貴族令嬢の身代わりでお見合いしたら気に入られて輿入れすることになりました

猫男爵

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第85話 混乱

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 「ゲルマは死んだの?」

 ミッドレイがルーディアからオルト、バイアス、フルル、ネムムを連れてきてエルモンド家の別邸の大広間に集まる。ザックとミリアはモースキンの駐屯地に詰めており、グララは帝国軍のバーガット大尉と接触するため、すでにオネーバーに向かっていた。

「ああ。あんたがカサンドラとかいう女を操ってノーライアに行った後、俺たちはゲルマをルーディアに移送した。そこでバイアスとゲルマの体力が回復するのを待ち、二人で決闘をさせた。激しい戦いだったが、最後はバイアスが勝った」

 オルトの言葉にバイアスが自嘲気味に笑う。

「まあ何とかな。しかし俺もこのザマだ」

「その腕!」

 パンナが思わず息を呑む。バイアスの右腕は肘から先が無くなっていた。

「腕一本でゲルマを葬れたんだ。安い代償さ」

「待ってください。ファング、ミラージュちゃんの力ならバイアスさんの腕も治せるんじゃない?」

「ああ~どうかな。欠損部分があるならくっつけることは出来るかもしれんが」

「バイアスさん、その腕の先はどうしました?」

「あいつに食いちぎられて、ぐちゃぐちゃになったから捨ててきた。気にするな。これは俺のケジメみたいなもんだ。元に戻してもらおうなんて思ってないさ」

「でも……」

「本人がいいって言ってるんだ。因縁の相手だったならあえて傷を残すこともこいつにとっちゃ意味があるのかもしれんぜ?」

 ファングの言葉にバイアスが頷く。

「男って本当バカよね。傷なんて残らない方がいいに決まってるじゃない」

 イリノアが呆れたように言う。

「男のロマンは女子供にゃ理解出来ねえだろうな」

「何がロマンよ。性欲振りまくだけのケダモノが」

「そのくらいにしましょう。帝国軍への作戦は予定通り行うということでいいんですよね?」

 ボナーが取りなすように言い、フルルが頷く。

「ああ。もうグララは森の周辺の村の制圧が完了したと帝国の将校に言いに行った。おそらく帝国軍は予想通りに動くだろう」

「実はみなさんに聞いてほしい話があるのですが、出来ればミリアネル様にも一緒に聞いてもらった方がいいと思うのです。どう?ボナー」

「ああ。一度に説明した方が手間が省けるしな」

「ボナー様、大公家から馬車がこちらにお付きになったとのことです」

 その時執事がドアをノックし、そう告げる。

「大公家から?どなただ?」

「は。キーレイ大公のご次男ユーシュ様と獣人族ワービーストが一人」

「ユーシュが!?すぐ通してくれ」

 ボナーが驚きながら執事にそう命じる。しばらくするとユーシュとボボルが大広間に姿を現した。

「久しぶり、というほどでもないな。怪物は無事に倒せたようだな。よかった」

「ユーシュ!どうしてここに?」

「父上が王都から戻って来たのでな。父上と兄上に向こうのことは任せてこちらに応援に来た。騎士団の一部も連れてきている」

「それは心強いが、いいのか?」

「王国を守るのは王家の者の務めだ。それにお前たちと一緒にいた方が有益だと判断した」

「丁度いいですわ。ユーシュ様とボボルさんにも一緒に話を聞いて頂きましょう」

「そうだな。ユーシュ、少し信じ難いような話がある。モースキンで一緒に聞いてもらいたい」

「分かった」

「父上とリーシェはどうしている?」

「オールヴァート殿は大分具合がよくなったので、リーシェ嬢とベストレームに戻った。私とほぼ同時にノーラン城を出たはずだ」

「そうか、よかった」

「オルトさんたちはルーディアから来てもらってまた戻るような形になってしまいますが、モースキンに一緒に来て頂けますか?」

 パンナがそう訊くと、オルトは笑って頷く。

「ああ。ここまで来たら最後まで付き合うしかなかろうよ」

「あなた方には今回の裁判に際して世話になったとパンナから聞きました。改めて礼を言わせてください」

 ボナーがオルトたちに頭を下げる。

「礼には及びませんよサンクリスト公。この人を半端者と知りつつ妻に迎えたあなたのことを俺たちは信用したんです。差別のない国を創るというあなたの理想をね。それを教団なんかの陰謀で潰されちゃたまったもんじゃない」

「半端者?どういうことだボナー。君の奥方はエルモンド家の令嬢のはずだろう。それにさっきパンナと言ったな?」

「ああ、君以外はもう事情を知っているんだな。それも含めてモースキンで話をしよう」

 怪訝そうな顔をするユーシュにボナーは優しく微笑みながら答えた。



「何だ!?」

 数台の馬車に乗り込んでパンナたち一行はコットナーからルーディアを通り、モースキンへ向かった。ミッドレイたちエルモンド家の騎士団も数名護衛に付いてきている。そしてもうすぐモースキンの検問所というところで、彼らの耳に聞こえてきたのは非常事態を知らせる鐘の音だった。

「ボナー、煙が!」

 窓から身を乗り出したパンナが町の方を指さす。町を取り囲む壁の向こうから黒い煙が上がっているのが見えた。

「まさかもう帝国軍が攻めてきたんじゃあるまいな!?」

「ありえん。グララが敵の将校に会うのは明日の予定だ。少なくともこの時点で帝国軍が動くはずがない」

「とにかく急ぎましょう」

 馬車はスピードを上げ、モースキンの検問所へ急ぐ。検問所もかなり混乱しているようで馬車が着いてもすぐに係員が出てくることが無かった。

「誰かいないのか!何が起きている!?」

 ボナーが叫ぶと、検問所のドアが開き、武装した騎士が槍を持って出てくる。

「何者だ!?」

「サンクリスト公爵、ボナーだ。何があった!?」

 ボナーが徽章を見せて尋ねる。

「サンクリスト公!失礼しました。実は今町で怪物が暴れていまして」

「怪物だと!?」

「ミリア団長の指揮で応戦していますが、住民の避難と並行して行っているため中々上手くいかず……」

「私たちも手伝おう。馬車を入れてくれ」

「は、はっ!」

 騎士が町の門を開け、馬車が中へ入る。あちこちから逃げ惑う人たちの悲鳴が聞こえ、騎士たちの怒号が響いていた。

「あれは!」

馬車を降りて町中を走りだしたパンナの目に、建物の間を鳥のように飛ぶ人型の生物が映る。体が光に包まれたそれはまるで天使のように見えた。

「天使!?また人工天使か!」

 ボナーが隣で叫ぶ。

「いえ、あれは……まさか」

 パンナの顔が険しくなり、天使のようなものに向かってスピードを上げる。それに気づいた天使が高度を落としてパンナの方に突っ込んできた。

「お嬢様!」

 天使の鋭い爪を絶対防御アイギスの見えない壁で防いだパンナが叫ぶ。光で見えにくくはあるが、それは紛れもなく長年世話をした少女の顔だった。

「お嬢様だと!?」

「はい。あれはアンセリーナ様です。間違いありません」

「やはり天使の羽根フェザーが完全に覚醒したのか。しかしどうしてこんなところで暴れている?」

「ハンスが何かしたのでは……」

「人聞きの悪いことを言うな、パンナ」

 いきなり近くで声がしてパンナたちはぎょっとして振り向く。そこには何時の間にかハンスが立っていた。

「ハンス!」

「呼び捨てか。偉くなったもんだなパンナ。公爵夫人になって本当に貴族になったとでも思っているのか?」

「黙れ!貴様何が目的だ!貴様は上位霊種スピリチュアーの仲間か?それともHLOか!?」

 ボナーが剣を抜いてハンスを睨む。

「ほう。それを知っているか。天使の回し者がいるのか?」

 その言葉が終わらないうちにファングが飛びあがり、ハンスの背後からグングニルを振り下ろす。しかしハンスはそれを視界に入れる事もないままとっさに避けた。

「むっ!それはまさか噂に聞く神装具プライマルアームドか!?貴様は……」

「ふん、こいつのことを知ってるって事はお前さん、HLOか?まさか皇国の手先か?」

「そこまで知っているとなれば生かしてはおけんな」

 ハンスが鋭い目でファングを睨み、拳を繰り出す。目にも止まらぬ速さの突きをファングは何とか躱し、グングニルを突き出す。

「かああっ!」

 ファングの加勢に行こうとしたパンナにまたアンセリーナが襲いかかる。絶対防御アイギスを展開したままだと体力の消耗が激しいため、パンナは壁を造らずに紙一重でそれを避ける。

「お嬢様!私です!しっかりしてください!」

 パンナがアンセリーナに呼びかけるが、アンセリーナは一向に聞く様子を見せない。

「ハンス!お嬢様に何をしたの!?」

「何もしてはおらん。覚醒してからお嬢様は理性を失っている。儂はここにお嬢様を連れてきただけだ」

「旦那様を裏切って何を企んでいるの!?」

「国を裏切ろうとしたのは旦那様の方だがな」

「お前たちの目的は何だ?上位霊種スピリチュアーと天使の末裔の抹殺ではないのか?」

「それも知っているか。それは勿論重要課題だ。だが皇国の目的は……」

泳ぐ糸ストリングスフィッシュ!!」

 また言葉が終わらぬうちにフルルが異能ギフトを発動する。しかし町中の開けた場所では彼の力は精度と威力に欠ける。ハンスは手にした杖で糸を払いのける。

「ちっ!」

「お、おい、あれ!」

 加勢をするタイミングを見計らっていたオルトが空を見て声を上げる。一同が視線を向けると、数体の空を飛ぶ物体がこちらに近づいてきていた。

「あれ、ベストレームに出た怪物に似てないか!?」

 ボナーが驚いて叫ぶ。

「こんな時に!」

「ふん、汚らわしい原初の闇の崇拝者どもめ。悪あがきを」

 ハンスが忌々しそうに呟く。怪物たちの姿を目にしたアンセリーナはパンナへの攻撃を止め、高く飛んでそちらに向かっていく。

「お嬢様!」

「同族嫌悪という奴か?やれやれ」

 ファングの槍とフルルの糸を避けながらハンスが顔をしかめる。

「ちっ、こいつ、強え!」

 ファングが舌打ちをする。

「皇国の尖兵として送り込まれた儂の力を侮らんでもらおう!」

「どういうこと!?フェルマー卿といい、フェルマー家は昔からHLOの手先だったの!?」

「はは、それは違う。儂は入れ替わったのだ。本物のハンス・フェルマーとな。現当主は本物だが、どうやらオーディアル信徒の馬鹿どもに誑かされたらしい。困ったものよ」

「入れ替わった!?」

「ああ。執事としてエルモンド家に来る際にな。しかしまさかブラベールが天使の羽根フェザーの宿主を保護するとは思わなかった。これは僥倖だと思ったよ」

「あなたという人は!」

 パンナが怒りで叫ぶ。その間に怪物がアンセリーナと交戦となり、そのうちの二体がパンナたちの方に向かってきた。

「こいつら、でけえな!」

 オルトが剣を抜いて叫ぶ。ベストレームで暴れたものと同等の大きさがある。その太い腕の一撃は簡単に地面を抉った。

「危ない!」

 パンナが叫ぶ。ハンスへの攻撃に気を取られていたファングに怪物の一体がその長い尾を振り回して攻撃してきたのだ。とっさに身を躱そうとするが、間に合いそうもなかった。

「はあっ!」

 弾き飛ばされる、と思った瞬間、怪物の尾がいきなり轟音と共に砕け散った。飛び散った尾の欠片が周囲に弾け飛び、土煙がもうもうと上がる。

「な、何だ!?」

 突然のことに唖然とするファングの頭がいきなりコツンと小突かれる。

「痛っ!何しや……」

 怒鳴りかけたファングの顔が土煙が薄らぐと同時に青くなる。

「何やってんだい。なまっちまったんじゃないのかい?ファング」

「ク、クロー!?」

 そこには筋肉質の赤毛の女性が不敵な笑いを浮かべて立っていた。

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