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第114話 潜入
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「見張りは任せたぞ」
ローブを着た初老の男が暴君猿人にそう言ってちらりと部屋の中を見る。窓のない狭く暗い部屋にはベッドが一台だけ置かれており、その上に金髪の少女が横たわっていた。まだ眠っているようで、拘束は解かれている。
「鍵を連れてきたのか」
上部に小さな鉄格子が付いた鉄製の扉を閉めた初老の男の元に、筋肉質の男が近づいてくる。白い顎髭を生やし、顔の右目から頬にかけて大きな傷跡がある壮年の男だ。
「うむ。片割れの方はキシュナー家の跡取りが連れてくることになっている」
初老の男がフードを脱いで答える。頭髪は左右に僅かに残るだけで皺が深い顔をしている。
「鍵が揃ったらすぐ宝物庫を開かせろ。実験を始める」
筋肉質の男が鉄格子から少女の閉じ込められた部屋を覗き込みながら言う。
「分かっておる。大陸からの船は?」
「来ておらん」
「予定を半年近く過ぎておるぞ。評議会に何かあったのではないか?」
「そうだとしても確認のしようがない。こちらはこちらで動くしかあるまい」
初老の男が顔をしかめ、ため息をついて頷く。そのまま二人は改めて暴君猿人に見張りの念を押し、その場を去っていった。
「……行ったようね」
男たちが去ってしばらくの時が経ち、パンナは目を開けてそっと体を起こした。最初から目は覚めていたが、警戒されることのないようずっと気を失った振りをしていたのだ。
「拘束は解かれてる。助かったわ」
腕を動かしながらパンナは呟く。長い時間じっとしていたので体が固くなってしまっている。
「当然鍵はかかってるわよね」
音を立てないようベッドから降り、身を屈めながら鉄製の扉に近づいてパンナは呟く。棒状の取っ手をそっと押してみるが、動く気配はない。慎重に立ち上がり、そっと鉄格子から外へ視線をやると、視界の右端に毛むくじゃらの肩と腕が見えた。自分をここまで運んできた暴君猿人だろう。忠実に見張りの任を務めているようだ。
『さて、どうしたものかしら。しばらくはおとなしくしていた方がいいかしらね』
作戦通りに事が進んでいるなら、おそらく助けが来るはずだ。それまではじっとしていた方がいいだろう。パンナはそう考え、そっとベッドへと戻った。
「ふう、どうやらバレなかったようだな。ホッとしたぜ」
茂みの陰から建物を覗き込み、ザックが指の傷を押さえる。目の前の建物は平屋だが頑丈そうな造りをしていて入り口には二人の獣人族が立っている。鎧蜥蜴と暴君猿人だ。
「さて、アジトは分かった。カサンドラ、後は頼んだぜ」
ザックは後ろを振り返り、ここまでずっと手を繋いできたカサンドラに声を掛ける。二人はザックの保守静透で姿を消し、パンナたちの後を付いて来たのだ。ボボルの機転で暴君猿人の鼻を利かなくしたお陰で臭いで気付かれることもなく国境を越えることが出来た。そこからはスパイシーナッツの効果が切れることを懸念して少し距離を置いて尾行したが、何とかこのアジトまで付いてくることが出来たのだった。
「分かってるわ。でも大人数で転移してきたら気付かれるでしょう?」
「予定の戦力が揃ってりゃ問題ねえよ。見た限りじゃ中にそれほど多くの敵はいなさそうだしな」
「油断は禁物よ。とは言ってもここまで来たらやるしかないけど。あんたも私たちが戻ってくるまで見つかるんじゃないわよ?」
「分かってるって、いざとなりゃまたこの傷から血を流して隠れるさ」
ザックはそう言って笑い、指をひらひらと動かした。
