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1 死の運命と始まりの事件
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アグレシア王国侯爵家、ビルワース侯爵家に生まれた赤い髪の少女――ガーベラは両親や使用人達から愛されていた。
美男美女の両親から受け継いだ顔面偏差値ハーバード級の愛くるしい顔立ち、母親譲りの宝石のような赤い瞳と綺麗な赤い髪もあるが、やはり侯爵家待望の第一子である事も大きな理由だろう。
王国貴族社会の中で「跡継ぎは男子」という風潮は強いものの、それでも親にとって子供という存在は可愛らしく愛らしいものだ。
ガーベラの両親は生まれた子が女の子だからといって落胆する事もなかった。まさに「目に入れても痛くない」といった愛しっぷりで、父親なんぞは職場である王城で常に娘の愛くるしさを自慢するほどである。
母である侯爵夫人も口では「お止め下さい」と言いながら、顔はニコニコと笑っていて旦那様と同じく満更でもない様子。そんな夫婦に笑みを浮かべる使用人達もガーベラに対しては非常に甘く、常にいっぱいの愛を注いでいた。
五歳に成長したガーベラは聞き分けが良い子と評価されてはいるものの、好奇心旺盛で何事にも興味を持つ活発な子に育った。
いたずらっ子のような顔で父親の執務室にある椅子に座りながら「お父様ごっこ」をしたり、母の隣に座りながら本を読むようせがんだり、侍女と手を繋いで庭を探検したり……。
かといって、幼少期から始まった侯爵家令嬢としての厳しい教育に関しても嫌とは言わず、素直に知識を吸収していく。聡明で明るく笑顔の絶えない、まさにビルワース侯爵家の長女として相応しい子だ。
しかし、彼女の人生は大きく変わる。その切っ掛けとなったのは彼女が五歳の時に見た夢であった。
この日、彼女が見た夢は真っ白な空間の中にポツンと佇むといったシーンから始まる。見慣れぬ風景に首を傾げていると、目の前に一人の男が現れた。
男の恰好は「おかしい」の一言に尽きる。
頭はスキンヘッドで、顔にはピンクで縁取られたハート型のサングラス。上着は赤色のアロハシャツでボタンは全開。首には金のネックレスを掛けていた。下はカーキ色のハーフパンツとサンダルといった格好である。
ガーベラが住む世界には存在しないファッション様式であり、それを目の当たりにした幼いガーベラも「変なおじさんがいる」と思ったに違いない。
だが、その男は顔を悲しそうに曇らせながら幼いガーベラに向かって告げたのだ。
『YOU、死ぬよ』
最初、ガーベラは何を言っているのか分からなかった。まず「YOU」という単語が理解できなかった。当然だ。別世界に存在する言語なのだから、彼女が理解できるはずもない。
だが、それに続く「死ぬ」という単語は理解できた。こちらは彼女が生きる世界で使われる言語だったからだ。
『YOU、死ぬ』
男はガーベラに人差し指を向けながらもう一度言った。そこでようやくガーベラは「自分が死ぬ」と言われている事に気付く。
「どうして?」
当然、彼女は理由を問うた。
彼女は先天的な病気を抱えているわけでもなければ、流行り病を患っているわけでもない。健康そのもので、愛に満ちた生活を送る彼女には死ぬ理由が思い当たらなかったからだ。
『YOU、不幸が巻き起こる。それは Destiny』
男はパチンと指を鳴らすと、白い空間に巨大なスクリーンが現れた。カタカタカタ、とどこかで映写機が回る音が鳴ると、スクリーンには「がおー」と吼えるライオンが映し出された。
一度スクリーンが暗転した後、映し出されたのは幸せに暮らす家族だ。スクリーンにはガーベラだけじゃなく、愛しい父と母が使用人達と笑顔に満ちた生活を送る様子が映し出される。
だが、もう一度スクリーンが暗転すると『355年 7月』とスクリーンの下に白い文字が映った。
