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013 盗賊さん、現実を突きつける。
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「それじゃ、やれることからやっていこうか」
「やれることっつってもなんもねぇぜ。こんな有様だしよ」
グレンは空っぽの工房を見回しながらため息を吐く。
「グレンの曾祖父さんの頃なら必要だったろうけど、最近はポーション以外つくってなかったみたいだし、最低限の器具はボクが持ってるから問題ないよ。予備も含めて携行してるからね。グレンの分も手持ちでなんとかなるかな」
「いいのか」
「構わないよ。それよりもここには作業机が欲しいね。地べたに座ってやるのは辛いだろうからね」
「んじゃ、上から持ってくるか。さっき使ってたテーブルでも問題ないか」
「そうだね、問題ないんじゃないかな」
早速、ボクらは一階に戻り、椅子とテーブルを地下室に運び込む。壁際に設え、椅子を並べて置いたところでひと息つく。
「作業机はふたつ欲しいところだけど、その辺りは追々なんとかするとしようか。それよりも先に確かめたいこともあるしね」
「確かめたいこと?」
「そう、今からボクの前でポーションつくってもらえないかな」
「今からか? 別にいいけどよ。材料なんかは今から仕入れにでも行くのか」
「そっちも手元にあるから平気だよ」
そう言いながらボクはポーション作製に必要な器材を、ウエストポーチから取り出してテーブルに並べていく。水の魔石、薬瓶、薬研、薬草、最低限これだけあれば下級ポーションをつくるのは問題なく行える。そのはずなのだが、グレンは困ったように難しい顔をしていた。
「なにか足りない?」
「ヒイロは鍋や火の魔石は使わないのか、あとかき混ぜ棒」
「ポーションに加熱処理する過程はないと思うんだけど」
「それだとすり潰した薬草の薬効成分を煎じれないんじゃないか?」
「グレンがつくろうとしてるのはポーションだよね?」
「ポーションつくれって言ったのはヒイロだろ」
お互いに首を傾げた。グレンの口にした内容は薬師が行う水薬の製法だとわかっていたが、念のために彼には彼のやり方で最後までつくってもらうことにした。
「わかったよ。とりあえずいつもポーションをつくるときに使ってたもので、あと足りてないのはさっきの3つでいいんだね」
「あぁ、それで全部だ」
グレンの指定したものを追加でテーブルの上に出す。
「それじゃ、やってみてくれる」
「任せといてくれ」
そう言ったグレンは水の魔石で鍋に水を注ぎ込み、次に火の魔石を数秒間握り込んで魔力を込めると鍋の中に投与した。それを一時的に横に退け、彼は薬草を薬研で手早くすり潰す。それが済むと水の温度を指先で確かめ、充分に温まったと判断したらしい彼は、火の魔石を鍋の中から出し、そこにすり潰した薬草を投与して、かき混ぜ棒でしっかりと混ぜ合わせていた。
「あとは不純物が沈むのを待って、薬効成分が煎じられたら上澄を瓶に移して完成だな」
その製作過程を目にして、グレンがレッドグレイヴで騙されていたのだと確信し、頭が痛くなった。
「グレン。レッドグレイヴでやってたときは、魔石使ってなかったんじゃないか」
「あぁ、そうだな。でかい釜で大量のぬるめの湯を沸かして、そこに薬草を山盛り放り込んでたな」
利益重視で魔石にお金出すのも渋るようなもぐりの錬金術師ならまだよかったけれど、グレンが技術指導を受けたと思ってる相手は錬金術師なんかじゃなく、かなり腕の悪い薬師みたいだ。しかも、彼が取ったと思ってる初級錬金術師資格は、十中八九偽造されたもので間違いない。
レッドグレイヴ領外から来る錬金術師志願者を騙して労働力として利用してただけか、技術指導料や資格試験の受験料をむしり取って稼いでいた可能性がある。