夜の帳が降りる。パンナが連れ込まれた建物の近くの茂みで、ザックはかれこれ三時間近く待機していた。さすがに疲れを感じてきたその時、彼のすぐ近くの地面がいきなり明るくなり、円形の紋様のようなものが浮かび上がった。
「ようやくかよ。待ちくたびれたぜ」
ザックが呟く。と、光の紋様の中に数名の人影が現れた。カサンドラとファング、クロー、ミラージュ、ファンタム、ミッドレイ。そしてミッドレイが選んだエルモンド家の騎士団の精鋭五名だ。氣の修得でカサンドラの異能は一度にこれだけの人数を転移させられるようになっていた。
「遅いぜ。もう少しで眠っちまうとこだった」
「すまない。ボボル殿から連絡をもらって出来るだけ急いだつもりなんだが」
ミッドレイが前方の建物に目をやりながら詫びる。
「謝るこたないよ。こいつはただ待ってただけなんだから」
クローがそう言ってザックの頭を小突く。
「痛ってえな。俺の扱いがぞんざいじゃないか?姉さん」
頭を摩りながらザックが口を尖らせる。
「姉さんなんて呼ばせてるのか、お前」
ファングがじろりとザックを睨みながら言う。
「こいつが勝手に呼んでるんだよ。こないだ稽古つけてやったら懐いちまってさ。なんだい?焼き餅かい?可愛いとこあるじゃないか」
「バカ言うな。呆れただけだ」
にやにやと笑うクローにファングが不機嫌そうにそっぽを向く。それを見てファンタムが渋い表情でため息を吐く。
「つまらない夫婦漫才は他でやって。今は遊んでる場合じゃないでしょ?」
「同意」
ミラージュが無表情で頷く。
「可愛げが無いガキだよな、お前ら」
「そこまでにしましょう。ザックさん、打ち合わせ通りお願いします」
ミッドレイが言い、ザックが「あいよ」と答えて、再び指に傷をつける。と、その姿がみるみる消えていった。
「上手く彼が潜入出来ているといいですけどね」
ミッドレイが心配そうに呟く。
「信じるしかねえさ。あいつの弟子なら大丈夫だってな」
ファングが軽く言いミッドレイの肩を叩く。
「そうですね」
ミッドレイはそう言って頷き、ザックが消えていった建物の方を見やった。
「お待たせ」
それから小一時間ほど経ったろうか。いきなり目の前にザックが姿を現し、ファングは思わず息を呑む。
「おわっ!びっくりさせるな」
「んなこと言ってもしょうがねえだろ。こういう能力なんだからよ」
「それでどうでした?」
ミッドレイが意気込んで尋ねる。
「ああ。あいつ、ばっちり入り込んでたぜ。見つけるのにちっと手間取っちまったがな」
「それで敵の数は?」
「HLOのメンバーは数名しかいないようだ。後は獣人族が二十人程度。暴君猿人は少し厄介だが、このメンバーなら問題ないだろ。でも気になるのが……」
「何だ?」
「あまり表に出てこないらしいが、獣人族どもが『先生』と呼んでる男がいるらしい。おそらく連中の切り札だろうってあいつは言ってたぜ」
「異能者か?」
「おそらくはな。見たことのない武器を持ってるって話だ」
「見たことのない武器?……まさかな」
「どうしました?ファングさん」
「いや、何でもねえ。それで作戦は伝えたのか?」
「ああ。俺たちが動けば加勢するってよ」
「よし。では打ち合わせ通りに行きましょう。俺と部下が正面から仕掛けます。ファングさんはザックと一緒にパンナを救出。無事に助け出したら彼に中から参加してもらって、一気に制圧。クローさんは援護を頼みます。ミラージュとファンタムはここで待機。いいね?」
ミッドレイの言葉に一同が頷く。
「『先生』とやらが出てきたらどうする?」
「全員でかかりましょう。能力が未知数の相手です。慎重に」
「OK。それじゃ始めようか」
クローがそう言い、一同は頷いて行動を開始した。
「アンセリーナ様!」
べスター城のアンセリーナの部屋のドアが激しくノックされ、ベッドに入ったばかりのアンセリーナは驚いて飛び起きた。
