貴族令嬢の身代わりでお見合いしたら気に入られて輿入れすることになりました

猫男爵

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第48話 宿縁

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 ガーリアを殺しエルモンド家を相続したブラベールは堂々とミレーヌをルーディアの屋敷に招き入れた。不思議なことに懐妊して暫くすると、彼女の背中の羽根がその姿を消してしまったため、周りの人間に怪しまれずに済んだことも大きかった。ミレーヌはオルトも一緒に屋敷に迎えてほしいと頼んだが、オルト本人がそれを辞退した。

「貴族の家なんかにいちゃあ息が詰まっちまうよ。それより伯爵、森にいる半端者を助けてやってくれないか?」

 オルトによるとワルモートが襲った集落はやはりひどい有様だったらしく、若い女の大半が連れ去られ、森に出ていた男たちは途方に暮れているという。

「しかし一人の女の子が近くにいた『まつろわぬ一族』のグループに保護されたらしい。あんたが追っていった子じゃねえかな」

「そうか。あの子は助かったのか。それはよかった」

「何とか貴族の無法な狩りを辞めさせてもらいてえんだがな」

「俺の一存では難しいな。だが集落を襲った貴族の家とは近々疎遠になる予定だ。俺が通行許可を出さなきゃ奴らはおいそれと森へは行けなくなるだろう」

「そりゃ頼もしいな。頼むぜ伯爵様」

 とはいえアクアット家の領地グレーキンからでもメキアの森へ行くことは出来る。アクアット家は前々からエルモンド家を敵視していたし、ブラベールがロットン家と諍いを起こしていると聞けば嬉々として通行許可を出すだろう。

「どちらにせよ手を打たねばならんか」

 ブラベールは腕を組みながらそう呟いた。



 ガーリアは生前、ルーディアの開発が済んだ暁にはその領有が出来るようサンクリスト家に請願していた。しかし表向き王家直轄であったルーディアについてサンクリスト家が独断で決めることは出来ず、サンクリスト公は王家にさらにお伺いを立てていた。

「ここまでの苦労を無にするわけにはいきません。お父上も浮かばれますまい」

 ルーディアの完成式典の中、ブラベールにそう言って薄っぺらい笑顔を浮かべるのは王国の大商人モージャ・カネーノ。この北部に本拠を置くカネーノ商会の会長であり、王国全土に販路を持つ大富豪だ。荒れ地だったルーディアの開発には当然ながら莫大な資金が必要であり、エルモンド家の資産だけでは到底成しえようが無かった。そこでパトロンとなったのがカネーノ商会だったのである。細い口ひげを蓄えた小太りのこの男は見た目こそ小物っぽいが、その実商才にかけては並ぶものがないと言われるほどの切れ者であった。

「そうだな。ここに祖父シュワーバーと父ガーリアの像くらい建ててやらねばなるまい」

「はい。それが何よりの供養かと」

「ところでお前の目的は何だ?モージャ。見返りもなしに莫大な開発資金を用立てたわけではあるまい」

「私は聖地を荒れたままにしておくのは忍びないというシュワーバー様の心意気に感銘を受け……」

「おためごかしはいい。父もそんな言葉を真に受けてはおらんかっただろう?」

「これは手厳しい。まあ正直申し上げますと、ここに商品の一大倉庫を造りたいと思っておりまして。コットナーにはもう空き地が少のうございますのでな」

「成程、狙いはモースキン……いや商国か」

「ご慧眼恐れ入ります。モースキンもこのルーディアと同じく農地には向かない地質。防衛の最前線都市としての役割ゆえ兵士とその家族は住んでおるものの、物流は豊富とは申せません。実際駐留している王国軍の方々には不満も多いと聞きます。ここに倉庫を構えモースキンでの商いを独占出来ればかなりの儲けになるかと」

「王国の兵たちを支えるためだ。王都も支出を渋りはしまいな」

「さようです。そしてここルーディアはメキアの森を挟んで商国と隣接しております。商国の亜人種たちと取引きするにも最適かと」

「さすが抜かりないな。王国でも一二を争う大商人だけのことはある」

「お褒めに預かり光栄です。つきましては是が非でもここの領有権をエルモンド様に取得していただきたく」

「ふん、王家直轄では好き勝手出来ぬからな。俺ならば自由に操れるというわけか」

「滅相もない。エルモンド様とは今度とも良きお付き合いをさせていただきたいと思っておるだけにございます」

「そう言いながらサンクリスト公や王家にも付け届けをしているのであろう?我が家がここを領有すれば俺の一存でお前に商取引の独占権を与えられる。今まで拠出した開発資金はそのための投資というわけだな」

「さらなるご慧眼恐れ入ります」

 慇懃に頭を下げるモージャにブラベールは冷ややかな視線を向けた。こいつがどれだけ儲けようと自分の利になるなら問題ない。カネーノ商会を味方につけておくことは武器になるとブラベールは考えていた。

『アクアットは爵位を買うために資産の大半を使ったようだが、俺はそんなバカな真似はせん。中途半端な爵位より圧倒的な資金力が強いということを教えてやるわ』

 一方でモージャは心の中でそう呟いていた。


 ミレーヌの腹が目に見えて大きくなり産み月が近づいて来た頃、ブラベールはメキアの森での勝手な狩猟、とりわけ亜人種や半端者を標的とした狩りを禁止するようサンクリスト家へ奏上し、監視という目的で森に私兵を配置する許可を得た。これにはロットン家を始め反発する貴族も多かったが、サンクリスト公の命ということで逆らうことは出来なかった。

「礼を言うぜ伯爵」

 オルトは森の中に造られた兵士の待機所でブラベールに頭を下げた。ブラベールは兵舎の待機所の完成を見るためここを訪れていた。

「礼には及ばん。ルーディアの領有が認められればこの森も我が領地と地続きとなる。商国との取引にも使えるしな」

「それで今俺が世話になっている『まつろわぬ一族』のグループのリーダーが伯爵と面会したいと言ってるんだがな」

「ほう」

「あんたが保護しようとした集落から逃げた女の子もそこで暮らしてる」

「そうか。分かった。明後日であれば時間が作れるだろう」

「なら先方にそう伝えておくぜ」

 そうして二日後、ブラベールは森の中の少し開けた場所にある集落で「まつろわぬ一族」の長と会うことになった。そして粗末な小屋の中に通された彼の目の前に現れたのは、予想に反しまだ若く見える女性だった。

「初めてお目にかかりますエルモンド卿。このグループの長を務めておりますオリアナと申します」

「ブラベール・ファン・エルモンドだ。あなたのようなうら若き女性が長とはいささか驚いたな」

「見かけよりは歳を取っておりますのよ。それよりこの度は森での狩りの禁止に尽力下さりありがとうございました」

「オルトにも言ったが礼には及ばん。それでわざわざ礼を言うために呼びだしたのか?」

「いえ、実は厚かましいとは思いますが、もう一つ伯爵様にお願いがございまして」

「何だ?」

「伯爵様は神聖オーディアル教団をご存じですか?」

「……名前は聞いておる」

 実際はミレーヌから散々話を聞かされていたが、ブラベールはわざと答えを濁す。

「彼らの一部は私たちのような半端者の異能者ギフテッドを攫って非人道的な研究をしているのです」

「そのようだな」

異能者狩りポーチャーと呼ばれるそれらの者も監視の対象にしていただきたいのです」

「それは構わんが、異能者ギフテッドを襲うということはその異能者狩りポーチャーとやらも異能ギフトを持っているのではないか?」

「おっしゃる通りです」

「うちの騎士団には俺の知る限り異能者ギフテッドはおらん。なら監視しても捕えたりすることは難しいと思うがな」

「はい。ですが私たちの仲間には異能者ギフテッドが複数おります。それらの者を監視のために雇ってはいただけないかと」

「成程。それが本当の狙いか。自分たちの生活のため仕事をさせろということか」

「厚かましいとは存じ上げております。しかし市民証を持たぬ我々はその日の食事を確保するのも一苦労なのです。特に子供は栄養不足で亡くなる者も多く」

「ふむ」

 ブラベールが考え込んだその時、部屋のドアが開き、一人の少女が入って来た。六、七歳くらいだろうか。背中にはさらに幼い子供を負ぶっている。二歳くらいのその幼児は泣きじゃくっていた。

「姉様、この子また泣き止まないよ。何とかして」

「クリシュナ、何ですかいきなり。お客様の前ですよ」

「客?……姉様、こいつ貴族?」

 ブラベールを見たクリシュナと呼ばれた少女の顔が険しくなる。

「ええ。コットナーの領主、エルモンド伯爵よ」

「貴族……ママの仇!」

 そう言ってブラベールを睨むクリシュナの目が突然真赤に染まる。それを見たブラベールはぎょっとして思わずたじろいだ。

「止めなさいクリシュナ!この人はあなたの集落を襲った貴族とは違うわ。それどころか逃げたあなたを保護しようとされたのよ」

「何!?それではあの時逃げてきたのは……」

「この子です。逃げてきたところを私たちが保護しました。戦兎コマンダーラビットとの混血で、興奮すると目が赤くなるようです。集落を確認したところ、この子の母親が殺されているのが見つかりました。貴族に抵抗したのでしょう」

「そうか。お嬢ちゃん、私は集落を襲ってはいないが、襲ったやつは私の知る貴族だ。彼に代わってお詫びをしよう。すまなかった」

「謝ったってママは帰ってこない!」

「そうだな。オリアナ殿、あなたの願い、前向きに考えよう。コットナーに迎え入れるのは難しいかもしれんが、ルーディアはまだ出来たばかりの町だ。我が家が領有権を得られたらあなた方をまとめて迎え入れることを検討しよう。それまでは食料の提供など出来る限りの支援をさせてもらう」

「ありがとうございます。心より感謝いたします。クリシュナ、その子を寄こしなさい」

 オリアナはクリシュナの背負っている幼児を受け取り、胸に抱いてゆっくりとゆすりながらあやす。

「その子も集落の生き残りか?」

「いえ、この子は母親に捨てられた子です。父親がろくでなしのせいで、こういう子がたくさんいるのですよ。さあパンナ、もう泣き止みなさい」

 オリアナはそう言って優しくパンナと呼ばれた幼児に囁きかけた。

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