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プロローグ
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「い、嫌ッ!!」
直倫に見つかってしまったのかと思った私は掴まれた腕を振り解く為に掴まれていないもう片方の腕で押し退けようとしたものの、今度はその手首を掴まれてしまう。
「お願い! もう逃げないから、殴らないでっ!!」
さっき殴られた事が頭の中に浮かび上がり、目を瞑ったままそう懇願すると、
「俺はそんな事をするつもりは無い。少し落ち着け」
聞こえて来た声は直倫のものでは無く、聞いた事の無い声に安堵しつつ、恐る恐る瞼を開けた。
「誰と勘違いしてるのか知らないが、歩くならきちんと前を見て歩け。落ちるところだったぞ」
「あ……す、すみません……」
目の前には明るめブラウン色の髪を刈り上げたヘアスタイルに少し鋭く見える切れ長の目が印象的な男の人が立っていて、川の方に視線を移しながら、私が落ちそうになっていた事を教えてくれた。
歩いている最中全く周りを気にしていなかったからいつの間にか川の側まで来てしまっていたようで、彼が止めてくれなかったらそのまま川の中に落ちているところだった。
「あ、ありがとうございます……」
掴まれていた腕と手首が解放された事で彼から少し距離を取った私は、気まずくなって視線を外したままお礼を口にする。
「いや、それは別に構わないが……お前、困っている事があるんじゃないのか?」
「い、いえ、そんな事ないです、失礼します」
私がさっき直倫だと勘違いして言い放った言葉を気にしての事だろう。男の人は困っている事があるのではと尋ねてくるけど、見知らぬ人に話せる内容でも無いからはぐらかしてこの場から立ち去ろうとすると、
「その頬、誰かに殴られたんだろ? その、俺で良ければ力になるから、話してみないか?」
触れていい話題か悩んでの事なのか、少し遠慮がちに声を掛けてきてくれた。
「……で、でも……」
見知らぬ私相手に優しい言葉を掛けてくれた彼が救世主のように思えた。
だけど、今会ったばかりの人に話せる程軽い内容では無いし、巻き込む訳にもいかない。
そう思っていたのに――
「殴ったのは男なんだろ?」
「……はい」
「彼氏……なのか?」
「いえ……その、元カレ……です」
「そうか。まあ何にしても女に手を上げるような男は最低だ。そんな最低な男の為に悩む必要も苦しむ事も無いと俺は思う。見ず知らずの俺に話しにくいかもしれないが、このまま今のアンタを放っておく事は出来ない。必ず助けになるから、俺を頼ってみないか?」
彼が私を放っておけない、助けになるから頼ってみないかと言ってくれたので、
「……すみません、ありがとうございます……本当はどうすればいいか分からなくて困ってて……、迷惑掛けてしまうって分かっているけど……でも、お願いします、助けてください……っ」
切羽詰まった状況でどうすればいいか分からなかった私は申し訳無いと思いながらも、差し伸べられた手を取っていた。
「とりあえず、場所を変えるか。話はそこで聞く」
「は、はい……」
「そう言えば、まだ名を名乗って無かったな。俺は神坂 眞弘。菓子メーカーKAMISAKAの代表取締役社長を務めている」
「え? あの大手菓子メーカーの?」
「まあ、俺は前社長の孫という立場で成り上がっただけで、KAMISAKAの名を広めたのは祖父だがな」
「そう、なんですね……あの、私は五條 綺咲と言います……その、本当に頼ってしまってもいいのでしょうか? 神坂さんや、下手をすれば会社にまでご迷惑をお掛けしてしまうかもしれないのに……」
「問題無い。それと、眞弘でいい。俺も綺咲と呼ばせてもらうから。ひとまず俺の自宅に向かうが、それでいいか?」
「……は、はい……よろしくお願いします」
助けてくれた彼はまさかの大手菓子メーカーの社長さん。
いくら放っておけないと言われたからといえど本当に頼ってしまっていいのか悩むところだけど、ここで彼に頼らなかったらどうすればいいのか分からなかった私は手を差し伸べてくれた優しい彼に甘えるしか無かった。
直倫に見つかってしまったのかと思った私は掴まれた腕を振り解く為に掴まれていないもう片方の腕で押し退けようとしたものの、今度はその手首を掴まれてしまう。
「お願い! もう逃げないから、殴らないでっ!!」
さっき殴られた事が頭の中に浮かび上がり、目を瞑ったままそう懇願すると、
「俺はそんな事をするつもりは無い。少し落ち着け」
聞こえて来た声は直倫のものでは無く、聞いた事の無い声に安堵しつつ、恐る恐る瞼を開けた。
「誰と勘違いしてるのか知らないが、歩くならきちんと前を見て歩け。落ちるところだったぞ」
「あ……す、すみません……」
目の前には明るめブラウン色の髪を刈り上げたヘアスタイルに少し鋭く見える切れ長の目が印象的な男の人が立っていて、川の方に視線を移しながら、私が落ちそうになっていた事を教えてくれた。
歩いている最中全く周りを気にしていなかったからいつの間にか川の側まで来てしまっていたようで、彼が止めてくれなかったらそのまま川の中に落ちているところだった。
「あ、ありがとうございます……」
掴まれていた腕と手首が解放された事で彼から少し距離を取った私は、気まずくなって視線を外したままお礼を口にする。
「いや、それは別に構わないが……お前、困っている事があるんじゃないのか?」
「い、いえ、そんな事ないです、失礼します」
私がさっき直倫だと勘違いして言い放った言葉を気にしての事だろう。男の人は困っている事があるのではと尋ねてくるけど、見知らぬ人に話せる内容でも無いからはぐらかしてこの場から立ち去ろうとすると、
「その頬、誰かに殴られたんだろ? その、俺で良ければ力になるから、話してみないか?」
触れていい話題か悩んでの事なのか、少し遠慮がちに声を掛けてきてくれた。
「……で、でも……」
見知らぬ私相手に優しい言葉を掛けてくれた彼が救世主のように思えた。
だけど、今会ったばかりの人に話せる程軽い内容では無いし、巻き込む訳にもいかない。
そう思っていたのに――
「殴ったのは男なんだろ?」
「……はい」
「彼氏……なのか?」
「いえ……その、元カレ……です」
「そうか。まあ何にしても女に手を上げるような男は最低だ。そんな最低な男の為に悩む必要も苦しむ事も無いと俺は思う。見ず知らずの俺に話しにくいかもしれないが、このまま今のアンタを放っておく事は出来ない。必ず助けになるから、俺を頼ってみないか?」
彼が私を放っておけない、助けになるから頼ってみないかと言ってくれたので、
「……すみません、ありがとうございます……本当はどうすればいいか分からなくて困ってて……、迷惑掛けてしまうって分かっているけど……でも、お願いします、助けてください……っ」
切羽詰まった状況でどうすればいいか分からなかった私は申し訳無いと思いながらも、差し伸べられた手を取っていた。
「とりあえず、場所を変えるか。話はそこで聞く」
「は、はい……」
「そう言えば、まだ名を名乗って無かったな。俺は神坂 眞弘。菓子メーカーKAMISAKAの代表取締役社長を務めている」
「え? あの大手菓子メーカーの?」
「まあ、俺は前社長の孫という立場で成り上がっただけで、KAMISAKAの名を広めたのは祖父だがな」
「そう、なんですね……あの、私は五條 綺咲と言います……その、本当に頼ってしまってもいいのでしょうか? 神坂さんや、下手をすれば会社にまでご迷惑をお掛けしてしまうかもしれないのに……」
「問題無い。それと、眞弘でいい。俺も綺咲と呼ばせてもらうから。ひとまず俺の自宅に向かうが、それでいいか?」
「……は、はい……よろしくお願いします」
助けてくれた彼はまさかの大手菓子メーカーの社長さん。
いくら放っておけないと言われたからといえど本当に頼ってしまっていいのか悩むところだけど、ここで彼に頼らなかったらどうすればいいのか分からなかった私は手を差し伸べてくれた優しい彼に甘えるしか無かった。
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