「メルキン?何事ですの?」
急いでドアを開けると、険しい表情をしたメルキンが周囲を気にしながら早口でまくし立てる。
「賊が侵入しました。警備兵が対応しておりますが、数も目的も不明です。大旦那様とリーシェ様と共に非常用の待避所へお移りいただきますようお願いします」
「賊?『四公』の城であるここに?」
「はい。通常では敷地内に立ち入ることも不可能なこのべスター城の城内に入り込んだというだけでも、敵は普通の盗賊などではありますまい。お急ぎを」
「分かったわ」
アンセリーナは急いで身支度をしようと踵を返す。しかしその背後からいきなり声が掛けられた。
「慌てることはないよアンシー。僕の目的は君だ。賊は陽動に過ぎない」
「え!?」
アンセリーナが驚いて振り向く。そこにはここにいるはずのない人物が立っていた。
「お兄様!?」
「お兄様ですと?それではこの方は……」
メルキンも驚いて背後に立つ男を見つめる。彼に気付かれずすぐ後ろに立つなど、普通の者に出来ることでない。
「ああ、君はサンクリスト家の執事かな?初めまして。エルモンド家次期当主、クリスティーン・ホール。エルモンドだ。妹が世話になっているようだね」
クリスはさわやかな笑顔でメルキンに挨拶する。しかしその禍々しい雰囲気にメルキンは警戒心を高める。
「お兄様、どうしてここに!?アカデミーにいらっしゃるはずでは……」
「そうだったんだけどね。のんびり授業を受けている場合じゃなくなったんでね。君を迎えに来たんだ」
「私を……迎えに?どういう意味です?」
「いやあ参ったよ。ルーディアにもコットナーにもいないし、どこへ行ったのかと思ったら、まさかベストレームに行ってるとは。父上は中々教えてくれないから手間取っちゃってね」
「手間取ったって……お兄様、何をしたんです?」
アンセリーナが顔をしかめて尋ねる。
「何をしたって、どういう意味だい?」
「今のお兄様はまるで別人のようです。笑ってらっしゃいますけど……どても怖いお顔ですわ」
「ふ~ん、鋭くなったね。ここに来て少しは成長したかな?」
「アンセリーナ様、お下がりください。アンセリーナ様のおっしゃる通り、この方は尋常ではございません」
メルキンが手を広げ、アンセリーナを庇うようにしながら言う。
「ふふ、さすがはサンクリスト家の執事。父上もそうだったが、余計なことに気付かなければ無事でいられたろうに」
「お父様に何をしたんです!?」
「何、僕の顔を見た途端、騎士を呼んだりしたもんだから大切な騎士を三人も殺さなきゃいけなくなっちゃったよ。それでも口を割らないからさ。少しばかり傷を負ってもらったんだけど、それでもダメでね。メイドの首を一つ撥ねたらやっと教えてくれたよ」
「なんてことを……あなたはお兄様ではありませんわ!」
「ああ、そうさ。元々僕たちには血の繋がりはないんだ。兄妹でも何でもない」
「え!?」
「おや、知らなかったのかい?僕はクリムト家から養子としてエルモンド家に貰われたんだ。君は父上の子だが、母親は妻だったロットン卿の娘じゃない」
「そんな……」
「クリス様、そのようなお話をするためにこられたのではありますまい?迎えに来たとおっしゃいましたが、アンセリーナ様はエルモンド伯爵からお預かりした大事なお方。おいそれとお渡しは出来かねます」
「問題ないよ。もう僕がエルモンド家の当主になるんだから」
「それだけではなく、ボナー様と奥方たるパンナ様からもアンセリーナ様のことを託されております。お渡しするわけにはいきません」
「あの二人が留守だったのは幸運だったよ。そうでなければこうも簡単にここまで来れなかったろうからね」
「お兄様……お兄様は私を連れ去ってどうするおつもりなのです!?」
「僕と君で開くのさ。素晴らしい世界への扉をね」
