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Ⅲ
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円香が伊織のマンションに泊まりに来たあの日以降、伊織の中で彼女の存在はどんどん大きく、かけがえのないモノへと変わっていた。
その事に戸惑い、自分の中の気持ちを打ち消していた。
けれど、そうすればする程円香への想いは強くなり、会いたい、触れたい、繋がりたいという欲望すら生まれていく。
好きな相手にそういった感情を抱く事は間違いじゃないし、当然の事。
しかし、伊織は自分が裏社会で生きる人間で、常に危険と隣り合わせな状況に置かれている事を懸念していたのだ。
人を手に掛ける――それは酷く大きな代償を支払う事になる。
いつか自分のせいで円香を巻き込んでしまう事、危険な目に遭わせてしまう事を酷く恐れていた。
だから、これ以上彼女への想いが大きくならないうちにフェイドアウトしようと思い、任務の途中ではあるが、マンションを引き払って事務所へ戻り、連絡も減らして少しずつ離れようと決意したのだ。
「悪ぃな、円香……これは全て、お前の為なんだよ」
本当は、会いに来てくれて嬉しかった。
すぐに抱きしめて、キスをして、触れたかった。
今だって、本当は円香を追いかけて謝りたい気持ちを必死に押さえ込み、辛い気持ちにひたすら耐えていた。
その夜、帰宅した円香は部屋に篭っていた。
時々スマホを見るも、依然伊織からの連絡はない。
いっその事、自分の方から送ろうかと思った円香は何度か文字を打ったものの、これ以上鬱陶しがられたらと思うと怖くてメッセージを送ることすら出来ないでいた。
「……嫌われちゃったのかな……もう、終わりって事なの?」
こういう時、どうすればいいのか分からない円香はいつものようにネットで検索してみるものの、良い解決策は載っていなかった。
時同じく伊織はというと、
「例の詐欺グループが新たな動きを始めた。早速伊織には新しい任務に就いて欲しい」
忠臣と雷斗の三人でミーティングを行い、新たな任務へ向けての話し合いをしているところだった。
「こっちへ戻ったばかりで悪いが、頼めるか?」
「当たり前っすよ。仕事なんですから。それじゃあ早速新たな住まいを探すとするかな」
「雷斗は引き続き情報収集を頼むな」
「はい」
忠臣は伊織と雷斗の間で何か揉め事が起きている事に気付いてはいたものの、仕事に支障が出なければいいと特に気には止めていなかった。
ミーティングが終わり、各々部屋へ戻ろうとしていた時、
「伊織、ちょっと話がある」
雷斗の方から伊織に声を掛け、それに頷いた伊織は二人で外へ出る。
「何だよ、話って」
「彼女の事だよ。分るだろ?」
「…………」
「彼女、泣いてたよ。何も悪くないのに、自分が悪かったって」
「…………そうかよ。話はそれだけか?」
「伊織、お前が何であんな態度を取ったのかは分かってるつもりだ。けどな、あれじゃあ彼女が可哀想だろ? 突き放すにしても、他にやり方があると思う」
「……面倒な事は嫌いなんだよ。この方が手っ取り早い」
「お前な、そもそも彼女を騙して付き合うように仕向けたのは伊織だろ? 彼女はこれまでの女とは違うって、気付いてたんだろ? それなら互いがのめり込まないうちに別れるべきだったんだよ」
「うるせぇな、雷、お前何なんだよ? これは俺と円香の問題なんだよ。お前には関係ねぇ! 放っておけよ。それともあれか? お前、円香に惚れたのか?」
「…………そうだって言ったら?」
「なっ……」
「伊織は彼女と別れるつもりなんだし、それなら俺が彼女を貰う。俺なら、もっと上手く付き合える自信、あるからな」
雷斗の言葉に驚き、反論出来ない伊織。
暫く無言のままで向かい合っていた二人だったけれど、
「――そうかよ、なら、好きにしろよ。俺にはもう、関係ねぇんだから」
