ファインダー越しの夜に

さく

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ファインダー越しの夜に

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高校の頃。
岳斗たけとは目立たない存在だった。
だからあいつが、今こんなふうに本格的なカメラを構えて。
写真家として活躍してるのが、結構意外。

いつからか、お前のカメラに写してくんねーかななんて考えるようになった。

そうしてお前を見てるうちに、カメラじゃなくてその目に写して欲しいとまで思うようになった俺はもう末期。

お前も同じように思ってくれてるならいいんだけどさ。






「まなとー!海だよー!」
「はいはい見たらわかるて」

夜中。
今日の現場の近くが海だってんで、岳斗に引っ張られて海に来た。

「すっごいねー!真っ暗!」
「そりゃ夜だから」
何時だと思っとんだ。

遠くの工場らしき光と、沖の向こうを行く船の灯がはっきり見えるぐらいには真っ暗で。
規則正しい波の音がちょっと大きく聞こえるくらいには静かで。
俺らの声は意外に響く。

「うはー…なんか、飲み込まれそうだなー…」
夜中でしかも仕事終わりなのに、岳斗のテンションは上がりっぱなし。子供か。

「写真撮りたいって、なんでまたこの時間よ」
若干の眠さをこらえながら聞いてみると。
「昼は人が多いから!」
波打ち際で遊びながらカメラを構える岳斗から、至極真っ当な答えが帰っては来た。
すいません、海水浴シーズンにはまだまだ遠い春先ですけど?

「いや、今の時期そんなに多くないでしょーよ」
毒づく俺に。
「でも誰に会うかわかんないじゃん」
諭すように岳斗は返事する。
「ま、そりゃね」
確かに、昼だと誰に見られるかわかんねーしな…そう思って海に目を向けた時。

[かしゃ]
近くでシャッター音が響いて。
同時にチカっとフラッシュが光る。

「っ、まぶし!」
この深い暗闇にカメラのストロボはなかなかの破壊力。顔を顰めた俺を横目に。
「いい顔もーらった。ほら真人かっこいい」
岳斗は満足そうにデータを確認して俺に見せてくるから。
「お?おお…」
なんかちょっと気恥しくて、まともにそれを見ることが出来なかった。

[かしゃ]
[かしゃ]

特にポーズ指定されるでもなく、岳斗は次々と俺をカメラ越しに見ながらシャッターを切ってゆく。

「真人ってさー、時々ずるいよねー」
シャッター音の合間にそんな言葉が織り込まれた。

「は?」
急にディスられたかなんなんだか、よくわからない。そんな俺に岳斗はカメラ越しにしみじみと呟く。
「同い年なのに、僕と差がありすぎるんだよなあ。昔から思っとったけど」

昔をふと思い出す。
目立たない存在だった岳斗。
それなりにチャラついていた俺。

でも、差なんてそんなにないと思うんだ。今も昔も。
お前は本当は歌とダンスが上手くて、今は写真も撮れる。俺も歌とかダンスはやるけど、お前には今もかなわねえもん。
…なんて、悔しいから言ってやんない。

「…そりゃー、俺の方がオトナですから」
そう言ってうそぶいて誤魔化さしてもらった。

「ええ?同い年っつってるのに」
からかうように屈託なく笑いながら岳斗は俺にレンズを向けてシャッターを切り続ける。
「年の割には経験値がちゃうのよ?お前がこん棒使いなら俺は既に!はがねの剣を手に入れている」
「いやわからんし」
「なにっ!この国民的ゲームの序盤を知らないと!?」
「もーうるさい」

[かしゃ]
俺の懇親のボケは流された上に、イキって説明した変な顔まで撮られた。

「あ、ちょ、今の顔あかんやろ事務所通して!」
「そんなことないよ!それに事務所同じだから通したようなもんでしょ!」

そんな他愛もない言い合いをしながら、俺は岳斗を追っかけて。
岳斗は俺から逃げながらずっとシャッターを切る。




「はー…っ疲れたあ…」

しばらくバタバタしながら遊んだ後、さすがに息が切れてきた俺たちは砂浜から少し離れた防波堤に座る。

「…はあ…ふふっ」
息を整えながら、ふいに岳斗が笑った。
「なにぃ」
「こういうの、僕ららしいなって」

そう言うと、さっき撮ったばかりの写真を確認し始める。

「んー、今のもいいけどさっきのもいいよなあ」
こうなると、岳斗は周りのことなんて放ったらかし。
もちろん俺も例外になく。

「…………」
ぼーっとすること、10何分。
いい加減、退屈になってきた。


「あのさ」
「んー?」
カメラばっかりつついてる岳斗に。
「データばっかり見んといてくれん?」
「んえ?」
カメラを触る手を掴んで止めて。

「本物、ここやん」
びっくりしているそのすきに、両手で顔を挟んでこっちに向けてやる。

「っ…」
暗闇の中でも、岳斗の顔が赤くなっていくのがわかるから。
「データより、本物の方がカッコよくね?」
そうカッコつけてみたら。
「…自分で言う」
苦笑い混じりでツッコまれた。

「言わなお前いつまでもそっちばっかり見るやん」
なんか悔しくて文句をつけたら。
「え、カメラにヤキモチ?」
思わぬ質問を受けてしまった。
ヤキモチ?誰が?何に?
「え、いや」

「…やっぱ真人、同い年」
若干パニクってるところに、いいこいいこと頭を撫でられるのがくすぐったくてちょっと気に入らん。
「やめえ。ガキ扱いすんなし」
恥ずいし悔しいしで手を払い除けようとしたけど。
「怒らんでよ。じゃあとりあえず最後!最後に目つぶった顔ちょうだい。こう、上向いてー、自然に目つぶってくれたら」
甘えたように頼まれては、どうにも逆らえんくて。
「…はいはい」
言われたとおりに上をむく。

「そうそう、そのままふーって息しながらー…」
離れたところから声がする。シャッターの音も。
「ふー…」
「目ーつぶっといてー…」
何回か、シャッターの音がして。

「ん?」
急に静かになった。
「たけと…?」
「しーっ」
近くで声がしたと思ったら。

「!?」
唇に、柔らかいものが触れて。

[かしゃ]

シャッター音と、ストロボ。


岳斗に、キスされて。
さらに、それを撮られたと言うことに。

気づくまで、ちょっと時間かかった。

「た…おま」 
「本物とやないと、こういうことできんじゃん。」
今まで、いくつになってもウブだと思ってた。
そんな岳斗からの、大人めいたちょっかいに、なんか心臓がうるさい。

「は…っずかし…」
「いいやんたまにはっ。真人が本物でそこにおるからできることやんっ」
でも、照れてるのは俺だけじゃなかったみたいで。
岳斗は早口でそうまくしたてると、俺に背を向けてしまったから。

あー、大人びた真似するくせにまだまだなんやなって安心してしまった。

「せやな。本物同士やもんな」
拗ねた背中をそっと抱きしめて。
「あとでさっきのチュー写送って」
照れて熱を帯びた耳にキスしてやった。


そんな俺らの様子を、真っ暗な海と夜空がすっぽりと包み込んでいた。


Fin


    
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