次に映し出されたのは父と母が屋敷の前に停められた馬車に乗り込むシーンだった。どうやら二人は王城に向かうようで、ガーベラは屋敷でお留守番しているようにとお願いされたようだ。
馬車を背にした両親は中腰になりながら、ガーベラの頭を撫でる。
『良い子でお留守番していてね。お仕事が終わったらお土産を買ってくるからね』
ガーベラはおでこに父と母のキスを受け、元気な顔で「わかったわ! いってらっしゃい!」と返した。
カメラは屋敷を出発した馬車を追っていく。侯爵家の広い敷地から出て行く馬車。王都のメインストリートに進み出て、最初の十字路に差し掛かった時――脇から別の馬車が突っ込んで来た。
ガーベラの両親を乗せた馬車の脇腹に突っ込まれ、横転しそうになる。だが、これはただの衝突事故で終わらなかった。
衝突してきた馬車には爆薬が積まれていたのか、大爆発を起こす。両親を乗せた馬車とメインストリートを歩いていた王国民は爆発に飲まれてしまい、辺りはとても酷い有様となった。
爆発の煙が晴れると、メインストリートには馬車の残骸や爆発に巻き込まれた人々の死体が転がっている。辛うじて生きている者達のうめき声や悲鳴が木霊している中、カメラは一点をズームしていく。
映し出されたのは爆発で外に放り出された両親の死体。ぴくりとも動かぬ死体の様子が数秒間映し出された後、スクリーンは暗転して映像は終わった。
「う、うそ! うそよ!」
幼いガーベラは泣きながら必死に首を振って否定する。だが、映像を見せた男も首を振って否定した。
『NO。まだ続きがある』
次に映し出されたのは成長したガーベラが自室のベッドで眠る姿だった。
歳は十五くらいだろうか。背中まで伸びた赤い髪、成長した彼女は母によく似ており、美しい乙女という言葉がよく似合う顔立ち。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠るガーベラだったが、灯りの消えた自室の窓が静かに開く。
侵入者。
寝ているガーベラの自室に侵入して来たのは目元以外を黒い布と頭巾で隠した男。男は腰のナイフホルスターからナイフを引き抜くと、逆手に持ってゆっくりとガーベラの眠るベッドに近付いていく。
眠っている彼女を黒い影が覆う。
男はガーベラの口を手で塞いだ。瞬間、眠っていたガーベラの目が開き、男の姿を認識した彼女は悲鳴を上げる。しかし、彼女の声は男の手によって殺された。
半狂乱状態となったガーベラはどうにか逃げようと手足を必死に暴れさせる。
だが、非力な令嬢である彼女は男の力に勝てない。男はガーベラを押さえつけ、体に掛けていた毛布を弾き飛ばすと、彼女の腹部にナイフを突き刺した。
ジワリと腹から血が滲み、彼女の着ていた白い寝間着が赤いシミを作る。その後も、男は確実性を求めるように彼女の腹部を何度も刺突。
やがて、ガーベラの瞳からは生気が消えて――死亡した。
『YOU、死ぬ』
スクリーンに流れていた映像が終わると、男は再びガーベラを指差して告げた。
君は死ぬ運命にあるのだ、と。
「う、うそ! いや、いやよ! こんなのいや! わたし、信じないから!!」
泣き喚きながら首を振って髪を振り撒きながら否定するガーベラ。嫌だ嫌だ、と夢を否定していると、遠くから彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
声の主は彼女の母だ。母の声に集中すると、彼女はハッと目を覚ました。
目の前には父と母、そして執事長であるセバスチャンと専属侍女であるモナが心配そうにガーベラの顔を覗き込んでいた。
「おかあさま!」
「ガーベラ、随分とうなされていたわ。大丈夫?」
「こわい夢をみたの!」
大泣きしながらガーベラは母の胸に飛び込む。母は彼女の背中を撫でながら「大丈夫」と何度も繰り返した。
その日は家族全員同じベッドで眠った。その日以降、彼女は夢の事を思い出さぬよう過ごしていたのだが――
