2 / 136
第2話 替え玉令嬢
しおりを挟む
「お、お待ちください、旦那様!正気でございますか!?」
パンナが泡を食いながらそう申し立てるまで暫しの時間を要した。それほどブラベールの言葉は荒唐無稽に思われた。
「無論じゃ。パーティーさえ開催すれば小賢しいあのアクアットの鼻を明かしてやれるし、サンクリスト公への面目も立つ」
「そのサンクリスト家を含めた周辺諸侯へのお披露目なのですよ?替え玉を使ったなどとバレたら旦那様のお立場が……」
「バレはせん。アンセリーナの顔を知っておる者はこの屋敷の外にはおらん。パーティーが終われば暫く他の者と顔を合わすこともなかろう。ある程度時間がたてばどうとでも誤魔化せる。パンナ、お前の本来の役目を考えれば、諸侯を欺くことも可能であろう?」
伯爵の言葉にパンナは言葉に詰まる。本来の役目。そう、それを踏まえてこの男はパンナを雇い入れた。彼女の素性を知った上で、だ。ただの親バカでないことは分かっている。分かってはいるが、これはやはりただの親バカ行動のような気もする。
「ですが今回はそういう場合でありません。諸侯への挨拶周りが主な役割のはず。それに他の貴族の子息と踊ったりもしなければならないのでは?」
「そうじゃな。病気を理由に延期しておったから出来るだけ抑えたいとは思うが……一、二曲は踊らんとまずかろうな」
「私、ダンスは不得手でございます。アンセリーナ様の顔に泥を塗るようなことは出来ません」
「レッスンを受けよ。ダンスの講師もおったであろう?基本的なステップが踏めればそれでよい。病み上がりということで多少拙くとも誤魔化せよう」
随分と無茶を言う、とパンナはまた心の中でため息をついた。まあアンセリーナ自身も例の調子でダンスのレッスンもよくすっぽかしていたから、おそらく自分と大差ない腕前ではあろうが。
「まあアンセリーナ自身がパーティーに出ることを承諾してくれるのが一番なんじゃが、お前が務めることを前提に準備を進めよ。アクアットの子倅がパーティーを開く前に開催するからな。時間はないぞ」
パンナは頭を抱え、今日何度目かのため息をついた。どうやら伯爵はマジらしい。いくらなんでも無謀だと思うのだが、正直不可能かと問われるとそうとも言い切れない。元々パンナとアンセリーナは歳も近く、顔立ちも似ている。それゆえにブラベールは彼女を選んだのだから。
「本当によろしいのですか?後々になって旦那様やお嬢様にご迷惑がかかるのでは……」
「心配せずともよい。何かあってもお前に責を負わすような真似はせん」
その言葉でパンナは渋々ながら覚悟を決めた。とはいえやらなければならにことは山ほどある。まずはアンセリーナの説得だ。
「よいな。お披露目は二週間後にコットナーの別邸で開催するつもりじゃ」
「二週間後ですか!?いくら何でも時間が足りません」
「半月後にはアクアットの子倅が誕生日を迎えてしまう。これがギリギリなのだ」
「で、ですがそんなに急ではお招きする方々も準備が……」
「心配いらん。地方会議でアクアットが挑発してきた時、近日にお披露目をすると諸侯の前で言ってある。招待状ももう発送の指図を出してある」
事後承諾もいいところだ。パンナは眩暈がしそうになり、ガックリとうなだれた。しかしこうなっては落ち込んでいる時間すら勿体ない。
「これからお嬢様を説得に参ります。旦那様も強くおっしゃってください」
「うむ。じゃがあまり期待はせぬようにな」
他人事のように言うんじゃない。パンナは心の中でそう毒づき、食えない自分の主を下から睨みつけた。
結論から言うとアンセリーナの説得はある意味予想通りに終わった。最後まで断固拒否。パンナが替え玉になると言った時も積極的に賛成したくらいだった。そういうわけでパンナはそれ以来毎日ダンスの猛特訓を受ける羽目となった。
「はい、また右足のステップが抜けましたよ」
ダンスの講師はアンセリーナに指導している時とはまるで違って厳しくパンナに接した。相手がメイドなのだから当然ではあるが、どうも短期間で彼女を鍛えるために伯爵が特別報酬を出したらしい。パンナにとってはいい迷惑だ。
『口止め料も含まれてる、ってことか』
