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111 盗賊さん、捜索する。
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例の魔物による被害で大鐘楼は破損してしまったのか、時を告げる鐘の音は聞こえて来ない。お腹の減り具合から、まだ昼にも満たない時間帯だとは思う。
「サク姉、泥の中や倒壊した建物に埋まってしまった人達を探索するのに適した召喚獣っている?」
「居なくはないよ。ただ要救助者の捜索をするのに数を必要とするだろうし、それだけの数をまとめて【召喚】するだけの魔力が今の私には足りてないかな。【召喚】出来ても小型の召喚獣を数匹ってところだと思うよ」
「それなら見本で1匹だけでもいいから【召喚】してくれないかな。それを模倣するから、サク姉はボクの魔力で形成された召喚獣に核だけを植え付けていって。それなら魔力が不足してても問題ないよね」
ボクの提案に対してサク姉は、しばし考え込むとちいさく頷いた。
「すべて操作可能かどうかはわからないけど、やるだけの価値はあるかもね。それじゃあ、1匹だけ【召喚】するね」
サク姉は手を翳して【召喚】の体勢に入り、手の平に収まりそうな範囲に魔力を放出して、召喚対象となる召喚獣の姿形を形作っていった。
「【召喚】『マッドスキッパー』」
詠唱とともに呼び出されたのは、カエルのように頭部に眼球が突き出し、胸鰭が陸上生物の上腕のように発達した魚のような全長10cmにも満たない生物だった。
「魚?」
「そ。泥の上を這い回ったりするのに慣れた生き物かな。土地の大半が液状化した今のバーガンディでなら自由に動き回れるし、小型だからこの仔なら狭い場所も容易に探れると思ってね」
「魚なのに水の外にいても平気なんだね」
「そういう生き物だからね」
初めて見る生き物だったが、そういうものだと認識したボクは、その生物を【召喚】すべく、魔力を操作する。その数は100匹前後を想定して可能な限り、数を用意した。それを目にしたサク姉は、一瞬たじろいだようだけれど、薄く笑って次々と召喚獣に核を植え付けて実体化させていく。最終的に実体化したマッドスキッパーの数は85匹だった。
「サク姉、個別に操作出来そう?」
「個々を独自に行動させること自体は可能かな。ただ感覚共有するのは難しいかもね。それでも要救護者を発見して、知らせてもらうことくらいは問題なくやれるかな」
「じゃあ、お願い出来る」
「えぇ、あれからそれなりに時間も経ってしまっているし、急ぎましょうか」
錬金術ギルドを出ると、サク姉はマッドスキッパーを一斉に方々へと散らせた。それからほどなくしてサク姉は、瓦礫に埋もれた生存者を発見したらしく、ボクを引き連れて要救護者の元へと案内していった。その都度都度で、ボクは【奪取】を駆使して瓦礫を[アイテムキューブ]化して除去することで生き埋めになっていた人達を救出していった。
瓦礫に押し潰されてひどい骨折などで身動きが取れなくなっていたひとには、複製したお手製の特殊ポーションを振り掛けて回復させ、意識があるようなら自力で避難所となっている冒険者ギルドに向かってもらった。
意識のなかったひとに関しては、付近で生存者の捜索活動を行っていた衛兵隊の人達に頼んだ。錬金術ギルドのある北東部の救助活動がひと段落したボクらは、最も液状化の被害が大きい北西部に向かった。
泥状になった地面の上をマッドスキッパー達は、カエルのようにぴょこぴょこと飛び回り、次々と生存者を発見していった。そのときにはもうふたりだけで対処するには手が足りなくなっていたが、意識のなかった生存者を任せた衛兵隊の人達が要救護者を冒険者ギルドに運び終わって、ボクらの元に駆け付けてくれていた。
人手が集まったことでボクは瓦礫の除去に徹することが可能になり、生存者の救出自体は衛兵隊に任せるなどして、それぞれの作業を分担していった。例の魔物が出現して半日と経っていなかったこともあり、泥の中に埋もれて一切身動きも取れない状況に陥っていたひとも多数いたが、発見者の多くは命に別状はなかった。
それでも救えなかったひとの数はかなりの数に達していた。頭まで泥の中に沈み、呼吸もままならなかった者の亡骸などが、生存者を発見した現場から出ることがしばしばあった。
その亡骸を弔う余裕すらないまま、ボクらは次の地区、また次の地区と救助活動を進めていった。それは日が暮れて救助活動が困難になるまで続けられた。
完全に日が落ち、今日の捜索を打ち切ろうと話が出たとき、日暮れ前に救助した人物が、近くに子供がいるはずだからどうか探してくれないかと衛兵隊に縋り付いて懇願していた。
運の悪いことに液状化のひどい地区だったので、暗がりの中での捜索は、かなりの危険を孕んでいた。縋り付かれた衛兵隊員は、それを懇切丁寧に説明しようとしていたが、相手は聞く耳を持っていなかった。
「サク姉、生存者の反応はありそう?」
ダメ元でサク姉に訊ねてみたけれど、ちいさく首を横に振られただけだった。ボク自身も周辺の魔力反応を探ってみたけれど、生存者ではあり得ない魔力抵抗の感じられない魔力を感知するばかりだった。ボクは無駄だとわかっていたが、泥の中に埋もれたちいさな魔力反応を頼りに【奪取】を使用して、それを手元に引き上げた。
身体そのものを【奪取】出来た以上、それは当然ならが生存者ではなかった。ボクの腕の中には、既に生き絶えた泥まみれの子供の亡骸だけがあった。顔に付着した泥を拭ってやり、魔導灯の光が届くところにまで運ぶ。それに気付いた母親らしき女性は、こちらに駆け寄って来ると、その顔を確かめるなり、子供の名を何度も呼びかけていた。静まり返った夜の街に、女性の悲痛な声だけが響き渡った。