本当の気持ちを抑えこみ、拳を強く握り締めた伊織はそれだけ言って室内へと入って行き、雷斗は暫くその場に留まったままだった。
その事に戸惑い、自分の中の気持ちを打ち消していた。
けれど、そうすればする程円香への想いは強くなり、会いたい、触れたい、繋がりたいという欲望すら生まれていく。
好きな相手にそういった感情を抱く事は間違いじゃないし、当然の事。
しかし、伊織は自分が裏社会で生きる人間で、常に危険と隣り合わせな状況に置かれている事を懸念していたのだ。
人を手に掛ける――それは酷く大きな代償を支払う事になる。
いつか自分のせいで円香を巻き込んでしまう事、危険な目に遭わせてしまう事を酷く恐れていた。
だから、これ以上彼女への想いが大きくならないうちにフェイドアウトしようと思い、任務の途中ではあるが、マンションを引き払って事務所へ戻り、連絡も減らして少しずつ離れようと決意したのだ。
「悪ぃな、円香……これは全て、お前の為なんだよ」
本当は、会いに来てくれて嬉しかった。
すぐに抱きしめて、キスをして、触れたかった。
今だって、本当は円香を追いかけて謝りたい気持ちを必死に押さえ込み、辛い気持ちにひたすら耐えていた。
その夜、帰宅した円香は部屋に篭っていた。
時々スマホを見るも、依然伊織からの連絡はない。
いっその事、自分の方から送ろうかと思った円香は何度か文字を打ったものの、これ以上鬱陶しがられたらと思うと怖くてメッセージを送ることすら出来ないでいた。
「……嫌われちゃったのかな……もう、終わりって事なの?」
こういう時、どうすればいいのか分からない円香はいつものようにネットで検索してみるものの、良い解決策は載っていなかった。
時同じく伊織はというと、
「例の詐欺グループが新たな動きを始めた。早速伊織には新しい任務に就いて欲しい」
忠臣と雷斗の三人でミーティングを行い、新たな任務へ向けての話し合いをしているところだった。
「こっちへ戻ったばかりで悪いが、頼めるか?」
「当たり前っすよ。仕事なんですから。それじゃあ早速新たな住まいを探すとするかな」
「雷斗は引き続き情報収集を頼むな」
「はい」
忠臣は伊織と雷斗の間で何か揉め事が起きている事に気付いてはいたものの、仕事に支障が出なければいいと特に気には止めていなかった。
ミーティングが終わり、各々部屋へ戻ろうとしていた時、
「伊織、ちょっと話がある」
雷斗の方から伊織に声を掛け、それに頷いた伊織は二人で外へ出る。
「何だよ、話って」
「彼女の事だよ。分るだろ?」
「…………」
「彼女、泣いてたよ。何も悪くないのに、自分が悪かったって」
「…………そうかよ。話はそれだけか?」
「伊織、お前が何であんな態度を取ったのかは分かってるつもりだ。けどな、あれじゃあ彼女が可哀想だろ? 突き放すにしても、他にやり方があると思う」
「……面倒な事は嫌いなんだよ。この方が手っ取り早い」
「お前な、そもそも彼女を騙して付き合うように仕向けたのは伊織だろ? 彼女はこれまでの女とは違うって、気付いてたんだろ? それなら互いがのめり込まないうちに別れるべきだったんだよ」
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「…………そうだって言ったら?」
「なっ……」
「伊織は彼女と別れるつもりなんだし、それなら俺が彼女を貰う。俺なら、もっと上手く付き合える自信、あるからな」
雷斗の言葉に驚き、反論出来ない伊織。
暫く無言のままで向かい合っていた二人だったけれど、
「――そうかよ、なら、好きにしろよ。俺にはもう、関係ねぇんだから」
本当の気持ちを抑えこみ、拳を強く握り締めた伊織はそれだけ言って室内へと入って行き、雷斗は暫くその場に留まったままだった。
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