踏ん張らずに生きよう

虎島沙風

文字の大きさ
上 下
20 / 29

友達になりたい(㊀)

しおりを挟む
 小四の頃の遥輝は授業をサボることはなかったが、目つきが悪くて無愛想だったので(それは今も変わらないが)、ハサミを振り回してもおかしくないというイメージを持たれていたのだろう。
 だから、『見た』と発言しなかった人も疑わなかったし否定しなかった。また、『見た』と発言した人は顔をよく見ずに遥輝だと決めつけてしまったのかもしれない。
 遥輝は苦々しい表情でそのように説明した。
「裕平と優護はさ……俺を救ってくれたんだ。あいつらにその気がなかったとしても俺は確実に救われた。自分を救ってくれた人に恩返しすんのって別におかしいことじゃないだろ?」
 遥輝は風哉をまっすぐ見詰めた。しかし風哉は優雅に飛んでいるアゲハチョウをぼんやりと眺めている。海結は心ここにあらずな風哉が心配でたまらなかったが、声をかけづらくまた声をかけない方がいいのかもしれないと思って話しかけなかった。
「恩返しすんのがおかしいんじゃなくて恩返しする方法がおかしいでしょバカ! 何であんたが風哉くんを虐めるのがあいつらへの恩返しになるのよ!?」
 海結が怒りを抑え切れずに思ったことをそのまま口に出すと遥輝はかすかに微笑んだ。
「ああ……。自分でもバカだと思う」
 まさかそんな途方に暮れた迷子の子供のように笑うとは思いもしなかったので、海結はパニックになって言葉を返せなかった。
「あいつらが……、」
 遥輝は海結から目を逸らして俯きながらボソボソと話し続ける。
「最も楽しい趣味は虐めらしい。『大嫌いな奴の苦痛に歪んだ顔を見てる時に味わえる快感に勝るものはない』って裕平が言ってたんだ。多分、あの言葉は嘘じゃないと思う。俺は……。あいつらの虐めに加担した。恩返しするためだったけどそれはあいつらには言ってない。言う必要はないと判断した。
 あいつらと俺がやってることは完全に間違ってるよ。だけど、周りに流されることなく見てないものは見てないってはっきり言えるあいつらはかっこいいし絶対いい奴だから、いつか必ず間違ってることに気づいてくれるって……。ずっと。ずっと、信じてるんだよ」
 アゲハチョウを眺めていた風哉はいつの間にか、心配そうに遥輝の顔を窺っている。遥輝は汗で濡れた前髪をかきあげてから口を開いた。
「お前は虐められている最中に何度も説得してたよな? ……『他人を傷つけるゲームは一旦休憩して他の趣味を探してみようよ。俺も協力するから。このまま続けてたら後々後悔するかもしれないから』って。けど必死の説得も虚しく、『後悔しない。大人になって思い出した時に、やってよかったってしみじみ思うぐらい有意義な時間を過ごせてるから安心しろ。テメェが新しい趣味探しを提案したのは、俺たちのためじゃなくてテメェが虐められたくないからだろ。二度と喋るな』って裕平に返されてボコられてたけど」
しおりを挟む

処理中です...