まっさらなエントリーシートのコメントボックスに文字を入力しながら、最初の選考で落とされる可能性は十分あるだろうな、と思った。
孝幸さんが私の名前を見つければ、それだけできっと警戒する。
だけど大人数の応募があれば、まともなエントリーシートであれば、紛れて次に進めるかもしれないと思った。
何となく、本当に何となく、だけど。
私は書類選考だけでは落とされないような気がしていた。
その予想は当たって、エントリーシートと最初の筆記試験はパスして、2次試験に進んだ。
2次試験の面接は人事担当の若い社員とその上司、各部の部長が並んで私の話を聞いた。
家族や生活環境を聞かれたり、圧迫面接をされることも覚悟の上だったけど、それは無かった。
入社したら何をしたいか、どんな社員になりたいか、数十年後の会社と自分のビジョン――聞かれた質問は全て、胸が詰まるくらい焦がれる夢ばかりだった。
桐羽さんの思いを受け継いだ雅が、これから創っていくリリーバリーを傍で見ていられたらどんなに素敵だろう。
そんな未来を、例え叶えることが難しくても想像するだけなら自由だから……。
私は、もしも自分がここで働けたら、という幸せな青写真を身振り手振りで語った。
緊張も、先への不安も、話している間は消えて自然と笑みが浮かぶ。
私の気持ちが伝わったのか、私に釣られて面接官の顔も綻んでいく。
どこで終わりがきたって悔いがないように、雅への個人的な思慕はそれはそれとして片隅に置いて、無我夢中で駆け抜けた2次試験だったけど、気がつけば、2次試験の合格連絡が来て、私は3次へ進めることになった。
会社の内部事情なんて良くわからないけど、2次までの選考に孝幸さんは携わっていなかったのかもしれない。
わざわざ選考の途中で首を挟まなくても、3次が社長面接だったから。
試験を最後まで受けられること自体が幸運で、次の結果はどう転んでも贅沢なんて言えない。
リリーバリーで働ければ夢みたいに嬉しいけれど、きっと周りの学生とフェアな闘いなんてできないだろう。
それでも私は、できることならもう一度孝幸さんと会って話がしたかった。
孝幸さんが社員として望んでいる人材と、雅の相手に望む”然るべき人”は、もしかしたら似ているのかもしれない。
だとしたらそれを知りたい。
それが、今の私にできること。
雅に近づくための精一杯。
フルール化粧品は、リリーバリーの香料を使って化粧品を作っている一番の得意先企業であり、同業種でもあったから、インターンシップに行けばきっと学ぶことが多いと思ったし、事実その通りだったと思っている。
リリーバリーが駄目だった場合に、フルールに勤められれば、リリーバリーと何らかの繋がりができると思ったけど……試験日が被ってしまったとなれば諦めざるをえない。
私がインターンを考えていた会社は全て多かれ少なかれリリーバリーの取引先か関連会社だった。
取引先とひと言で言っても色んな業種があって、どこを受けようか悩んだけど、リリーバリーの表向きの知名度が化粧品の会社だったから、挑戦する会社は化粧品会社一本に絞った方が面接の対策が立てやすかった。
「初耳」
「ごめんね、言わなかったから」
「最初からずっと?」
千夏の言葉に私は頷く。
「でも、どうして?」
……不純な、動機だろうな。
ふたりからしてみれば。
私は千夏と涼子に他言しないで欲しいと伝えてから、リリーバリーは雅の家族が経営してきた会社であることを打ち明けた。
私のやろうとしていることを止めようとはしなかったけど、驚いて話を聞いていたふたりの顔は徐々に曇り、私のことを心配している様に見えた。
今まではずっと、淡白だった私が恋愛に前向きになっていくことをただ純粋に喜んでくれていたけど、もうそうではないことをふたりの表情からは感じ取れた。
私の恋もここまでくれば、痛々しいだけで応援に値するものではないのかもしれない。
そうだよね。
我ながら馬鹿なことをやっている。
パソコンと向かい合って、まっさらなエントリーシートのコメントボックスに文字を入力しながら、最初の選考で落とされる可能性は十分あるだろうな、と思った。
孝幸さんが私の名前を見つければ、それだけできっと警戒する。
だけど大人数の応募があれば、まともなエントリーシートであれば、紛れて次に進めるかもしれないと思った。
何となく、本当に何となく、だけど。
私は書類選考だけでは落とされないような気がしていた。
その予想は当たって、エントリーシートと最初の筆記試験はパスして、2次試験に進んだ。
2次試験の面接は人事担当の若い社員とその上司、各部の部長が並んで私の話を聞いた。
家族や生活環境を聞かれたり、圧迫面接をされることも覚悟の上だったけど、それは無かった。
入社したら何をしたいか、どんな社員になりたいか、数十年後の会社と自分のビジョン――聞かれた質問は全て、胸が詰まるくらい焦がれる夢ばかりだった。
桐羽さんの思いを受け継いだ雅が、これから創っていくリリーバリーを傍で見ていられたらどんなに素敵だろう。
そんな未来を、例え叶えることが難しくても想像するだけなら自由だから……。
私は、もしも自分がここで働けたら、という幸せな青写真を身振り手振りで語った。
緊張も、先への不安も、話している間は消えて自然と笑みが浮かぶ。
私の気持ちが伝わったのか、私に釣られて面接官の顔も綻んでいく。
どこで終わりがきたって悔いがないように、雅への個人的な思慕はそれはそれとして片隅に置いて、無我夢中で駆け抜けた2次試験だったけど、気がつけば、2次試験の合格連絡が来て、私は3次へ進めることになった。
会社の内部事情なんて良くわからないけど、2次までの選考に孝幸さんは携わっていなかったのかもしれない。
わざわざ選考の途中で首を挟まなくても、3次が社長面接だったから。
試験を最後まで受けられること自体が幸運で、次の結果はどう転んでも贅沢なんて言えない。
リリーバリーで働ければ夢みたいに嬉しいけれど、きっと周りの学生とフェアな闘いなんてできないだろう。
それでも私は、できることならもう一度孝幸さんと会って話がしたかった。
孝幸さんが社員として望んでいる人材と、雅の相手に望む”然るべき人”は、もしかしたら似ているのかもしれない。
だとしたらそれを知りたい。
それが、今の私にできること。
雅に近づくための精一杯。
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