優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

夏目萌

文字の大きさ
33 / 90
STORY3

12

しおりを挟む
 料理を作り終えた詩歌が時計に目をやると、時刻は午前六時を回っていた。

 さすがに眠くなった彼女は郁斗が帰ってくるまで休もうとソファーの上に座るや否や徐々に瞼が下がっていき、気付けばウトウトと眠り始めてしまう。

 それから少しして静かに玄関が開く音が聞こえてくるも、詩歌は完全に眠りの世界へ堕ちていたようで全く気付かない。

 郁斗がリビングへ入り真っ先に視界に飛び込んで来たのは、小さめのダイニングテーブルの上に用意されたおかずや食器類。

 部屋に入った瞬間美味しそうな匂いが鼻を掠めたのはこれだったんだと郁斗は一人納得する。

 そして、ソファーに座っていたはずの詩歌はいつの間にかソファーの上に横になって眠っていた。

 そのまま寝かせてやりたいと思うも、二人分のご飯が用意されているところを見ると、自分と共に食事をとろうとしていた事が予測出来た郁斗は、

「詩歌ちゃん。こんなところで寝てると風邪ひくよ?」

 軽く揺さぶりながら気持ち良さそうに眠る詩歌に声をかけた。

「……うーん………………いくと、さん?」

 何度目かの声掛けでようやく眠りから覚めたらしい詩歌は目を擦りながら薄ら瞼を開いてぼやけていた人物の姿を捉えると、目の前に居るのが郁斗だと認識して名前を口にする。

 それと同時に自分が寝ていた事に気付き、酷く慌てていた。

「お、お帰りなさい……!  すみません、眠ってしまって!」
「いや、寧ろ寝てて良いって言ったでしょ?  まさか起きて待ってるなんて思ってもいなかったよ」
「すみません。本当なら寝ていた方が良かったのかもとは思ったんですけど……その、戻りが朝になるならご飯がある方がいいかと思ったので朝食を準備したんです。今って……お腹、空いてますか?」
「空いてるよ。っていうかわざわざ作ってくれたんだね。嬉しいなぁ」
「…………」

 嬉しそうに笑う郁斗を前にした詩歌はふと思う。やっぱり今の郁斗の方が話しやすくて安心出来ると。

「どうかした?」
「あ、いえ、何でもないです。それでは早速温めなおしますね」
「あ、それじゃあ俺、先にシャワー浴びて来るよ」
「分かりました。出て来たらすぐに食べられるよう準備しておきますね」
「ありがとう」

 シャワーを浴びに廊下へ出て行った郁斗の姿を見送りながら詩歌はお味噌汁の鍋を温め始める。

(……でも、昨夜の郁斗さんの方が、実は本来の郁斗さんだったりするのかな?)

 そんな疑問を抱きつつも、今の詩歌にそれを知る術はない。

(仮にそうだとしても、郁斗さんは郁斗さんだもん。問題は無いよね。優しいのは、変わりないんだから)

 今の彼の方が安心は出来るし話しやすいけれど、どちらの郁斗も大切な存在で助けられていると改めて感謝をしながら彼が出てくるのを待っていた。

 そして、向かい合わせに座った二人は一緒に朝食を食べながら他愛のない会話を交わし、束の間のひと時を過ごすのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレヤクザの束縛婚から逃れられません!

古亜
恋愛
旧題:ヤンデレヤクザの束縛婚〜何も覚えていませんが〜 なぜかここ一年の間の記憶を失い、なぜかその間にヤクザの若頭と結婚することになってました。 書いてみたかった記憶喪失もの。相変わらずのヤクザものです。 文字数バラバラで40話くらい。 なんでも許せる方向け。苦手な方は即回れ右でお願いします。 お肌に合わないと感じたら即座に使用を止めてください。誤字脱字等はご指摘いただければありがたく修正させていただきます。肌に合わない、想像と違った等の批判否定は豆腐メンタルにきて泣きますのでご遠慮ください。 この話はフィクションです。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤクザの組長は随分と暇らしい

海野 月
恋愛
キャバクラでバイトするリカ 店に来たヤクザの組長である中井律希のテーブルにつかされた 目当ての女の接客じゃないことに面倒くさそうな態度だったこの男。それがどうして―― 「リカちゃん。俺の女になって」 初めての彼氏がヤクザなんて絶対にごめんだ! 汚い手も使いながらあの手この手で迫ってくる中井を躱し、平和な日常を取り戻そうとあがくストーリー

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...