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本編
7 憧れ
しおりを挟む傭兵団を全滅させたリーズレットは魔導車の整備を町民に行ってもらい、食料と水を積んで町から出発することにした。
「リーズレットさん、もう行っちゃうんですか?」
ココが寂しそうに言うと、リーズレットは傭兵から奪ったホルスターを胴に装着。
2丁の魔導銃とマガジンを収納して魔導車のドアを開けた。
「ええ。私、行くところがございましてよ」
リーズレットは旅の途中。いくら人に戻った彼女らに乞われようとも、ここで留まるわけにはいかない。
「どちらまで行くのですか?」
「南にある遺跡ですわ」
ココの問いに答えると、町で一番歳を取った老人が言った。
「遺跡……。悪魔の遺跡ですか?」
「悪魔の遺跡?」
なんだそれ、とリーズレットが問うと老人は頷きを返した。
「なんでも前時代に国を荒らした悪魔の住処であるとか、もしくは墓ではないかと……。色々な噂が囁かれている場所ですぞ」
「まぁ。恐ろしい噂ですわね。誰か囁き始めた噂かは知りませんが、見つけ次第必ず殺しますわよ」
「え?」
リーズレットは笑顔で言った。老人は幻聴だろうと思った。
「王国軍も随分前から遺跡を調査しているとか」
「調査?」
「ええ。前時代の遺跡からは悪魔が使用していた強力な武器が手に入ると言われております。その力は世界を変える、と」
世界を変える。確かにそうかもしれないとリーズレットは内心頷いた。
南にある遺跡はアイアン・レディが拠点として使っていたバンカーの可能性が高い。
保護した転生者達が異世界知識を駆使して開発した、独自技術を有するアイアン・レディの装備は当時の兵器でも頭2つは抜けていた。
一度崩壊し、技術力が失われた世界で手に入ったとしたら大変な事になる。
銃器ならばまだマシだ。
だが、機動戦車などの機甲兵器は現代技術にそぐわない、完全なるオーバースペック。劣化でもコピーできれば現代において最強の兵器となるだろう。
現代の秀でた技術と融和させればもっと強くなる可能性もある。
それらをもしも強奪されたとしたら。
「許しませんわよ」
「ヒィ!?」
老人が腰を抜かすほど、リーズレットは殺意を滲ませながら奥歯をガリッと噛み締めた。
王国が調査している場所が本当にアイアン・レディの拠点だとしたら。
中身は彼女の物だ。いや、彼女達――アイアン・レディの所有物だ。
立派に育った淑女や淑女見習い達が、リーズレットが愛すべき子供達が創り上げた作品だ。
それをどこぞのファッキンマザーファッカー共に奪われるなど……考えただけでも腹が煮えくり返りそうになった。
「王国は他にも遺跡の中身を手に入れたと思いまして?」
ローズレットの記憶の中に王国が遺跡に対して行った軍事行動の知識や記憶は無い。恐らく、ローズレットのような女性には知らされない部類の話なのだろう。
「え、ええ……。数十年前に一ヵ所を調査して中身を得たと国を挙げて騒ぎになった事が……」
こちらの情報も頭の中にはない。ローズレットが生まれる前の話か。
さすがに国中が話題一色になれば、男尊女卑思想に染まる王都の中でも気付くはず。
「そうですの」
もしも、王国が既にアイアン・レディの拠点から作品を盗っていたとしたら。
――滅ぼすに値する。
「貴重な情報、ありがとうございますわ。遺跡までの最短ルートが分かる地図などはございまして?」
「あ、用意しますよ!」
そう言って、ココは雑貨店の中に入って行った。
(これは急いだ方が良さそうですわね)
のんびりしている暇は無さそうだ。
幸いにも魔導車を動かす魔石は確保できたので、この先は寄り道せずに遺跡まで向かおうとリーズレットは心に決めた。
「持ってきました!」
ココが地図を持って走って来た。親切にも町の場所から遺跡のある場所に印を付けて、使用する街道も色を塗ってくれたようだ。
「助かりますわ」
「いえ、これくらいしか……」
笑顔で地図を受け取ったリーズレットにココは苦笑いを浮かべた。
まだ恩を返せていない、と感じるココはリーズレットに告げる。
「私、強くなります。リーズレットさんみたいに、強く」
もう成されるがままの弱い女性はいなかった。強い意思を心に秘める淑女見習いが誕生したのだ。
「そう。頑張りなさい」
リーズレットはココと握手を交わして魔導車に乗り込んだ。
「サリィ、行きますわよ」
「はい!」
エンジンをスタートさせて、町民に手を振られながら前進。逆さ吊りにされた豚共が並ぶ町の入り口を潜って去って行った。
「強い女性だった」
去って行く魔導車を見送りながら老人は小さく呟いた。
「うん。あの人は……世界を変えるのかも。ううん、きっと世界を変える人だよ」
ココはリーズレットから受け取った銃を胸に抱きながら決意する。
きっと彼女は、いつか世界を変える。世界を変える為に戦うだろう。
その時は、自分も共に戦おうと。
この時代で初めて、淑女への憧れが芽吹くのであった。
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リーズレットが去って行く光景を見ていたのは町民だけではなかった。
ホープタウンの近くにあるハゲ山の上から、頭にはブラウンの帽子、鼻から下は迷彩柄のバンダナで顔を隠しつつ、双眼鏡で一部始終を見ていた者がいた。
「あの人は……」
観察者が双眼鏡で追うのはリーズレットの乗る魔導車だ。
女性でありながら男の傭兵に立ち向かい、いとも簡単に殺す様を1日前に見た。
目撃したのは完全に偶然だった。ホープタウンで補給をしようとしたが、傭兵団が町へ向かうのを見つけて隠れたのが始まり。
町が蹂躙されるんじゃないかと、このハゲ山に登ってカモフラージュ用のマントを全身に被せながら観察を開始して――事態を目撃した。
観察者は双眼鏡の先で繰り広げられる光景を見て目を奪われた。
ドレスのスカートを風にたなびかせ、綺麗なプラチナブロンドの髪が流れるように舞う。
的確なショット。理想的な距離感。踏み込みとステップの力強さ。
返り血すらも浴びず、もはや芸術と言ってよいほどの手際。
観察者は赤いドレスの女性に心奪われた。だからこそ、向かう先を知りたがる。
「南に走って行く……」
観察者の声質は女性のモノだった。地図を広げ、南に何があるかを確認する。
「遺跡?」
南に町はない。果てまで行けば海があるが、海まで行ってからの目的が浮かばない。
それならば途中にある遺跡を目指していると考えるのが妥当だろう。
観察者は通信機を取り出して仲間に連絡を入れた。
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