帝国一命館・館長が綴った1年間の、薄汚れた報告書

リトルミリ

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春、小鳥がさえずる良い季節だ

4月分の報告書 ⅰ

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【重要】この本はルッダ帝国一命館いちめいかん、アロム・シュロウの報告書を冊子状したものである。もし紛失物としてこの報告書を見つけた場合、速やかにアロムに報告せよ。決して中は覗きみないよう、忠告しておく。



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【報告内容】
4月2日 晴れ

今日から始まる一命館の暮らしが始まる。来期の配属にも関わるものである、一命館所属館生の名前や特徴についても書いていこう。
念の為、報告書の最初のページに注意書きを載せておいた。これで勝手に中を見ようとする、ルーゾのような奴はいなくなるだろう。

さて、今日は我らがルッダ帝国の重大行事とも言える館祭式かんざいしきがあった。
ルッダ帝国には様々な年齢の男性が騎士として集められているが、その中でも更に優れた者たちを集めたスペースである館をつくるためのものだ。優秀な者から順に第一指揮命動館だいいちしきめいどうかん、通称一命館、ニ命館と続き五命館へと配属されるシステムだ。一命館は10人、ニ命館は20人…とだんだん人数が増えていく仕組みだ。
館からあぶれた騎士はルッダ城近くの塔で生活しているが…優秀な館生たちが城に近い方がいざという時に安心なのではないだろうか?
しかし、やはりこの仕組みをつくった先代方は、能力で個々を判断できる素晴らしい方々なのだろう。

閑話休題、つまり私はそんな騎士の中でも優秀な人材を集めた館、その中でもとりわけ高い能力をもつ一命館へと配属されたわけだ。
ようやく長年の夢を叶えることができ、嬉しい限りだ。しかもそれだけではなく、なんとこの身にあまるような館長としての名誉まで…前館長に推薦していただき、誠に光栄である。

…初日の報告書は以上である。明日から始まる生活に向け、今日ははやく寝るとしよう。



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4月3日 アロムside

「アロムかんちょ~、おっはよ~!」
「あぁ、おはよう…って、ルーゾか…おい、一応上司なのだから敬語を使え」
朝っぱらからこいつと会うなんて…っと、いけない。館長ならばしっかりと館生に向き合い、気遣う必要があるな。
「なに、嫌そうな顔しちゃってぇ…。そんなに前、勝手にアロムの日記読んだの嫌だったわけ?」
「違う。おい、朝っぱらから長話するつもりなら館長室でするか?」
「うげぇ…あそこ無駄に豪華でやだわ、じゃあオレはさっさと退散しますね~」
ルーゾはそう言って手をひらひらと振ると、少し早めの朝食を食べに食事場へ行ったのだった。

【報告内容】
4月3日 晴れ
今日は、特に違反行為をした者はいなかった。
あぁ、そういえば朝食を皆より早く食べにいった奴がいたな。ルール違反ではないが、年上や上司が席についてから座るのがマナーではないのか?まぁ良い。
せっかくだ、ルーゾの情報を書いておこう。
【情報】

(育成所時代の志願書の写真だ。今より若いな…)
ルーゾ・デムル(22)
男性 身長182cm
好物は甘いものと言っていたな。
帝国騎士であり、一命館の副館長でもある。
救命官の仕事と両立させているところは本当に尊敬すべき点である。私は応急処置くらいしかできないしな…。
奴とは幼なじみといった間柄で、10歳ほどの時からの付き合いだ。他に記載すべき点は…特にないか?