このダンスの講師を含め、アンセリーナの家庭教師たちは当然彼女の顔を知っている。だが彼らが貴族のパーティーに出ることはないので、お披露目パーティーでパンナがアンセリーナの替え玉をしていてもそれが露見する心配はない。だがいきなり令嬢付きのメイドに短期間でダンスを仕込めと言われれば、この講師だけは薄々事情を察するだろう。だから余計なことを言わないよう特別報酬を出して黙らせているのだ。
「はい、そこまで。一通りの動きはマスターしたようですね。本番まで反復練習を欠かさないでください」
講師はそう言うと、満足げな顔で帰っていった。パンナは筋肉痛の足をさすり、レッスンルームの椅子に腰を落とす。このまま横になりたいくらい疲れていたが、今日はこれからいかねばならないところがある。
「あの小憎たらしい顔をまた見なきゃいけないのかと思うとうんざりだわ」
パンナはそう呟き、外出の許可を取るためゆっくり立ち上がるとレッスンルームを後にした。
伯爵邸を出てパンナが向かったのはルーディアの町中にある商店街。そのメインストリートから一本裏に入った狭い路地にある洋服店だった。くたびれた平屋の店の入り口ドアには「closed」と書かれたこれまた古ぼけた木の看板が掛かっていたが、パンナは躊躇することなくドアを開け、店内に足を踏み入れる。
「よう、時間通りだな。注文の品はきっちり仕上がってるぜ」
閉店中の看板を下げているにも関わらず、パンナが入店すると同時に正面カウンターに座る女がそう声をかけた。歳は二十代後半といったところか。筋肉質な浅黒い肌。白いランニングシャツにカーゴパンツ。革手袋を着け、癖毛の頭に白いタオルを頭巾のように巻いて載せている姿は洋服屋の主人というよりも鍛冶職人を彷彿とさせた。
「さすが仕事が早いわねクリシュナ。試着しても?」
「勿論さ。裏の方で着てみてくれ」
パンナは勝手知ったるといった風にカウンターの奥に進み、壁に掛かったカーテンを開ける。その先はバックヤードになっており、少し薄暗い板張りの空間に姿見とハンガーラックがあった。そこに吊るされた白いドレスを目にし、パンナが思わずほう、っと息を漏らす。
「素敵ね。まさか自分がこんなものを着れるなんて思いもしなかったわ」
「まったくだ。お前から依頼が来たときは何の冗談かと思ったぜ。」
煙草を燻らせながらクリシュナがにやにやと笑う。こういう反応をされるのが分かっていたので、正直彼女に頼むのは気が引けたのだが、他の者に依頼するわけにもいかない。今回の替え玉作戦は当然のごとく極秘であり、伯爵家以外の者に知られるわけにはいかない。だが彼女、クリシュナは例外だ。伯爵自身も彼女のことを知っており、パンナがドレスの発注をすることを許可している。クリシュナが口外しないことを伯爵もパンナも分かっているのだ。
「最近国境付近が不穏だって情報もあったから、最初はお前が本来の役目を果たす時が来たのかとかとも思ったんだが、話を聞いて呆れたぜ。お披露目パーティーに本人が出ないなんて前代未聞だろうなあ。あの伯爵もいい性格してるぜ」
「言わないで。また頭が痛くなりそうだわ」
「けけ、そんなこと言って綺麗なおべべが着れるのが楽しいんじゃないのか?」
「否定はしないわ。あなただって一応女なんだから少しは気持ちがわかるでしょ?」
「一応とはご挨拶だな。こちとら商店街の男どもの誘いを断るのに毎日大忙しなんだぜ?」
「力仕事を頼まれるってだけしょ、どうせ」
「プロポーズが後を絶たねえんだよ!」
「冗談はその筋肉だけにして。……でも本当に素敵ね。その武骨なボディラインからどうしてこんな美しいドレスが生まれるのか。生命の神秘ってところかしら」
「どうしても一発ぶん殴られてえみたいだな、パンナ」
顔を引きつらせて指をポキポキと鳴らすクリシュナを無視し、パンナはドレスをハンガーから外して体に当ててみる。パンナとアンセリーナは顔つきも背格好もよく似てはいるが、当然アンセリーナの服は全て完全オーダーメイドだ。アンセリーナは自分のドレスをパンナに貸すことを許可したが、微妙な違いは勿論あるし、ましてダンスをするとなればそのズレは問題になる。そして何より両者には無視できないほどの相違点が一つあった。
「……ちょっと余裕がありすぎるんじゃない?」
ドレスの胸の部分を触りながら、不本意そうにパンナが呟く。そう、パンナとアンセリーナは胸の大きさに大きな差があるのだ。アンセリーナは16歳にしてはかなり豊満なバストを誇っているが、パンナのそれは彼女に比べるとかなり慎ましやかというしかなかった。
