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「鮫島さん、本当にすみません、そんな事まで……」
「別にこれくらい良いよ。つーか、子供ってこういうのに憧れるモノなんだな」
「お友達がお父さんにして貰った話を羨ましがってて、私じゃ肩車出来ないので本当に助かりました、ありがとうございます」
「……お礼ばっかり言わなくていいよ、頼ってって言ったのは俺の方だし。今日は凜は勿論だけど八吹さんにも楽しんで貰いたくて誘ってるんだ。気遣いとか忘れてもっと楽な気持ちで楽しんでくれると俺としても誘った甲斐があるから、お礼言われるより嬉しい」
「……鮫島さん……」
彼のその発言に驚きと戸惑いが入り混じる。
そして、
それと同時に彼は何故ここまで私や凜の為に色々してくれるのか、それが不思議でならなかった。
「今日は本当にありがとうございました」
結局今日一日鮫島さんの厚意に甘えっ放しだった私と凜。
アパートに着くと、疲れて眠ってしまっていた凜を抱き抱えて荷物まで運んでくれた鮫島さんに深々と頭を下げてお礼を口にする。
「そんなに頭下げなくていいから。普段休みの日にこんな出歩く事もないから俺の方も新鮮で楽しめたし、八吹さんも凜も楽しめたならそれでいいよ」
「それは勿論楽しめましたし、寧ろ十分過ぎるくらいです」
部屋のドアの前までやって来た私は鍵を開けて扉を開き鮫島さんから凜を離そうとすると、急に目を覚ました凜は彼の服を掴み、
「おにーちゃんともっといっしょにいる!」
眠そうに目を擦りながら駄々をこねた。
「凜、今日は一日鮫島さんが一緒に居てくれたでしょ? 我儘言わないでママの方に来なさい」
「やーだ! おにーちゃんといっしょがいい!」
「凜!」
「うわぁーんっ」
余程鮫島さんの事を気に入ったのだろう。私が言っても聞かないどころか、凜は泣き出してしまったのだ。
こうなると手が付けられないので強引に引き離すしかないのだけど、服を掴む凜の力は意外と強く、あまり無理に引っ張ると彼の服が伸びてしまうかもしれない。
考えに考えた末――
「あの、鮫島さん、もし良かったら家に寄って行きませんか? 凜はまだ眠いだろうから少しすれば眠ると思うので、それまでお茶でもどうでしょうか?」
鮫島さんに部屋へ寄ってもらう事を提案すると、
「俺は全然構わないんで……それじゃあ少しお邪魔します」
快く頷いてくれた彼を急遽部屋へ招き入れ事になったのだ。
「おにーちゃん、これみて!」
けれど部屋へ入ると、予想に反して凜は目が冴えてしまったのかお気に入りの子供用図鑑を何冊か持って来て鮫島さんに見せ始めた。
「虫の図鑑か。これ見てるから凜は虫に詳しいんだな」
「うん! あとね、これもすき!」
「こっちは動物か。凜は物知りだな」
「ぼく、おぼえるのすき!」
「そうか、偉いな」
「えへへ」
鮫島さんに褒められた凜は満面の笑みを浮かべながら彼と色々な図鑑を見ていた。
そんな光景をキッチンから眺めていた私は、何だか微笑ましく思えた。
(鮫島さんって子供の扱い上手いよね……本当に、素敵な人。彼みたいな人が父親だと、凜もきっと幸せだろうなぁ……)
ふとそんな事を無意識に考えていた事に気付いた私は、
(って! 何馬鹿な事考えてるのよ、私ったら……。夢みたいな事言ってちゃ駄目よ、しっかりしなきゃ)
馬鹿な妄想を打ち消しながら沸かしたお湯で凜にはココア、鮫島さんと自分の分はコーヒーを淹れて二人の元へ運んで行く。
「鮫島さん、コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「凜はココアね」
「わーい!」
二人の向かい側に腰を下ろした私は、相変わらず楽しそうに話をする凜に視線を向ける。
(凜、本当嬉しそう。今日は一日幸せそうな顔してたよね)
何よりも大切な凜。そんな凜が嬉しそうな顔をしているだけで、私は嬉しいし幸せな気持ちになれる。
「おにーちゃん、またこんど、どこかつれてってくれる?」
「こら凜! そんな事言わないのよ」
「だってぇ……」
「いつもは無理だけど、大丈夫な時は好きなとこ連れてってやるから考えとけよ、な?」
「ほんと!?」
「鮫島さんっ!」
「八吹さん、迷惑なら止めるけど、遠慮してるだけなら俺は止めない。どっち?」
「それは……迷惑、なんて事はないです……けど……」
「『けど』とか『でも』ってのも無し。言ったでしょ? 頼ってって。迷惑って言われるまでは、お節介でも凜と八吹さんに関わるから、そのつもりで」
分からない、全然分からない。
私や凜に親切にしてくれる鮫島さんの真意が。
凜に優しくて、凜も彼を気に入っている。
そんな彼に私も、