レッドグレイヴ領内で、こんな詐欺師がのさばってるのは困ったものだね。今日中にパパ宛に手紙を書いて送るしかないかな。
「グレン、残念なことだけど。これはポーションじゃないよ」
「待ってくれ、どういうことなんだそれは。親父も同じやり方でポーションをつくってたから、手順に間違いないはずだぞ」
「でも、これは魔法薬にはなっていない。ただの水薬だよ。でも、階段にあったグレイボトルを見る限り、グレンのお父さんは魔法薬をつくれてたはずなんだよね。技術指導受けにいく前にはさ、もちろんお父さんにも教えてもらってたんだよね?」
「あぁ、親父からも一通り習ったぜ。上手くは出来なかったけどな。それもあってオレはレッドグレイヴに技術指導を受けにいくことにしたんだ。親父にも原因がわかんなかったからな」
話を聞く限り、魔力操作に関する知識が欠けていたのが原因かな。ふたりとも生産職だし、魔術職の家系でもなければ、感覚的なことはわからないだろうしね。
「グレンさ。レッドグレイヴで技術指導受けてたときに、自分でつくったポーション試したことある?」
「……ないな、一度も。商品だったからな」
「そう、なら自分の目で確かめてみるといいよ」
ボクはウエストポーチからナイフを引き抜き、左手の平を軽く切り付けた。直後にじわりと血が滲み出る。それをグレンはぽかんとした様子で見つめていた。
「そのポーション使わせてもらうよ」
グレンが作製した偽ポーションをだばだばと傷口にかける。しかし、傷は一向に塞がる様子もなく、血を洗い流しただけだった。
再び血が滲み出した手の平をグレンに見せながら告げる。
「これでわかってもらえたかな」
「ウソだろ……そうだ、まだ薬効成分が煎じられてないんじゃないか」
「いくら時間をかけても同じ結果だよ。薬草を今の数十倍投与したものを濃縮すれば多少は効果を発揮するかもしれないけど、魔法薬でないことには変わりないよ」
そうはっきりと事実を突きつけると、グレンは完全に沈黙してしまった。
「やれることっつってもなんもねぇぜ。こんな有様だしよ」
グレンは空っぽの工房を見回しながらため息を吐く。
「グレンの曾祖父さんの頃なら必要だったろうけど、最近はポーション以外つくってなかったみたいだし、最低限の器具はボクが持ってるから問題ないよ。予備も含めて携行してるからね。グレンの分も手持ちでなんとかなるかな」
「いいのか」
「構わないよ。それよりもここには作業机が欲しいね。地べたに座ってやるのは辛いだろうからね」
「んじゃ、上から持ってくるか。さっき使ってたテーブルでも問題ないか」
「そうだね、問題ないんじゃないかな」
早速、ボクらは一階に戻り、椅子とテーブルを地下室に運び込む。壁際に設え、椅子を並べて置いたところでひと息つく。
「作業机はふたつ欲しいところだけど、その辺りは追々なんとかするとしようか。それよりも先に確かめたいこともあるしね」
「確かめたいこと?」
「そう、今からボクの前でポーションつくってもらえないかな」
「今からか? 別にいいけどよ。材料なんかは今から仕入れにでも行くのか」
「そっちも手元にあるから平気だよ」
そう言いながらボクはポーション作製に必要な器材を、ウエストポーチから取り出してテーブルに並べていく。水の魔石、薬瓶、薬研、薬草、最低限これだけあれば下級ポーションをつくるのは問題なく行える。そのはずなのだが、グレンは困ったように難しい顔をしていた。
「なにか足りない?」
「ヒイロは鍋や火の魔石は使わないのか、あとかき混ぜ棒」
「ポーションに加熱処理する過程はないと思うんだけど」
「それだとすり潰した薬草の薬効成分を煎じれないんじゃないか?」
「グレンがつくろうとしてるのはポーションだよね?」
「ポーションつくれって言ったのはヒイロだろ」