「詰め物はするだろ?お嬢様に成り済ますならよ。今回はお前が主役なんだから必要ないとは思ったが、一応仕込みも出来るようになってるぜ」
「助かるわ。ありがとう、クリシュナ。あなたの腕は本当に素晴らしいわ」
「よせよ、今度はおだてか?それでさっきの失言を取り返せると思うなよ」
「ところで国境付近が不穏って本当なの?」
「無視かよ!……ああ、確かな証拠はねえが……俺の見たところ帝国のもんがけっこうこっちに入り込んでやがるな。兵士じゃねえ。恐らくは諜報員だな」
「内通している者がいるってこと?」
「可能性はあるだろう。まあそこらはあいつらが調べるさ。お前は上手く貴族連中を騙くらかして豪勢なパーティーを楽しみな」
「そうね。そうさせてもらうわ」
パンナはフフッと笑い、身に着けていたメイド服を脱ぐと、ドレスに袖を通した。華美に過ぎない装飾が施された上品なドレスの裾がふわっと広がる。
「馬子にも衣装とはよく言ったもんだな」
「意趣返しのつもり?悪いけどそんな安い挑発には乗らないわよ」
パンナはそう言って色々と体の角度を変え、自分のドレス姿を確認する。
「正直不安だらけだけど、このドレスが着れたことだけは旦那様に感謝ね」
貴族令嬢になりきった自分の姿に満足し、パンナは微笑みを浮かべて呟いた。
パンナが泡を食いながらそう申し立てるまで暫しの時間を要した。それほどブラベールの言葉は荒唐無稽に思われた。
「無論じゃ。パーティーさえ開催すれば小賢しいあのアクアットの鼻を明かしてやれるし、サンクリスト公への面目も立つ」
「そのサンクリスト家を含めた周辺諸侯へのお披露目なのですよ?替え玉を使ったなどとバレたら旦那様のお立場が……」
「バレはせん。アンセリーナの顔を知っておる者はこの屋敷の外にはおらん。パーティーが終われば暫く他の者と顔を合わすこともなかろう。ある程度時間がたてばどうとでも誤魔化せる。パンナ、お前の本来の役目を考えれば、諸侯を欺くことも可能であろう?」
伯爵の言葉にパンナは言葉に詰まる。本来の役目。そう、それを踏まえてこの男はパンナを雇い入れた。彼女の素性を知った上で、だ。ただの親バカでないことは分かっている。分かってはいるが、これはやはりただの親バカ行動のような気もする。
「ですが今回はそういう場合でありません。諸侯への挨拶周りが主な役割のはず。それに他の貴族の子息と踊ったりもしなければならないのでは?」
「そうじゃな。病気を理由に延期しておったから出来るだけ抑えたいとは思うが……一、二曲は踊らんとまずかろうな」
「私、ダンスは不得手でございます。アンセリーナ様の顔に泥を塗るようなことは出来ません」
「レッスンを受けよ。ダンスの講師もおったであろう?基本的なステップが踏めればそれでよい。病み上がりということで多少拙くとも誤魔化せよう」
随分と無茶を言う、とパンナはまた心の中でため息をついた。まあアンセリーナ自身も例の調子でダンスのレッスンもよくすっぽかしていたから、おそらく自分と大差ない腕前ではあろうが。
「まあアンセリーナ自身がパーティーに出ることを承諾してくれるのが一番なんじゃが、お前が務めることを前提に準備を進めよ。アクアットの子倅がパーティーを開く前に開催するからな。時間はないぞ」
パンナは頭を抱え、今日何度目かのため息をついた。どうやら伯爵はマジらしい。いくらなんでも無謀だと思うのだが、正直不可能かと問われるとそうとも言い切れない。元々パンナとアンセリーナは歳も近く、顔立ちも似ている。それゆえにブラベールは彼女を選んだのだから。
「本当によろしいのですか?後々になって旦那様やお嬢様にご迷惑がかかるのでは……」
「心配せずともよい。何かあってもお前に責を負わすような真似はせん」
その言葉でパンナは渋々ながら覚悟を決めた。とはいえやらなければならにことは山ほどある。まずはアンセリーナの説得だ。
「よいな。お披露目は二週間後にコットナーの別邸で開催するつもりじゃ」
「二週間後ですか!?いくら何でも時間が足りません」
「半月後にはアクアットの子倅が誕生日を迎えてしまう。これがギリギリなのだ」
「で、ですがそんなに急ではお招きする方々も準備が……」