二年後、ガーベラが七歳になった年の夏。
愛する父と母は夢と同じく、爆発に巻き込まれて死亡した。
美男美女の両親から受け継いだ顔面偏差値ハーバード級の愛くるしい顔立ち、母親譲りの宝石のような赤い瞳と綺麗な赤い髪もあるが、やはり侯爵家待望の第一子である事も大きな理由だろう。
王国貴族社会の中で「跡継ぎは男子」という風潮は強いものの、それでも親にとって子供という存在は可愛らしく愛らしいものだ。
ガーベラの両親は生まれた子が女の子だからといって落胆する事もなかった。まさに「目に入れても痛くない」といった愛しっぷりで、父親なんぞは職場である王城で常に娘の愛くるしさを自慢するほどである。
母である侯爵夫人も口では「お止め下さい」と言いながら、顔はニコニコと笑っていて旦那様と同じく満更でもない様子。そんな夫婦に笑みを浮かべる使用人達もガーベラに対しては非常に甘く、常にいっぱいの愛を注いでいた。
五歳に成長したガーベラは聞き分けが良い子と評価されてはいるものの、好奇心旺盛で何事にも興味を持つ活発な子に育った。
いたずらっ子のような顔で父親の執務室にある椅子に座りながら「お父様ごっこ」をしたり、母の隣に座りながら本を読むようせがんだり、侍女と手を繋いで庭を探検したり……。
かといって、幼少期から始まった侯爵家令嬢としての厳しい教育に関しても嫌とは言わず、素直に知識を吸収していく。聡明で明るく笑顔の絶えない、まさにビルワース侯爵家の長女として相応しい子だ。
しかし、彼女の人生は大きく変わる。その切っ掛けとなったのは彼女が五歳の時に見た夢であった。
この日、彼女が見た夢は真っ白な空間の中にポツンと佇むといったシーンから始まる。見慣れぬ風景に首を傾げていると、目の前に一人の男が現れた。
男の恰好は「おかしい」の一言に尽きる。
頭はスキンヘッドで、顔にはピンクで縁取られたハート型のサングラス。上着は赤色のアロハシャツでボタンは全開。首には金のネックレスを掛けていた。下はカーキ色のハーフパンツとサンダルといった格好である。
ガーベラが住む世界には存在しないファッション様式であり、それを目の当たりにした幼いガーベラも「変なおじさんがいる」と思ったに違いない。
だが、その男は顔を悲しそうに曇らせながら幼いガーベラに向かって告げたのだ。
『YOU、死ぬよ』
最初、ガーベラは何を言っているのか分からなかった。まず「YOU」という単語が理解できなかった。当然だ。別世界に存在する言語なのだから、彼女が理解できるはずもない。
だが、それに続く「死ぬ」という単語は理解できた。こちらは彼女が生きる世界で使われる言語だったからだ。
『YOU、死ぬ』
男はガーベラに人差し指を向けながらもう一度言った。そこでようやくガーベラは「自分が死ぬ」と言われている事に気付く。
「どうして?」
当然、彼女は理由を問うた。
彼女は先天的な病気を抱えているわけでもなければ、流行り病を患っているわけでもない。健康そのもので、愛に満ちた生活を送る彼女には死ぬ理由が思い当たらなかったからだ。
『YOU、不幸が巻き起こる。それは Destiny』
男はパチンと指を鳴らすと、白い空間に巨大なスクリーンが現れた。カタカタカタ、とどこかで映写機が回る音が鳴ると、スクリーンには「がおー」と吼えるライオンが映し出された。
一度スクリーンが暗転した後、映し出されたのは幸せに暮らす家族だ。スクリーンにはガーベラだけじゃなく、愛しい父と母が使用人達と笑顔に満ちた生活を送る様子が映し出される。
だが、もう一度スクリーンが暗転すると『355年 7月』とスクリーンの下に白い文字が映った。
次に映し出されたのは父と母が屋敷の前に停められた馬車に乗り込むシーンだった。どうやら二人は王城に向かうようで、ガーベラは屋敷でお留守番しているようにとお願いされたようだ。
馬車を背にした両親は中腰になりながら、ガーベラの頭を撫でる。
『良い子でお留守番していてね。お仕事が終わったらお土産を買ってくるからね』
ガーベラはおでこに父と母のキスを受け、元気な顔で「わかったわ! いってらっしゃい!」と返した。
カメラは屋敷を出発した馬車を追っていく。侯爵家の広い敷地から出て行く馬車。王都のメインストリートに進み出て、最初の十字路に差し掛かった時――脇から別の馬車が突っ込んで来た。
ガーベラの両親を乗せた馬車の脇腹に突っ込まれ、横転しそうになる。だが、これはただの衝突事故で終わらなかった。
衝突してきた馬車には爆薬が積まれていたのか、大爆発を起こす。両親を乗せた馬車とメインストリートを歩いていた王国民は爆発に飲まれてしまい、辺りはとても酷い有様となった。
爆発の煙が晴れると、メインストリートには馬車の残骸や爆発に巻き込まれた人々の死体が転がっている。辛うじて生きている者達のうめき声や悲鳴が木霊している中、カメラは一点をズームしていく。
映し出されたのは爆発で外に放り出された両親の死体。ぴくりとも動かぬ死体の様子が数秒間映し出された後、スクリーンは暗転して映像は終わった。
「う、うそ! うそよ!」
幼いガーベラは泣きながら必死に首を振って否定する。だが、映像を見せた男も首を振って否定した。
『NO。まだ続きがある』
次に映し出されたのは成長したガーベラが自室のベッドで眠る姿だった。
歳は十五くらいだろうか。背中まで伸びた赤い髪、成長した彼女は母によく似ており、美しい乙女という言葉がよく似合う顔立ち。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠るガーベラだったが、灯りの消えた自室の窓が静かに開く。
侵入者。
寝ているガーベラの自室に侵入して来たのは目元以外を黒い布と頭巾で隠した男。男は腰のナイフホルスターからナイフを引き抜くと、逆手に持ってゆっくりとガーベラの眠るベッドに近付いていく。
眠っている彼女を黒い影が覆う。
男はガーベラの口を手で塞いだ。瞬間、眠っていたガーベラの目が開き、男の姿を認識した彼女は悲鳴を上げる。しかし、彼女の声は男の手によって殺された。
半狂乱状態となったガーベラはどうにか逃げようと手足を必死に暴れさせる。
だが、非力な令嬢である彼女は男の力に勝てない。男はガーベラを押さえつけ、体に掛けていた毛布を弾き飛ばすと、彼女の腹部にナイフを突き刺した。
ジワリと腹から血が滲み、彼女の着ていた白い寝間着が赤いシミを作る。その後も、男は確実性を求めるように彼女の腹部を何度も刺突。
やがて、ガーベラの瞳からは生気が消えて――死亡した。
『YOU、死ぬ』
スクリーンに流れていた映像が終わると、男は再びガーベラを指差して告げた。
君は死ぬ運命にあるのだ、と。
「う、うそ! いや、いやよ! こんなのいや! わたし、信じないから!!」
泣き喚きながら首を振って髪を振り撒きながら否定するガーベラ。嫌だ嫌だ、と夢を否定していると、遠くから彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
声の主は彼女の母だ。母の声に集中すると、彼女はハッと目を覚ました。
目の前には父と母、そして執事長であるセバスチャンと専属侍女であるモナが心配そうにガーベラの顔を覗き込んでいた。
「おかあさま!」
「ガーベラ、随分とうなされていたわ。大丈夫?」
「こわい夢をみたの!」
大泣きしながらガーベラは母の胸に飛び込む。母は彼女の背中を撫でながら「大丈夫」と何度も繰り返した。
その日は家族全員同じベッドで眠った。その日以降、彼女は夢の事を思い出さぬよう過ごしていたのだが――
二年後、ガーベラが七歳になった年の夏。
愛する父と母は夢と同じく、爆発に巻き込まれて死亡した。
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