少し、ほんの少しだけ惹かれ始めていた。
「別にこれくらい良いよ。つーか、子供ってこういうのに憧れるモノなんだな」
「お友達がお父さんにして貰った話を羨ましがってて、私じゃ肩車出来ないので本当に助かりました、ありがとうございます」
「……お礼ばっかり言わなくていいよ、頼ってって言ったのは俺の方だし。今日は凜は勿論だけど八吹さんにも楽しんで貰いたくて誘ってるんだ。気遣いとか忘れてもっと楽な気持ちで楽しんでくれると俺としても誘った甲斐があるから、お礼言われるより嬉しい」
「……鮫島さん……」
彼のその発言に驚きと戸惑いが入り混じる。
そして、
それと同時に彼は何故ここまで私や凜の為に色々してくれるのか、それが不思議でならなかった。
「今日は本当にありがとうございました」
結局今日一日鮫島さんの厚意に甘えっ放しだった私と凜。
アパートに着くと、疲れて眠ってしまっていた凜を抱き抱えて荷物まで運んでくれた鮫島さんに深々と頭を下げてお礼を口にする。
「そんなに頭下げなくていいから。普段休みの日にこんな出歩く事もないから俺の方も新鮮で楽しめたし、八吹さんも凜も楽しめたならそれでいいよ」
「それは勿論楽しめましたし、寧ろ十分過ぎるくらいです」
部屋のドアの前までやって来た私は鍵を開けて扉を開き鮫島さんから凜を離そうとすると、急に目を覚ました凜は彼の服を掴み、
「おにーちゃんともっといっしょにいる!」
眠そうに目を擦りながら駄々をこねた。
「凜、今日は一日鮫島さんが一緒に居てくれたでしょ? 我儘言わないでママの方に来なさい」
「やーだ! おにーちゃんといっしょがいい!」
「凜!」
「うわぁーんっ」
余程鮫島さんの事を気に入ったのだろう。私が言っても聞かないどころか、凜は泣き出してしまったのだ。
こうなると手が付けられないので強引に引き離すしかないのだけど、服を掴む凜の力は意外と強く、あまり無理に引っ張ると彼の服が伸びてしまうかもしれない。
考えに考えた末――
「あの、鮫島さん、もし良かったら家に寄って行きませんか? 凜はまだ眠いだろうから少しすれば眠ると思うので、それまでお茶でもどうでしょうか?」
鮫島さんに部屋へ寄ってもらう事を提案すると、
「俺は全然構わないんで……それじゃあ少しお邪魔します」
快く頷いてくれた彼を急遽部屋へ招き入れ事になったのだ。
「おにーちゃん、これみて!」
けれど部屋へ入ると、予想に反して凜は目が冴えてしまったのかお気に入りの子供用図鑑を何冊か持って来て鮫島さんに見せ始めた。
「虫の図鑑か。これ見てるから凜は虫に詳しいんだな」
「うん! あとね、これもすき!」
「こっちは動物か。凜は物知りだな」
「ぼく、おぼえるのすき!」
「そうか、偉いな」
「えへへ」
鮫島さんに褒められた凜は満面の笑みを浮かべながら彼と色々な図鑑を見ていた。
そんな光景をキッチンから眺めていた私は、何だか微笑ましく思えた。
(鮫島さんって子供の扱い上手いよね……本当に、素敵な人。彼みたいな人が父親だと、凜もきっと幸せだろうなぁ……)
ふとそんな事を無意識に考えていた事に気付いた私は、
(って! 何馬鹿な事考えてるのよ、私ったら……。夢みたいな事言ってちゃ駄目よ、しっかりしなきゃ)
馬鹿な妄想を打ち消しながら沸かしたお湯で凜にはココア、鮫島さんと自分の分はコーヒーを淹れて二人の元へ運んで行く。
「鮫島さん、コーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
「凜はココアね」
「わーい!」
二人の向かい側に腰を下ろした私は、相変わらず楽しそうに話をする凜に視線を向ける。
(凜、本当嬉しそう。今日は一日幸せそうな顔してたよね)
何よりも大切な凜。そんな凜が嬉しそうな顔をしているだけで、私は嬉しいし幸せな気持ちになれる。
「おにーちゃん、またこんど、どこかつれてってくれる?」
「こら凜! そんな事言わないのよ」
「だってぇ……」
「いつもは無理だけど、大丈夫な時は好きなとこ連れてってやるから考えとけよ、な?」
「ほんと!?」
「鮫島さんっ!」
「八吹さん、迷惑なら止めるけど、遠慮してるだけなら俺は止めない。どっち?」
「それは……迷惑、なんて事はないです……けど……」
「『けど』とか『でも』ってのも無し。言ったでしょ? 頼ってって。迷惑って言われるまでは、お節介でも凜と八吹さんに関わるから、そのつもりで」
分からない、全然分からない。
私や凜に親切にしてくれる鮫島さんの真意が。
凜に優しくて、凜も彼を気に入っている。
そんな彼に私も、
少し、ほんの少しだけ惹かれ始めていた。
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