「心配いらん。地方会議でアクアットが挑発してきた時、近日にお披露目をすると諸侯の前で言ってある。招待状ももう発送の指図を出してある」
事後承諾もいいところだ。パンナは眩暈がしそうになり、ガックリとうなだれた。しかしこうなっては落ち込んでいる時間すら勿体ない。
「これからお嬢様を説得に参ります。旦那様も強くおっしゃってください」
「うむ。じゃがあまり期待はせぬようにな」
他人事のように言うんじゃない。パンナは心の中でそう毒づき、食えない自分の主を下から睨みつけた。
結論から言うとアンセリーナの説得はある意味予想通りに終わった。最後まで断固拒否。パンナが替え玉になると言った時も積極的に賛成したくらいだった。そういうわけでパンナはそれ以来毎日ダンスの猛特訓を受ける羽目となった。
「はい、また右足のステップが抜けましたよ」
ダンスの講師はアンセリーナに指導している時とはまるで違って厳しくパンナに接した。相手がメイドなのだから当然ではあるが、どうも短期間で彼女を鍛えるために伯爵が特別報酬を出したらしい。パンナにとってはいい迷惑だ。
『口止め料も含まれてる、ってことか』
このダンスの講師を含め、アンセリーナの家庭教師たちは当然彼女の顔を知っている。だが彼らが貴族のパーティーに出ることはないので、お披露目パーティーでパンナがアンセリーナの替え玉をしていてもそれが露見する心配はない。だがいきなり令嬢付きのメイドに短期間でダンスを仕込めと言われれば、この講師だけは薄々事情を察するだろう。だから余計なことを言わないよう特別報酬を出して黙らせているのだ。
「はい、そこまで。一通りの動きはマスターしたようですね。本番まで反復練習を欠かさないでください」
講師はそう言うと、満足げな顔で帰っていった。パンナは筋肉痛の足をさすり、レッスンルームの椅子に腰を落とす。このまま横になりたいくらい疲れていたが、今日はこれからいかねばならないところがある。
「あの小憎たらしい顔をまた見なきゃいけないのかと思うとうんざりだわ」
パンナはそう呟き、外出の許可を取るためゆっくり立ち上がるとレッスンルームを後にした。
伯爵邸を出てパンナが向かったのはルーディアの町中にある商店街。そのメインストリートから一本裏に入った狭い路地にある洋服店だった。くたびれた平屋の店の入り口ドアには「closed」と書かれたこれまた古ぼけた木の看板が掛かっていたが、パンナは躊躇することなくドアを開け、店内に足を踏み入れる。
「よう、時間通りだな。注文の品はきっちり仕上がってるぜ」
閉店中の看板を下げているにも関わらず、パンナが入店すると同時に正面カウンターに座る女がそう声をかけた。歳は二十代後半といったところか。筋肉質な浅黒い肌。白いランニングシャツにカーゴパンツ。革手袋を着け、癖毛の頭に白いタオルを頭巾のように巻いて載せている姿は洋服屋の主人というよりも鍛冶職人を彷彿とさせた。
「さすが仕事が早いわねクリシュナ。試着しても?」
「勿論さ。裏の方で着てみてくれ」
パンナは勝手知ったるといった風にカウンターの奥に進み、壁に掛かったカーテンを開ける。その先はバックヤードになっており、少し薄暗い板張りの空間に姿見とハンガーラックがあった。そこに吊るされた白いドレスを目にし、パンナが思わずほう、っと息を漏らす。
「素敵ね。まさか自分がこんなものを着れるなんて思いもしなかったわ」
「まったくだ。お前から依頼が来たときは何の冗談かと思ったぜ。」
煙草を燻らせながらクリシュナがにやにやと笑う。こういう反応をされるのが分かっていたので、正直彼女に頼むのは気が引けたのだが、他の者に依頼するわけにもいかない。今回の替え玉作戦は当然のごとく極秘であり、伯爵家以外の者に知られるわけにはいかない。だが彼女、クリシュナは例外だ。伯爵自身も彼女のことを知っており、パンナがドレスの発注をすることを許可している。クリシュナが口外しないことを伯爵もパンナも分かっているのだ。
「最近国境付近が不穏だって情報もあったから、最初はお前が本来の役目を果たす時が来たのかとかとも思ったんだが、話を聞いて呆れたぜ。お披露目パーティーに本人が出ないなんて前代未聞だろうなあ。あの伯爵もいい性格してるぜ」
「言わないで。また頭が痛くなりそうだわ」
「けけ、そんなこと言って綺麗なおべべが着れるのが楽しいんじゃないのか?」