クリスはそう言って邪悪な笑みを浮かべた。
ローブを着た初老の男が暴君猿人にそう言ってちらりと部屋の中を見る。窓のない狭く暗い部屋にはベッドが一台だけ置かれており、その上に金髪の少女が横たわっていた。まだ眠っているようで、拘束は解かれている。
「鍵を連れてきたのか」
上部に小さな鉄格子が付いた鉄製の扉を閉めた初老の男の元に、筋肉質の男が近づいてくる。白い顎髭を生やし、顔の右目から頬にかけて大きな傷跡がある壮年の男だ。
「うむ。片割れの方はキシュナー家の跡取りが連れてくることになっている」
初老の男がフードを脱いで答える。頭髪は左右に僅かに残るだけで皺が深い顔をしている。
「鍵が揃ったらすぐ宝物庫を開かせろ。実験を始める」
筋肉質の男が鉄格子から少女の閉じ込められた部屋を覗き込みながら言う。
「分かっておる。大陸からの船は?」
「来ておらん」
「予定を半年近く過ぎておるぞ。評議会に何かあったのではないか?」
「そうだとしても確認のしようがない。こちらはこちらで動くしかあるまい」
初老の男が顔をしかめ、ため息をついて頷く。そのまま二人は改めて暴君猿人に見張りの念を押し、その場を去っていった。
「……行ったようね」
男たちが去ってしばらくの時が経ち、パンナは目を開けてそっと体を起こした。最初から目は覚めていたが、警戒されることのないようずっと気を失った振りをしていたのだ。
「拘束は解かれてる。助かったわ」
腕を動かしながらパンナは呟く。長い時間じっとしていたので体が固くなってしまっている。
「当然鍵はかかってるわよね」
音を立てないようベッドから降り、身を屈めながら鉄製の扉に近づいてパンナは呟く。棒状の取っ手をそっと押してみるが、動く気配はない。慎重に立ち上がり、そっと鉄格子から外へ視線をやると、視界の右端に毛むくじゃらの肩と腕が見えた。自分をここまで運んできた暴君猿人だろう。忠実に見張りの任を務めているようだ。
『さて、どうしたものかしら。しばらくはおとなしくしていた方がいいかしらね』
作戦通りに事が進んでいるなら、おそらく助けが来るはずだ。それまではじっとしていた方がいいだろう。パンナはそう考え、そっとベッドへと戻った。
「ふう、どうやらバレなかったようだな。ホッとしたぜ」
茂みの陰から建物を覗き込み、ザックが指の傷を押さえる。目の前の建物は平屋だが頑丈そうな造りをしていて入り口には二人の獣人族が立っている。鎧蜥蜴と暴君猿人だ。
「さて、アジトは分かった。カサンドラ、後は頼んだぜ」
ザックは後ろを振り返り、ここまでずっと手を繋いできたカサンドラに声を掛ける。二人はザックの保守静透で姿を消し、パンナたちの後を付いて来たのだ。ボボルの機転で暴君猿人の鼻を利かなくしたお陰で臭いで気付かれることもなく国境を越えることが出来た。そこからはスパイシーナッツの効果が切れることを懸念して少し距離を置いて尾行したが、何とかこのアジトまで付いてくることが出来たのだった。
「分かってるわ。でも大人数で転移してきたら気付かれるでしょう?」
「予定の戦力が揃ってりゃ問題ねえよ。見た限りじゃ中にそれほど多くの敵はいなさそうだしな」
「油断は禁物よ。とは言ってもここまで来たらやるしかないけど。あんたも私たちが戻ってくるまで見つかるんじゃないわよ?」
「分かってるって、いざとなりゃまたこの傷から血を流して隠れるさ」
ザックはそう言って笑い、指をひらひらと動かした。
夜の帳が降りる。パンナが連れ込まれた建物の近くの茂みで、ザックはかれこれ三時間近く待機していた。さすがに疲れを感じてきたその時、彼のすぐ近くの地面がいきなり明るくなり、円形の紋様のようなものが浮かび上がった。
「ようやくかよ。待ちくたびれたぜ」
