天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
112 / 118

112 盗賊さん、相談される。

しおりを挟む
 救助活動をひと段落させ、ボクとサク姉は南西部で衛兵隊員達と別れた。錬金術ギルドに戻ったボクらは、長風呂で疲れを溶かし、早々と眠りに就いた。

 翌朝、ボクらは再び救助活動に手を貸し、昼までに召喚獣を使ったバーガンディ全土の生存者の探索を終えた。それ以上は生存者の反応は拾えなかったので、ボクらは救助活動を継続して行う衛兵隊員達とは別れた。多少引き止められはしたけれど、善意による協力者として混ざっていたこともあり、離脱することを特に咎められることはなかった。その代わりに作業の合間にボクらが聞かされていた愚痴は、領主直属の騎士隊に対するものばかりだった。災害時に全く関係のない土地へと貴重な食料を大量に持ち出して、領主とともに遠征していくのを昨日の昼間に目にした衛兵隊員隊が文句を言っていた。その怒りは他の隊員達にも伝播して、どんどんと広がっているのが少し気になった。

 最後に探索した南東部を離れ、冒険者ギルドのある中央部へと足を運ぶ。すると安い仕立ての服を身にまとったラビィが、中央部の広場で所在なく立ち尽くしてボクらを待っていた。ボクらの姿を目にしたラビィは、それまで暗くしていた表情を明るいものに変えてボクらの元に駆け寄ってきた。
「よかった。心当たりのある場所を回ったのですが見つからなくて、ここで待ってたんですが行き違いにならなくてよかったです」
「なにかあった?」
「なにかあったと言いますか。これからあると言いますか」
 歯切れの悪いラビィの物言いに首を傾げる。
「ここでは言えないようなこと?」
「そう、ですね。ひとの耳のないところで落ち着いて話が出来ればいいのですが」
「それなら錬金術ギルドに行きましょうか」
「あ、はい」
 落ち着きのないラビィを引き連れて、ボクらは錬金術ギルドに戻った。いつものテーブルで話をしてもよかったが、念のために地下工房へと足を運んだ。扉を【施錠】してラビィに周囲には誰もいないことを告げると、強張らせていた肩をすとんと落とした。そんなラビィはへなへなと今にも床に座り込んでしまいそうなほど脚に力が入っていないようだった。
「それで、どうしたの」
 しばし逡巡したラビィは、意を決したように重々しく口を開いた。
「お父様が騎士隊を引き連れて領都を出たことはご存知ですか?」
「えぇ、そこら中で噂話になってるくらいだからね」
「それがきっかけと言うわけじゃないんですが、どうもグランツさんがこれを機に武装蜂起するつもりのようなんです」
「グランツさんというと衛兵隊長の?」
 ラビィはこくこくと頷いた。
「そうです。うちで働いてるひとらと結託してたみたいで、お父様が不在のうちにアイテム倉庫にあるものを大量に持ち出されて……えっと、お父様と面会したときに同室していた執事の方を覚えてますか」
「えぇ、彼がその手引きをしていたの」
「そうみたいです。お父様は後ろ暗いことを私に隠しているのはわかりきっていたましたので、ヒイロさんをお招きして以降に遠くの音を拾うアイテムを邸中に仕掛けたのですが、それを介して今回の計画を耳にすることになったんです。と言っても、既に計画は実行されつつあるみたいなんですけど」
 領主に対する不平不満の感情が、衛兵隊を通じて領都中にばら撒かれているたのはそれが理由だったのかと遅まきながら気付かされる。おそらく例の魔物による災害で、生活環境が著しく低下した避難民達の不平不満の感情の矛先を領主に向けさせ、それを利用するつもりなのだろう。一度怒りの感情に火がついてしまえば収拾をつけるのは難しい。かと言ってそれを解消させる手立てもないに等しかった。
 どう動くべきかと考え込んでいると、サク姉が口をはさんできた。
「ヒロちゃん。このままここに居るのは危険なんじゃない。確実に武力による政変に巻き込まれることになるわよ」
「そうだね。もう止めるのは難しいんじゃないかな。下手をしたら政変に便乗して弱い立場の人達に対して暴力行為や略奪行為が横行するかも」
 そんな言葉を交わしているとラビィが顔を青ざめさせいた。
「ラビィ。わかってるとは思うけど、しばらくは認識阻害の腕輪は絶対に外しちゃダメだよ」
 その理由はラビィも察しているらしく、認識阻害の腕輪を着けた手首を、ぎゅっと握っていた。
「今、暴動を起こしても災害で受けた被害が改善されるわけでもないでしょうに。どうするつもりなんでしょうね」
「そんなことは二の次なんでしょうね。領主を追い落とすには絶好の機会には違いないもの」
 短い沈黙を挟み、ボクはラビィに訊ねた。
「領主邸の現在の状況はどうなってるの?」
「既に占拠されてます。私に変化した[シェイプシフター]も人質になっちゃってますし」
「よく抜け出せたね」
「昔からこっそり邸を抜け出したりしてたから、誰にも知られてない抜け道をいくつか知ってたんです。それを使ってどうにか……」
 どうやらラビィは普段からの行動に救われたらしい。
「実行犯を鎮圧するだけなら簡単だけど、遠からず扇動された一般の人達が出て来てもおかしくない状況なんだよね」
 長い時間をかけて領主に対する不満は蓄積されて来てるし、印象を覆すのは難しい。それに扇動しているのは被災者の救助活動にあたっていた衛兵隊員達なのである。領民がどちらに着くかなど、考えるまでもなくわかりきったことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...