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115 盗賊さん、改善案を求める。
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スライムダンジョン跡地での一件から日中の作業は難しいと判断したボクは、日没後に別のダンジョン跡地の改修を行うことにした。またそれに際して、作業前までに軽い調査を予定に入れた。
錬金術ギルドに戻ったボクらは、いつものテーブルで一仕事を終えてひと息つく。まったりとした雰囲気の中でボクは、ダンジョン跡地改修に関して、ダンジョン探索者としてのサク姉から意見をもらうことにした。
「サク姉、ダンジョンで最も不便なことってなにかな」
急な話題にサク姉は頭上に疑問符を浮かべた。
「薮から棒にどうしたの?」
「スライムダンジョン跡地は、居住空間とも呼べない扉を付けただけの直方体の横穴を用意しただけだからさ。時間もなかったこともあって居住性皆無だし、次はその辺り改善しないとひとが入らないんじゃないかと思ってさ」
「元々ダンジョンなんだし、その辺りは仕方ないんじゃない。そういったことも織り込み済みで、あのダンジョンを改修したんでしょう」
「まぁ、そうなんだけどね。でも、ダンジョンが人間のために部屋を用意するのも変だから、災害地を目にして流れの錬金術師が、ダンジョン跡地に避難所を兼ねた即席の集合住宅を用意したって方向に噂をシフトしたいんだ」
などと今後の方針を話していると、ラビィがキラキラとした目でボクを見つめていた。おそらく、またヒーローがどうのといった妄想に取り憑かれているのだろう。今回に限っては正体を伏せての行動になるので、図らずもラビィの想い描くヒーロー像に合致してしまうのは仕方のないことだった。もしボクが必要以上の施しをバーガンディの住民に与えたとなると、面倒が生じるのが目に見えている。なので避難所として使える簡易の住居だけを提供することに決めていた。
食に関しては、冒険者に食用の魔獣討伐を依頼したり、農作物などは付近の農村とのやり取りを通じて独自に解消して欲しいところ。領主がダンジョンに依存した領地経営をする前は、その手のやり取りは元々あったはずだからね。
「そういうことね。そうね……」
ボクの説明を受けたサク姉は、記憶を掘り返すように視線を上に向け、顎に手を当てて過去の探索を思い返していた。するとサク姉は思い当たるものがあったらしかったが、なんとも言えない表情をした。
「サク姉? 何か思いついた」
「んー、まぁ、生きてる以上は仕方のないことかな」
「それって、なに」
そう質問すると妄想しながら横で話を聞いていたラビィが、バッ真っ直ぐに手を挙げた。
「なにかわかりました。それってトイレですよね、サクラ姉様」
自分の導き出した解答をハキハキと答えたラビィは、サク姉に答えを求めていた。それに対してサク姉は苦笑いをしていたことから、それが正解であると察せられた。
「そうね。ダンジョンで一番困るのは排泄関係ね。長期間の探索となるとどうしてもね。空腹は食料を持ち込むことで解消されるけど、食事を取る以上は当然出るものもあるわけだからね」
「その辺りはどう処理してたの」
答え難い質問だったかもしれないけれど、ボクがスライムダンジョン跡地に用意した簡易住居も、それに関しては全く考慮されていないので、ある程度の知識は欲しかった。
「簡単にいってしまうと、ダンジョン内であれば排泄物は時間経過で消滅するの。ある研究者の話では、排泄物に含まれる微量の魔力を取り込むためにダンジョンが吸収しているってことだったわ。その原理まではわかっていないけど、人間の死体なんかも同様の手段で吸収されているみたいだしね。どうも魔力を含んだ物質を取り込むのは、生物の体内で変換されてしまった魔力を元の魔素の状態に戻すのが目的だと言われているわ」
ダンジョンや魔物による魔素還元の話は以前聞いたことはあったけれど、今回の件とは頭の中で結び付かず、完全に失念していた。
「ダンジョンだと勝手に処理されていたのなら、ダンジョン機能が失われた場所では困ったことになってしまいますね」
「そうなるわね。それとダンジョンに吸収されるといっても、瞬間的に処理されるわけじゃないから放置なんかすると臭いなんかが残っちゃうんだよね。だから一部の探索者はおがくずを持ち込んで、排泄物にかぶせていたわ。下水設備の整ってない野営などで使われる手段らしいわ」
サク姉が言った野営で使われる簡易トイレも、ひとつの手法としてはありなのかな。トイレの排水先として地下に大空洞を創り出して、おがくずを敷き詰めておけば多少の汚水処理は……と考えたけれど、居住する人数なども考えると1日に出る大量の汚物を処理しきれずに、すぐダメになってしまいそうな未来しか見えなかった。
ダンジョンと同じように汚物を分解吸収してくれるものでも用意出来れば問題ないんだけどね。他に代案はないかと考えるものの、ボクらだけではよい案は出て来ず。ボクはバーガンディを発展させた錬金術師の先人であるカネナリ・トキハ氏の知恵を参考に出来ないだろうかと、冊子をパラパラと流し見た。
その中にサク姉が話してくれたおがくずを使ったトイレも、バイオトイレという名称で記載されていた。その覚書の中に記されたバクテリアと呼ばれる微細生物の記述が気になった。どうやらそのバクテリアなるものが、汚物を分解して処理してくれるらしい。その特徴などを目にしたとき、似た存在が脳裏をかすめた。
サイズは大きく違うが、バクテリアはどこかスライムと似ていた。低濃度魔素の中で活動可能な最弱のスライムなら、魔力あるものを喰らおうとする魔物の生態的に排泄物に含まれる魔力を求めて吸収してくれるはず。また汚水処理用の地下空間内でなら魔素が一気に流出することも少ないだろうから、魔素枯渇でスライムが消滅することもない。活動に消費された魔素も、排泄物に含まれる微量な魔力を分解して魔素に還元することで得られる。それに加えて汚水処理空間の外は魔素が薄いこともあり、スライムが外に出てくる可能性は薄い。出て来たとしても最弱のスライムなら一般の人間でも討伐は可能だろうし、問題はないはず。排泄物に含まれる微量な魔力を魔素還元したところでダンジョン化するほどの魔素も得られないだろうしね。
これで1番のネックとなりそうな地下住居のトイレ問題は、どうにか目処が立ちそうだった。
錬金術ギルドに戻ったボクらは、いつものテーブルで一仕事を終えてひと息つく。まったりとした雰囲気の中でボクは、ダンジョン跡地改修に関して、ダンジョン探索者としてのサク姉から意見をもらうことにした。
「サク姉、ダンジョンで最も不便なことってなにかな」
急な話題にサク姉は頭上に疑問符を浮かべた。
「薮から棒にどうしたの?」
「スライムダンジョン跡地は、居住空間とも呼べない扉を付けただけの直方体の横穴を用意しただけだからさ。時間もなかったこともあって居住性皆無だし、次はその辺り改善しないとひとが入らないんじゃないかと思ってさ」
「元々ダンジョンなんだし、その辺りは仕方ないんじゃない。そういったことも織り込み済みで、あのダンジョンを改修したんでしょう」
「まぁ、そうなんだけどね。でも、ダンジョンが人間のために部屋を用意するのも変だから、災害地を目にして流れの錬金術師が、ダンジョン跡地に避難所を兼ねた即席の集合住宅を用意したって方向に噂をシフトしたいんだ」
などと今後の方針を話していると、ラビィがキラキラとした目でボクを見つめていた。おそらく、またヒーローがどうのといった妄想に取り憑かれているのだろう。今回に限っては正体を伏せての行動になるので、図らずもラビィの想い描くヒーロー像に合致してしまうのは仕方のないことだった。もしボクが必要以上の施しをバーガンディの住民に与えたとなると、面倒が生じるのが目に見えている。なので避難所として使える簡易の住居だけを提供することに決めていた。
食に関しては、冒険者に食用の魔獣討伐を依頼したり、農作物などは付近の農村とのやり取りを通じて独自に解消して欲しいところ。領主がダンジョンに依存した領地経営をする前は、その手のやり取りは元々あったはずだからね。
「そういうことね。そうね……」
