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高等部編
胡蝶の夢
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ひどく重い着物を着つけられる。何の表情も浮かべず、ぎゅうと帯を引く女性の顔は見覚えがあるような、ないような顔。部屋に控えめに焚かれるはゆるりゆるりと煙を吐き出しながらジリジリとその芯を灰にしていく。嗅ぎなれた消毒液の匂いはもうどこにもない。残滓のように、腕には赤い点々や青い内出血の跡があるがそれは分厚い布たちに遮られている。いずれにせよ、おそらくそう遠くないうちに消えるのだろう。現実から逃避するように、わずかに空いた障子の隙間から外へ視線を投げる。鳥が囀り、梅が艶やかに花を綻ばせる。外に行けば、もっと見られるだろうか。気まぐれに鳴く鶯を見上げ、身を寄せ合うエナガの姿を瞳に映せるだろうか。でもきっと今私一人で見ても、あの時の気持ちは味わえない。
「失礼します」
「っ……、」
抑揚のない声と共にぐっと腹が圧迫される。無理やり現実に引き戻され姿見の前に立たされる。知らぬ間に着つけは終わっていたらしく着物の端々を引っ張り簡単に手直しする。ぼうっとしていたのを咎めるような視線を送られ、しぶしぶ顔を上げる。鏡の中には分不相応な着物を布を巻き付けたアルビノの女がいた。着付けをした女性はいかがでしょう、と伺いたてるように私に聞いたが、私の返事など端から聞く気はないようだった。当然だ。この着物は母親にあたる女性が用意させた物であり、それ以外に選択肢は与えられていない。見かけばかりの豪奢な衣装に辟易とした。
「お嬢様、お隣で奥様がお待ちです。」
「……はい。」
おざなりな返事になんら反応を見せることなく廊下へ出ていく女性の背を見送り、鳩尾に巨大な鉛でも抱えたような気分で黒い襖の取っ手に指先を掛けた。
******
今時旧家やら血族やら、そういったものはナンセンスだと、常々私は思っている。それは例えば友達付き合いにおいて、例えば住区において、例えば、婚姻において。
しかしそうは思わない人間もまた、有り余るほどに存在するのだ。
「あら、よく似合ってるじゃない。」
その言葉を投げられたのは、目の前の彼女が散々嘗めるように品定めをしてからだった。隠す気もさらさらないような不躾な様は下品の一言に尽き、内心顔を顰めた。
「これなら相手方にも気に入ってもらえそうね。」
そう口の端をあげて笑う彼女の顔は、靄がかかったようによく見えない。見えているはずなのに、頭にその顔を思い浮かべようとすると、いつもその顔は見えないのだ。
いつものように無言の返事をした。
先祖代々より土地に根付く由緒正しい家の一人娘。それが白鷺涼という人間の価値だった。いやむしろ、つい最近までその価値すらなかった。ただ細々と生にすがっているだけの役に立たない生き人形は、奇跡的に回復し、有用なものとなった。
しかし言ってもたかが田舎の旧家。土地を多く持ち、古くからその土地に住んでいるという、それだけだった。それだけだったはずなのに、小さなコミュニティの中で人は天狗に化けるのだ。まるで富豪か何かのように振る舞い、見栄を張る。山や土地をいくつも所有しているなどと聞こえはいいが所詮は価値の低い広大さだけが売りの土地。
揚句片田舎の天狗の娘を本物の富豪と結婚させようというのだ、馬鹿馬鹿しいもここに極まると言っても過言ではない。
おしゃべり好きな使用人たちの噂によると、この村の側に大手の工場ができるらしい。子供でも聞いたことのあるような名のある会社。工場を作るにあたって、近隣住民である村人の協力は必要不可欠になる。よって村において大きな発言権や影響力のある旧家と、といったことらしい。
しかし腑に落ちない。影響力のある人間を取り込んでいきたいのはわかる。だがなぜここまでするのかがわからない。単に懇意にしておきたいというならほかにもやり方はたくさんあるはずだ。なぜあえて七面倒くさく自身の方にほとんど利のない提案をこちらに持ちかけてきたのか。
