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「い、おり……さん、いまは、だめ……っ」

 激しい口付けと敏感になっていた身体に触れられていた円香は既に息が上がっていて、今敏感な部分に触れられてしまうとそれだけでイッてしまいそうだと解っているから止めて欲しいと懇願するも、

「悪いな、円香。ここで止めるとか、無理だわ」

 円香の言葉を遮るように伊織は自身の指をひくつく蜜壷へ滑らせるように飲み込ませていき、

「ッあ!  はぁっ、あぁんッ!!」

 円香の身体は大きく反応し、指を挿れただけで軽くイッてしまったのだ。

 そんな円香を前にした伊織の理性は音を立てるように崩れていき、

「あっ、い、おりさっ、いまは、だめっ、うごかさないでっ」

 更に一本、二本と挿入する指の数を増やすと、クチュクチュと厭らしい水音を立てながら蜜壷を掻き回すように刺激し続ける。

「やっ!  あっ、あぁんっ、は、ぁっ……」

 指だけで何度もイかされる円香はシーツを掴み、身を捩りながら何度も声を上げ続ける。

「――円香」
「いおり、さんッ」

 愛液で濡れた指を引き抜き、再度円香に口付ける伊織。

 舌を絡ませながら何度も求め合った後に唇を離すと、銀色の糸が引いていた。

「いおりさ……わたし、もう……。おねがい、いおりさんので、イかせて……っ」

 指だけで何度か軽くイかされたもののそれだけじゃ物足りなかった円香の身体は疼いて仕方がなくて、恥ずかしいのを承知で自ら伊織のモノを強請る。

「悪い、ちと意地悪し過ぎたな。それじゃあ、一緒にイこう」

 彼女のお願いが少しだけ意外だったものの、愛しい人に求められて嬉しくない男などいない。

 すっかり積極的になった円香の頭を優しく撫でた伊織は滾る自身のモノを熱くぬかるんだ円香の蜜口に充てがうと、そのまま一気に挿れていく。

「あぁっ!!」

 深く、貫かれるような感覚に円香の腰は大きく反応した。

「あっ、はッ、んっ、やぁっ……んっ」

 伊織がゆっくり腰を動かす度、円香は声を上げながら腰を震わせる。

 そして、幾度となく打ち付けられ、自身のナカを蠢く伊織のモノを深く深く飲み込んでいき、

「……っ、円香、そんなに締め付けられたら……っ」

 絶頂を迎えたのではと思わせるくらいに締め付けられた伊織もまた、余裕の無い声を漏らし、

「いお、りさ……っ、もう、……っ」
「円香……俺ももうっ……」

 互いに余裕が無くなった二人。

 伊織は自身の欲を円香の奥深くに放つと、

 同じタイミングで絶頂へと昇り詰めて果てていった。


 それから、どのくらいの時間が経ったのだろう。

 ふと目を覚ました円香は抱きしめられたまま眠ってしまった事を知ると、嬉しくて、安心出来て、もう一度眠りにつけそうな気がしてくる。

 ピタリと身体を寄せた円香のその行動で伊織は目を覚ます。

「どうした?」
「あ、ごめんなさい……起こしちゃいましたか?」
「いや、目が覚めただけだ」
「そうですか」
「……風呂でも入るか?」
「……一緒に、ですか?」
「そうだな、円香が望むなら」
「……そういう言い方、狡いです。でも、お風呂一緒は恥ずかしいからいいです」
「風呂よりも恥ずかしい事なんて、沢山してるけどな?」
「もう!  そういう事言わないで下さい!」
「悪い」

 こんな風にやり取り出来る、円香はそれだけでも幸せに思えて心が満たされていく。

「……だけど、もう少し、このままが良いです。……駄目、ですか?」
「もう少しと言わず、ずっと居ればいいだろ?」
「……そうですね、ずっと一緒がいいです」

 再び訪れた無言だけど、そこに気まずさは無い。

「――なあ円香」
「はい?」
「……お前は、これから先も、俺と共に生きる気はあるか?」
「え……?」
「……俺は、これからもこの先も、円香を離すつもりは無い。生涯を共にしたいと思ってる」

 沈黙の後に突然されたプロポーズとも思える伊織のその言葉に、驚いた円香は言葉を発する事も忘れてしまう。

「けどな、前に話したとおり、俺は殺し屋だ。お前が思っている以上に過酷な世界で生きてる。お前に触れたこの手で、俺は沢山の人間を殺して来た。なんの躊躇いもなく、な」

 自身の頬に触れていた伊織の右手が悲しい言葉と共に離され、話をする彼の表情が悲しげで円香の心は締め付けられる。

「俺とこの先も居るという事は、お前にも過酷な運命を背負わせる事になるし、危険も伴う…………それを踏まえた上で、俺はもう一度円香に問いたい。円香、俺とこの先も、共に生きていく気はあるか?」

 こんな状況でこんな事を口にするのは狡いと円香は思った。

 だけど、円香の心は初めから決まっていたのだ。

 あの日、酷い事を言われて別れたはずなのに一つも忘れる事が出来なかった伊織への想い。

 他の男に犯され、穢された自身の身体を気にもせずに愛してくれた伊織。

 円香にとって伊織はどんな事があっても忘れる事の出来ない人で、かけがえの無い存在なのだ。

 だから、伊織が殺し屋で危険な世界に生きていると知っても、そんな事は問題じゃなかった。

「……私は、これからもずっと、伊織さんの傍に居たい……私じゃ、何の役にも立たてないかもしれないけど、傍に居て、貴方の心を、癒せる存在になりたい。伊織さんの苦しみを、私にも分けてください……辛い時は、私を頼ってください」

 円香は伊織を真っ直ぐに見つめ、思っている事を全て話した。

 そんな彼女の言葉に、

「――ありがとう、円香」

 ただひたすら感謝し、ギュッと円香を抱きしめる。

 そして、何があっても彼女だけは守り抜こうと心に誓った伊織の瞳から一筋の涙が零れ、頬を伝っていた。
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