「否定はしないわ。あなただって一応女なんだから少しは気持ちがわかるでしょ?」
「一応とはご挨拶だな。こちとら商店街の男どもの誘いを断るのに毎日大忙しなんだぜ?」
「力仕事を頼まれるってだけしょ、どうせ」
「プロポーズが後を絶たねえんだよ!」
「冗談はその筋肉だけにして。……でも本当に素敵ね。その武骨なボディラインからどうしてこんな美しいドレスが生まれるのか。生命の神秘ってところかしら」
「どうしても一発ぶん殴られてえみたいだな、パンナ」
顔を引きつらせて指をポキポキと鳴らすクリシュナを無視し、パンナはドレスをハンガーから外して体に当ててみる。パンナとアンセリーナは顔つきも背格好もよく似てはいるが、当然アンセリーナの服は全て完全オーダーメイドだ。アンセリーナは自分のドレスをパンナに貸すことを許可したが、微妙な違いは勿論あるし、ましてダンスをするとなればそのズレは問題になる。そして何より両者には無視できないほどの相違点が一つあった。
「……ちょっと余裕がありすぎるんじゃない?」
ドレスの胸の部分を触りながら、不本意そうにパンナが呟く。そう、パンナとアンセリーナは胸の大きさに大きな差があるのだ。アンセリーナは16歳にしてはかなり豊満なバストを誇っているが、パンナのそれは彼女に比べるとかなり慎ましやかというしかなかった。
「詰め物はするだろ?お嬢様に成り済ますならよ。今回はお前が主役なんだから必要ないとは思ったが、一応仕込みも出来るようになってるぜ」
「助かるわ。ありがとう、クリシュナ。あなたの腕は本当に素晴らしいわ」
「よせよ、今度はおだてか?それでさっきの失言を取り返せると思うなよ」
「ところで国境付近が不穏って本当なの?」
「無視かよ!……ああ、確かな証拠はねえが……俺の見たところ帝国のもんがけっこうこっちに入り込んでやがるな。兵士じゃねえ。恐らくは諜報員だな」
「内通している者がいるってこと?」
「可能性はあるだろう。まあそこらはあいつらが調べるさ。お前は上手く貴族連中を騙くらかして豪勢なパーティーを楽しみな」
「そうね。そうさせてもらうわ」
パンナはフフッと笑い、身に着けていたメイド服を脱ぐと、ドレスに袖を通した。華美に過ぎない装飾が施された上品なドレスの裾がふわっと広がる。
「馬子にも衣装とはよく言ったもんだな」
「意趣返しのつもり?悪いけどそんな安い挑発には乗らないわよ」
パンナはそう言って色々と体の角度を変え、自分のドレス姿を確認する。
「正直不安だらけだけど、このドレスが着れたことだけは旦那様に感謝ね」
貴族令嬢になりきった自分の姿に満足し、パンナは微笑みを浮かべて呟いた。
11
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
私、実はマンドラゴラです! 仲間が根絶やしにされかかってたので守ってあげることにしました! 街でポーション屋を開きつつ、ついでに魔王軍も撃退
あなたのはレヴィオサー
ファンタジー
【一行あらすじ】
擬人化マンドラゴラの女の子主人公が仲間たちを守るために街でポーション屋を開きつつ魔王軍を追っ払う話。
【ちゃんとしたあらすじ】
とあるポーション屋の店主、アルメリア・リーフレットの正体は"擬人化"したマンドラゴラである。魔物について、とりわけ強い魔力を持つ個体は、成長に伴って人の姿へ近づく——そんな現象が古くより報告されてきた。スライムからドラゴンまで前例は様々あるが、アルメリアはなんとその希少すぎるマンドラゴラ版。森で人間の少女として拾われ、育てられた彼女はある日ふと思う。——もしかしてこの広い世界のどこかに、自分と同じような存在がいるのではないか? そうと確信し、旅に出る。やがて通常のマンドラゴラたちがひっそりと暮らす集落にたどり着くが……。そこではちょうど彼らを巡って、魔王軍と冒険者たちが衝突しているところだった。このままではいずれ、自分たちは根絶やしにされてしまうだろう。シクシクと泣いている彼らをまえに、見捨てて立ち去るわけにもいかず。アルメリアは深いため息とともに覚悟を決めた。
「……はぁ、わかりました。そういうことでしたら」
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる