90 / 136
第90話 もう一つの攻防
しおりを挟む
「ちっ、やっぱりまた来やがったか」
上空を見上げながらファングが忌々しそうに呟く。その視線の先には先日飛来した怪物の姿があった。数は五体ほどだ。
「作戦の邪魔をされちゃ困るからね~。頼みますよ、お二人とも」
ボボルが緊張感のない声で言う。ここはモースキンのルーディア側の城塞の上だ。反対側の城塞ではすでに作戦が始まったらしく、悲鳴と怒号がここまで聞こえてきていた。
「任せろ、と言いたいが五体はちっと荷が重いな」
「何情けないこと言ってるんだい。町に入る前に叩きのめすんだよ!」
クローがミョルニルをポンポンと叩きながら笑う。
「血の気の多い女だよなあ、ホント」
呆れたようにファングが言い、投擲姿勢を取る。神装具の一つ神槍グングニルは一度放たれれば狙い過たず標的を射抜き、自動で手元に戻ってくるという優れものだ。
「まずは一匹」
先頭の怪物に向けてファングが槍を投げる。体を貫かれた怪物が悲鳴を上げて落下し、グングニルがファングの手に戻る。
「あたしも続くよ!」
クローがミョルニルを投げ、怪物が電撃を浴びてやはり墜落する。
「ありゃどこのバカが創ったもんだ?」
二回目の投擲姿勢を取りながらファングが呟く。
「目的によるね。ここを襲ってきたということはオーディアル信徒、六芒星の手の者かと思うけど」
ボボルが欠伸を噛み殺しながら答える。
「なんでだ?」
「イリノアを帝国に連れ出したことからも、教団は帝国を勝たせようとしている節がある。帝国内には教団の信徒が増えているそうだし、本来なら今回の大規模侵攻で王国北部を落とし、イリノアの威光を使って一気に帝国をオーディアル信徒中心の国に変えようとしてたんじゃないかな。でも王国裁判でイリノアがこっちに付いたことがヘルナンデスに分かったから、その手は使えなくなった」
「だから力押しでここを落とし、せめて帝国軍を手助けしようってわけかい」
クローが同じく二回目の投擲態勢を取りながら顔をしかめる。
「そういうこと。だから気を付けた方がいいよ。先日の攻撃で怪物が撃退されたことを連中は当然分かってる。同じ手を使うだけのはずがない。おそらく……」
「お前の考え通りのようだぜ」
城塞の下に目をやったファングが不敵に笑う。検問所に向かって一人の男が歩いてくるのがそこには見えた。
「あれは……」
「六芒星の一人、『暴風のヘルナンデス』だ」
「へえ、あれがかい。堂々と乗り込んでくるとは良い度胸だね」
クローも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「油断しちゃだめだよ。あいつは王都でファングとやりあったんだろ?こっちに神装具があることを知った上で攻めてきたんだ。何か手を隠してるよ」
ボボルが珍しく真面目な顔で言う。
「分かってるよ。最悪死なないように気を付けるさ。グングニルもミョルニルも俺たちを使用者として認識させてるからな。俺たちが死なない限り奪われることはない」
「ちっ!あいつ、もうやる気らしいよ」
クローが舌打ちをして身構える。眼下でヘルナンデスが両手を前に出し、捩じるように腕を回すと旋風がはじき出された。
「避けろ!」
ファングが叫び、クローとボボルが身を屈める。城塞の壁に旋風が突き刺さり、石が砕けて飛び散る。それに呼応するように残りの怪物が舞い降りてきた。
「うるせえんだよ!」
ファングがグングニルを薙ぎ、怪物の体を裂く。一方ボボルは身を屈めたまま眼下のヘルナンデスを見ながら顔をしかめた。
『今更こいつらでこちらを倒せるとはあいつも思ってないだろう。ヘルナンデス自身が姿を見せた以上、囮という線も考えにくいしね』
頭を目まぐるしく回転させたボボルがはっとして叫ぶ。
「二人とも!奇襲に気を付け……」
その言葉が言い終わらないうちに、クローが叫びを上げる。
「があっ!」
「クロー!」
クローの脇腹から鮮血が噴き出し、ファングが叫ぶ。同時に彼の目に揺らめく透明の人影が映った。その手に握られた短剣だけがはっきりと視認できる。
「てめえ!」
ファングが怒りに燃えてその人影に向かってグングニルを突き出す。しかしその瞬間に人影は完全に透明になり、槍は空を切った。
「バカが!得物が丸見えなんだよ!」
手にした短剣を目印にさらに攻撃をしようとするが、その瞬間、その短剣が勢いよく投げられファングの傍をかすめる。完全に敵を見失ったファングが舌打ちをして辺りを見渡すが、その肩がいきなり斬りつけられた。
「ちいっ!」
肩を押さえ、槍をぐるりと振り払うが手ごたえはない。槍は距離を詰められると使いづらい。まして相手が見えないとなれば厄介だ。
「透明化の能力とは面倒だね。ザックと違って条件はないのかな?それにしてもヘルナンデスの方が囮とはやられたよ。でも……」
ボボルが呟き、その先は心の中で続ける。
『こっちも隠し玉はあるけどね』
「母様!」
屋上に出る階段に潜んでいたミラージュが飛び出し、クローに駆け寄る。
「完全治癒!」
クローの脇腹に手を当て、ミラージュが能力を使う。傷口が徐々に塞がり、クローはミラージュに礼を言って立ち上がった。
「おい、俺も頼むぜ」
ファングが肩を押さえながら言う。
「それくらいならまだ動けるんじゃない?」
「父親と母親で態度違いすぎねえか?」
「しょうがない」
ミラージュがゆっくりとファングの方へ歩きかける。その瞬間、
「かかったね」
ボボルがにやりと笑い、同時にミラージュがしゃがみこむ。
「神速剣、鳴神『貫殺針』!」
しゃがみこんだミラージュの頭上を凄まじい勢いの衝撃波が通り抜け、次の瞬間、石壁に何かが激突した鈍い音が響く。
「がああっ!!」
ひびの入った石壁の前に人影が姿を現し、口から血を吐いて頽れる。
「傷を治せる能力者がいると分かれば、そちらを先に始末しようと考えるのが普通だよねえ。彼なら大体の位置が把握できれば殺気を見切ってくれると思ってたよ」
倒れた敵に向かってボボルが言う。
「子供を囮に使うのは気が引けたけど、策自体はお互い様だから恨まないでね~」
「き、さま……なぜ俺のことが……」
姿が露わになった敵がのろのろと立ち上がりボボルを睨む。黒いマントを羽織った髭面の男だ。
「知ってたわけじゃないよ。だけど僕の仲間にも姿を消す異能を持った奴がいるんでね。襲撃のパターンの一つとして考えていただけさ」
「離れてください、ボボル殿。こいつはまだ動けるようだ」
階段の出口からミッドレイが姿を現して黒マントの男を睨みながら近づく。先ほどの攻撃は勿論彼のものだった。
「今の技……この大陸の人間には到底出来るものではない。き、貴様はまさか……」
「おしゃべりはそこまでにしてもらおう」
ミッドレイが再び居合の構えを取る。そこに突風が襲い掛かり、ミッドレイはすんでのところで身を躱した。
「くっ!」
「スターダスト、貴様の奇襲が失敗するとはな」
いつの間にかヘルナンデスが城塞の上に姿を現し、ミッドレイたちと対峙する。
「申し訳ございませんヘルナンデス様。こ、こやつ、おそらくは……」
「むん!」
スターダストと呼ばれた男の言葉が終わらぬうちにヘルナンデスが自分の周りに小さな竜巻を起こす。そこに投げられたミョルニルが風に弾かれ、クローの手に戻った。
「ちっ!ミョルニルを弾くとは只の風じゃないね」
傷の癒えたクローが顔をしかめる。
「オーディアル様に力を授かった者の中でも選ばれし六芒星の力、侮らないでもらおう」
ヘルナンデスが竜巻を解除し、不敵に笑う。
「あんたら、本気でこの大陸を宝物庫とやらの鍵にやるつもりなのかい?」
「ほう、そこまで分かっているとはな。だがここまで豊かな国をくれてやるのはもったいなく思えてきたよ」
「なら自分たちで支配するつもりか?」
ファングがグングニルを構えながら問う。
「帝国に王国を滅ぼさせてその後に帝国をオーディアル信徒の国にするつもりだったが、面倒になったな。もっと直接的にやらせてもらうとするか」
「いや~、それはちょっと勝手が過ぎるんじゃないかい?ヘルナンデス」
いきなり空中から声が聞こえ、一同がギョッとして視線を上へ向ける。いつの間にか彼らの頭上に一人の男が浮かんでいた。紫色のスーツに身を包んだ瘦せ型の体形の男だ。癖っ毛の金髪と垂れ目の右側に泣きぼくろがあるのが特徴的だ。
「アイアコス!貴様なぜここに!?」
ヘルナンデスが驚愕の表情で叫ぶ。
「何故って君の監視さ。予定より早く表に出ちゃったようだから、皆にせっつかれてね」
「ギルバートが失態を演じたのだ。仕方なかろう!」
「それでも短絡的だったと思うよ。君の悪い癖さ」
アイアコスと呼ばれた男がやれやれと言った風に首を振る。
「貴様……何者だ」
ミッドレイが剣を構えながら尋ねる。その額には脂汗が浮かんでいた。
「初めまして、皆さん。僕は『閃光のアイアコス』。お察しの通り六芒星の一人さ」
アイアコスはおどけた調子で言い、胸に手を当てて頭を下げる。
「ふざけやがって」
ファングがグングニルを投げようとするが、それをミッドレイが制止する。
「待て。奴は尋常じゃない。無暗に攻撃するな」
「ふふ、僕の力を一目で見抜くとはやるね。……へえ、変わった奴がいるもんだ」
アイアコスがミッドレイを見て笑みを浮かべる。
「ヘルナンデス、ここは退こう。どうやら帝国軍は大敗したようだ。ここで僕たちが彼らを葬ってもあまり意味はない。戦略を練り直すべきだよ」
「帝国軍が?ちっ、やはり罠であったか」
ヘルナンデスが顔をしかめ、渋々アイアコスに同調する。
「このまま逃がすと思うのか?」
ファングがアイアコスとヘルナンデスを睨むが、アイアコスは飄々とした顔で軽く手を振る。
「いやいや、ここは痛み分けにしておこうよ。今度はちゃんと相手してあげるからさ」
「何を!」
「よしなファング。この騎士団長さんの言う通りだ。こいつはまともじゃない」
クローが緊張した面持ちで言う。
「それじゃそういうことで。さ、行くよ、ヘルナンデス」
「この借りは必ず返すぞ」
スターダストがよろめきながらミッドレイを睨む。
「ああ、君はもういいよ」
「は?」
アイアコスの言葉にスターダストがきょとんとした顔をする。
「君の能力は一度知られてしまえば効果が半減だからね。奇襲が失敗した時点で役には立たない」
「お、お待ちを!私はまだ……」
「ご苦労さん」
アイアコスがそう言ったのと同時だった。スターダストの体が一瞬でズタズタに切り裂かれ、無数の肉片と化す。
「なっ!?」
ファングたちが息を呑む。まるで何も見えなかった。本当にあっという間にスターダストは殺されたのだ。
「それじゃあね~」
ボボルに負けないくらい呑気な声でアイアコスが上空へ去っていく。それに続いてヘルナンデスも風を纏って姿を消した。
「六芒星……とんでもない連中だね」
クローが額の冷や汗を拭いてそう呟く。その一方、遠くでは帝国軍を撃退した騎士たちの歓声がこだましていた。
上空を見上げながらファングが忌々しそうに呟く。その視線の先には先日飛来した怪物の姿があった。数は五体ほどだ。
「作戦の邪魔をされちゃ困るからね~。頼みますよ、お二人とも」
ボボルが緊張感のない声で言う。ここはモースキンのルーディア側の城塞の上だ。反対側の城塞ではすでに作戦が始まったらしく、悲鳴と怒号がここまで聞こえてきていた。
「任せろ、と言いたいが五体はちっと荷が重いな」
「何情けないこと言ってるんだい。町に入る前に叩きのめすんだよ!」
クローがミョルニルをポンポンと叩きながら笑う。
「血の気の多い女だよなあ、ホント」
呆れたようにファングが言い、投擲姿勢を取る。神装具の一つ神槍グングニルは一度放たれれば狙い過たず標的を射抜き、自動で手元に戻ってくるという優れものだ。
「まずは一匹」
先頭の怪物に向けてファングが槍を投げる。体を貫かれた怪物が悲鳴を上げて落下し、グングニルがファングの手に戻る。
「あたしも続くよ!」
クローがミョルニルを投げ、怪物が電撃を浴びてやはり墜落する。
「ありゃどこのバカが創ったもんだ?」
二回目の投擲姿勢を取りながらファングが呟く。
「目的によるね。ここを襲ってきたということはオーディアル信徒、六芒星の手の者かと思うけど」
ボボルが欠伸を噛み殺しながら答える。
「なんでだ?」
「イリノアを帝国に連れ出したことからも、教団は帝国を勝たせようとしている節がある。帝国内には教団の信徒が増えているそうだし、本来なら今回の大規模侵攻で王国北部を落とし、イリノアの威光を使って一気に帝国をオーディアル信徒中心の国に変えようとしてたんじゃないかな。でも王国裁判でイリノアがこっちに付いたことがヘルナンデスに分かったから、その手は使えなくなった」
「だから力押しでここを落とし、せめて帝国軍を手助けしようってわけかい」
クローが同じく二回目の投擲態勢を取りながら顔をしかめる。
「そういうこと。だから気を付けた方がいいよ。先日の攻撃で怪物が撃退されたことを連中は当然分かってる。同じ手を使うだけのはずがない。おそらく……」
「お前の考え通りのようだぜ」
城塞の下に目をやったファングが不敵に笑う。検問所に向かって一人の男が歩いてくるのがそこには見えた。
「あれは……」
「六芒星の一人、『暴風のヘルナンデス』だ」
「へえ、あれがかい。堂々と乗り込んでくるとは良い度胸だね」
クローも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「油断しちゃだめだよ。あいつは王都でファングとやりあったんだろ?こっちに神装具があることを知った上で攻めてきたんだ。何か手を隠してるよ」
ボボルが珍しく真面目な顔で言う。
「分かってるよ。最悪死なないように気を付けるさ。グングニルもミョルニルも俺たちを使用者として認識させてるからな。俺たちが死なない限り奪われることはない」
「ちっ!あいつ、もうやる気らしいよ」
クローが舌打ちをして身構える。眼下でヘルナンデスが両手を前に出し、捩じるように腕を回すと旋風がはじき出された。
「避けろ!」
ファングが叫び、クローとボボルが身を屈める。城塞の壁に旋風が突き刺さり、石が砕けて飛び散る。それに呼応するように残りの怪物が舞い降りてきた。
「うるせえんだよ!」
ファングがグングニルを薙ぎ、怪物の体を裂く。一方ボボルは身を屈めたまま眼下のヘルナンデスを見ながら顔をしかめた。
『今更こいつらでこちらを倒せるとはあいつも思ってないだろう。ヘルナンデス自身が姿を見せた以上、囮という線も考えにくいしね』
頭を目まぐるしく回転させたボボルがはっとして叫ぶ。
「二人とも!奇襲に気を付け……」
その言葉が言い終わらないうちに、クローが叫びを上げる。
「があっ!」
「クロー!」
クローの脇腹から鮮血が噴き出し、ファングが叫ぶ。同時に彼の目に揺らめく透明の人影が映った。その手に握られた短剣だけがはっきりと視認できる。
「てめえ!」
ファングが怒りに燃えてその人影に向かってグングニルを突き出す。しかしその瞬間に人影は完全に透明になり、槍は空を切った。
「バカが!得物が丸見えなんだよ!」
手にした短剣を目印にさらに攻撃をしようとするが、その瞬間、その短剣が勢いよく投げられファングの傍をかすめる。完全に敵を見失ったファングが舌打ちをして辺りを見渡すが、その肩がいきなり斬りつけられた。
「ちいっ!」
肩を押さえ、槍をぐるりと振り払うが手ごたえはない。槍は距離を詰められると使いづらい。まして相手が見えないとなれば厄介だ。
「透明化の能力とは面倒だね。ザックと違って条件はないのかな?それにしてもヘルナンデスの方が囮とはやられたよ。でも……」
ボボルが呟き、その先は心の中で続ける。
『こっちも隠し玉はあるけどね』
「母様!」
屋上に出る階段に潜んでいたミラージュが飛び出し、クローに駆け寄る。
「完全治癒!」
クローの脇腹に手を当て、ミラージュが能力を使う。傷口が徐々に塞がり、クローはミラージュに礼を言って立ち上がった。
「おい、俺も頼むぜ」
ファングが肩を押さえながら言う。
「それくらいならまだ動けるんじゃない?」
「父親と母親で態度違いすぎねえか?」
「しょうがない」
ミラージュがゆっくりとファングの方へ歩きかける。その瞬間、
「かかったね」
ボボルがにやりと笑い、同時にミラージュがしゃがみこむ。
「神速剣、鳴神『貫殺針』!」
しゃがみこんだミラージュの頭上を凄まじい勢いの衝撃波が通り抜け、次の瞬間、石壁に何かが激突した鈍い音が響く。
「がああっ!!」
ひびの入った石壁の前に人影が姿を現し、口から血を吐いて頽れる。
「傷を治せる能力者がいると分かれば、そちらを先に始末しようと考えるのが普通だよねえ。彼なら大体の位置が把握できれば殺気を見切ってくれると思ってたよ」
倒れた敵に向かってボボルが言う。
「子供を囮に使うのは気が引けたけど、策自体はお互い様だから恨まないでね~」
「き、さま……なぜ俺のことが……」
姿が露わになった敵がのろのろと立ち上がりボボルを睨む。黒いマントを羽織った髭面の男だ。
「知ってたわけじゃないよ。だけど僕の仲間にも姿を消す異能を持った奴がいるんでね。襲撃のパターンの一つとして考えていただけさ」
「離れてください、ボボル殿。こいつはまだ動けるようだ」
階段の出口からミッドレイが姿を現して黒マントの男を睨みながら近づく。先ほどの攻撃は勿論彼のものだった。
「今の技……この大陸の人間には到底出来るものではない。き、貴様はまさか……」
「おしゃべりはそこまでにしてもらおう」
ミッドレイが再び居合の構えを取る。そこに突風が襲い掛かり、ミッドレイはすんでのところで身を躱した。
「くっ!」
「スターダスト、貴様の奇襲が失敗するとはな」
いつの間にかヘルナンデスが城塞の上に姿を現し、ミッドレイたちと対峙する。
「申し訳ございませんヘルナンデス様。こ、こやつ、おそらくは……」
「むん!」
スターダストと呼ばれた男の言葉が終わらぬうちにヘルナンデスが自分の周りに小さな竜巻を起こす。そこに投げられたミョルニルが風に弾かれ、クローの手に戻った。
「ちっ!ミョルニルを弾くとは只の風じゃないね」
傷の癒えたクローが顔をしかめる。
「オーディアル様に力を授かった者の中でも選ばれし六芒星の力、侮らないでもらおう」
ヘルナンデスが竜巻を解除し、不敵に笑う。
「あんたら、本気でこの大陸を宝物庫とやらの鍵にやるつもりなのかい?」
「ほう、そこまで分かっているとはな。だがここまで豊かな国をくれてやるのはもったいなく思えてきたよ」
「なら自分たちで支配するつもりか?」
ファングがグングニルを構えながら問う。
「帝国に王国を滅ぼさせてその後に帝国をオーディアル信徒の国にするつもりだったが、面倒になったな。もっと直接的にやらせてもらうとするか」
「いや~、それはちょっと勝手が過ぎるんじゃないかい?ヘルナンデス」
いきなり空中から声が聞こえ、一同がギョッとして視線を上へ向ける。いつの間にか彼らの頭上に一人の男が浮かんでいた。紫色のスーツに身を包んだ瘦せ型の体形の男だ。癖っ毛の金髪と垂れ目の右側に泣きぼくろがあるのが特徴的だ。
「アイアコス!貴様なぜここに!?」
ヘルナンデスが驚愕の表情で叫ぶ。
「何故って君の監視さ。予定より早く表に出ちゃったようだから、皆にせっつかれてね」
「ギルバートが失態を演じたのだ。仕方なかろう!」
「それでも短絡的だったと思うよ。君の悪い癖さ」
アイアコスと呼ばれた男がやれやれと言った風に首を振る。
