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再び会う 2
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ヴェリテ・クロワールは端的に言って心配していた。
革命軍に加担し廃墟と化したドラコニア。
変動する地位。
揺れ動く時勢。
コンケットオペラシオン襲撃と革命軍の復活。
仲間の裏切り。
急死する政府上層部。
皆、憔悴していた。誰もかれも疑心暗鬼となる。事実、探るような視線やこそこそと噂を交わしあう声にヴェリテは常に苛立っていた。
だが心配事はそれだけではなかった。
同期の兵士、アルマ・ベルネットのことだった。
発端はコンケットオペラシオン城で行われた会議の襲撃にあった。
同胞であり、先輩でもある中将ソンジュ・ミゼリコルドが革命軍に寝返った。そして革命軍総長メンテ・エスペランサと共謀しコンケットオペラシオン城を襲撃した。怪我人は多少出たものの、死者は一名。城を奪取されたが革命軍にとってさして価値のないそれは早々に捨てられた。もともと少しでも殺すことではなく革命軍が代替わりして復活したという狼煙のような目的だったのだろう。
奮闘あり、死者一名。だがその死者が問題だった。
第三中将カルムクール・アム。
実力もあるが、それ以上に人心掌握にたけていた。上司から好かれ、部下たちからは慕われていた。そしてその部下も含めて彼の実力だった。他の誰にも手綱を取らせない狂犬が二匹いた。
アルマ・ベルネット、ラパン・バヴァール。
王国軍きっての実力者でありながら、他の誰にも扱えない問題児。それが軍内の共通認識だった。
そしてコンケットオペラシオン城襲撃で、飼い主である中将が死んだ。飼い主を失った犬がどうなるか、それは明らかだった。
副官ラパン・バヴァールは葬儀後からしばらく、退役した。それからコンケットオペラシオン城の会議に参加していた政府の上役たちが次々と変死している。誰も口にはしないが、誰もが彼の犯行と確信していた。中将が死んだ直後、ヴェリテは遠目にバヴァールを見た。その時点でもう彼は壊れていたのだろう。
そしてもう一人、アルマ・ベルネット。ベルネットは軍を辞めず、そのまま在軍し第三中将に就任することになった。
アルマ・ベルネットは強い。同期の誰よりも強く、中将として十分な実力も持っている。刀の扱いも部下の扱いも申し分ない。それが周囲からの評価だった。だがヴェリテから見てアルマ・ベルネットは憧れとも目標ともいえる軍人でありながら、酷く微妙なバランスで自立している。
一見して、動揺など見せない。冷静で冷徹、まるで心などないとでもいうように任務を遂行する。だがアルマといえ、人の子だ。しかも殺されたのは唯一といってもいい信頼していた育ての親。その心情は、他人には到底計り知れない。怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも自暴自棄になっているのか、それは同期のヴェリテにもわからない。
そこに、革命軍の視察の命令がヴェリテの耳に飛び込んできた。本来であれば管轄上ヴェリテのところへ回ってくる任務だったからか、大将であるフスティシア・マルトーから声がかかった。
どうもアルマの現状、立場から総統が目を付けたらしい。
「なんでこのタイミングで総統はっ、」
「わしには何とも言えんが、昇格祝いみたいなつもりなんじゃろう。」
「祝いって……、」
「公式に、復讐できる機会を与えた、っちゅうとこじゃ。無論、視察の任務を遂行すればよし、アルマの力もわかるじゃろう。だが逆にアルマが暴走し、革命軍と交戦することもまた、一興じゃと思っとるんじゃ。……今の状態であれば、おそらくアルマたちの隊だけで敗走させることくらいできるじゃろう。」
視察をしてもよし、復讐に走り壊滅させてもよし。
「どっちに転んでも、ですか。」
「ああ、時期が時期じゃからの、止めたんじゃがアルマも乗る気じゃったから、わしにはなんにもできん。……復讐心に飲まれるようなことだけは、あってはならんというのに。」
ヴェリテよりもずっとアルマとの付き合いが長いだろう大将は悲し気に目を伏せた。
アルマとて、馬鹿ではない。総統の意思位気づいているだろうに、あえて乗ってみせた。考えがあるのか、それとも良い機会だと思い乗ったのか、それはわからない。
だが少なくとも、周りに恐ろしく興味のないアルマは、周りの人間がこうも心配していることに気が付いていないだろう。
