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#42-2接吻のゆくえがデルタの林檎
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<カリス>
カリスと、デルタと、死霊たち。
なぜだか、この光景がまるで自身のことのように錯覚する。
足りないカリス。人形のカリス。欠けた部分を放置して、そのままのカリス。
宙ぶらりんのまま、佇んで呆けるだけの人形。
花を摘みながらカザ村に向かう道中、自身の白く冷たい手を褐色の温かい手で掴んだデルタ。
気まぐれな猫科のような足取りで前を進みながら、満面の笑みを浮かべて何度もカリスを振り返るデルタ。
反応の悪い人形にも構わず、きらきらと星が満ちるように瞳を輝かせるデルタ。
そして少し離れたところでイ音の声援を送るのは、明るく騒ぐ死霊たち。
ふとリコがカザリの胸で涙を滲ませながらも、どうにか笑みを作り上げる。
そのぎこちない笑顔を見た途端……カリスの胸にひとつの意思が浮かび上がった。
「つ、次! 交代……あっ」
息を切らして戻ってきた子供の手から金花の首飾りを音もなく取り上げる。
目を白黒させる子供の視線を無視し、カリスは首飾りを装着した。
しゃらしゃらと音を奏でながら黄金の小花がカリスの胸元で揺れる。
――友達から譲り受けた、大事なものなんだ。カリス、持っていてくれ……。
「おまえたち」
――ギィイイィィーッ!
咆哮を上げてこちらに向かってくる黒竜をカリスはまっすぐ見つめた。
背を向けた子供たちの悲鳴が背後から小さくさざめく。
カリスは彼らが巻き込まれないよう、路地裏から一歩出た。
「ありがとう」
自然と漏れ出た感謝とともに、カリスは大きく開いた竜の口の中へ吸い込まれた。
厳密に言えば、口が開いた瞬間カリスが飛び込んだのだが。
【賭しきもの】が言うには衝撃を与えるためカリスの接吻が必要だという。
しかし、竜の全身を覆い尽くす冷えた溶岩のような鱗に感触はあるのだろうか。
そもそも竜の口許へ顔を寄せるのは至難の業であることは明らか。
接吻を竜に自覚させ、かつ確実に成功させるとなれば――
カリスは濡れた顔を上げた。当然ながら竜の唾液によるものである。
デルタの口腔内は、濃厚な林檎の匂いで充満していた。
巨大な竜の口の中はカリスを咥内に入れても十分なほど余裕がある。
異物が入り込んだことにより動揺したのか頭部全体があらゆる方向に振り回されるも、カリスは吐き出されまいと大きな舌にしがみついた。
「デル、タ……!」
口腔内の唾液で全身がぬるつく。
かつてデルタが歌いながら縫い上げた白衣は粘液で濡れそぼっていた。
唾液の粘りに動きを阻害されながらも、カリスの頭ほどある牙に触れないよう、かつ嚥下されないよう巨大な舌に爪を立てる。
「正気に、戻れ」
あの笑顔がまた見たい。燦々と突き刺すように照りつけるデルタの笑顔。そのくせ満点の星空が被って見える真っ赤な瞳。
そのために人形であることを捨てなければならないというのなら、カリスはもう、それで構わない。
カリスは口を開き、眼下の巨大な舌に自らの舌を伸ばした。
毛羽立ちを感じる表面を、舌から上へ逆らうように舐めあげる。
自らの舌を刺激する深い林檎の味にカリスは目を見開いた。デルタの唾液が林檎の味であることに、ではない。
カリスの味覚が、戻ってきている。
――……けれどまあ、そういうこともあるだろう。
気を取り直したカリスは再度、舌を伸ばした。
ねっとりと舐めあげては、時折ちろちろと舌の皺を刺激してやる。
騎士団の人形として性処理の業務を行ってきたが、まさかこんな場面で役立つ日が来ようとは。
「は、ンッ……」
自然と漏れ出る吐息と濡れた音が湿度の高い篭った咥内中に響き渡る。
揺れはいつの間にか収まっていた。というより微動だにしていない。
自らの接吻が拙いせいか、それとも大きさが違うせいか。眉を寄せたカリスは少しでもデルタの性の感性を呼び起こすべく、出来得る限り淫蕩な腰つきで下半身を大きな舌に押し付けた。
舌と腰の動きで、ぬちゃぬちゃと水音が大きくなる。
「んぶ、んっ」
デルタ、デルタ。
もはや切実と言ってもいいほど繰り返される心中での呼びかけ。
デルタの濃厚な林檎の味と匂いに全身を包まれる中、正気が戻らなくともずっとここに居座ってやろうかと考えたその時。
咥内の奥から、ぐるるる……と低い音が鳴り響いた。
『き』
「……き?」
竜の口は動かぬまま、しかし震えるような念話がカリスの脳内に響き渡った。
『キャァアァアアアァァ―――――ッッッ!!!!』
カリスと、デルタと、死霊たち。
なぜだか、この光景がまるで自身のことのように錯覚する。
足りないカリス。人形のカリス。欠けた部分を放置して、そのままのカリス。
宙ぶらりんのまま、佇んで呆けるだけの人形。
花を摘みながらカザ村に向かう道中、自身の白く冷たい手を褐色の温かい手で掴んだデルタ。
気まぐれな猫科のような足取りで前を進みながら、満面の笑みを浮かべて何度もカリスを振り返るデルタ。
反応の悪い人形にも構わず、きらきらと星が満ちるように瞳を輝かせるデルタ。
そして少し離れたところでイ音の声援を送るのは、明るく騒ぐ死霊たち。
ふとリコがカザリの胸で涙を滲ませながらも、どうにか笑みを作り上げる。
そのぎこちない笑顔を見た途端……カリスの胸にひとつの意思が浮かび上がった。
「つ、次! 交代……あっ」
息を切らして戻ってきた子供の手から金花の首飾りを音もなく取り上げる。
目を白黒させる子供の視線を無視し、カリスは首飾りを装着した。
しゃらしゃらと音を奏でながら黄金の小花がカリスの胸元で揺れる。
――友達から譲り受けた、大事なものなんだ。カリス、持っていてくれ……。
「おまえたち」
――ギィイイィィーッ!