今日の報告は以上である。明日は剣技の練習だ。館生の適正をよく見なければ…。



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4月4日 晴れ アロムside

「館生、集合せよ!」
「ハッ!!」
屋外訓練所にて、一命館の館生全員…つまり10人での対人剣技の訓練をしていた。
しかし、あの館生…確か19歳だったか?剣を手にしてもやけに堂々とした立ち振る舞いだな…少し話を聞いてみるか。
「あ~、そこの、…えっと」
「ルイく~ん、アロム館長がお呼びだぞ~?」
「えっ!? ぼ、僕…ですか?」
俯いていて顔が分からず、名前を思い出せずにいると、ルーゾが彼を呼び出してくれた。助かった、後で礼を言っておこう。
「あぁ、すまないルイ。怒るつもりはないから怯えないでくれ」
「あ、いえ…ごめんなさい、僕なんかしちゃいました…?」
「いいや…君はやけに剣の扱いが上手かったから気になったんだんだ。騎士育成所に入る前にも経験が?」
「あぁ…はい」
……?ルイの表情が曇った?
聞かれたくないことだったのかもしれないな。話はここまでにするべきか。
「そうか。詳しく話を聞こうと思っていたが、今から昼食の時間だ。しっかりと食べ、午後からの訓練も乗り切ろう。館生、移動せよ」
「ハッ!!」
途端に騒がしくなったな…。本当に10人しかいないのか?まぁ私は喋っていないから9人というべきかなんと言うか…。
しかし私もお腹が空いた。食事場へ向かうとするか。
「あぁそうだ、ルーゾ」
「ん? な~に、アロム?」
「アロム館長な。 さっきはありがとう、彼の名前を教えてくれて」
「お、珍しく普通に感謝してる? じゃあそのお礼に~、今日の昼食のサラダの紫キャベツ、食べて?」
「お礼って…まぁ、良いぞ」
その後は明日の予定について話し合いながら、私たちは食事場へ向かうのだった。

【報告内容】
4月4日 晴れ
今日は、特に違反行為をした者はいなかった。
剣の扱い方が上手い者が3名ほどいたので、彼らには剣技を磨いてもらおう。今回の訓練では実力を出せなかった者の中にも銃の扱いが上手な者がいると聞いたので、個々の特性をもっとよく判断してから武器の支給に入ろうと思う。
だが、さすが一命館に配属されただけあって全員武器の扱いはある程度心得ているようだった。
あぁ、そういえば今日の昼食のパンがとても美味しかった。栄養官にはいつも感謝している。

今日の報告は以上である。明日の天気は晴れの確率が高いので館生で洗濯でもするか。一命館所属男児たるもの家事もできなければならないしな。



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4月5日 曇り アロムside

今日は生憎の曇りだった。
せっかく洗濯について、今一度館生たちに教えようと思っていたのだがこれでは干しても明日までに乾かないか…。
仕方ない、こんな天気の日は訓練をしても気がのらない奴が多かったし今日は屋内で剣の研ぎ方を教えるか。
「アロム、今日曇りだけど、洗濯物ど~するの?」
「そうだな。今日は屋内で剣の研ぎ方を教えようと思う。戦場では、育成所で習ったよりも更に早く研ぐことが大切だ、なにせ私たちは一命館所属なのだからな」
「了解! じゃ~報告ボードに書いとくね」
「あぁ、頼む」

さて、武器庫にある剣を半分ほど持っていくか。そうだな…館生の体格的にはあの剣の方がいいのか…?いやしかし、
「あ、アロム館長」
「ルイか。どうした、何か問題か?」
「さっきそこでルーゾ副館長とお話して…武器を運ぶんですよね?僕もお手伝いします!!」
どうやらルイは私の手伝いをしてくれるようだ。ありがたい。
「そうか、では一緒に武器庫へと向かおう。 ……君は好きな色などはあるのか?」
会話が思いつかないときは好きなものについて話すと良い、とルーゾから聞いたことがある。これでルイとの会話も弾むこと間違いなしだな。
「え、好きな色…ですか? そうですね…白色、かな」
「ほう…それはまた珍しいな。なぜ白色が?」
「僕の出身地域、病院が無いんですよね。それで憧れ、みたいなものがあって。 …へ、変ですかね?」
「いや、そんなことはない。私も白色は好きだぞ」
「そうなんですね。えへへ、親近感湧いちゃいます」
「そうだな。 …………………」
「…………………………」
会話は特に続かなかった。

「ふぅ、ようやく運び終えた…ありがとう、おかげで早く訓練を始められそうだ」
「あ、いえいえ! また何かあったら手伝いますからいつでも呼んでください!」
素直な館生だな…今どき、城下町で暮らす青年にもここまで純粋な者はいないのでは?