会う時間も作れずやきもきしていたが、偶然前方から書類を抱えたアルマの姿を捕らえ、人気のないとこへ引き摺って行った。
無表情にどこか不服そうな、不機嫌そうな色をにじませるアルマは相変わらずふてぶてしく、何もなくとも引っ叩いてやりたくなる。
「じゃあ何で、大将の提案に乗らなかった?」
「何でお前がそれを……フスティシアか。」
余計なことを、とでも言いたげなアルマに知らず顔を顰めた。もっとも、このしかめっ面は大将への恨みつらみよりも、よりによってなぜヴェリテに伝えたのか、というものだった。ヴェリテ自身、昔から煙たがられていることは知っている。
「……良い機会だから受けた。それだけだ。交戦するかは置いておいて、革命軍と接触することは中々ない。」
「それにしたってタイミングが悪すぎるだろ。もう少し落ち着いた後でも、」
「だいたい、なんでお前にここまで言われなきゃならない。お前のところに来るはずの任務だったとしても、命令が下る前に俺のところに来たんだ。来るかもしれなかった任務を一つで、グダグダいうな。」
心底迷惑、と煩わしさを微塵も隠そうとせず赤い目を面倒そうにすぼめた。
ヴェリテの中で何かが切れた。
「だっからてめえはどんだけ周りが見えてねえんだよ!?」
「……ああ?」
「面倒くさそうしてんじゃねえよ!おれらがどんだけ心配してんのかわかってんのかてめえはよ!」
気遣わし気にアルマに目をやる三番部隊の兵士、掛ける言葉が見つからずただ見ることしかできない同期や先輩、そして悲し気に目を伏せた大将の顔がヴェリテの脳裏によみがえった。
「…………心配?」
まるでわからない覚えがないという顔にまたふつりと苛立つが、反芻された言葉にヴェリテは我に返った。茫然としたアルマに対し、二の句が継げない。
今らしくもないことを言ったような気がする。そしてそれはおそらく気の所為ではないというのを目の前のアルマが物語っていた。
「心配?」
「おっ、れじゃねえ!マルト―大将が!心配してたんだよ!あと三番部隊の奴らもな!好き勝手やるならちったあ周りにフォロー入れたうえでやりやがれ!」
カッと熱くなる顔をどうすることもできず怒鳴りつけると相変わらずぽかんとした顔をしていたアルマが、珍しく笑った。小馬鹿にしたようでも、嘲笑するようでもなく、自然に笑った。
「お前から心配されるとは、な。随分と迷惑をかけた。」
「だっからおれは心配なんざしてねえよ!とっととくたばっちまえ!」
クツクツとのどの奥で笑いながらアルマはまた歩き出す。思えば、こうして笑うのを見るのは初めだった気がした。アルマが表情を変えるのは、いつだってカルムクールの前だった。
「まあ心配するな。」
「してねえっ!」
「どっちでも結構だがその赤い顔を何とかしてからいうんだな。」
ぐっと落ち着けるように押し黙るが、いまだ顔の熱は引かない。激昂するときも顔が赤くなる自覚はあったが、このタイミングでは何を言っても言い訳にしかならない。
「っち、」
「今回、交戦するつもりはない。本当にただ視察するだけだ。」
「ならなんで、」
「断る理由がない。それと、」
「あ?」
「……確かめなくてはならないことが、ある。」
前を向いているはずだが、その赤い目はそれよりもずっと先を見ているように、ヴェリテには見えた。
*********
革命軍が、迂回しながら王都に近づいていた。予想通り、総統イネブランラーブルは三番中将アルマ・ベルネットを進路上の村に配置させた。そしてやはり、アルマはそれをためらうことなく受けた。
「何もかも、順調に進んどる。」
「次は、どうなさいますか?」
すぐ隣に控えていた部下は、何一つ疑うことなくこちらを見上げる。
「……リチュエル・オテル氏。こちらももう架橋、この先のことを考えていかねばならん頃じゃ。これを届けてくれ。」
「はっ!了解いたしました。」
「くれぐれも内密に、のう。」
手紙を渡せば恭しくそれを懐に入れる。
詳しいことも話さずずいぶんと好き勝手に使ってしまっているが、シリウスは一片の疑いを滲ませることなく、ただ只管に手足となって動いてくれている。どこまでも信用し、まるで信者か何かのようだと時折思わざるを得なくなる。それに、裏切られることは決してないという安心と同時に、本当にこれでいいのかという思いがせめぎあうのだ。
「シリウス。」
「は、何でしょうか。」
「わしは、正しい。そうじゃろう?」
「はい、貴方様のなさること、それは全て正義です。」
何度も口にした問いかけ、何度も耳にしたシリウスの答え。わかっていたのに何度も聞いてしまう自分はきっと愚かなのだろう。フスティシアは一人口を歪め自嘲した。
