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良太くんが働き始めてから約ひと月、彼はすっかり仕事にも慣れ、始まったばかりの配達業も終始楽しそうに受けていた。
そんな彼はお客さんからも人気があって、彼がレジを担当している時は女性客も増えた気がする。
ビジュアルも良いし、性格も良いから人気があるのは納得だなと思いながら、私も日々の業務をこなしていた。
そんなある日の勤務途中、ちょうど手が空いていた私はゴミ捨てに行こうと裏口からゴミ捨て場まで向かっていると、ガラの悪そうな二人組みの男の人に行く手を阻まれてしまった。
「あの……通してください」
「お姉さん美人だね」
「ちょっと、俺らと遊ばない?」
「……勤務中ですから」
「その【たんぽぽ】って、すぐ近くの弁当屋だろ? それじゃあ俺ら、今から店に行くよ」
「そうそう、弁当買うからさ、連絡先教えてよ。ね? 『八吹』さん」
お店のエプロンとネームプレートを付けたままだった事で、店の名前も私の苗字も知られてしまい、どうしようと困っているところに、
「何してんの?」
ちょうど配達を終えて戻るところだったらしい良太くんが割って入ってきた。
「何だテメェ」
「うちの従業員に何してるのかって聞いてんの。トラブルなら警察呼ぶけど、いいの?」
男の人たちに凄まれても全く物怖じしない良太くんを相手にするのは分が悪いと思ったのか、
「ッチ。うるせーな。行こうぜ」
二人は面白くなさそうな表情を浮かべながら去って行った。
「亜子さん、大丈夫?」
「うん、平気。助けてくれてありがとう」
「いや、そんなん全然良いけど。それより、駄目だよ、エプロンとかネームプレート付けたまま外出ちゃ。この辺はああいうガラの悪い奴も多いんだし、こんな裏道じゃ人通りも少ないんだからさ」
「そ、そうだよね、ごめんね、気を付けるよ」
こんな出来事、竜之介くんに知られたら絶対に心配するだろうなと思い、良太くんに言われた事を私は深く反省した。
その日の仕事終わり、いつもなら竜之介くんの迎えがあるも、今日は残業があるという事で一人で保育園に向かう事になっていたのだけど、
(あ、あの人たち、昼間の……?)
弁当屋を出て向かいのビルの入り口辺りに昼間絡んで来た二人組みがこちらの様子を窺うように煙草を吸いながら立っていた。
(どうしよう……もしかして、待ち伏せ?)
自意識過剰かもしれないけど、あの時は良太くんに邪魔されたから諦めただけで、もしかしたらまた絡んで来るつもりなのかもしれない。
そう思うと足が竦んで動けない。
タクシーを呼ぶべきか悩んでいると、
「亜子さん? どうかしたの?」
同じく仕事を終えて店を出て来た良太くんに声を掛けられた。
「あ、良太くん……あの人たちが……」
「ん? アイツら昼間の……」
「……これから保育園に行かなきゃ行けないから、どうしようかと思って……」
「あれ? いつも迎え来てる彼氏は?」
「今日は残業で、どうしても抜けられないみたいなの」
「そっか……。それじゃあ、俺が一緒に保育園まで行くよ」
「え? でも、今日は確かお迎え無い日でしょ? それなのにわざわざ悪いよ……私はタクシー呼ぶから大丈夫」
良太くんの申し出は凄く有難いけど、今日はお姉さんが仕事休みの日でお迎えに行かなくていい日なのに、わざわざ保育園まで回ってもらうのも申し訳無いし、それに、仕事が終わってから良太くんと一緒に居たのを竜之介くんが知ったら良く思わないのを分かっているからやっぱりタクシーを呼んで向かおうとスマホを手に電話を掛けようとすると、
「いいって。ここから保育園までそんなに距離も無いんだからタクシー呼ぶのは勿体無いって。ほら、行こう」
良太くんは空いている私の手を取ると、男の人たちが居る方とは別の方角へ歩き出した。
「ちょっと遠回りだけど、アイツらに絡まれたら面倒だしね、安全な方から行こう」
「り、良太くん……」
「ん? 何?」
「その、ごめんね……迷惑かけて……」
「全然迷惑じゃないって。亜子さんに何かあったら大変だし、同じ職場の仲間なんだからさ、俺を頼ってよ。ね?」
なんて言うか、こういう所が妙に竜之介くんと被っていて、何とも言えない感覚に陥る。
「あ、ありがとう。でも、あの……手は……」
「ん? ああ、ごめん。馴れ馴れしかったよね。こんなとこ彼氏に見られたらマズイよな」
保育園まで一緒に行ってもらう事は仕方ないにしても、流石に手を繋いだままというのはどうしても見過ごせなくて話してもらうようにお願いすると、それに気付いた良太くんは申し訳無さそうに手を離してくれた。
結局彼に甘えて共に保育園へやって来ると、
「亜子さん……」
「ママ!」
「え? 竜之介くん……残業で来れないはずじゃ……」
残業で来れないはずだった竜之介くんが凜と一緒に私を待っていた。
「そのはずだったんだけど、予定より早く片付いて。ただ、亜子さんが勤務終わって少し経ってたし、それなら直接保育園来る方がいいかなって思って来たんだけど……もしかして、俺、必要無かったかな?」
「そ、そんな事ないよ! どうしてそんな……」
そう言いかけて、何故竜之介くんからそんな言葉出てきたのかを悟る。