【報告内容】
4月5日 曇り

今日は、特に違反行為をした者はいなかった。
本日は天気があまり良くなかったため、屋内で剣の研ぎ方を教えた。まぁ育成所でだいたいは習ったはずだが、改めて研いでみると案外忘れている者も多かったな。剣技が得意だと研ぎも上手くなるものかと思っていたが、そうでもないようだった。
そうだ、ルイと話す機会があったのでせっかくだし情報をまとめておこうか。
【情報】

(育成所時代の志願書の写真だ。3年くらいは経っているはずだが現在とあまり変わっていないな…)
ルイ・チオン(19)
男性 身長165cm
好きな色は白色らしい。
帝国騎士であり、出身は病院がない地域だと言っていたな。
剣の扱いがとても上手く、一命館の中でもトップクラスだろう。振るうときの余計な動きがなく、育成所以外にも経験があるように思えたな。
騎士として心がけているのか、とても丁寧な口調だったな。ルーゾにも見習ってほしいくらいだ…。
他に記載すべき点は特にないか。

今日の報告は以上である。明日こそは洗濯をやろうと思うので、朝早く起きて洗濯物を集めておくか。



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《更新で追加された文はここからです》

4月6日 晴れ ルイside

「よーっす! おはよ、ルイ!」
「あ、ティズくん。おはよう、今日は早いんだね」
「まぁな。へへっ、今日の朝飯にはハムがあるからな! 俺はハムと肉が大ッ好きだ!!」
僕に声をかけてくれたこの子は、ティズくん。
とっても元気で、育成所時代からの付き合いなんだけど、いつも元気をもらっていたな。
「あ、そこの報告ボードに何か書いてるよ。えっと…今日の実習は洗濯、だって」
「えっ、訓練じゃないのか!? 俺、槍とか持ってきちゃったぜ…朝飯食ったら武器庫に戻しとこっと」
食事場には、早い時間だからなのかまだ誰もいなかった。やった、僕たちが一番乗りだ!

「はぁ~、食った食った!」
「美味しかったね、ご馳走様でした!」
「ごちそーさま! 栄養官のおばちゃん、いつもありがとな!」
「…あいよ」
白髪混じりの髪を後ろで結っているおばちゃんは、そう言って少し笑うのだった。

「そこっ、石鹸の量が多すぎるぞ! 後で水洗いするときに水が無駄になる!」
「……申し訳ございません」
「ちょちょ、テラミウネさん!? 洗剤飲んじゃダメだよ~!」
「いい喉越しだなぁ!!!」
「……アロム館長方、大変そうだね」
「確かになぁ。俺たちだけでもしっかりやんなきゃな!」
そう言ってティズくんはニカッと笑う。やっぱりこの笑顔には人を救う力があるんじゃないかな、って思うよ。
そんな風に喋りながら洗っていたら、いつの間にか時間が過ぎていた。
「館生……ハー、ハー…集合せよ!」
「ハッ!!」
「今日の実習は…ハー、ここまでだ! 解散!」
「館長、すっげー疲れてんなぁ。実習中あっちこっちに走り回ってたもんな!」
「館長って役職も大変なんだね…。じゃあ、僕たちは食事場に行こっか」
「おう、あー腹減った!!」



【報告内容】
4月6日 晴れ

今日は、特に違反行為をした者はいなかった。
天気が良かったため、昨日できなかった洗濯をすることにした。洗濯は育成所では教わらなかったからか、洗剤をドボドボ入れる者や洗剤を飲み出す者がいた。どうやら毒耐性がある程度あるらしいから良かったものの…いや、愚痴はここまでにしておくか。
そういえば、いつも遅く起きる館生が早起きをしていたな。私が食事場についたころには完食していたし、恐らく朝食に好物でもあったのだろう。

今日の報告は以上である。明日は通常通りに訓練でもするか。



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4月7日 晴れ
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