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080 盗賊さん、驚かれる。
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ヒカリさんに渡された食券を使って、冒険者ギルド内に併設された飲食店で昼食を摂る。可もなく不可もなくといった無難な食事を口にしながら、次になにをするかを話し合う。
「優先順位の高い要件は片付いたようだし、私達はこれから今日の宿を確保しに行くつもりなんだが、どこかいい場所はないかな」
「それなら心配する必要はないよ。ボクがお世話になってるギルドにふたりを泊める許可をもらってるからね」
「そうなのか。そういうことなら遠慮なくお邪魔させてもらうとしよう」
「それって、どんなところかしら」
「所属してる人間が、ボクを入れてふたり……いや、3人しかいないギルドだよ」
ラビィを錬金術ギルドの一員として加えていいか迷ったけれど、一応メンバーとして数に入れてふたりには伝えた。
「それって、成り立ってるのかい」
「現状は休業状態みたいなものだよ。つい最近ギルドマスターが亡くなって、いろいろとごたついたらしくってね」
「引き継ぎもままならなかったような状況だったとしても、あまりにも無策が過ぎるね。そういった事態を想定してなかったのかな」
「その辺りの事情は、ギルドに着いてから話すよ」
そのひとことでなにかしら察してくれたようで、アッシュはそれ以降その話題を口にしなかった。
ほどなく食事を済ませたボクらは、そのまま取り止めもない談笑していると、食器類を引き下げに来た給仕さんが、アッシュとサク姉の前に冒険者証を置いていった。
どうやらヒカリさんはボクらを改めて呼び出して、目立たせないように気を遣ってくれたらしい。
無事にふたりの冒険者証を入手したボクらは、冒険者ギルドを後にした。
ふたりを引き連れて錬金術ギルドに到着すると、ふたりは目的地を目にするなり駆け寄って行き、壁に手を触れさせながらなにやらぶつぶつと言葉を交わしていた。ボクからはそれなりに距離があって、ふたりの交わす会話の内容までは聞き取れなかった。
「ヒロちゃん。この建物を建てたのは、ここのギルドマスターだったのかしら」
「それはそうなんじゃないかな」
「ここって魔術師ギルドかなにかなの? バーガンディには、ろくに魔術師はいないって聞いてたんだけど」
「違うよ。ここは錬金術ギルドだよ」
「って、ことはこれって付与魔術じゃなく、なにかを【合成】されたものなのかしら」
「薬草だよ」
「えっ」
ボクの返答にサク姉は、驚きで表情をいっぱいにした。けれどすぐに気を取り直して、キリッとした表情に切り替えて思索に耽っていた。
「薬草も建材として使われている木材も植物なのだから【合成】の難易度は、それほどでもないのかしら……だとしても一体どれだけの薬草を使用したというの」
完全に自分の世界に没入してしまったサク姉から隣に目を移す。そこに立つアッシュはアッシュで、壁に軽く爪を立ててちいさな傷を付けようとしていたけれど、壁にはなんの跡も付くことはなかった。
「ヒイロ。もしかしてだが、この建物全体に【施錠】を使用したのかな」
「うん、そうだね。最近ちょっと物騒なことがあってね。その対策として念のためにね」
「そういうことか。サクラ。そう考え込まずとも本人に話を聞けばわかるんだから、とりあえず中に入ろう」
「え、どういう──」
そこまで口にしたサク姉は、ばっとボクの方を振り返って大きく目を見開いていた。
「もしかしてヒロちゃんがこれを」
「そういうことだろうね」
なにを驚いているのかわからないボクの代わりに、アッシュがサク姉に答えていた。
「なんのことかわからないけど、聞きたいことがあるんなら中で聞くよ」
そう答えながらボクは玄関扉の鍵を開け、ふたりに入るようにと招いた。