「すべては、すべてはこの国のため。国民の平和のために。」
革命軍に加担し廃墟と化したドラコニア。
変動する地位。
揺れ動く時勢。
コンケットオペラシオン襲撃と革命軍の復活。
仲間の裏切り。
急死する政府上層部。
皆、憔悴していた。誰もかれも疑心暗鬼となる。事実、探るような視線やこそこそと噂を交わしあう声にヴェリテは常に苛立っていた。
だが心配事はそれだけではなかった。
同期の兵士、アルマ・ベルネットのことだった。
発端はコンケットオペラシオン城で行われた会議の襲撃にあった。
同胞であり、先輩でもある中将ソンジュ・ミゼリコルドが革命軍に寝返った。そして革命軍総長メンテ・エスペランサと共謀しコンケットオペラシオン城を襲撃した。怪我人は多少出たものの、死者は一名。城を奪取されたが革命軍にとってさして価値のないそれは早々に捨てられた。もともと少しでも殺すことではなく革命軍が代替わりして復活したという狼煙のような目的だったのだろう。
奮闘あり、死者一名。だがその死者が問題だった。
第三中将カルムクール・アム。
実力もあるが、それ以上に人心掌握にたけていた。上司から好かれ、部下たちからは慕われていた。そしてその部下も含めて彼の実力だった。他の誰にも手綱を取らせない狂犬が二匹いた。
アルマ・ベルネット、ラパン・バヴァール。
王国軍きっての実力者でありながら、他の誰にも扱えない問題児。それが軍内の共通認識だった。
そしてコンケットオペラシオン城襲撃で、飼い主である中将が死んだ。飼い主を失った犬がどうなるか、それは明らかだった。
副官ラパン・バヴァールは葬儀後からしばらく、退役した。それからコンケットオペラシオン城の会議に参加していた政府の上役たちが次々と変死している。誰も口にはしないが、誰もが彼の犯行と確信していた。中将が死んだ直後、ヴェリテは遠目にバヴァールを見た。その時点でもう彼は壊れていたのだろう。
そしてもう一人、アルマ・ベルネット。ベルネットは軍を辞めず、そのまま在軍し第三中将に就任することになった。
アルマ・ベルネットは強い。同期の誰よりも強く、中将として十分な実力も持っている。刀の扱いも部下の扱いも申し分ない。それが周囲からの評価だった。だがヴェリテから見てアルマ・ベルネットは憧れとも目標ともいえる軍人でありながら、酷く微妙なバランスで自立している。
一見して、動揺など見せない。冷静で冷徹、まるで心などないとでもいうように任務を遂行する。だがアルマといえ、人の子だ。しかも殺されたのは唯一といってもいい信頼していた育ての親。その心情は、他人には到底計り知れない。怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも自暴自棄になっているのか、それは同期のヴェリテにもわからない。
そこに、革命軍の視察の命令がヴェリテの耳に飛び込んできた。本来であれば管轄上ヴェリテのところへ回ってくる任務だったからか、大将であるフスティシア・マルトーから声がかかった。
どうもアルマの現状、立場から総統が目を付けたらしい。
「なんでこのタイミングで総統はっ、」
「わしには何とも言えんが、昇格祝いみたいなつもりなんじゃろう。」
「祝いって……、」
「公式に、復讐できる機会を与えた、っちゅうとこじゃ。無論、視察の任務を遂行すればよし、アルマの力もわかるじゃろう。だが逆にアルマが暴走し、革命軍と交戦することもまた、一興じゃと思っとるんじゃ。……今の状態であれば、おそらくアルマたちの隊だけで敗走させることくらいできるじゃろう。」
視察をしてもよし、復讐に走り壊滅させてもよし。
「どっちに転んでも、ですか。」
「ああ、時期が時期じゃからの、止めたんじゃがアルマも乗る気じゃったから、わしにはなんにもできん。……復讐心に飲まれるようなことだけは、あってはならんというのに。」
ヴェリテよりもずっとアルマとの付き合いが長いだろう大将は悲し気に目を伏せた。
アルマとて、馬鹿ではない。総統の意思位気づいているだろうに、あえて乗ってみせた。考えがあるのか、それとも良い機会だと思い乗ったのか、それはわからない。
だが少なくとも、周りに恐ろしく興味のないアルマは、周りの人間がこうも心配していることに気が付いていないだろう。
会う時間も作れずやきもきしていたが、偶然前方から書類を抱えたアルマの姿を捕らえ、人気のないとこへ引き摺って行った。
無表情にどこか不服そうな、不機嫌そうな色をにじませるアルマは相変わらずふてぶてしく、何もなくとも引っ叩いてやりたくなる。
「じゃあ何で、大将の提案に乗らなかった?」
「何でお前がそれを……フスティシアか。」
余計なことを、とでも言いたげなアルマに知らず顔を顰めた。もっとも、このしかめっ面は大将への恨みつらみよりも、よりによってなぜヴェリテに伝えたのか、というものだった。ヴェリテ自身、昔から煙たがられていることは知っている。
「……良い機会だから受けた。それだけだ。交戦するかは置いておいて、革命軍と接触することは中々ない。」
「それにしたってタイミングが悪すぎるだろ。もう少し落ち着いた後でも、」
「だいたい、なんでお前にここまで言われなきゃならない。お前のところに来るはずの任務だったとしても、命令が下る前に俺のところに来たんだ。来るかもしれなかった任務を一つで、グダグダいうな。」
心底迷惑、と煩わしさを微塵も隠そうとせず赤い目を面倒そうにすぼめた。
ヴェリテの中で何かが切れた。
「だっからてめえはどんだけ周りが見えてねえんだよ!?」
「……ああ?」
「面倒くさそうしてんじゃねえよ!おれらがどんだけ心配してんのかわかってんのかてめえはよ!」
気遣わし気にアルマに目をやる三番部隊の兵士、掛ける言葉が見つからずただ見ることしかできない同期や先輩、そして悲し気に目を伏せた大将の顔がヴェリテの脳裏によみがえった。
「…………心配?」
まるでわからない覚えがないという顔にまたふつりと苛立つが、反芻された言葉にヴェリテは我に返った。茫然としたアルマに対し、二の句が継げない。
今らしくもないことを言ったような気がする。そしてそれはおそらく気の所為ではないというのを目の前のアルマが物語っていた。
「心配?」
「おっ、れじゃねえ!マルト―大将が!心配してたんだよ!あと三番部隊の奴らもな!好き勝手やるならちったあ周りにフォロー入れたうえでやりやがれ!」
カッと熱くなる顔をどうすることもできず怒鳴りつけると相変わらずぽかんとした顔をしていたアルマが、珍しく笑った。小馬鹿にしたようでも、嘲笑するようでもなく、自然に笑った。
「お前から心配されるとは、な。随分と迷惑をかけた。」
「だっからおれは心配なんざしてねえよ!とっととくたばっちまえ!」
クツクツとのどの奥で笑いながらアルマはまた歩き出す。思えば、こうして笑うのを見るのは初めだった気がした。アルマが表情を変えるのは、いつだってカルムクールの前だった。
「まあ心配するな。」
「してねえっ!」
「どっちでも結構だがその赤い顔を何とかしてからいうんだな。」
ぐっと落ち着けるように押し黙るが、いまだ顔の熱は引かない。激昂するときも顔が赤くなる自覚はあったが、このタイミングでは何を言っても言い訳にしかならない。
「っち、」
「今回、交戦するつもりはない。本当にただ視察するだけだ。」
「ならなんで、」
「断る理由がない。それと、」
「あ?」
「……確かめなくてはならないことが、ある。」
前を向いているはずだが、その赤い目はそれよりもずっと先を見ているように、ヴェリテには見えた。
*********
革命軍が、迂回しながら王都に近づいていた。予想通り、総統イネブランラーブルは三番中将アルマ・ベルネットを進路上の村に配置させた。そしてやはり、アルマはそれをためらうことなく受けた。
「何もかも、順調に進んどる。」
「次は、どうなさいますか?」
すぐ隣に控えていた部下は、何一つ疑うことなくこちらを見上げる。
「……リチュエル・オテル氏。こちらももう架橋、この先のことを考えていかねばならん頃じゃ。これを届けてくれ。」
「はっ!了解いたしました。」
「くれぐれも内密に、のう。」
手紙を渡せば恭しくそれを懐に入れる。
詳しいことも話さずずいぶんと好き勝手に使ってしまっているが、シリウスは一片の疑いを滲ませることなく、ただ只管に手足となって動いてくれている。どこまでも信用し、まるで信者か何かのようだと時折思わざるを得なくなる。それに、裏切られることは決してないという安心と同時に、本当にこれでいいのかという思いがせめぎあうのだ。
「シリウス。」
「は、何でしょうか。」
「わしは、正しい。そうじゃろう?」
「はい、貴方様のなさること、それは全て正義です。」
何度も口にした問いかけ、何度も耳にしたシリウスの答え。わかっていたのに何度も聞いてしまう自分はきっと愚かなのだろう。フスティシアは一人口を歪め自嘲した。
「すべては、すべてはこの国のため。国民の平和のために。」
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