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カトリーヌは1人、体操服で合奏練習に臨んでいた。先程、全身水浸しになってしまったからだ。

この学校に制服指定は無いので、どんな服を着ていても問題はないのだが、お金持ちしか通わないこの学校では、みんながドレスかスーツで登校してくるため、とんでもなく浮いてしまう。

「カトリーヌさん、どうしたの?その服。」

合奏が終わってから自主練をしていたカトリーヌに声をかけたのは、フレデリックだ。私は自分も自主練をしながら2人の会話に全神経を集中させた。

「あ、さっき来ていたドレスが汚れてしまって。」
「そうか、それは災難だったね。僕ので悪いけど、もしよかったらこれ来て帰って。」

フレデリックが差し出したのは、セルリアンブルーのリネンガウン。

「あ、ありがとう。気持ちは嬉しいんだけど……。」
「僕の服なんていやかな。」
「そ、んなことないよ!」
「じゃあ着て。絶対カトリーヌさんに似合うと思うんだ。」

カトリーヌは、フレデリックからリネンガウンを受け取り袖を通す。

「あったかい。」
「良かった。この部屋冷房きついからね。パレハ宮殿の演奏会に向けて、パレハ宮殿の室温に合わせてるらしいよ。」
「そうなんだ。あ、これありがとう。クリーニングに出して返すから、少し返すの遅くなるかも。」
「クリーニングなんていいよ。あ、それからこれ、カトリーヌさんのリードじゃない?」

カトリーヌに差し出されたのは、リードケースに入った一枚のリード。

「ほら、リードの端っこに名前書いてあったから。」
「あれ、これ!私の演奏会本番用のリード!!!潰れてない。どこで見つけたの!?!?」
「教室の僕の机の上に置いてあった。やっぱりカトリーヌさんのなんだね。良かった。」
「うん、でもなんで……。」

「それにしても、リードに名前書いてるなんて珍しいね。」
「あはは、うん。無くなったら嫌だし。」

目の前には、夢にまで見た、2人が仲良くなるきっかけとなるシーン。

リードは私の策略。本番用と書かれたシールが貼ってあるリードを、カトリーヌが机の上に置きっぱなしにしているのを見て、誰かに悪戯されることがないよう隠しておいたのだ。本番用のシールは一番使い込まれていそうな古いリードに貼っておいた。マデリンはまんまとひっかかってくれたわけだ。

「ねえ、良かったら今日一緒に帰らない?」
「うん、いいよ。帰ろう!」

カトリーヌがフレデリックの誘いに乗る。2人とも頬がうっすらと色づいていた。これぞ青春だ。
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