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音楽室に入る。

やはり漫画通りの光景が広がっていた。

まず目に入ってきたのはショームという木管楽器だ。現在のオーボエの祖先となる楽器で、ヨーロッパでは13世紀後半から17世紀ごろに作られていた。これは私がもと居た世界で調べた知識だ。この楽器から考えるに、ストロベリー物語の世界観は、中世ヨーロッパあたりという設定らしい。

次に目についたのはシャリモーだ。これは現在のクラリネットの祖先である。現在の黒いクラリネットとは違い、一目で木管楽器とわかる茶色い色合いだ。

他にも、トロンボーンの祖先であるサックバット、トランペットの祖先であるコルネット、ファゴットの祖先であるドゥルシアン、チェロの祖先であるヴィオラ ダ ガンバなど、今まで生きていた世界では見たことのない楽器ばかりだ。

今日は朝一番から合奏をするようで、少数の管楽器奏者をバックに、弦楽器奏者が扇状に整然と並んで音出しをしている様は圧巻だった。

私は目をキョロキョロさせてあるものを探していた。絶対にいるはずなのだ。後にカトリーヌに恋をすることになる、彼が。

「あ、……いた。」

私の目は、ひな壇の後方でサックバットを持つ彼に釘付けになった。

例えるならば、ウィリアム王子のような甘い容貌。気のせいか彼の周りだけがキラキラ輝いて見えた。そんな彼も周りのみんなと同じく朝のウォーミングアップに精を出している。

本当にストロベリー物語の世界にやって来たんだ!

「リラ、あなたそこで何をやっているの。」
「ミ、ミミミ、ミシェル先生!!?」

音楽室の入り口でフレデリックを見るのに夢中になっていると、背後からポンと肩を叩かれた。振り返るとそこにいたのは、ストロベリー物語の登場人物の1人で、指揮者として数々の賞を総なめにしたミシェル先生だった。

「あなたも早く楽器を出しなさい。もう合奏始まるまで3分もないわよ。」
「え!!!!」

私は慌てて時計を見ると、時刻は朝の7時58分だった。急がないと!でもリラの楽器は何だったかな。

「リラちゃん、楽器出しといたよ。」

そう言って渡されたのは、クラリネットの祖先、シャリモー。
顔を上げるとまたもやカトリーヌだった。

「な、なんで、あなた、こんなこと。」
「リラちゃん、いつもと様子が違ったから体調悪いのかと思って。先に楽器出しておいたの。はい、どうぞ。」

そのまま彼女はスタスタと自分の席へ戻っていく。手にはオーボエの祖先、ショームが握られていた。私もそれに続いてシャリモーパートの場所にある椅子に腰を下ろす。

「さあ、みんな合奏を始めるわよ!」

ミシェル先生の清々しい声で、今日1日が始まるのだ。
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