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051 盗賊さん、密かに手助けする。
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にわかに慌ただしくなった冒険者ギルドを後にしたボクは、長い銀髪を高い位置で結い上げた副ギルド長を引き連れて小走りで錬金術ギルドを目指す。疲れたふりをしながらの案内だったので、道中で無駄な会話を求められることもなかった。
ほどなく錬金術ギルド付近にまで至ったところで、ボクは招かれざる客があちこちに複数潜んでいるのに気付いた。ボクはそれらに気付かないフリをして、無警戒に錬金術ギルドに駆け込むことにした。すると背後を余裕を持って付いて来ていた副ギルド長が、ボクの襟首を掴んで強引に引き留め、脇道にボクを引き込んだ。
「どう、しましたか」
肩で息をしながら問うと副ギルド長は、脇道の入口から錬金術ギルド周辺をこっそりと覗き込むように、招かれざる客が潜んでいると思われる場所に目を走らせせた。確認が終わると脇道に引っ込んで、ボクの目を真っ直ぐに見据えて来た。
「少しいいかしら」
「なんでしょうか」
「目的地は錬金術ギルドでいいのよね?」
「はい、そうです」
「ちょっと聞きたいんだけど、最近所属のギルド員がトラブルに巻き込まれたとか話を聞いてたりしないかしら」
「トラブルですか?」
「そうね。例えば人に恨まれたりだとか、目立つことをして目を付けられたりだとか」
少し考える素振りをしてボクは口を開いた。
「トラブルと言えるかどうかわかりませんが……最近うちに所属してくれた錬金術師の方がいるのですが、彼が今日の夕方ごろに城壁外で作製したたくさんのポーションを東の城門で没収されたくらいだと思います」
それを聞いた副ギルド長は、こめかみを押さえるようにして額に手を当て、ため息を吐いた。
「きっとそれね。本当に余計なことをしてくれるわね」
「すいません」
「あ、違うのよ。あなた達のことを言ったんじゃないの」
どうやら副ギルド長も薬師ギルドが裏で関わっていると察したらしい。
「このまま錬金術ギルドに入るのは危険だわ」
「危険?」
「えぇ、どうやらこの辺りに不届き者が潜んでいるようなの。しかも錬金術ギルドを狙ってるみたい」
「えっ」
驚いたように目を見開き、慌てたように脇道から顔を出そうすると副ギルド長に強引に止められた。
「待って、あなたは少しの間だけここに居てくれないかしら。すぐに片付けて来るから」
「それって、どういう──」
ボクが困惑した演技をしながらの言葉を最後まで言い切る前に、副ギルド長は通りに躍り出るなり、最も近くに潜んだ招かれざる客が居る場所に、即時展開した『フィジカルブースト』で強化された脚力を遺憾なく発揮して高速で接近していた。
次の瞬間にはひとり目の不届き者が、副ギルド長にのされて通りに転がることとなった。それをきっかけに潜んでいた他の不届き者が、わらわらと通りに現れて副ギルド長を排除しようと動き出した。そんな中でふたりだけ、気配を隠したまま別の動きをする者が居た。そちらは通りに姿を見せた連中とは明らかに実力が違うようだった。
別働隊と思われる実力者ふたりは、他の者を囮にして潜伏したまま副ギルド長の隙を窺っているようだった。その様子から、おそらく【隠密】や【潜伏】に加えて【投擲】か【狙撃】スキル持ちの天職だと思われる。ボクの天職である盗賊でも似たスキルを習得出来るからか、ボクには彼らの存在がありありとわかっていた。
だけれど副ギルド長は、それらの存在に気付いた様子はない。副ギルド長は単純に正面から攻撃を仕掛けて行ったところからして、複数人を相手に真っ向勝負するくらいには腕に自信があるようだけれど、どうにも搦め手には弱そうな印象があった。
そのまま静観しているのは副ギルド長にとって危険だと判断したボクは、ウエストポーチから黄色いスライムがドロップした小瓶を複数取り出した。
小瓶の蓋を取り、口を下に向けてさらさらと風に乗せるように中身をこぼす。それと同時に魔力で粉末を包み込み、【奪取】と逆順の魔力の流れを片道だけつくり出した。
それは【奪取】スキルを天職任せの自動発動ではなく、魔力操作による任意発動させたときと同じように【投擲】スキルの魔力の流れを魔力操作によって再現したものだった。
その魔力が流れ着く先には、ふたりの潜伏者。
自動発動の【投擲】スキルは、魔力で目標地点までの軌道を予め用意して正確に投擲物を命中させるのに対して、任意発動させた場合は【奪取】と真逆に『手元にある投擲物を直接目標地点に転送する』効果を発揮した。
それは錬金術ギルドの地下で照明用の[アイテムキューブ]を天井に設置しているときに発見した使用法だった。
小瓶からこぼれ落ちた粉末は【投擲】スキルによって、瞬間的に潜伏者ふたりの元に転送され、その効果を十全に振るった。潜伏者ふたりは、全身の筋肉が弛緩したのか力を失うのと同時に、潜伏するのに使用していたスキルが解除され、副ギルド長に存在を感知されていた。
