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本編
67 バカンスの準備
しおりを挟む「そういえば、潜入中の隊から報告が来ました。西部で最初の自殺者が出たようです」
リーズレットと共に軍の施設内を行くサイモンが彼女にそう報告した。
麻薬の流入が始まって既に一か月。
ラディア王国を滅ぼした翌日にリーズレットから最初の報告を聞いてから二週間が経った今、どうやら自殺レース一等賞はラディアから逃げた難民のようだ。
恐らく、国が負けたストレスや恐怖で麻薬に手を出した者だろう。報告を続けるサイモンの話ではまだ麻薬が原因であると連邦は掴んでいない、との事だが。
「それと新聞社の件はやはり失敗したようです」
連邦を通してラディアで起きた事を2ヵ国に伝えはしたものの、未だ連邦と共和国内の一般人に動揺は見えないと麻薬の件と同じくして報告が入った。
潜入中の部隊によればラディア王国の惨状は新聞社に伝えはしたものの、掲載までには至らなかったようだ。
連邦国民はラディア王国がリリィガーデン軍に堕とされたという事実自体は難民が入り込んでいる事で認識はしているものの、どうやって滅んだのかという事実は知らされていない様子。
ただ、難民からの話を聞いた一部の者が噂にはしていると報告には記載されていたようだ。
「それならそれでよろしくてよ。絶対に成功させるべき作戦ではございません。あくまでも事前策の1つに過ぎませんわ」
そう、新聞社の件も麻薬も戦線を攻略する前に行う事前策に過ぎない。ダメなら直接攻撃して恐怖を植え付ければいいだけだ。
「新聞社は失敗しましたが、麻薬の方は順調ですね。難民が手にして、それを知った連邦国民が手を出し始めたと報告が来ています」
新聞経由で国民の恐怖を煽る事は失敗したものの、ラディア人が良い仕事をしてくれているようだ。
さすがは間近で処刑を見た者達。ストレスが溜まっているのか、リピーターは多いとのこと。
加えて、西部連邦内には随分と素行不良な国民が多い様子。彼等も直にリピーターになるだろう。同時に現地の連邦国民に販売させる策も順調だ。
このままジワジワと蝕んでいく事を期待したい。
「そう。共和国はどうかしら?」
「共和国側も拠点を構え、販売は順調です。こちらもジャンキーと若者を中心に販売しているようですが、販売担当からの報告を纏めるとグリア貴族の従者が買いに来たという話もあるんですよね」
共和国側に潜入した部隊から届いた報告書を読んだサイモンとしては少々意外だった、と言うべきか。
「サプライズプレゼントが運良く貴族の手に渡ったのかもしれませんわね。しかし、チャンスでしてよ。新聞がダメなら直接揺さぶりましょう」
施設内を歩いていた2人は訓練場へと辿り着く。青空の下、野外訓練場には新しい銃を手にしながら射撃訓練を行う兵士達で溢れていた。
「マム。ご苦労様です」
「ええ。調子はどうかしら?」
兵士達の様子を見ていたオブライエンがリーズレットに気付くと敬礼して彼女を迎える。
オブライエンの横に立ったリーズレットとサイモンは3人で訓練場にいる兵士達へ顔を向けた。
兵士達が持っている銃はリリィガーデン王国で正式採用されていた従来の旧式銃ではなく、試作テストを終えて製品として完成したばかりの新型銃『IL-10』であった。
訓練場にはいくつかのグループに分かれ、分解・清掃を繰り返してメンテナンス訓練をするグループや的に向かって射撃訓練をするグループも。
「遅いぞ!! もっと速くだ!!」
敢えて泥塗れにした地面を匍匐したり、銃を構えながら走り込むといった実戦を想定した訓練を行うグループからは教官役であるマチルダから激が飛ぶ。
「順調です。既にブラックチームとグリーンチームはアタッチメントを含めての試射訓練を終えました。いつでも動かせます」
一足早く訓練を終えたのはブライアン率いるブラックチーム、それとマチルダ隊の男達によって構成された新特殊部隊グリーンチーム。
元々優秀な者達を集めたブラックチームの実力はご存知の通り。それよりも軍内部で驚きの声が上がったのは新設されたグリーンチームのメンバー達だ。
マチルダと共に長く北部を支えていた精神力と狩人としての才能や状況判断力。
そこにラディア王国を潰すべく、リーズレットと共に軍行した時の経験が加わった彼等はブラックチームと比べて引けを取らない実力者揃いになっていた。
気付けば現場叩き上げの最強チームとなっていたマチルダ隊の男達は、リーダーであるガウインを筆頭に今後も活躍を期待される。
「あとは……」
特殊部隊の状況を伝えたオブライエンが空を見上げる。
そこには2機の灰色でカラーリングされたヘリが飛行訓練を行っていた。
「イーグルの操作訓練も順調ですので、次の作戦に投入できそうです」
イーグルと名付けられたのはナイト・ホークよりも大型化・装甲強化した大型輸送ヘリコプター。
こちらは以前見つけたファクトリーの一部を使用して製作し、これからも量産されていくリリィガーデン王国において初めて正式採用された飛行兵器。
イーグルの製作においては王国内の技術では量産が難しく、リトル・レディによって制御された小型ゴレーム『妖精さん』が日夜生産を行っている状態だ。
デザイン的にはナイト・ホークと違って搭乗者のキャパシティを増やす目的での大型化と装甲強化によって重量が増した事もあり、ボディは長くなってタンデムローターが採用。
機首に機関砲、機体左右両面にロケットランチャーが装備され、ステルス機能はオミットされた。
ナイト・ホークと比べて、最大の欠点としてはエンジンが異世界技術で作られた高品質で高効率を誇る『リアクター』から現代で主流である『魔石エンジン』に変更された点だろうか。
大型化した事もあって装甲魔導車用の魔石エンジンを2機使うというエネルギー馬鹿喰い兵器となった事、一回の飛行に対して魔導車の10倍は魔石を補充せねばならぬ事、エネルギー面での欠点が大きい。
このイーグルを採用・生産するにあたって、最初の会議ではイーグル生産も技術力向上も含めて国内技術者に任せようという声もあったが、残り2ヵ国との戦闘を続ける上での懸念もあって早急に必要であると判断された。
次なる戦い、特にグリア共和国との戦闘で懸念となるのは空から攻撃を行ってくる『ドラゴンライダー』の存在である。
このドラゴンライダーを象徴する『ワイバーン』や『ドラゴン』であるが、野生種を捕まえて調教したり卵を育成して量産している大元がグリア共和国。
調教・飼育、もしくは野生種に首輪を装着して人間達の命令を聞くようになったドラゴン種を連邦に輸出しているのもグリア共和国である。
という事は、南部戦線を進めていく上で相手は必ずドラゴンライダーを投入してくるだろう。最後の標的である連邦を堕とす為にもグリア共和国を潰してドラゴンライダーの供給源を断ちたい。
だが、そうなると制空権というモノは重要な要因となる。そこで投入されるのがイーグル。
今までドラゴンライダーに良いようにされてきた制空権の奪取及び地上部隊へ向けての支援を同時に行えるイーグルの投入は急務となり、操縦者の抜擢と抜擢された軍人の訓練が進められて今に至る。
因みに操縦者への教官となったのはロビィ、短時間限定でサリィが担当した。
「ところで、イーグルに対しての支払いは本当にアレでよろしかったのですか?」
戦場の制空権を得る事が重要となる南部戦線。
投入が急務となったイーグルを生産するのはリトル・レディとファクトリーの一部という事もあって、リリィガーデン王国軍はイーグルをリーズレットから購入しているといった位置づけとなる。
購入するとなれば対価が必要だ。所謂、金を支払うのが世の常識であるがリーズレットは最初の購入金額を『家』にしたのだ。
「ええ。王城にずっと住み続けるのはガーベラに悪いですから」
リーズレットは伝説の淑女と敬愛されているものの、王族ではない。城は王族であるガーベラの物だ。
全てが終わり、理想の旦那様をゲットした暁には将来的に住むであろう『家』を対価に要求したのだ。
「ふふふ。理想の屋敷を考え、造るのも楽しみの1つでしてよ」
大きく綺麗な屋敷。気品に溢れた内装。自分専用の衣装ルームや化粧室。旦那様と共に眠る大きなベッド。庭には常に花が満開となった庭園。
考えれば考えるほど欲しい物は多い。それら全てを備えた理想的な屋敷。
まだ見ぬ旦那様と共に暮らし、ゆくゆくは子供も……と考えるリーズレットは両手で頬を挟んで理想を妄想する。
「ですが、まずはバカンスを楽しまなければ」
妄想を終えたリーズレットは顔をキリリと変えてオブライエンとサイモンへ告げる。
そう、バカンスだ。直近に控えたリーズレットの予定はバカンスである。国を一つ滅ぼしたらバカンスをする、それが彼女の流儀。
一新された軍の装備と新規正式採用された兵器。その他にも、もう1つ加えたラインナップと共に彼女は南へとバカンスへ向かう予定となっていた。
「その際、ブラックチームを同行させてくれませんか? グリーンチームのように成長させたいのですが」
「ええ。よろしくてよ。バカンスついでに訓練して差し上げますわよ」
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