ふたりをいつものテーブルに案内して、ボクは台所に行き、人数分のマグカップに適当な飲み物を注いで運んで来たものを、それぞれの前に置いた。
「それでボクに聞きたいことって?」
「この建物のことだよ。明らかに魔力が宿ってる。しかも発動こそしていないようだけど、なんらかのスキルが常駐してるようなんだよね。それがなんなのか知りたいんだよ」
「この建物の木造部分に薬草を合成させたんだよ。だから、アッシュの言う常駐してるってスキルは【治癒】だね。魔力を流し込めば、ちいさな傷くらいは治せるとようになると思ってさ。あっ」
そこまで話して、ボクは忘れていた事実に思い至った。確か【施錠】したものには、ボク以外の魔力は受け付けなかったはず。
「どうした」
「アッシュ、ちょっと床に魔力を流し込んでみてくれないかな」
「かまわないが」
簡単に請け負ってくれたアッシュが、脚から床に魔力を流し込もうとして、顔をしかめた。
「魔力が浸透する気配が全くないな。この感じどこかで……」
思い当たるものが浮かばずに考え込むアッシュの隣で、サク姉も床に魔力を流し込もうと試みていた。そして、はっとした表情を浮かべた。
「これってあれじゃない。ダンジョン」
そんなサク姉の発言を耳にしたアッシュも、腑に落ちたといった表情をした。
「あぁ、そうだ。なにかに似てると思ったが、これはダンジョンの壁なんかと似てるな」
ボクが説明するまでもなく、ふたりは自力で正解を導き出していた。練武場でも思ったけれど、そういったわからないことや気になったことを、追究しようとするふたりの研究者気質なところは、レッドグレイヴ出身者であることを色濃く醸し出していた。
このふたりの協力があれば、ボクのスキルの検証も捗りそうだ。それと薬草栽培に関してもね。
察しのいいふたりのことだから、黙ってたとしても勝手に気付くだろうし、それだったら最初から話しておいた方が早いかな。ふたりはボクの天職が『盗賊』だと知ってるし、レッドグレイヴ領を追放された事情も知ってるから、スキル関連のことを隠す必要性が感じられないしね。
「優先順位の高い要件は片付いたようだし、私達はこれから今日の宿を確保しに行くつもりなんだが、どこかいい場所はないかな」
「それなら心配する必要はないよ。ボクがお世話になってるギルドにふたりを泊める許可をもらってるからね」
「そうなのか。そういうことなら遠慮なくお邪魔させてもらうとしよう」
「それって、どんなところかしら」
「所属してる人間が、ボクを入れてふたり……いや、3人しかいないギルドだよ」
ラビィを錬金術ギルドの一員として加えていいか迷ったけれど、一応メンバーとして数に入れてふたりには伝えた。
「それって、成り立ってるのかい」
「現状は休業状態みたいなものだよ。つい最近ギルドマスターが亡くなって、いろいろとごたついたらしくってね」
「引き継ぎもままならなかったような状況だったとしても、あまりにも無策が過ぎるね。そういった事態を想定してなかったのかな」
「その辺りの事情は、ギルドに着いてから話すよ」
そのひとことでなにかしら察してくれたようで、アッシュはそれ以降その話題を口にしなかった。
ほどなく食事を済ませたボクらは、そのまま取り止めもない談笑していると、食器類を引き下げに来た給仕さんが、アッシュとサク姉の前に冒険者証を置いていった。
どうやらヒカリさんはボクらを改めて呼び出して、目立たせないように気を遣ってくれたらしい。
無事にふたりの冒険者証を入手したボクらは、冒険者ギルドを後にした。
ふたりを引き連れて錬金術ギルドに到着すると、ふたりは目的地を目にするなり駆け寄って行き、壁に手を触れさせながらなにやらぶつぶつと言葉を交わしていた。ボクからはそれなりに距離があって、ふたりの交わす会話の内容までは聞き取れなかった。
