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本編
10 淑女達の聖域
しおりを挟む地下拠点の中は非常灯だけが灯り、節電モードになっているようだ。
電子錠が生きていた事からまだ主電源を再起動すれば施設が使えるはずだ。
緑色に光る非常灯の灯りと自分の記憶を頼りに廊下を進み、リーズレットはサリィを連れてコントロールルームへ向かった。
主電源が落ちていいても開けられるように、コントロールルームだけはアナログな造りになっている。
中に入る為の扉は分厚い扉の中心に回転して開けるハンドルドアが付いた、気密扉のような形状。リーズレットは両手でハンドルを持ってぐるぐると回しながら重いドアを開けた。
コントロールルームの中に入り、暗い室内を手探りで進む。
見つけた主電源起動用のレバーを降ろし、施設を再起動。
ヴゥゥンという稼働音と共に施設の電源が起動。開けっ放しのドアの先にあった廊下が明るくなった。
「廊下が明るくなりました!」
「ええ。次へ参りますわよ」
施設の起動が終えたリーズレットとサリィはメインルームとなっている作戦室へ向かう。
光が灯って明白となった白い廊下には誰もいない。床も埃が積もり、長い間使われてなかったのがわかる。
自分が死んで、アイアン・レディが歴史から消えて何年経ったのか。
廊下にアイアン・レディの仲間と思われる死体やら、それらしき痕跡がないだけまだ安心できる。そんなものがあったらリーズレットは冷静でいられないだろう。
そんな事を思いながら、リーズレットとサリィは目的地に続くドアの前に辿り着く。
メインルームに続く自動ドアが開くと、中はリーズレットの記憶にある配置とは少し変わった室内があった。
きっと自分が死んでから組織の子達が使っていたのだろう、と。配置の変わった室内は、自分が死んでいた頃……空白の時間を嫌でも感じてしまう。
メインルームのコンソールを操作して、自分の死後アイアン・レディがどうなったのかを調べるが手掛かりはなかった。
施設の稼働記録はカウンターが振り切ってゼロになっており、最後にコンソールを使用した者が『フロウレンス』だった事だけがわかっただけだった。
「…………」
「お嬢様……?」
懐かしい人物の名前があった事にリーズレットは顔を歪める。彼女はどうなったのだろうか。
その表情の変化に気付いたサリィが心配そうに声をかけた。
「いえ、何でもございませんのよ。次へ参りましょう」
大したヒントを得られなかったメインルームに用はない。リーズレットは次の部屋――武器庫に向かう。
このバンカーにある武器庫は独創的だ。最初に作られた秘密基地的な場所である事もあって、転生者の1人が気合を入れて改装したからだ。
武器庫に続く自動ドアが開くと、先ほどまで歩いていた白い壁と床の廊下から雰囲気が一変。
「わぁ」
サリィが武器庫の中を見て声を漏らした。
当然だ。武器庫という部屋の名前であるが、内装はまるでレトロな演劇場のような雰囲気だった。
特殊な金属で作られた壁の上に木材を使用したかのような壁紙を張り付け、照明もレトロなガラスで作られた物を。床には赤い絨毯が敷かれて高級感を演出。
棚も木材で作られた物がチョイスされ、休憩室も兼ねるようにテーブルやソファーも同様の雰囲気に合う物が選ばれていた。
そして、何より特徴的なのは武器庫にあるバーカウンター。
なぜ、武器庫にバーカウンターがと思うだろう。だが、レトロな演劇場の雰囲気もあって違和感を感じない。
これはここを改装した転生者のちょっとした遊び心。
武器庫にいるバーテンダーに注文すれば理想の装備を見繕ってくれるシステムになっていた。勿論、飲み物が飲めるようにグラスが配置されているのも忘れてはいけない。
バーカウンターにはスーツを着せられて体を前屈みにさせたゴーレムが1体。
「これは……?」
サリィがカウンターの中で眠るゴーレムを見て首を傾げた。
「彼はここのバーテンダーですのよ」
リーズレットはゴーレムの背中にあるスイッチを入れて起動。すると、ガチャガチャと体を慣らして背をピンと伸ばす。
頭部は箱型のモニターになっており、再起動をかけた直後の画面は真っ暗だった。次第に画面には文字の羅列が並んでいく。
『再起動を確認』
ピピピと電子音が鳴って起動が完了すると、バーテンダー風のゴーレム――ロビィはリーズレットを見た。
『……レディ・マム?』
「よくわかりましたわね」
生前と外見が変わっているにも拘らず、自己紹介する前にゴーレムはリーズレットであると当ててみせた。
『レディの纏う雰囲気は独特でございますから。それと……新しいチーフもご一緒のようで』
肩を竦めるようなジェスチャーと画面には笑顔の顔文字が浮かぶ。サリィの顔を見て、彼は会釈しながら話を続けた。
『戻って来ると皆が信じておりました』
「戻って来る? みんな?」
はて? とリーズレットは首を傾げた。
自分は前世では死んだはず。ここにいるのは運よく転生したからだ。戻って来ると信じていた、という言葉は相応しくないように思える。
だが、バーテンダーの返答は得られなかった。代わりのメッセージが告げられる。
『レディ宛てにメッセージが1件ございます』
「再生して下さいまし」
リーズレットがそう言うと、バーテンダーの顔部分が一度暗転。ビデオメッセージが再生された。
-----
ロビィの頭部にあるモニターには最初、砂嵐が流れた。5秒程度過ぎると馴染みの顔が映る。
『ハイ、マム』
画面に映ったのはフロウレンスだった。彼女の容姿は前世のリーズレットが死んだ頃と変わっていない。
懐かしい顔に驚くリーズレットだったが、自然と笑みが浮かぶ。
『マム。これを見ているという事は、転生は上手くいったのね』
ロビィに録画してもらい、リーズレットしか見れないようプロテクトを掛けてもらったと画面の中で彼女は説明する。
『マムは最後まで結婚したかったって言ってたよね。私達はどうしても、その夢を叶えてあげたかった』
説明の最中に画面が揺れた。独特な揺れは大量破壊兵器が着弾して爆発、そして振動を起こす揺れだとわかる。
『ごめんね。あまり時間が無いから詳しい事は説明できない。私達は今、敵対組織に狙われているの。でも、心配しないでね』
フロウレンスは時より天井を見上げながら話を続け、最後はぎこちなく笑った。
『結婚生活を追い求めるマムがまた戦いに巻き込まれたら大変だから……。いつでも使えるように装備は整備しておいたわ。場所はロビィに聞いてね。バンカーも封印して残しておくから』
そこまで言ったフロウレンスの背後をアイアン・レディに所属していた見習い淑女達が銃を持って走いく様子が映った。
『最後に伝えたい事があるの』
フロウレンスはそう言って、顔を一度俯かせた。再び顔を上げると彼女は語り始める。
『あの日、雪の日に、私を拾ってくれてありがとう』
リーズレットの脳裏にフロウレンスと出会った時の記憶が蘇る。そう、雪が降っていた日だ。そこで、彼女は死んだ母の頭部を抱いて泣いていた。
泣きながら、意思ある瞳を帝城に向けていたのだ。だからリーズレットは、雪が降る中で彼女へ手を差し伸べた。
彼女は泣きながらも、すぐにリーズレットの手を取った事を昨日の事のように思い出せる。
『私を拾ってくれて……。私を、大人まで育ててくれてありがとう』
画面に映る彼女は涙を流しながらそう言って、すぐに服の袖で涙を拭う。
「フロウレンス……」
『ママ。愛してる。ずっとよ』
フロウレンスは自分の唇に指を当てて、画面に押し当てた。
リーズレットも自分の唇に手を当てて、彼女の指と重ねる。
その後、映像は暗転して途絶えた。サリィが無言で見つめる中、フロウレンスのメッセージを受け取ったリーズレットは顔を伏せがちにロビィに問う。
「この後、フロウレンスは?」
『……この施設を一度封印した後、戻っておりません』
「そう……」
自分が転生したのは、どうやらフロウレンス達が何かしらのアクションを起こしたというのは分かった。
今ここにある人生は彼女達がくれた『ギフト』なのだと。
しかし、彼女はどうなったのか。バンカーを封印した後で敵対組織とやらに殺された……とは思いたくない。
自分が死んでから攻撃してきた敵対組織とはどこの組織だったのか。
フロウレンスの愛を知り、転生した理由は判明したものの、まだ疑問は尽きない。
だが、今やるべき事は決まっている。
「お嬢様……?」
「大丈夫ですわよ、サリィ。終わったら全てお話しますわ」
心配するサリィがリーズレットの手をそっと握り、彼女も握り返して顔を上げた。
「ロビィ。私は、今からやらねばならない事がございましてよ?」
リーズレットは「いつも通り、わかっていますわね?」と言わんばかりにロビィへ告げる。
「oui, " Lady "」
ロビィは胸に片手を当て、礼をしながらもう一方の腕をカウンターの横に伸ばした。
すると、壁が回転して赤いカーテンで背景を装飾されたショーケースが出現する。
中央には赤い戦闘用ドレスと黒いフード付きコートがトルソーを使ってディスプレイされ、左側にはリーズレット愛用の軽機関銃が。
右側にはアンティークな椅子の上には黒い武骨なハンドガンが2丁クロスして置かれ、その隣には小さいテーブルの上に髪を巻く為のアイロンがあった。
これはフロウレンスがメンテナンスして用意してくれたのだろう。
「ふふ。相変わらず、あの子は私の趣味をよく理解していますわね」
最高の飾り付けだった。リーズレットが目を輝かせるように配置されたショーケースだ。
笑っているフロウレンスの顔が脳裏に浮かぶ。
だから、リーズレットも笑った。華が咲き誇るような笑みを浮かべて――
彼女達が残した聖域を汚す豚共を。
リーズレットの大切な物をクソまみれの手で触る豚共を。
「全員殺しますわよ」
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