襖をいくつも開けた先に目的の場所はあったらしい。前をせかせかと歩く彼女の後ろをただ引き連れられる私はまるで、小さな子供に手を引かれる手放すことのできないぬいぐるみのようだ。手放すことができないのは事実だろうが、その理由は無垢な幼子と比べれば雲泥の差だ。
促されるまま、座布団の一つに腰を下ろした。
「いいこと?決して粗相はしないように。それから極力目は伏せておきなさい。」
そのぼやけた黒い目には私の赤い目はどのように映っているのだろう。目を隠していようとも、髪の色は隠せないというのに。私はいつも通り無音の返事をした。彼女は無言が肯定であることを知っている。満足そうに口の端で笑いスッと立ち上がった。
「うまくやりなさい。」
鷹揚に掛けられた言葉に、無茶苦茶にしてしまおうかという反発心が首をもたげたが、すぐに風船から空気が抜けるようにその気持ちはしぼんでいった。これはきっと諦念なんていう高尚なものではないだろう。どちらかと言えば学習性無気力を得てしまったネズミの方がずっと近い。
右手の大きな窓からは色づく梅の枝、蓬莱島の池が見えた。しかし座ったまま見るそこに、高い空はひどく小さかった。
*******
頭上で女性の声が交わされる。どうやら何か話しているが、どうにも頭が働かず、情報は耳を右から左だ。時折何か同意を求められるのを適当に返し、後は目を伏せながら少しだけ見える机の下の畳の目をぼうっとしながら数えていた。間違いなく自分のことであり、当人のうちの一人であるというのに現実味が感じられずどこか他人事のようだった。ちらりと視線を上げると、斜め向かいに笑顔の女性が見えた。私の隣に座る女性と違い、自然な笑顔だった。目が合ってしまわぬようまた畳に目を落とす。
知らぬ間に何やらまとまっていたいたらしく、終わりに一言二言かわし、二人が席を立った。はたと現実に引き戻されたようになる。すべて聞き流してしまったが、それでは今から二人きりにされると困ったことになる。ことごとく話を聞き流してしまったせいで名前すら聞いていなかった。しかし焦る間もなく無力感にどうでもよくなる。どうせ私が何をしてもどうにもならないのと同じで、私が何をしてもなるようになるのだ。
静かな音を立てて襖が閉められる。何とでもなるとわかっていても、このあと少なくとも気まずい沈黙を味わうことになるのは確定して憂鬱になった。
しかし予想を裏切るように目の前に座っていた男は低い机の上に身を乗り出した。顔を上げずともわかる落ち着きのなさに心の中で若干驚き半身引いた。しかし知ってか知らずか、揃えて膝の上に行儀よく並んでいた手を突然掻っ攫われる。
「涼、だよな?」
「……ええ、」
取られた手を振り払いたいと思いつつ、顔を伏せたままおざなりな返事だけした。どうやら相手は私の名前を覚えていたらしい。
「顔、上げてくれよ。」
やけに馴れ馴れしい、そう思いながら顔を上げた。
「え……、」
短い自然な赤毛に色白な顔、それからいつかにお揃いだと言って笑った赤い双眸。
誰よりも見慣れた顔であり、同時に一度たりとも会ったことのないはずの顔。
「なんで、蓮様、が……?」
「やっと、やっと見つけた……!」
そのまま机を乗り越えて腕の中に閉じ込められるが、注意をすることも忘れて茫然とされるがままだった。からっぽの頭では、ふわふわと思考が水面を揺蕩うようにまとまらない。ただ聞きなれた声はどれも私の芯を強く揺らした。
これは、夢なのだろうか。
いつ私は眠りについたのだろう。
いつ私は夢から覚めたのであっただろうか。
つかみどころのない思考の中で、私は胡蝶の夢の中にいるのだと気が付いた。
私が胡蝶となる夢を見ていたのか
それとも
胡蝶が私となる夢を見ているのか
いずれが本当の私なのかはわからない
私が赤霧涼となる夢を見ていたのか
それとも
赤霧涼が私となる夢を見ているのか
いずれが本当の私なのかはわからない