「ヒロちゃん。この建物を建てたのは、ここのギルドマスターだったのかしら」
「それはそうなんじゃないかな」
「ここって魔術師ギルドかなにかなの? バーガンディには、ろくに魔術師はいないって聞いてたんだけど」
「違うよ。ここは錬金術ギルドだよ」
「って、ことはこれって付与魔術じゃなく、なにかを【合成】されたものなのかしら」
「薬草だよ」
「えっ」
ボクの返答にサク姉は、驚きで表情をいっぱいにした。けれどすぐに気を取り直して、キリッとした表情に切り替えて思索に耽っていた。
「薬草も建材として使われている木材も植物なのだから【合成】の難易度は、それほどでもないのかしら……だとしても一体どれだけの薬草を使用したというの」
完全に自分の世界に没入してしまったサク姉から隣に目を移す。そこに立つアッシュはアッシュで、壁に軽く爪を立ててちいさな傷を付けようとしていたけれど、壁にはなんの跡も付くことはなかった。
「ヒイロ。もしかしてだが、この建物全体に【施錠】を使用したのかな」
「うん、そうだね。最近ちょっと物騒なことがあってね。その対策として念のためにね」
「そういうことか。サクラ。そう考え込まずとも本人に話を聞けばわかるんだから、とりあえず中に入ろう」
「え、どういう──」
そこまで口にしたサク姉は、ばっとボクの方を振り返って大きく目を見開いていた。
「もしかしてヒロちゃんがこれを」
「そういうことだろうね」
なにを驚いているのかわからないボクの代わりに、アッシュがサク姉に答えていた。
「なんのことかわからないけど、聞きたいことがあるんなら中で聞くよ」
そう答えながらボクは玄関扉の鍵を開け、ふたりに入るようにと招いた。
ふたりをいつものテーブルに案内して、ボクは台所に行き、人数分のマグカップに適当な飲み物を注いで運んで来たものを、それぞれの前に置いた。
「それでボクに聞きたいことって?」
「この建物のことだよ。明らかに魔力が宿ってる。しかも発動こそしていないようだけど、なんらかのスキルが常駐してるようなんだよね。それがなんなのか知りたいんだよ」
「この建物の木造部分に薬草を合成させたんだよ。だから、アッシュの言う常駐してるってスキルは【治癒】だね。魔力を流し込めば、ちいさな傷くらいは治せるとようになると思ってさ。あっ」
そこまで話して、ボクは忘れていた事実に思い至った。確か【施錠】したものには、ボク以外の魔力は受け付けなかったはず。
「どうした」
「アッシュ、ちょっと床に魔力を流し込んでみてくれないかな」
「かまわないが」
簡単に請け負ってくれたアッシュが、脚から床に魔力を流し込もうとして、顔をしかめた。
「魔力が浸透する気配が全くないな。この感じどこかで……」
思い当たるものが浮かばずに考え込むアッシュの隣で、サク姉も床に魔力を流し込もうと試みていた。そして、はっとした表情を浮かべた。
「これってあれじゃない。ダンジョン」
そんなサク姉の発言を耳にしたアッシュも、腑に落ちたといった表情をした。
「あぁ、そうだ。なにかに似てると思ったが、これはダンジョンの壁なんかと似てるな」
ボクが説明するまでもなく、ふたりは自力で正解を導き出していた。練武場でも思ったけれど、そういったわからないことや気になったことを、追究しようとするふたりの研究者気質なところは、レッドグレイヴ出身者であることを色濃く醸し出していた。
このふたりの協力があれば、ボクのスキルの検証も捗りそうだ。それと薬草栽培に関してもね。
察しのいいふたりのことだから、黙ってたとしても勝手に気付くだろうし、それだったら最初から話しておいた方が早いかな。ふたりはボクの天職が『盗賊』だと知ってるし、レッドグレイヴ領を追放された事情も知ってるから、スキル関連のことを隠す必要性が感じられないしね。
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