優しい彼の裏の顔は、、、。【完】

夏目萌

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「いくと……さん……やめて……」

 ロシアンルーレットなんて無謀とも言える勝負は止めて欲しい。そんな思いから詩歌は必死に訴えかける。

「……なぁ郁斗、良いだろ?  お前が勝てば、嬢ちゃんと共にここから無傷で出れる。そうだろ?」
「ああ、そうだな……」

 この勝負に絶対勝ち目が無い訳ではないが、迅相手に下手な小細工をしたところで見破られてしまうだろう。

 かと言って何の小細工も無しに勝負を受けるとなると、最早運任せになってしまう。

 詩歌が居なければ、それも有りだと郁斗は思う。悪運は強い方だと自負しているから。

 しかし今は、確実に詩歌と共にここを出る事が最優先。

 となると、一か八かのこの勝負を受ける訳にはいかないのだ。

「……悪いが、今は止めておく。お前と完全に二人って状況なら、俺はいつでも受けてやる」
「はっ!  そんなにこの女が大切か?  そうかそうか。それじゃあ仕方ねぇな。俺はもう女を連れて出ねぇと間に合わねぇ。テメェにはここで死んでもらう」

 そして、迅のその言葉と共に再び二人は銃を構え、互いに銃口を向け合った。

(取引き材料の詩歌を殺す事はしねぇだろう。狙いは俺だ……けど、もう一度迅の手に渡れば、確実にこの場から連れ去られる……)

 詩歌の元へ近付けば彼女を危険に晒してしまい、かと言って迅より詩歌から離れようとすれば、迅が近付き彼女を盾として逃げるかもしれない。

(こうなると、もうアイツより先に引き金を引くしか……)

 お互いの出方を待っているのか、瞬き一つせずに互いを注視した、その時、

「迅……お前、俺を待たせるつもりなのか?  随分偉くなったなぁ」

 足音立てずに近付き、そう声を掛けて来た人物が一人。

「ま、黛さん……約束の時間までまだ数分ありますよ?」
「数分で片がつくのかよ?  そいつ、結構な手練だろ?  俺は待たされるのが嫌いなんだよ。知ってんだろ?」

 現れたのは詩歌の行方を探していた黛組の組長――黛  弥彦だった。

「お前は市来組の夜永だったか?  探していた女を匿ってた糞野郎はよぉ!」

 そして、郁斗の方に視線を移した黛は言いながら銃を取り出すや否や、何の躊躇いもなく郁斗の手首目掛けて弾を撃ち込むと、郁斗の手から拳銃を落とした。

「……っ、」
「郁斗さん!?  いやぁっ!!」

 撃たれた場所からは血が流れ、それを見ていた詩歌は悲痛な叫び声を上げた。

「おい、迅。さっさとその女を運べ」
「あ、ああ。分かってる」
「止めろっ!」

 郁斗は痛みを堪えつつ、詩歌を守る為近付こうとするも、

「うるせぇ。次動いたら女を殺す。いいのか?  コイツは大切なんだろ?  なら、その場で大人しくしてろ」
「……っく……」

 黛は迅に抱えられた詩歌に銃を向けながら郁斗を牽制する。

「迅、早く行け」
「お、おう」
「い、郁斗さん!!」
「詩歌!」

 迅の姿が見えなくなった瞬間、郁斗が動こうとした、その時、

「女の事は心配すんな。俺の元で可愛がってやる。花房や四条は始末するから、もう誰も女を探す奴はいねぇよ」

 笑みを浮かべながらそう言い放った黛は、郁斗の心臓を狙って引き金を引き、パンッという乾いた音と共に郁斗の体が崩れ落ちていくのを見届けてその場を後にした。
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