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本編
80 始まりの魔女
しおりを挟むアドラに会いに行くべく軍と別行動を取ったリーズレットはベルバルド皇国領土内へと進んだ。
出発地である共和国東の砦から南東に向かい、ベルバルド皇国領土内で一番背の高い山の麓を目指す。
ラムダ曰く、山の麓にアドラの住む屋敷があるそうだ。
彼が共和国内に侵入した道をナビゲートしてもらい、4日かけて目的地まで辿り着いた。
「ここがそうだよ」
ラムダが示した道順の終着点。確かに山の麓には2階建ての屋敷があった。
リーズレット達は魔導車から降りると屋敷の外観を見渡した。
屋敷は見つからないようカモフラージュされているわけでもなく、ただ自然にぽつんと建っているだけ。
嘗ては白色だったであろう外壁は汚れて灰色になりつつある。更には小さくヒビが入っていたり、1階の窓は全て屋敷の中から板を打ち付けられて補強と覗き込み防止を施されている。
ボロボロなのは屋敷だけじゃない。屋敷を囲む背の低い塀は所々に穴が開いてしまっていて機能を十分に発揮していなかった。
人里離れた場所と山の麓というロケーションも相まって、外観だけを見れば少々不気味だ。何も知らぬ者が見れば放棄された貴族の屋敷、もしくは幽霊屋敷といった具合だろうか。
加えて、屋敷の中からは生活音も聞こえない。屋庭の手入れどころか屋敷自体も長らく修繕された様子はなく、人が住んでいるとは思えない雰囲気を醸し出していた。
「こっちだよ」
それでもラムダは屋敷の正門――既にボロボロで門としての機能を果たしていないが、開けっ放しになったそこを通り抜けて玄関へ向かった。
後に着いて行くと、彼は玄関ドアにあった獅子の頭部を模したドアノッカーを摘まんでコンコン・コンコンとリズムよく鳴らした。
すると、玄関ドアからピピピと電子音が小さく聞こえる。どうやら一定のリズムで叩くとドアロックが解除される仕組みのようだ。
「はい、どうぞ」
玄関を開けたラムダがリーズレット達を中へ誘う。
屋敷の中は酷いありさまだった。
外観もボロボロだったが中身もボロボロ。床の一部が抜けていたり、廊下にあった小さなテーブルの上は埃塗れ。天井付近には蜘蛛の巣が張られているといったボロボロ屋敷の定番が盛りだくさん。
中に漂う空気も埃っぽくリーズレットはハンカチを取り出して口と鼻を覆った。
サリィなど露骨に嫌そうな顔をして、長年掃除していない屋敷に嫌悪感すら覚えていそうだ。
「こっちだよ。足元に気を付けて」
穴の開いた床、穴が開きそうな箇所に気を付けろと注意しながらラムダは屋敷の奥へ3人を連れていく。
ボロボロの廊下を歩いて行くと、ドアが開けっ放しになっている部屋が数か所あった。
嘗ては客人を呼んで華々しい食事をしていたであろう広いダイニングには、埃と汚れで灰色になったテーブルクロスが敷かれた長いダイニングテーブルが。
客室だっただろう部屋には天井から落ちた照明の下敷きとなったクイーンサイズのベッドが2つ並ぶ。
庭へと続く大きなガラスドアに取り付けられたカーテンはスライドする金具が劣化したのか無残な状態で垂れさがっていた。
最早、人が暮らす場として機能していない。こんな場所にアドラがいるのか、と少し不安になってくる。
「ここだよ」
廊下の一番奥にあったドアの前で一度止まって、リーズレットの顔を見た後に彼はドアを開ける。
中はリビングだった。
火のついていない、灰の溜まった暖炉。窓には板が打ち付けられ、革張りのソファーやカーテンなどの布製品はボロボロ。部屋の床にはいくつもの本が積み重ねてあって。
板を打ち付けた窓から辛うじて差し込む細い光で照らされたテーブルの脇には車椅子に座る老人がいた。
「戻ったよ、パパ」
ラムダがドアに背を向けていた老人へ声をかけると、彼は車椅子のレバーを震える手で握って操作する。
ゆっくりと車椅子が回転して、振り返った老人は彼を見つめるリーズレットの顔を見た。
「ああ……。久しいな、リーズレット。姿は変わっても、雰囲気はそのままだ」
「アドラ……」
老人は確かにアドラだった。白髪になった長髪、右目は失明しているのか白く濁って、口は髭で覆われた皺くちゃの顔。
彼はアドスタニア王国で最後に会った頃と同じ年齢のまま。失明状態であったり、髭が生えっぱなしと当時と少し変わっているが……確かに前世で見たままの年老いたアドラだった。
「なぜ、貴方が生きていますの? 私、貴方の葬儀を確かに見ましたわよ?」
既に世の悪として名が轟いていたリーズレットは正面から堂々とアドスタニア王国に入る事も出来なかった。
しかし、友が死んだと聞いてわざわざ王都に潜入して遠巻きながら運ばれて行く棺を見送ったのだ。
「ああ、知っているよ。私も君を見ていたからね」
その彼女を、彼は見ていたと言った。
「聞かせてもらいますわよ。知っている事は全て」
「ああ、その為に呼んだ。だが……話が長くなる。場所を変えよう」
アドラは車椅子のレバーを操作してゆっくりと動きだした。暖炉の脇へ向かうと、隠してあったボタンを押す。
暖炉の隣にあった壁がスライドするとエレベーターらしき扉が出現した。
「ラムダ」
「うん」
アドラはラダムを呼ぶと、呼ばれたラムダはエレベーターを起動させてアドラの車椅子を押す為の取っ手を握った。
全員がエレベーターに乗ると地下へ降りて行く。
「この先にアルテミスが使っていた研究所がある。そこで話そう」
降下していくエレベーターがチンと音を鳴らして停止すると、扉の先には確かに研究所があった。
広い空間にはいくもの機材が置かれ、棚の中にはビーカーや試験管などの道具があった。
何より目を引くのは一番奥の壁沿いに並んだ大きな培養槽のようなカプセル状の装置である。
人1人がすっぽり入りそうな大きな培養槽には緑色の液体に満ちていた。下からゴポゴポと空気の泡が流れていくソレには一体何が入っていたのだろうか。
「好きなところに座ってくれ」
指し示された椅子に座ったリーズレットの目に映ったのは、水道設備やコンロなどの生活にも使える設備だった。
コンロ脇のサイドテーブルの上には食器やマグカップが置かれていたりと生活感を感じる。恐らく、アドラが生活しているのはこちらなのだろう。
「さて、順を追って話すつもりだが……。まずは君に謝らなければならない」
椅子に座ったリーズレットへアドラは表情を変えずにそう言って、彼女が「何を」と問う前に言葉を続ける。
「リリィガーデン王国に行ったのだろう? マギアクラフトの事はもう知っているな?」
「ええ。私が死んだ後、アイアン・レディを攻撃した組織なのでしょう?」
魔女が創った組織で、アイアン・レディの拠点から物を盗もうとしていたドロボウ組織。
魔法少女と名乗るマジカルビッチが好き勝手に暴れて、リリィガーデン王国を滅ぼそうとする愚か者共。
ラディア王国にいた魔法少女を殺した事も伝えると、
「そうか、君は変わらんな」
アドラはそう言って鼻で笑った。
「それでだな……。私は一時的だが、マギアクラフトに所属していた」
「……へえ」
アドラが元マギアクラフトの構成員だった事を明かすと、リーズレットの纏う雰囲気は明らかに殺意が増した。
しかし、当然だ。アイアン・レディを攻撃して、メンバーを殺害したであろう敵組織の一員だったとカミングアウトされたのだから。
銃を抜かなかっただけ、彼女が我慢している証拠だ。
「……私も奴等に騙されていた。無限に生きられる命を餌にな」
殺意が増した空気の中、アドラは彼女に怯えない。それどころか、マギアクラフトに対して憎しみを抱くように顔を怒りに染めた。
「無限の命?」
「ああ。私が転生した君と違って、未だ生きている理由だ」
そう言って、アドラは近くにあった医療用冷蔵ストッカーの中から紫色の液体が入った試験管を1本取り出してリーズレットへ見せた。
「これはマギアクラフト……いや、魔女の右腕である転生者が作り出した『エリクサー』と呼ばれる霊薬だ。私はこれを摂取し続ける事で死から逃れてきた。まぁ、これは試験段階の物だがな」
クーデターで取り戻したアドスタニア王国は帝国と手を組んで、国としての安定感を獲得してきた。しかし、帝国はリーズレット達の介入によって革命が成功。
アドラの仲間であった皇帝が死亡した事で、帝国とアドスタニア王国が共同で進めていた他国との経済戦争に敗北。
王国の経済報復、同盟国が失われた事で国土防衛も非常に危うい状態になっていたのだ。
『国が危うい時に、私は病気で死ぬのか』
アドラは病気に侵されていて既に死を覚悟していたが、魔女達が彼の元にやって来た。
魔女達はアドラにエリクサーを見せて、これを飲む事で永遠の命を手に入れられる、と囁いたのだ。
危うい状態の国を放っておく事はできない。息子や孫達が心配でならない……と未練を多く残していたアドラは魔女達の甘い囁きに手を伸ばしてしまった。
「当時、帝国を滅ぼしたお前を殺してやりたいと思ったよ。お前を恨んでいた事も確かだ」
アドスタニア王国が揺らいだ原因は帝国革命戦争にアイアン・レディが介入した事だ。彼はリーズレットと友ではあったものの、確かに恨みを抱いたと当時の心境を語る。
「……謝りませんわよ。私達にも事情はありましたもの」
「分かっている。もう終わった事だ」
アイアン・レディにも介入した理由は確かにあった。フロウレンスの復讐を成す為にという大きな理由が。
しかし、もう過ぎた事。
既に終わった事だと諦めているアドラは一度気持ちを落ち着かせて、再び語り始めた。
「私はそういった経緯があってマギアクラフトに加入した。組織がエリクサーと引き換えに要求してきたのは金と場所だった。私は要求通りに王都に最新設備を導入した研究所を建てた」
当時のエリクサーはまだ試作段階で継続的に摂取しなければ死んでしまう物だった。
魔女達はエリクサーの安定供給の代わりに、当時アドスタニア王国領土内でしか採取できぬ特殊な素材の無償提供と研究する為の場を求めた。
アドラはお安い御用だと王立研究所を設立。相手の要求を満たすと同時に、研究所で得たデータは国でも使えて一石二鳥。
「当時、そう思っていた自分を殺してやりたいよ」
しかし、この研究所が発端で事件は起きる。それはリーズレットの死後から2年経った頃。
マギアクラフトとアイアン・レディの戦争が一進一退の膠着状態となった頃に事件は起きた。
大陸に住む人間のほとんどを死滅させた大災害と呼ばれる事件である。
「大災害の正体は超高濃度魔素液の拡散だ。魔素液が爆発と共に打ち上がり、人体が耐えられぬほどの魔素が雨となって人々を汚染した」
魔素液――魔法の素である魔素といくつかの魔法素材混ぜ合わせて圧縮生成する特殊な液体。当時の魔導具や魔導兵器のエネルギー源として使用される物であった。
この特殊な液体を高品質・高純度な物に生成する際に使用されるのが、アドスタニア王国領土内で採取できる魔法素材だったのだ。
その生成を行っていた研究所で事故が発生。大量生成していた超高濃度魔素液は空中に打ち上がると雨となって大陸に落ちた。
大陸に降り注いだ日数は僅か3日間。だが、それでも当時の人間の体に害を与えて殺し尽くすには十分だった。
この事件が起きた当時、アイアン・レディは各地でマギアクラフトと戦争中であった事はリトル・レディが再起動した際に言っていたなとリーズレットは思い出す。
「この事件のグラウンド・ゼロとなったアドスタニア王国は大爆発で消滅したよ。国にあった建物も、人も……全てな」
王都の研究所で大爆発が発生、アドスタニア王国の領土は巨大なクレーターと化した。
その爪痕は今でも残り、ベルバルド皇国の北部から更に数十キロ北に向かった地が元アドスタニア王国領土にあたる。
爆発の余波は当時の隣国にも及んだが、その隣国の人間達もほとんど死亡してしまった。
「貴方は無事だったようですわね?」
「ああ。私は、当時マギアクラフトの拠点に招かれていて難を逃れた。しかし……息子や孫は全員死んだよ」
爆発によってアドラが大事に思っていた家族は皆死んだ。それどころか、大陸に住む人のほとんどが死亡して残された人間はごく僅かになった。
マギアクラフトからは不幸な事故だと説明されたが、彼は悔みに悔んだ。自分がエリクサーなど求めなければこの事件は起きなかったんじゃないか、と。
拠点で保護されながら絶望するアドラだったが、事件から数か月後に真相を知る事となる。
真相を知った切っ掛けはマギアクラフト構成員がアドラに漏らした情報だった。
『雨を降らせるというのは良いアイディアでしたね。これでゆっくりと世界をイチから創造できます。邪魔者も消えた事ですし』
漏らした本人はアドラが事件の真相を知っていると思ったのだろう。
事故だと説明されたのにどういう事だ、と不審に思ったアドラは情報収集を開始。
「あの事件は事故じゃないかった。マギアクラフトが用意した対アイアン・レディ用のカウンタープランだったのだ」
マギアクラフトのデータベースで組織の思惑を知り、隠された真実の一部を知る事が出来た。すると、構成員が言っていた通りあの事故は故意に起こされた事だと判明した。
超高濃度魔素液が雨として降り注ぐよう手を加え、事故と見せかけた大量殺人。なぜ、そんな事をしたのかと理由を探ると……見てきたのは魔女の思惑が一部だけ垣間見えた。
一部であっても、真相を知った事で魔女に消されると予想したアドラは拠点から逃げ出す。
その後、生き残っていたアルテミスとユリィとの合流を経て今に至るようだが。
「カウンタープラン?」
「そうだ。リーズレット、アイアン・レディが君を復活させようとしていた " Lady Revive 作戦 " への対抗策だ」
語られる真実において、事の全てにリーズレットの存在が絡む。この世の悪と謳われ、世界を恐怖させた悪女が。
魔女と魔女の仲間達が彼女の存在を完全に消したいが為に全てが起きた。
だが、元を辿れば本当の悪はリーズレットじゃない。本当の悪はもっと前から暗躍していた、と言ったアドラは顔を怒りに染めた。
「あの事件だけじゃないッ! マギアクラフトは……ッ! 魔女はッ! もっと前から暗躍していたんだッ! 私の……俺の母親を毒殺したのもッ! 俺を復讐の道に走らせたのもッ! 魔女の仕業だったんだッ!!」
アドラが王となった兄を相手にクーデターを起こした原因となった母の毒殺と自分の暗殺。
あの事件さえも魔女が仕組んだ物だった、と彼は皺くちゃの手を握りしめてテーブルに叩きつけた。
「俺がクーデターを起こすよう吹っ掛けたのもッ! 帝国が起こした戦争もッ! 全部ヤツ等が裏で糸を引いていたッ! リーズレット、お前もだッ! 全ては魔女が仕組んだ事だッ!」
もっと早く気付いていれば。もっと早く全ての元凶である魔女を討っていれば。
こんな事にはならなかった。もっとマシな未来があったはずだ、とアドラは悔しそうに奥歯を噛み締めながら叫んだ。
「お待ちなさい。所々、説明不足がございましてよ」
「……ッ! ああ、そうだな……。すまない……。話を急ぎ過ぎた」
アドラは順を追って、と言いながらも詳細を省きすぎた。彼は「いかんな」とため息を零してから深呼吸をした。
落ち着く為にもお茶を用意しましょうか、と申し出たサリィの提案を2人はありがたく快諾する。
サリィが用意している間、リーズレットは今まで聞いた話の中で一番気になっていた事を問う。
「ところで、貴方が騙されたと言った奴等とは魔女達ですわよね? マギアクラフトの構成員や魔女の正体を知っていますの?」
アドラを騙した魔女とその仲間。彼がエリクサーで生き延びているという事は、当然ながら魔女や他の幹部達も当時のまま生きているのだろう。
それがマギアクラフトの中心人物なのは疑いもない。
リーズレットは敵の正体を知ろうと問うたのだが……。
「組織の中には長老と呼ばれる幹部が存在する。その内1人は君もよく知る人物、ベインスだ」
ベインス。その名を聞いてリーズレットは顔を歪ませた。
アンガー領で武器屋を営んでいた武器商人。彼はリーズレットにとって忘れられない存在だろう。
なんたって、自分に『銃』という最高の武器を教えてくれた者なのだから。
「幹部である長老を操るのは魔女と魔女の右腕である転生者だ。魔女を支えるのは死の雨を開発したのはマジック・クリエイターと呼ばれる人物。彼女の名は掴めなかった」
アドラもエリクサーを最初に受け取った時しか出会った事のなく、常にフードを被って顔を隠している謎の人物。
ローブに浮き出た体形からは女性と判明し、マギアクラフト内の者と会話して得た情報の中からは彼女は転生者であるという事しか掴めなかった。
幹部のトップであるベインスと他にもエリクサーを飲んで前時代から生き続けている者達もいるようだが、組織を象徴する人物はマジック・クリエイターである彼女と魔女の存在だろう。
「最後は事の全てを画策した人物だ。アイアン・レディを消し去ろうとした人物であり、世界を征服しようと今も暗躍するマギアクラフトのトップ。始まりの魔女と呼ばれる者の名は……」
ベインスの名が出た事で十分驚いたリーズレットであったが、魔女の正体を知った彼女は更に驚愕する事となる。
「始まりの魔女の名はヴァイオレット」
そう、なんたって魔女の正体は――
「リーズレット。君の母親だ」
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「よし、これでどうだ?」
魔女の館と呼ばれるマギアクラフトの本部にある地下開発室でベインスは魔法少女達の新装備となる魔導具を実際に使わせながら調整を行っていた。
魔法少女1人1人に合わせて調整された新しい指輪型の魔導具を装着したマキとアリアは、用意された的に向かって魔法を発動させた。
マキが発動した炎魔法は直撃した瞬間、的として用意された特殊合金をドロドロに溶かす。
アリアが発動した氷魔法は槍となり、特殊合金を貫通しただけでなく合金の板を氷で包み込んで粉々に砕いた。
「うん。良さそう!」
今までの魔法よりも出力が2倍にまで上昇した彼女達は単純に戦闘能力が向上したと言えるだろう。
更に防御魔法を発動する魔導具だったネックレスを廃止して指輪型にした事で奪われる危険性が低下した。
魔法少女達の弱点である近接戦闘に関しても着用する衣服に使用される素材に特殊繊維を採用した事で刃物による切断攻撃や体術における衝撃等にも強くなった。
加えて、指輪を奪われぬようマジック・クリエイターによる新魔法を魔法少女にインストール済み。
これで104号と107号の二の舞にはならないだろう。共和国へ出荷した新型魔導兵器のデータ取り準備も終え、魔法少女の強化プランも終了。
残りは新型魔法少女を完成させるだけだ、とベインスは額の汗を拭った。
その時、開発室の入り口で騒めきが起こる。
「あ、お母様!」
ベインスは誰が来たのかマキの一言で察した。何とも珍しい人物が開発室まで足を運んだな、と思いながら振り返る。
他の研究員や技術者達が頭を下げる中、2人の魔法少女に抱き着かれる女性。
スミレ色のロングヘアーと純白のドレス。もう200年以上は生きているにも拘らず、容姿は20代前半としか思えぬほどの瑞々しい美貌。
エリクサーで老化はしないが、それでも彼女がエリクサーを飲んだのは40代後半だったはず。
彼女の横にいるマジック・クリエイターがエリクサーを開発する前から、別の不老薬でも飲んでいたんじゃないかと疑われるほどの若さを保つ女性。
「調子はどうかしら? ベインス」
「順調だが……。ここに来るのは珍しいな、ヴァイオレット」
魔法少女に両腕を抱きしめられながらニコリと笑う美の化身――始まりの魔女と呼ばれるマギアクラフトの長、ヴァイオレット。
「そろそろ本格的に動こうと思って」
「へえ。向こう側に足掛かりは作れたのか?」
「ええ。あちらの大陸に人を送り込めそうだわ。でも、その前に邪魔者は消しておきたいでしょう?」
ヴァイオレットはそう言って、慈悲深き女神のような笑顔を浮かべた。
「そうは言うが、簡単には殺せないだろ。あれは奇跡の確率で出来たモンだぜ?」
「手を焼いたのは事実だけど。でも、その奇跡が再現できたみたいよ?」
ヴァイオレットは豊満な胸の谷間から1つのメモリースティックを取り出してベインスに手渡した。
「おい、まさか……」
彼女の優秀な右腕、生涯相棒であるマジック・クリエイターがようやく完成させた完全なる芸術品。
既存の奇跡を越える新しい奇跡である。
「彼女からのプレゼント。これを新型に使ってね」
ふふ、と可愛らしく笑う彼女のスミレ色の瞳には確かな殺意に満ちていた。
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