咆哮を上げてこちらに向かってくる黒竜をカリスはまっすぐ見つめた。
背を向けた子供たちの悲鳴が背後から小さくさざめく。
カリスは彼らが巻き込まれないよう、路地裏から一歩出た。
「ありがとう」
自然と漏れ出た感謝とともに、カリスは大きく開いた竜の口の中へ吸い込まれた。
厳密に言えば、口が開いた瞬間カリスが飛び込んだのだが。
【賭しきもの】が言うには衝撃を与えるためカリスの接吻が必要だという。
しかし、竜の全身を覆い尽くす冷えた溶岩のような鱗に感触はあるのだろうか。
そもそも竜の口許へ顔を寄せるのは至難の業であることは明らか。
接吻を竜に自覚させ、かつ確実に成功させるとなれば――
カリスは濡れた顔を上げた。当然ながら竜の唾液によるものである。
デルタの口腔内は、濃厚な林檎の匂いで充満していた。
巨大な竜の口の中はカリスを咥内に入れても十分なほど余裕がある。
異物が入り込んだことにより動揺したのか頭部全体があらゆる方向に振り回されるも、カリスは吐き出されまいと大きな舌にしがみついた。
「デル、タ……!」
口腔内の唾液で全身がぬるつく。
かつてデルタが歌いながら縫い上げた白衣は粘液で濡れそぼっていた。
唾液の粘りに動きを阻害されながらも、カリスの頭ほどある牙に触れないよう、かつ嚥下されないよう巨大な舌に爪を立てる。
「正気に、戻れ」
あの笑顔がまた見たい。燦々と突き刺すように照りつけるデルタの笑顔。そのくせ満点の星空が被って見える真っ赤な瞳。
そのために人形であることを捨てなければならないというのなら、カリスはもう、それで構わない。
カリスは口を開き、眼下の巨大な舌に自らの舌を伸ばした。
毛羽立ちを感じる表面を、舌から上へ逆らうように舐めあげる。
自らの舌を刺激する深い林檎の味にカリスは目を見開いた。デルタの唾液が林檎の味であることに、ではない。
カリスの味覚が、戻ってきている。
――……けれどまあ、そういうこともあるだろう。
気を取り直したカリスは再度、舌を伸ばした。
ねっとりと舐めあげては、時折ちろちろと舌の皺を刺激してやる。
騎士団の人形として性処理の業務を行ってきたが、まさかこんな場面で役立つ日が来ようとは。
「は、ンッ……」
自然と漏れ出る吐息と濡れた音が湿度の高い篭った咥内中に響き渡る。
揺れはいつの間にか収まっていた。というより微動だにしていない。
自らの接吻が拙いせいか、それとも大きさが違うせいか。眉を寄せたカリスは少しでもデルタの性の感性を呼び起こすべく、出来得る限り淫蕩な腰つきで下半身を大きな舌に押し付けた。
舌と腰の動きで、ぬちゃぬちゃと水音が大きくなる。
「んぶ、んっ」
デルタ、デルタ。
もはや切実と言ってもいいほど繰り返される心中での呼びかけ。
デルタの濃厚な林檎の味と匂いに全身を包まれる中、正気が戻らなくともずっとここに居座ってやろうかと考えたその時。
咥内の奥から、ぐるるる……と低い音が鳴り響いた。
『き』
「……き?」
竜の口は動かぬまま、しかし震えるような念話がカリスの脳内に響き渡った。
『キャァアァアアアァァ―――――ッッッ!!!!』
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