ザックが呟く。と、光の紋様の中に数名の人影が現れた。カサンドラとファング、クロー、ミラージュ、ファンタム、ミッドレイ。そしてミッドレイが選んだエルモンド家の騎士団の精鋭五名だ。氣の修得でカサンドラの異能は一度にこれだけの人数を転移させられるようになっていた。
「遅いぜ。もう少しで眠っちまうとこだった」
「すまない。ボボル殿から連絡をもらって出来るだけ急いだつもりなんだが」
ミッドレイが前方の建物に目をやりながら詫びる。
「謝るこたないよ。こいつはただ待ってただけなんだから」
クローがそう言ってザックの頭を小突く。
「痛ってえな。俺の扱いがぞんざいじゃないか?姉さん」
頭を摩りながらザックが口を尖らせる。
「姉さんなんて呼ばせてるのか、お前」
ファングがじろりとザックを睨みながら言う。
「こいつが勝手に呼んでるんだよ。こないだ稽古つけてやったら懐いちまってさ。なんだい?焼き餅かい?可愛いとこあるじゃないか」
「バカ言うな。呆れただけだ」
にやにやと笑うクローにファングが不機嫌そうにそっぽを向く。それを見てファンタムが渋い表情でため息を吐く。
「つまらない夫婦漫才は他でやって。今は遊んでる場合じゃないでしょ?」
「同意」
ミラージュが無表情で頷く。
「可愛げが無いガキだよな、お前ら」
「そこまでにしましょう。ザックさん、打ち合わせ通りお願いします」
ミッドレイが言い、ザックが「あいよ」と答えて、再び指に傷をつける。と、その姿がみるみる消えていった。
「上手く彼が潜入出来ているといいですけどね」
ミッドレイが心配そうに呟く。
「信じるしかねえさ。あいつの弟子なら大丈夫だってな」
ファングが軽く言いミッドレイの肩を叩く。
「そうですね」
ミッドレイはそう言って頷き、ザックが消えていった建物の方を見やった。
「お待たせ」
それから小一時間ほど経ったろうか。いきなり目の前にザックが姿を現し、ファングは思わず息を呑む。
「おわっ!びっくりさせるな」
「んなこと言ってもしょうがねえだろ。こういう能力なんだからよ」
「それでどうでした?」
ミッドレイが意気込んで尋ねる。
「ああ。あいつ、ばっちり入り込んでたぜ。見つけるのにちっと手間取っちまったがな」
「それで敵の数は?」
「HLOのメンバーは数名しかいないようだ。後は獣人族が二十人程度。暴君猿人は少し厄介だが、このメンバーなら問題ないだろ。でも気になるのが……」
「何だ?」
「あまり表に出てこないらしいが、獣人族どもが『先生』と呼んでる男がいるらしい。おそらく連中の切り札だろうってあいつは言ってたぜ」
「異能者か?」
「おそらくはな。見たことのない武器を持ってるって話だ」
「見たことのない武器?……まさかな」
「どうしました?ファングさん」
「いや、何でもねえ。それで作戦は伝えたのか?」
「ああ。俺たちが動けば加勢するってよ」
「よし。では打ち合わせ通りに行きましょう。俺と部下が正面から仕掛けます。ファングさんはザックと一緒にパンナを救出。無事に助け出したら彼に中から参加してもらって、一気に制圧。クローさんは援護を頼みます。ミラージュとファンタムはここで待機。いいね?」
ミッドレイの言葉に一同が頷く。
「『先生』とやらが出てきたらどうする?」
「全員でかかりましょう。能力が未知数の相手です。慎重に」
「OK。それじゃ始めようか」
クローがそう言い、一同は頷いて行動を開始した。
「アンセリーナ様!」
べスター城のアンセリーナの部屋のドアが激しくノックされ、ベッドに入ったばかりのアンセリーナは驚いて飛び起きた。
「メルキン?何事ですの?」
急いでドアを開けると、険しい表情をしたメルキンが周囲を気にしながら早口でまくし立てる。
「賊が侵入しました。警備兵が対応しておりますが、数も目的も不明です。大旦那様とリーシェ様と共に非常用の待避所へお移りいただきますようお願いします」