お互いに首を傾げた。グレンの口にした内容は薬師が行う水薬の製法だとわかっていたが、念のために彼には彼のやり方で最後までつくってもらうことにした。
「わかったよ。とりあえずいつもポーションをつくるときに使ってたもので、あと足りてないのはさっきの3つでいいんだね」
「あぁ、それで全部だ」
グレンの指定したものを追加でテーブルの上に出す。
「それじゃ、やってみてくれる」
「任せといてくれ」
そう言ったグレンは水の魔石で鍋に水を注ぎ込み、次に火の魔石を数秒間握り込んで魔力を込めると鍋の中に投与した。それを一時的に横に退け、彼は薬草を薬研で手早くすり潰す。それが済むと水の温度を指先で確かめ、充分に温まったと判断したらしい彼は、火の魔石を鍋の中から出し、そこにすり潰した薬草を投与して、かき混ぜ棒でしっかりと混ぜ合わせていた。
「あとは不純物が沈むのを待って、薬効成分が煎じられたら上澄を瓶に移して完成だな」
その製作過程を目にして、グレンがレッドグレイヴで騙されていたのだと確信し、頭が痛くなった。
「グレン。レッドグレイヴでやってたときは、魔石使ってなかったんじゃないか」
「あぁ、そうだな。でかい釜で大量のぬるめの湯を沸かして、そこに薬草を山盛り放り込んでたな」
利益重視で魔石にお金出すのも渋るようなもぐりの錬金術師ならまだよかったけれど、グレンが技術指導を受けたと思ってる相手は錬金術師なんかじゃなく、かなり腕の悪い薬師みたいだ。しかも、彼が取ったと思ってる初級錬金術師資格は、十中八九偽造されたもので間違いない。
レッドグレイヴ領外から来る錬金術師志願者を騙して労働力として利用してただけか、技術指導料や資格試験の受験料をむしり取って稼いでいた可能性がある。
レッドグレイヴ領内で、こんな詐欺師がのさばってるのは困ったものだね。今日中にパパ宛に手紙を書いて送るしかないかな。
「グレン、残念なことだけど。これはポーションじゃないよ」
「待ってくれ、どういうことなんだそれは。親父も同じやり方でポーションをつくってたから、手順に間違いないはずだぞ」
「でも、これは魔法薬にはなっていない。ただの水薬だよ。でも、階段にあったグレイボトルを見る限り、グレンのお父さんは魔法薬をつくれてたはずなんだよね。技術指導受けにいく前にはさ、もちろんお父さんにも教えてもらってたんだよね?」
「あぁ、親父からも一通り習ったぜ。上手くは出来なかったけどな。それもあってオレはレッドグレイヴに技術指導を受けにいくことにしたんだ。親父にも原因がわかんなかったからな」
話を聞く限り、魔力操作に関する知識が欠けていたのが原因かな。ふたりとも生産職だし、魔術職の家系でもなければ、感覚的なことはわからないだろうしね。
「グレンさ。レッドグレイヴで技術指導受けてたときに、自分でつくったポーション試したことある?」
「……ないな、一度も。商品だったからな」
「そう、なら自分の目で確かめてみるといいよ」
ボクはウエストポーチからナイフを引き抜き、左手の平を軽く切り付けた。直後にじわりと血が滲み出る。それをグレンはぽかんとした様子で見つめていた。
「そのポーション使わせてもらうよ」
グレンが作製した偽ポーションをだばだばと傷口にかける。しかし、傷は一向に塞がる様子もなく、血を洗い流しただけだった。
再び血が滲み出した手の平をグレンに見せながら告げる。
「これでわかってもらえたかな」
「ウソだろ……そうだ、まだ薬効成分が煎じられてないんじゃないか」
「いくら時間をかけても同じ結果だよ。薬草を今の数十倍投与したものを濃縮すれば多少は効果を発揮するかもしれないけど、魔法薬でないことには変わりないよ」
そうはっきりと事実を突きつけると、グレンは完全に沈黙してしまった。
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