「サク姉、泥の中や倒壊した建物に埋まってしまった人達を探索するのに適した召喚獣っている?」
「居なくはないよ。ただ要救助者の捜索をするのに数を必要とするだろうし、それだけの数をまとめて【召喚】するだけの魔力が今の私には足りてないかな。【召喚】出来ても小型の召喚獣を数匹ってところだと思うよ」
「それなら見本で1匹だけでもいいから【召喚】してくれないかな。それを模倣するから、サク姉はボクの魔力で形成された召喚獣に核だけを植え付けていって。それなら魔力が不足してても問題ないよね」
ボクの提案に対してサク姉は、しばし考え込むとちいさく頷いた。
「すべて操作可能かどうかはわからないけど、やるだけの価値はあるかもね。それじゃあ、1匹だけ【召喚】するね」
サク姉は手を翳して【召喚】の体勢に入り、手の平に収まりそうな範囲に魔力を放出して、召喚対象となる召喚獣の姿形を形作っていった。
「【召喚】『マッドスキッパー』」
詠唱とともに呼び出されたのは、カエルのように頭部に眼球が突き出し、胸鰭が陸上生物の上腕のように発達した魚のような全長10cmにも満たない生物だった。
「魚?」
「そ。泥の上を這い回ったりするのに慣れた生き物かな。土地の大半が液状化した今のバーガンディでなら自由に動き回れるし、小型だからこの仔なら狭い場所も容易に探れると思ってね」
「魚なのに水の外にいても平気なんだね」
「そういう生き物だからね」
初めて見る生き物だったが、そういうものだと認識したボクは、その生物を【召喚】すべく、魔力を操作する。その数は100匹前後を想定して可能な限り、数を用意した。それを目にしたサク姉は、一瞬たじろいだようだけれど、薄く笑って次々と召喚獣に核を植え付けて実体化させていく。最終的に実体化したマッドスキッパーの数は85匹だった。
「サク姉、個別に操作出来そう?」
「個々を独自に行動させること自体は可能かな。ただ感覚共有するのは難しいかもね。それでも要救護者を発見して、知らせてもらうことくらいは問題なくやれるかな」
「じゃあ、お願い出来る」
「えぇ、あれからそれなりに時間も経ってしまっているし、急ぎましょうか」
錬金術ギルドを出ると、サク姉はマッドスキッパーを一斉に方々へと散らせた。それからほどなくしてサク姉は、瓦礫に埋もれた生存者を発見したらしく、ボクを引き連れて要救護者の元へと案内していった。その都度都度で、ボクは【奪取】を駆使して瓦礫を[アイテムキューブ]化して除去することで生き埋めになっていた人達を救出していった。
瓦礫に押し潰されてひどい骨折などで身動きが取れなくなっていたひとには、複製したお手製の特殊ポーションを振り掛けて回復させ、意識があるようなら自力で避難所となっている冒険者ギルドに向かってもらった。
意識のなかったひとに関しては、付近で生存者の捜索活動を行っていた衛兵隊の人達に頼んだ。錬金術ギルドのある北東部の救助活動がひと段落したボクらは、最も液状化の被害が大きい北西部に向かった。
泥状になった地面の上をマッドスキッパー達は、カエルのようにぴょこぴょこと飛び回り、次々と生存者を発見していった。そのときにはもうふたりだけで対処するには手が足りなくなっていたが、意識のなかった生存者を任せた衛兵隊の人達が要救護者を冒険者ギルドに運び終わって、ボクらの元に駆け付けてくれていた。
人手が集まったことでボクは瓦礫の除去に徹することが可能になり、生存者の救出自体は衛兵隊に任せるなどして、それぞれの作業を分担していった。例の魔物が出現して半日と経っていなかったこともあり、泥の中に埋もれて一切身動きも取れない状況に陥っていたひとも多数いたが、発見者の多くは命に別状はなかった。
それでも救えなかったひとの数はかなりの数に達していた。頭まで泥の中に沈み、呼吸もままならなかった者の亡骸などが、生存者を発見した現場から出ることがしばしばあった。
その亡骸を弔う余裕すらないまま、ボクらは次の地区、また次の地区と救助活動を進めていった。それは日が暮れて救助活動が困難になるまで続けられた。
完全に日が落ち、今日の捜索を打ち切ろうと話が出たとき、日暮れ前に救助した人物が、近くに子供がいるはずだからどうか探してくれないかと衛兵隊に縋り付いて懇願していた。
運の悪いことに液状化のひどい地区だったので、暗がりの中での捜索は、かなりの危険を孕んでいた。縋り付かれた衛兵隊員は、それを懇切丁寧に説明しようとしていたが、相手は聞く耳を持っていなかった。
「サク姉、生存者の反応はありそう?」
ダメ元でサク姉に訊ねてみたけれど、ちいさく首を横に振られただけだった。ボク自身も周辺の魔力反応を探ってみたけれど、生存者ではあり得ない魔力抵抗の感じられない魔力を感知するばかりだった。ボクは無駄だとわかっていたが、泥の中に埋もれたちいさな魔力反応を頼りに【奪取】を使用して、それを手元に引き上げた。
身体そのものを【奪取】出来た以上、それは当然ならが生存者ではなかった。ボクの腕の中には、既に生き絶えた泥まみれの子供の亡骸だけがあった。顔に付着した泥を拭ってやり、魔導灯の光が届くところにまで運ぶ。それに気付いた母親らしき女性は、こちらに駆け寄って来ると、その顔を確かめるなり、子供の名を何度も呼びかけていた。静まり返った夜の街に、女性の悲痛な声だけが響き渡った。
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