それは私が良太くんとここへ来たからだと。
そんな彼はお客さんからも人気があって、彼がレジを担当している時は女性客も増えた気がする。
ビジュアルも良いし、性格も良いから人気があるのは納得だなと思いながら、私も日々の業務をこなしていた。
そんなある日の勤務途中、ちょうど手が空いていた私はゴミ捨てに行こうと裏口からゴミ捨て場まで向かっていると、ガラの悪そうな二人組みの男の人に行く手を阻まれてしまった。
「あの……通してください」
「お姉さん美人だね」
「ちょっと、俺らと遊ばない?」
「……勤務中ですから」
「その【たんぽぽ】って、すぐ近くの弁当屋だろ? それじゃあ俺ら、今から店に行くよ」
「そうそう、弁当買うからさ、連絡先教えてよ。ね? 『八吹』さん」
お店のエプロンとネームプレートを付けたままだった事で、店の名前も私の苗字も知られてしまい、どうしようと困っているところに、
「何してんの?」
ちょうど配達を終えて戻るところだったらしい良太くんが割って入ってきた。
「何だテメェ」
「うちの従業員に何してるのかって聞いてんの。トラブルなら警察呼ぶけど、いいの?」
男の人たちに凄まれても全く物怖じしない良太くんを相手にするのは分が悪いと思ったのか、
「ッチ。うるせーな。行こうぜ」
二人は面白くなさそうな表情を浮かべながら去って行った。
「亜子さん、大丈夫?」
「うん、平気。助けてくれてありがとう」
「いや、そんなん全然良いけど。それより、駄目だよ、エプロンとかネームプレート付けたまま外出ちゃ。この辺はああいうガラの悪い奴も多いんだし、こんな裏道じゃ人通りも少ないんだからさ」
「そ、そうだよね、ごめんね、気を付けるよ」
こんな出来事、竜之介くんに知られたら絶対に心配するだろうなと思い、良太くんに言われた事を私は深く反省した。
その日の仕事終わり、いつもなら竜之介くんの迎えがあるも、今日は残業があるという事で一人で保育園に向かう事になっていたのだけど、
(あ、あの人たち、昼間の……?)
弁当屋を出て向かいのビルの入り口辺りに昼間絡んで来た二人組みがこちらの様子を窺うように煙草を吸いながら立っていた。
(どうしよう……もしかして、待ち伏せ?)
自意識過剰かもしれないけど、あの時は良太くんに邪魔されたから諦めただけで、もしかしたらまた絡んで来るつもりなのかもしれない。
そう思うと足が竦んで動けない。
タクシーを呼ぶべきか悩んでいると、
「亜子さん? どうかしたの?」
同じく仕事を終えて店を出て来た良太くんに声を掛けられた。
「あ、良太くん……あの人たちが……」
「ん? アイツら昼間の……」
「……これから保育園に行かなきゃ行けないから、どうしようかと思って……」
「あれ? いつも迎え来てる彼氏は?」
「今日は残業で、どうしても抜けられないみたいなの」
「そっか……。それじゃあ、俺が一緒に保育園まで行くよ」
「え? でも、今日は確かお迎え無い日でしょ? それなのにわざわざ悪いよ……私はタクシー呼ぶから大丈夫」
良太くんの申し出は凄く有難いけど、今日はお姉さんが仕事休みの日でお迎えに行かなくていい日なのに、わざわざ保育園まで回ってもらうのも申し訳無いし、それに、仕事が終わってから良太くんと一緒に居たのを竜之介くんが知ったら良く思わないのを分かっているからやっぱりタクシーを呼んで向かおうとスマホを手に電話を掛けようとすると、
「いいって。ここから保育園までそんなに距離も無いんだからタクシー呼ぶのは勿体無いって。ほら、行こう」
良太くんは空いている私の手を取ると、男の人たちが居る方とは別の方角へ歩き出した。
「ちょっと遠回りだけど、アイツらに絡まれたら面倒だしね、安全な方から行こう」
「り、良太くん……」
「ん? 何?」
「その、ごめんね……迷惑かけて……」
「全然迷惑じゃないって。亜子さんに何かあったら大変だし、同じ職場の仲間なんだからさ、俺を頼ってよ。ね?」
なんて言うか、こういう所が妙に竜之介くんと被っていて、何とも言えない感覚に陥る。
「あ、ありがとう。でも、あの……手は……」
「ん? ああ、ごめん。馴れ馴れしかったよね。こんなとこ彼氏に見られたらマズイよな」
保育園まで一緒に行ってもらう事は仕方ないにしても、流石に手を繋いだままというのはどうしても見過ごせなくて話してもらうようにお願いすると、それに気付いた良太くんは申し訳無さそうに手を離してくれた。
結局彼に甘えて共に保育園へやって来ると、
「亜子さん……」
「ママ!」
「え? 竜之介くん……残業で来れないはずじゃ……」
残業で来れないはずだった竜之介くんが凜と一緒に私を待っていた。
「そのはずだったんだけど、予定より早く片付いて。ただ、亜子さんが勤務終わって少し経ってたし、それなら直接保育園来る方がいいかなって思って来たんだけど……もしかして、俺、必要無かったかな?」
「そ、そんな事ないよ! どうしてそんな……」
そう言いかけて、何故竜之介くんからそんな言葉出てきたのかを悟る。
それは私が良太くんとここへ来たからだと。
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