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#33-2剣の先を読みまして
しおりを挟む「後手になりましたが今からでも許可の申請を致しましょう。メインストリートの使用料金をお伺いしても?」
「しかしな」
「事後となりましたし、出来うる範囲内でよろしければ幾らか色をつけてお納めしますが」
「…………」
言外に常識の範囲内ならそちらの言い値で払うことを匂わせると、途端に村長が黙り込んだ。
様子を窺っていた周りの観衆も、面食らったように顔を見合わせる。
「いいんじゃねえか? 村に金入れてくれるって言ってんだからよ」
ぽつりと呟いた三白眼の男を皮切りに、周りの村民も次第に声を上げ始めた。
「ちょっと毛色が変わってるけど面白そうな楽団だし、ちょっとくらい居ついたっていいんじゃない?」
「今夜だけでも酒場に寄越してくれよー」
「お兄さん、ちょっとはカンパするわよ」
娯楽を求めているのか、どんどん周りの応援がこちらに集中してくる。
アウェイは完全に村長側となった。
「ふむ……」
「そ、村長」
「しばしお待ちを!」
若者二人が焦った様子で言い置くと、こちらに背を向けてヒソヒソと三者会議が行われる。
がんばれば念話で聞き取れないこともないが、盗み聞きはマナー違反だ。
待っている間、興味津々に見守る観客に雪花を作って見せて拍手を受けていると、しばらくして村長たちが向き直った。
流石に村長は顔に出していないが、若者の片方の口角が僅かに痙攣しているところを見るに、追加のカードは切らなくても良さそうだ。
薄汚れた建物が並んでるあたり、村の資金繰りに苦労してそうだからな。
「良かろう。滞在は三日間。それ以上はならん。後で鐘つき塔まで支払いに来」
村長が言い終わらない内にワッと歓声が上がる。
俺も即座に手を伸ばしそうになって、グッと堪えた。いかんいかん。握手文化はこっちに無いだろう。胸に手を当てる程度なら舞台挨拶っぽくて無難かな。
「温かなご厚意に感謝します」
「目付として次男を置いておく。悪さするなよ」
そう言ってすかさず前に押し出されたのは右の男だ。
なるほど、両脇の若者は息子さんでしたか。
「勿論でございます。僭越ながら、あともう一つ。先ほどご要望にありました酒場に赴くのはよろしいでしょうか」
表面上仕方なさげな表情を作っていた村長の白いふさふさ眉毛がピクリと動いた。
「好きしろ。だがここ魔物の森に最も近い村だ。夜の酒場には腕っ節の強い冒険者どもがひしめいているぞ」
「のぞむところです」
敢えてあくどい笑みで答えると、おやと言いたげな顔つきで見返される。
体格の良い二人の息子に、この威丈高な振る舞い。おまけに少々口が悪いときた。
若かりし頃は相当やんちゃしてた可能性が高い。こういうお年寄りは物理で強い男に好感を抱く傾向が強いものだ。
「冒険者どもの拳に伸されるなよ。翌朝まで立ち上がれんぞ」
ふん、と笑みの籠った鼻息で締めると、芯の通った小さな背中は去っていった。
なんていうか……地域の工務店にいそう。
「父があんな態度ですみません。実はうちの村、冒険者の出入りが多いせいかちょっと治安が悪くて。金がそっちの対応に行きがちなんですよ。正直助かります」
「なるほど。魔物の森に隣接しているから、魔物退治で冒険者が集まることが多いのですね」
体格に対してちょっぴり気の弱そうな次男さんの言葉は黒鳩くんの実況中継を裏付けるものだった。
報告の仕方が分からないと言っていた黒バトくんには、身近で親近感を覚えるものを中心に見ていくとやりやすいよと伝えたところ、門番の息子であるリコ少年を焦点にあててきたのはちょっと面白かった。
ちなみにこの黒鳩くん。以前カリスのパンツを縫った川辺で雇用した普通の野鳩だったのだが、今回招集をかけたらなんか黒くなっていた。目も俺と同じ赤目なところを鑑みるに、前回の給料として得た俺の竜血を飲んで魔物に変化した模様。
魔物が飲めば栄養満点の芳醇な酒、死にかけの人間が飲めば死霊、普通に飲めばそのまま魔物化。
つまり魔物に嬉しいドリンクなのが竜血だ。魔物化すれば見た目は変わるけど生存競争で有利になる。彼自身、羽のような軽さで納得してるし、まあいいか。
「そういえば、宿はどうされます? ずいぶん大所帯のようですが」
「ああ、あの特大頭蓋骨は大きなテントに変形するんですよ。門の外にでも張らせて貰えますかね」
「え。あ、あれがテントに……いや、そ、そいつは便利ですねえ。なら森とは反対側の南門の方が良いでしょう。そっちの方が川も近いですし拓けていますから。僕から村長に伝えときますよ」
「いやあ、すみません。お世話になります。あ、連れがいるんでそっちの希望も聞いてきていいですかね」
「はは……どうぞどうぞ」
骸骨テントに若干引いてる次男坊との会話を切り上げ、カリスのいる方へ足を向ける。
テントは用意できるが、ベッドでゆっくりしたいなら別に宿を取るのもやぶさかではない。それはそれで情報収集できるだろうし。
パレード中、俺の挙動不審と突発的不整脈を引き起こしてしまうカリスには頭蓋骨フロートの背面側に座って貰っていた。元々全身白装束だからフロートに座っているだけで十分パレードの画になるおまけつき。
案の定、ただ座っているカリスは小綺麗な容貌をしているせいか観客からキャーキャー言われていた。俺もちょっと言いたい。
肝心のカリスはどこか遠くの一点を見つめていて微動だにしない様子だ。
「カリス、何か面白いものでもあった?」
カリス好みのキラキラしたガラス細工でもあったかな~と軽い気持ちで聞いただけだったのだが、思いのほか真剣な顔つきで見つめ返されてドキッとする。
砂金を敷き詰めたような黄金の瞳がいつも以上に冴えわたってるように見えて心臓に悪い。
ちょっとだけ表情豊かになったせいか、最近ふとした拍子に俺のハートが殴られ気味だ。
クラウチングスタートを決めた鼓動を押さえつつ、にへら~とした笑顔で誤魔化すとカリスがいつものように首を傾げる。
よし、誤魔化されてくれた。たぶん。
カリスはそのまま同じ方向に視線を戻した。
その視線を追いかけてみると、カリスは群衆より随分離れた場所を見ているらしいと気づく。
俺がカリスに倣って顔を向けると同時に、人影が建物の向こう側へ消えた。
一瞬だけ見えたのは、白と青を基調にした制服姿。シルエットだけでも、すらりとした剣を帯剣しているのが分かった。
まるで御伽噺に出てくる、騎士のような。
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