ボクの説明を受けたサク姉は、記憶を掘り返すように視線を上に向け、顎に手を当てて過去の探索を思い返していた。するとサク姉は思い当たるものがあったらしかったが、なんとも言えない表情をした。
「サク姉? 何か思いついた」
「んー、まぁ、生きてる以上は仕方のないことかな」
「それって、なに」
そう質問すると妄想しながら横で話を聞いていたラビィが、バッ真っ直ぐに手を挙げた。
「なにかわかりました。それってトイレですよね、サクラ姉様」
自分の導き出した解答をハキハキと答えたラビィは、サク姉に答えを求めていた。それに対してサク姉は苦笑いをしていたことから、それが正解であると察せられた。
「そうね。ダンジョンで一番困るのは排泄関係ね。長期間の探索となるとどうしてもね。空腹は食料を持ち込むことで解消されるけど、食事を取る以上は当然出るものもあるわけだからね」
「その辺りはどう処理してたの」
答え難い質問だったかもしれないけれど、ボクがスライムダンジョン跡地に用意した簡易住居も、それに関しては全く考慮されていないので、ある程度の知識は欲しかった。
「簡単にいってしまうと、ダンジョン内であれば排泄物は時間経過で消滅するの。ある研究者の話では、排泄物に含まれる微量の魔力を取り込むためにダンジョンが吸収しているってことだったわ。その原理まではわかっていないけど、人間の死体なんかも同様の手段で吸収されているみたいだしね。どうも魔力を含んだ物質を取り込むのは、生物の体内で変換されてしまった魔力を元の魔素の状態に戻すのが目的だと言われているわ」
ダンジョンや魔物による魔素還元の話は以前聞いたことはあったけれど、今回の件とは頭の中で結び付かず、完全に失念していた。
「ダンジョンだと勝手に処理されていたのなら、ダンジョン機能が失われた場所では困ったことになってしまいますね」
「そうなるわね。それとダンジョンに吸収されるといっても、瞬間的に処理されるわけじゃないから放置なんかすると臭いなんかが残っちゃうんだよね。だから一部の探索者はおがくずを持ち込んで、排泄物にかぶせていたわ。下水設備の整ってない野営などで使われる手段らしいわ」
サク姉が言った野営で使われる簡易トイレも、ひとつの手法としてはありなのかな。トイレの排水先として地下に大空洞を創り出して、おがくずを敷き詰めておけば多少の汚水処理は……と考えたけれど、居住する人数なども考えると1日に出る大量の汚物を処理しきれずに、すぐダメになってしまいそうな未来しか見えなかった。
ダンジョンと同じように汚物を分解吸収してくれるものでも用意出来れば問題ないんだけどね。他に代案はないかと考えるものの、ボクらだけではよい案は出て来ず。ボクはバーガンディを発展させた錬金術師の先人であるカネナリ・トキハ氏の知恵を参考に出来ないだろうかと、冊子をパラパラと流し見た。
その中にサク姉が話してくれたおがくずを使ったトイレも、バイオトイレという名称で記載されていた。その覚書の中に記されたバクテリアと呼ばれる微細生物の記述が気になった。どうやらそのバクテリアなるものが、汚物を分解して処理してくれるらしい。その特徴などを目にしたとき、似た存在が脳裏をかすめた。
サイズは大きく違うが、バクテリアはどこかスライムと似ていた。低濃度魔素の中で活動可能な最弱のスライムなら、魔力あるものを喰らおうとする魔物の生態的に排泄物に含まれる魔力を求めて吸収してくれるはず。また汚水処理用の地下空間内でなら魔素が一気に流出することも少ないだろうから、魔素枯渇でスライムが消滅することもない。活動に消費された魔素も、排泄物に含まれる微量な魔力を分解して魔素に還元することで得られる。それに加えて汚水処理空間の外は魔素が薄いこともあり、スライムが外に出てくる可能性は薄い。出て来たとしても最弱のスライムなら一般の人間でも討伐は可能だろうし、問題はないはず。排泄物に含まれる微量な魔力を魔素還元したところでダンジョン化するほどの魔素も得られないだろうしね。
これで1番のネックとなりそうな地下住居のトイレ問題は、どうにか目処が立ちそうだった。
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