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しおりを挟む誰も愛さないって決めて。
どれぐらい時間が経ったか知れないが。
決死の覚悟で逃げてきたお前を連れて。
思い出の海にいる。
『夏弥ちゃん、いなくなったって…!』
『優くん、夏弥、そっちに来てない…!?』
それぞれの親が血相変えて俺に電話してきた次の日、お前は俺の前に現れた。
「夏弥、なんで…」
「…ごめんなさい。
私になんか会いたくなかったかもしれんけど…もう、優のとこしか思い浮かばなくて」
遠くに行った、はずだった。
それなのに、ここにいるってことは。
あれから今まで、お前が幸せと縁遠かった証。
「……!」
それは、青ざめた顔色と。
袖口からわずかに覗く紫色が物語っていたから。
「……来い」
このままだとたぶん、どっちの親もここに来る。
今はいろんなこと、後回しにして。
とにかく一旦、隠さなきゃと思って。
冷たいお前の手をずっと握ったまま、車を走らせた。
今なら…俺はきっと。
降り立ったのは、俺とお前がよく一緒に遊んだ海。誰も入ることの出来ない、岩場の陰。
寄せる波は穏やかで、夕焼けが少しずつ暗くなろうとしている。
「懐かしいだろ?」
このくらいになるまでいつもふたりで遊んでた。
中学や高校んときは、お前は絶対辛いことがあるとここに逃げてきてて、俺がいつも迎えに来てたっけ。
「…うん。優なら、ここに…連れてきてくれるって思ってた」
何もかもを捨てて、逃げてきたと言う夏弥。
聞けばそれは、嫁いだと言うよりも囲われたと言った方が遥かに正しい日々からの、脱出劇だった。
虚しい毎日の中での唯一の心の拠り所が、皮肉にもあの日の…お互いを欲しがったすあの時のことだったと。
「優…」
人目のつかない岩陰で、俺を見上げる目は昔と同じに澄んでいて。
「…ごめんね…勝手に、こんなこと…
巻き込むのはダメだってわかってるけど。でも…」
躊躇いがちに、緩く俺の服の袖を掴む。
あの別れ際、あんなにひどいことしたのに。
俺しか思い浮かばなかったって。
「謝んなよ…」
都合いいかもしんねえが、あの時とは違う。
今日までの事情なんて、どうでもいい。
お前に二度と会わないって決めてたくせに、お前から俺のところに戻ってきてくれたことが嬉しくて。
誰もいない海で、あの時よりもきつく抱きしめた。
伝わってくる、鼓動。
俺にしがみつくわずかな力。
「…ごめんね…やっぱり、会いたかった。
会って、こうやって…して欲しくて…」
遠慮がちに呟かれる言葉。
「夏弥…いいのか?また、抱いても…」
それでも過去に怯えながら訊ねる俺に、お前はくぐもった声で優がいいと答えてくれる。
だから。
「…もう、優じゃないと…っん!」
続きの言葉は、俺の体に直接注ぎ込んで欲しくて。
言葉を吸い取るように唇を奪った。
「ん、ん…っ!」
「…っ…」
数年越しのキスなのに。
なんでこんなに、感触が変わらないんだろう。
その答えが知りたくて、ねじ伏せるようなキスを。
「…俺じゃないと、か…じゃあさ…」
なんの戸惑いも見せずに、なんの抗いも見せずに。
俺を受け入れてくれるお前が愛おしい。
嬉しさ半分、罪悪感半分の気持ちにかこつけて、意地悪な言葉しか吐けない俺を許してくれ。
「…抱いてやるよ…
だから、もっかいよこせよ。全部」
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