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#43-1デルタの林檎が夜空の懺悔
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<カリス>
それからどうなったかと言うと。
カリスは廃屋の屋根の上で、ちんまり三角座りをしているデルタの背中を見下ろした。
「星って……いいよね」
「星」
「こうやって夜空の星を眺めてるとさ、あの中に小惑星プシケがあるかもしれないと思うとワクワクするんだ……」
「プシケ」
「小惑星プシケっていうのはね、内部の鉄がむき出しになって見えてる珍しい小惑星でね。金とかプラチナとか銅とか金とか金とか金とかがいっぱい含有されている星なんだ」
金を四回ほど言ったな、と思いながらもカリスはスルーした。
「俺が前世で住んでたところでは十垓円……世界人類にひとり当たり九兆八千億円を配れる計算でね。もう皆お金持ちになりすぎてむしろ貨幣価値が駄々下がりしちゃう位に価値がある鉄の星なんだ」
「鉄の星」
「まあ重量の問題で持って帰れないんだけどね。でも夢があるじゃないか。もしそんなにいっぱい金を持って帰れたら……」
「持って帰れたら?」
「金の価値が滅茶苦茶下がる!」
座ったまま拳を掲げて熱弁するデルタの背中に、すーっと首を傾げる。
「それは……良いことなのか?」
「いい。すごく良い! だってあの素晴らしい金を、美しい金を! 誰もが手に取りやすく、目に入れやすくなる。多くの人が愛でられる! そんな世の中になったら素敵じゃないか!」
「デルタ」
「確かに価値あってこその金だ。金が低価格になったらかつての俺の会社も危うくなるだろう。しかしだ、それはそれで」
「デルタ。ここに金の眼があるが見ないのか」
沈黙。
デルタは頑なにこちらを振り向こうとしない。
カリスは無言で隣に腰を下ろした。
すぐ近くで布切れの音がすると同時にデルタの腕がピクリと反応するのが見えたが、カリスは無言を貫いた。
デルタと同じように座ってみる。こうやって足を抱き込んで座るのはダンジョンで話した時以来だ。
あの時は背中合わせで互いが触れないように座っていた。今は隣で、少し肘のあたりの服が触れている。その事実を認識すると少しだけ、胸のあたりがむず痒くなった。
「笑顔が見たいと思った」
突然語りだしたカリスにデルタは無言で返したが、特に気にせず言葉を続ける。
「またいつものデルタの笑顔が見たいと思った。だから子供に出任せを言ってまで、デルタの正気を戻す手伝いをさせた」
実のところカリスは、カザリとリコに一つだけ嘘をついていた。
――動きを封じれば大人しくなる。
そんな確証はどこにもなかった。
竜出現時の対処法を先日、本を読んで初めて知ったほどカリスは竜の生態に明るくない。
あんな風に断言できるほどの情報をカリスが持ち合わせているはずなかった。
しかし子供たちの協力を仰ぐには嘘でも安心材料を渡す必要があった。
「嘘をついたのは、いまある記憶の中では初めてだ」
カリスは敢えてデルタの方を向かなかった。デルタと同じように夜空を見上げる。闇夜に散らばる星は慎ましやかに輝いている。その中にデルタが言ったようなプシケという星もあるかもしれない。
だが、カリスは自身により近くで煌めく、宙に張られた銀糸の方に見入っていた。
細緻な模様を描いて張り巡らされた蜘蛛の糸には水滴の粒が伝い、月光を浴びたその一粒一粒が銀色の光を放っている。
ダンジョンの宴会で自身の色彩を取り戻したことが、ずいぶん昔のことのように感じられた。
「デルタは、笑顔を見せてくれないのか」
水滴がどこかから、ぽとりと落ちる。
その音がデルタの方からしたので、もしや彼が落涙したのかとカリスは隣に首を回し……そしてデルタの顔に少し、目を見開いた。
それからどうなったかと言うと。
カリスは廃屋の屋根の上で、ちんまり三角座りをしているデルタの背中を見下ろした。
「星って……いいよね」
「星」
「こうやって夜空の星を眺めてるとさ、あの中に小惑星プシケがあるかもしれないと思うとワクワクするんだ……」
「プシケ」
「小惑星プシケっていうのはね、内部の鉄がむき出しになって見えてる珍しい小惑星でね。金とかプラチナとか銅とか金とか金とか金とかがいっぱい含有されている星なんだ」
金を四回ほど言ったな、と思いながらもカリスはスルーした。
「俺が前世で住んでたところでは十垓円……世界人類にひとり当たり九兆八千億円を配れる計算でね。もう皆お金持ちになりすぎてむしろ貨幣価値が駄々下がりしちゃう位に価値がある鉄の星なんだ」
「鉄の星」
「まあ重量の問題で持って帰れないんだけどね。でも夢があるじゃないか。もしそんなにいっぱい金を持って帰れたら……」
「持って帰れたら?」
「金の価値が滅茶苦茶下がる!」
座ったまま拳を掲げて熱弁するデルタの背中に、すーっと首を傾げる。
「それは……良いことなのか?」
「いい。すごく良い! だってあの素晴らしい金を、美しい金を! 誰もが手に取りやすく、目に入れやすくなる。多くの人が愛でられる! そんな世の中になったら素敵じゃないか!」
「デルタ」
「確かに価値あってこその金だ。金が低価格になったらかつての俺の会社も危うくなるだろう。しかしだ、それはそれで」
「デルタ。ここに金の眼があるが見ないのか」
沈黙。
デルタは頑なにこちらを振り向こうとしない。
カリスは無言で隣に腰を下ろした。
すぐ近くで布切れの音がすると同時にデルタの腕がピクリと反応するのが見えたが、カリスは無言を貫いた。
デルタと同じように座ってみる。こうやって足を抱き込んで座るのはダンジョンで話した時以来だ。
あの時は背中合わせで互いが触れないように座っていた。今は隣で、少し肘のあたりの服が触れている。その事実を認識すると少しだけ、胸のあたりがむず痒くなった。
「笑顔が見たいと思った」
突然語りだしたカリスにデルタは無言で返したが、特に気にせず言葉を続ける。
「またいつものデルタの笑顔が見たいと思った。だから子供に出任せを言ってまで、デルタの正気を戻す手伝いをさせた」
実のところカリスは、カザリとリコに一つだけ嘘をついていた。
――動きを封じれば大人しくなる。
そんな確証はどこにもなかった。
竜出現時の対処法を先日、本を読んで初めて知ったほどカリスは竜の生態に明るくない。
あんな風に断言できるほどの情報をカリスが持ち合わせているはずなかった。
しかし子供たちの協力を仰ぐには嘘でも安心材料を渡す必要があった。
「嘘をついたのは、いまある記憶の中では初めてだ」
カリスは敢えてデルタの方を向かなかった。デルタと同じように夜空を見上げる。闇夜に散らばる星は慎ましやかに輝いている。その中にデルタが言ったようなプシケという星もあるかもしれない。
だが、カリスは自身により近くで煌めく、宙に張られた銀糸の方に見入っていた。
細緻な模様を描いて張り巡らされた蜘蛛の糸には水滴の粒が伝い、月光を浴びたその一粒一粒が銀色の光を放っている。
ダンジョンの宴会で自身の色彩を取り戻したことが、ずいぶん昔のことのように感じられた。
「デルタは、笑顔を見せてくれないのか」
水滴がどこかから、ぽとりと落ちる。
その音がデルタの方からしたので、もしや彼が落涙したのかとカリスは隣に首を回し……そしてデルタの顔に少し、目を見開いた。
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