しかしそんなことはもはやどうでもいいのだ。
全ては胡蝶の夢だった。
夢か現かわからない。それでもこのあまりにも都合のよすぎる、私に優しい世界に今しばらく浸っていよう。
私にとって、全てが現実だったのだ。
痛いほど力のこめられた彼の腕に手を添える。
きっと身を離せば大きな笑顔を見せてくれるに違いない。
ゆるりと上がる口角をそのままに、口を開いた。
どこかで高く、鳥が鳴いた。
「失礼します」
「っ……、」
抑揚のない声と共にぐっと腹が圧迫される。無理やり現実に引き戻され姿見の前に立たされる。知らぬ間に着つけは終わっていたらしく着物の端々を引っ張り簡単に手直しする。ぼうっとしていたのを咎めるような視線を送られ、しぶしぶ顔を上げる。鏡の中には分不相応な着物を布を巻き付けたアルビノの女がいた。着付けをした女性はいかがでしょう、と伺いたてるように私に聞いたが、私の返事など端から聞く気はないようだった。当然だ。この着物は母親にあたる女性が用意させた物であり、それ以外に選択肢は与えられていない。見かけばかりの豪奢な衣装に辟易とした。
「お嬢様、お隣で奥様がお待ちです。」
「……はい。」
おざなりな返事になんら反応を見せることなく廊下へ出ていく女性の背を見送り、鳩尾に巨大な鉛でも抱えたような気分で黒い襖の取っ手に指先を掛けた。
******
今時旧家やら血族やら、そういったものはナンセンスだと、常々私は思っている。それは例えば友達付き合いにおいて、例えば住区において、例えば、婚姻において。
しかしそうは思わない人間もまた、有り余るほどに存在するのだ。
「あら、よく似合ってるじゃない。」
その言葉を投げられたのは、目の前の彼女が散々嘗めるように品定めをしてからだった。隠す気もさらさらないような不躾な様は下品の一言に尽き、内心顔を顰めた。
「これなら相手方にも気に入ってもらえそうね。」
そう口の端をあげて笑う彼女の顔は、靄がかかったようによく見えない。見えているはずなのに、頭にその顔を思い浮かべようとすると、いつもその顔は見えないのだ。
いつものように無言の返事をした。
先祖代々より土地に根付く由緒正しい家の一人娘。それが白鷺涼という人間の価値だった。いやむしろ、つい最近までその価値すらなかった。ただ細々と生にすがっているだけの役に立たない生き人形は、奇跡的に回復し、有用なものとなった。
しかし言ってもたかが田舎の旧家。土地を多く持ち、古くからその土地に住んでいるという、それだけだった。それだけだったはずなのに、小さなコミュニティの中で人は天狗に化けるのだ。まるで富豪か何かのように振る舞い、見栄を張る。山や土地をいくつも所有しているなどと聞こえはいいが所詮は価値の低い広大さだけが売りの土地。
揚句片田舎の天狗の娘を本物の富豪と結婚させようというのだ、馬鹿馬鹿しいもここに極まると言っても過言ではない。
おしゃべり好きな使用人たちの噂によると、この村の側に大手の工場ができるらしい。子供でも聞いたことのあるような名のある会社。工場を作るにあたって、近隣住民である村人の協力は必要不可欠になる。よって村において大きな発言権や影響力のある旧家と、といったことらしい。
しかし腑に落ちない。影響力のある人間を取り込んでいきたいのはわかる。だがなぜここまでするのかがわからない。単に懇意にしておきたいというならほかにもやり方はたくさんあるはずだ。なぜあえて七面倒くさく自身の方にほとんど利のない提案をこちらに持ちかけてきたのか。
襖をいくつも開けた先に目的の場所はあったらしい。前をせかせかと歩く彼女の後ろをただ引き連れられる私はまるで、小さな子供に手を引かれる手放すことのできないぬいぐるみのようだ。手放すことができないのは事実だろうが、その理由は無垢な幼子と比べれば雲泥の差だ。
促されるまま、座布団の一つに腰を下ろした。
「いいこと?決して粗相はしないように。それから極力目は伏せておきなさい。」