「賊?『四公』の城であるここに?」
「はい。通常では敷地内に立ち入ることも不可能なこのべスター城の城内に入り込んだというだけでも、敵は普通の盗賊などではありますまい。お急ぎを」
「分かったわ」
アンセリーナは急いで身支度をしようと踵を返す。しかしその背後からいきなり声が掛けられた。
「慌てることはないよアンシー。僕の目的は君だ。賊は陽動に過ぎない」
「え!?」
アンセリーナが驚いて振り向く。そこにはここにいるはずのない人物が立っていた。
「お兄様!?」
「お兄様ですと?それではこの方は……」
メルキンも驚いて背後に立つ男を見つめる。彼に気付かれずすぐ後ろに立つなど、普通の者に出来ることでない。
「ああ、君はサンクリスト家の執事かな?初めまして。エルモンド家次期当主、クリスティーン・ホール。エルモンドだ。妹が世話になっているようだね」
クリスはさわやかな笑顔でメルキンに挨拶する。しかしその禍々しい雰囲気にメルキンは警戒心を高める。
「お兄様、どうしてここに!?アカデミーにいらっしゃるはずでは……」
「そうだったんだけどね。のんびり授業を受けている場合じゃなくなったんでね。君を迎えに来たんだ」
「私を……迎えに?どういう意味です?」
「いやあ参ったよ。ルーディアにもコットナーにもいないし、どこへ行ったのかと思ったら、まさかベストレームに行ってるとは。父上は中々教えてくれないから手間取っちゃってね」
「手間取ったって……お兄様、何をしたんです?」
アンセリーナが顔をしかめて尋ねる。
「何をしたって、どういう意味だい?」
「今のお兄様はまるで別人のようです。笑ってらっしゃいますけど……どても怖いお顔ですわ」
「ふ~ん、鋭くなったね。ここに来て少しは成長したかな?」
「アンセリーナ様、お下がりください。アンセリーナ様のおっしゃる通り、この方は尋常ではございません」
メルキンが手を広げ、アンセリーナを庇うようにしながら言う。
「ふふ、さすがはサンクリスト家の執事。父上もそうだったが、余計なことに気付かなければ無事でいられたろうに」
「お父様に何をしたんです!?」
「何、僕の顔を見た途端、騎士を呼んだりしたもんだから大切な騎士を三人も殺さなきゃいけなくなっちゃったよ。それでも口を割らないからさ。少しばかり傷を負ってもらったんだけど、それでもダメでね。メイドの首を一つ撥ねたらやっと教えてくれたよ」
「なんてことを……あなたはお兄様ではありませんわ!」
「ああ、そうさ。元々僕たちには血の繋がりはないんだ。兄妹でも何でもない」
「え!?」
「おや、知らなかったのかい?僕はクリムト家から養子としてエルモンド家に貰われたんだ。君は父上の子だが、母親は妻だったロットン卿の娘じゃない」
「そんな……」
「クリス様、そのようなお話をするためにこられたのではありますまい?迎えに来たとおっしゃいましたが、アンセリーナ様はエルモンド伯爵からお預かりした大事なお方。おいそれとお渡しは出来かねます」
「問題ないよ。もう僕がエルモンド家の当主になるんだから」
「それだけではなく、ボナー様と奥方たるパンナ様からもアンセリーナ様のことを託されております。お渡しするわけにはいきません」
「あの二人が留守だったのは幸運だったよ。そうでなければこうも簡単にここまで来れなかったろうからね」
「お兄様……お兄様は私を連れ去ってどうするおつもりなのです!?」
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クリスはそう言って邪悪な笑みを浮かべた。
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