囮にされていた者達を徒手空拳にて全て退けた副ギルド長は、力が入らなくなり動きの鈍くなった潜伏者達を、物陰から引き摺り出していた。
その様子を脇道から顔を覗かせるようにして、ボクは恐る恐るといった振る舞いで通りを窺いながら手の中に残った空の小瓶をウエストポーチにしまい込んだ。
ほどなく錬金術ギルド付近にまで至ったところで、ボクは招かれざる客があちこちに複数潜んでいるのに気付いた。ボクはそれらに気付かないフリをして、無警戒に錬金術ギルドに駆け込むことにした。すると背後を余裕を持って付いて来ていた副ギルド長が、ボクの襟首を掴んで強引に引き留め、脇道にボクを引き込んだ。
「どう、しましたか」
肩で息をしながら問うと副ギルド長は、脇道の入口から錬金術ギルド周辺をこっそりと覗き込むように、招かれざる客が潜んでいると思われる場所に目を走らせせた。確認が終わると脇道に引っ込んで、ボクの目を真っ直ぐに見据えて来た。
「少しいいかしら」
「なんでしょうか」
「目的地は錬金術ギルドでいいのよね?」
「はい、そうです」
「ちょっと聞きたいんだけど、最近所属のギルド員がトラブルに巻き込まれたとか話を聞いてたりしないかしら」
「トラブルですか?」
「そうね。例えば人に恨まれたりだとか、目立つことをして目を付けられたりだとか」
少し考える素振りをしてボクは口を開いた。
「トラブルと言えるかどうかわかりませんが……最近うちに所属してくれた錬金術師の方がいるのですが、彼が今日の夕方ごろに城壁外で作製したたくさんのポーションを東の城門で没収されたくらいだと思います」
それを聞いた副ギルド長は、こめかみを押さえるようにして額に手を当て、ため息を吐いた。
「きっとそれね。本当に余計なことをしてくれるわね」
「すいません」
「あ、違うのよ。あなた達のことを言ったんじゃないの」
どうやら副ギルド長も薬師ギルドが裏で関わっていると察したらしい。
「このまま錬金術ギルドに入るのは危険だわ」
「危険?」
「えぇ、どうやらこの辺りに不届き者が潜んでいるようなの。しかも錬金術ギルドを狙ってるみたい」
「えっ」
驚いたように目を見開き、慌てたように脇道から顔を出そうすると副ギルド長に強引に止められた。
「待って、あなたは少しの間だけここに居てくれないかしら。すぐに片付けて来るから」
「それって、どういう──」
ボクが困惑した演技をしながらの言葉を最後まで言い切る前に、副ギルド長は通りに躍り出るなり、最も近くに潜んだ招かれざる客が居る場所に、即時展開した『フィジカルブースト』で強化された脚力を遺憾なく発揮して高速で接近していた。
次の瞬間にはひとり目の不届き者が、副ギルド長にのされて通りに転がることとなった。それをきっかけに潜んでいた他の不届き者が、わらわらと通りに現れて副ギルド長を排除しようと動き出した。そんな中でふたりだけ、気配を隠したまま別の動きをする者が居た。そちらは通りに姿を見せた連中とは明らかに実力が違うようだった。
別働隊と思われる実力者ふたりは、他の者を囮にして潜伏したまま副ギルド長の隙を窺っているようだった。その様子から、おそらく【隠密】や【潜伏】に加えて【投擲】か【狙撃】スキル持ちの天職だと思われる。ボクの天職である盗賊でも似たスキルを習得出来るからか、ボクには彼らの存在がありありとわかっていた。
だけれど副ギルド長は、それらの存在に気付いた様子はない。副ギルド長は単純に正面から攻撃を仕掛けて行ったところからして、複数人を相手に真っ向勝負するくらいには腕に自信があるようだけれど、どうにも搦め手には弱そうな印象があった。
そのまま静観しているのは副ギルド長にとって危険だと判断したボクは、ウエストポーチから黄色いスライムがドロップした小瓶を複数取り出した。
小瓶の蓋を取り、口を下に向けてさらさらと風に乗せるように中身をこぼす。それと同時に魔力で粉末を包み込み、【奪取】と逆順の魔力の流れを片道だけつくり出した。
それは【奪取】スキルを天職任せの自動発動ではなく、魔力操作による任意発動させたときと同じように【投擲】スキルの魔力の流れを魔力操作によって再現したものだった。
その魔力が流れ着く先には、ふたりの潜伏者。
自動発動の【投擲】スキルは、魔力で目標地点までの軌道を予め用意して正確に投擲物を命中させるのに対して、任意発動させた場合は【奪取】と真逆に『手元にある投擲物を直接目標地点に転送する』効果を発揮した。
それは錬金術ギルドの地下で照明用の[アイテムキューブ]を天井に設置しているときに発見した使用法だった。
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囮にされていた者達を徒手空拳にて全て退けた副ギルド長は、力が入らなくなり動きの鈍くなった潜伏者達を、物陰から引き摺り出していた。
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