そのぼやけた黒い目には私の赤い目はどのように映っているのだろう。目を隠していようとも、髪の色は隠せないというのに。私はいつも通り無音の返事をした。彼女は無言が肯定であることを知っている。満足そうに口の端で笑いスッと立ち上がった。
「うまくやりなさい。」
鷹揚に掛けられた言葉に、無茶苦茶にしてしまおうかという反発心が首をもたげたが、すぐに風船から空気が抜けるようにその気持ちはしぼんでいった。これはきっと諦念なんていう高尚なものではないだろう。どちらかと言えば学習性無気力を得てしまったネズミの方がずっと近い。
右手の大きな窓からは色づく梅の枝、蓬莱島の池が見えた。しかし座ったまま見るそこに、高い空はひどく小さかった。
*******
頭上で女性の声が交わされる。どうやら何か話しているが、どうにも頭が働かず、情報は耳を右から左だ。時折何か同意を求められるのを適当に返し、後は目を伏せながら少しだけ見える机の下の畳の目をぼうっとしながら数えていた。間違いなく自分のことであり、当人のうちの一人であるというのに現実味が感じられずどこか他人事のようだった。ちらりと視線を上げると、斜め向かいに笑顔の女性が見えた。私の隣に座る女性と違い、自然な笑顔だった。目が合ってしまわぬようまた畳に目を落とす。
知らぬ間に何やらまとまっていたいたらしく、終わりに一言二言かわし、二人が席を立った。はたと現実に引き戻されたようになる。すべて聞き流してしまったが、それでは今から二人きりにされると困ったことになる。ことごとく話を聞き流してしまったせいで名前すら聞いていなかった。しかし焦る間もなく無力感にどうでもよくなる。どうせ私が何をしてもどうにもならないのと同じで、私が何をしてもなるようになるのだ。
静かな音を立てて襖が閉められる。何とでもなるとわかっていても、このあと少なくとも気まずい沈黙を味わうことになるのは確定して憂鬱になった。
しかし予想を裏切るように目の前に座っていた男は低い机の上に身を乗り出した。顔を上げずともわかる落ち着きのなさに心の中で若干驚き半身引いた。しかし知ってか知らずか、揃えて膝の上に行儀よく並んでいた手を突然掻っ攫われる。
「涼、だよな?」
「……ええ、」
取られた手を振り払いたいと思いつつ、顔を伏せたままおざなりな返事だけした。どうやら相手は私の名前を覚えていたらしい。
「顔、上げてくれよ。」
やけに馴れ馴れしい、そう思いながら顔を上げた。
「え……、」
短い自然な赤毛に色白な顔、それからいつかにお揃いだと言って笑った赤い双眸。
誰よりも見慣れた顔であり、同時に一度たりとも会ったことのないはずの顔。
「なんで、蓮様、が……?」
「やっと、やっと見つけた……!」
そのまま机を乗り越えて腕の中に閉じ込められるが、注意をすることも忘れて茫然とされるがままだった。からっぽの頭では、ふわふわと思考が水面を揺蕩うようにまとまらない。ただ聞きなれた声はどれも私の芯を強く揺らした。
これは、夢なのだろうか。
いつ私は眠りについたのだろう。
いつ私は夢から覚めたのであっただろうか。
つかみどころのない思考の中で、私は胡蝶の夢の中にいるのだと気が付いた。
私が胡蝶となる夢を見ていたのか
それとも
胡蝶が私となる夢を見ているのか
いずれが本当の私なのかはわからない
私が赤霧涼となる夢を見ていたのか
それとも
赤霧涼が私となる夢を見ているのか
いずれが本当の私なのかはわからない
しかしそんなことはもはやどうでもいいのだ。
全ては胡蝶の夢だった。
夢か現かわからない。それでもこのあまりにも都合のよすぎる、私に優しい世界に今しばらく浸っていよう。
私にとって、全てが現実だったのだ。
痛いほど力のこめられた彼の腕に手を添える。
きっと身を離せば大きな笑顔を見せてくれるに違いない。
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どこかで高く、鳥が鳴いた。
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