「貴様……何者だ」
ミッドレイが剣を構えながら尋ねる。その額には脂汗が浮かんでいた。
「初めまして、皆さん。僕は『閃光のアイアコス』。お察しの通り六芒星の一人さ」
アイアコスはおどけた調子で言い、胸に手を当てて頭を下げる。
「ふざけやがって」
ファングがグングニルを投げようとするが、それをミッドレイが制止する。
「待て。奴は尋常じゃない。無暗に攻撃するな」
「ふふ、僕の力を一目で見抜くとはやるね。……へえ、変わった奴がいるもんだ」
アイアコスがミッドレイを見て笑みを浮かべる。
「ヘルナンデス、ここは退こう。どうやら帝国軍は大敗したようだ。ここで僕たちが彼らを葬ってもあまり意味はない。戦略を練り直すべきだよ」
「帝国軍が?ちっ、やはり罠であったか」
ヘルナンデスが顔をしかめ、渋々アイアコスに同調する。
「このまま逃がすと思うのか?」
ファングがアイアコスとヘルナンデスを睨むが、アイアコスは飄々とした顔で軽く手を振る。
「いやいや、ここは痛み分けにしておこうよ。今度はちゃんと相手してあげるからさ」
「何を!」
「よしなファング。この騎士団長さんの言う通りだ。こいつはまともじゃない」
クローが緊張した面持ちで言う。
「それじゃそういうことで。さ、行くよ、ヘルナンデス」
「この借りは必ず返すぞ」
スターダストがよろめきながらミッドレイを睨む。
「ああ、君はもういいよ」
「は?」
アイアコスの言葉にスターダストがきょとんとした顔をする。
「君の能力は一度知られてしまえば効果が半減だからね。奇襲が失敗した時点で役には立たない」
「お、お待ちを!私はまだ……」
「ご苦労さん」
アイアコスがそう言ったのと同時だった。スターダストの体が一瞬でズタズタに切り裂かれ、無数の肉片と化す。
「なっ!?」
ファングたちが息を呑む。まるで何も見えなかった。本当にあっという間にスターダストは殺されたのだ。
「それじゃあね~」
ボボルに負けないくらい呑気な声でアイアコスが上空へ去っていく。それに続いてヘルナンデスも風を纏って姿を消した。
「六芒星……とんでもない連中だね」
クローが額の冷や汗を拭いてそう呟く。その一方、遠くでは帝国軍を撃退した騎士たちの歓声がこだましていた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
私、実はマンドラゴラです! 仲間が根絶やしにされかかってたので守ってあげることにしました! 街でポーション屋を開きつつ、ついでに魔王軍も撃退
あなたのはレヴィオサー
ファンタジー
【一行あらすじ】
擬人化マンドラゴラの女の子主人公が仲間たちを守るために街でポーション屋を開きつつ魔王軍を追っ払う話。
【ちゃんとしたあらすじ】
とあるポーション屋の店主、アルメリア・リーフレットの正体は"擬人化"したマンドラゴラである。魔物について、とりわけ強い魔力を持つ個体は、成長に伴って人の姿へ近づく——そんな現象が古くより報告されてきた。スライムからドラゴンまで前例は様々あるが、アルメリアはなんとその希少すぎるマンドラゴラ版。森で人間の少女として拾われ、育てられた彼女はある日ふと思う。——もしかしてこの広い世界のどこかに、自分と同じような存在がいるのではないか? そうと確信し、旅に出る。やがて通常のマンドラゴラたちがひっそりと暮らす集落にたどり着くが……。そこではちょうど彼らを巡って、魔王軍と冒険者たちが衝突しているところだった。このままではいずれ、自分たちは根絶やしにされてしまうだろう。シクシクと泣いている彼らをまえに、見捨てて立ち去るわけにもいかず。アルメリアは深いため息とともに覚悟を決めた。
「……はぁ、わかりました。そういうことでしたら」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる