婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~

とうもろこし

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本編

84 共和国首都攻撃 2

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 首都入り口前に展開された共和国軍部隊はリリィガーデン王国軍の攻撃でほぼ使い物にならなくなってしまった。

 こうなれば『見捨てるしかない』と議事堂にいた軍の最高司令官や幹部達は早々に決断を下す。

 混乱状態の友軍とリリィガーデン王国軍が衝突した瞬間、防御魔法を張って首都入り口を封鎖していた部隊が首都内側から発砲を開始。

 そう、仲間の背中から撃ち始めたのだ。

「ふ、ふざけるなァ!」

「たすけてくれえええ!」

 必死にリリィガーデン王国軍を止めようとしていた共和国兵は後ろからの援護とは思えぬ攻撃に叫び声を上げる。

 見捨てられたと理解しても、前からも後ろからも銃弾が飛んで来るのだ。

 こんな場所にいられるか、と戦線離脱しようにも避けようがない。

「まぁ! 豚にしてはステキな決断ですわね。よろしくってよ。私好みの戦争になってきましたわ!」

 味方諸共、敵を撃つ。その決断を見たリーズレットはニコリと楽しそうに笑った。

「ですが、肉の盾は脆くってよ?」

 所詮は弾に勝てぬ肉の盾。盾としての役割も数秒しかもたない。

 リーズレットは乗車していた魔導車の銃座に移動すると、魔導車に備わっていたミニガンのグリップを握る。

 徐々に回転していく銃身がトップスピードに到達すると銃弾は高速で吐き出されていく。

 門前に配置された最初の壁と化した共和国軍兵の体を穴あきチーズに変えていき、貫通した弾は首都の入り口内側から銃を構える兵士へ向かって飛んで行く。

「おーっほっほっほ! いつまで持ちこたえ……ハァン?」

 が、豚肉盾を貫通した弾は首都入り口で弾かれた。内側にいる兵士が露骨に身を晒しているにも拘らず、弾は当たらない。

 まるで見えない壁に遮られているように。

「チッ! マジカルビッチ達の魔法防御と同じですわねッ!」

 リーズレットは弾の挙動を見て瞬時に相手の余裕を見抜く。魔法少女達が使う魔法防御を発生させ、門を封鎖しているのだと。

 こちらから弾は通らず、向こう側からはこちらに届く。故に敵兵は余裕の顔を浮かべて身を晒しているのだ。

「すぐにその余裕をズタズタにしてやりますわよッ! サリィッ! 突っ込みなさいッ!」

「はいですぅ!」

 魔導車の運転席に座るサリィに門へ突っ込めと命令すると、サリィは迷わずアクセルを踏み込んだ。

 銃弾が飛んで来る中、サリィは一切臆さず真っ直ぐ走らせる。

 特殊合金で作られた車体と強化フロントガラスに魔法の弾が当たり、カツンカツンと直撃する音が鳴り響くが止まらない。

 その間、リーズレットは銃座でグレネードを両手に持つ。

 サリィが防御魔法の中へ突っ込み、門の前で銃を構えていた敵兵を撥ねた瞬間を見計らいピンを抜いて門の左右に身を隠していた敵兵の足元へ転がす。

 爆発したグレネードは共和国軍兵を数人巻き込んだ。最大限有効活用できたわけじゃないが、爆発によって相手の手は止まった。

「お嬢様~!」

 首都内部に突っ込んだサリィは見事なドリフトを決めて車体を反転。

 リーズレットはミニガンのグリップを掴んで門の入り口に配置された敵兵へ乱射。

「ぎゃあ!?」

 門で侵入を阻止していた共和国軍兵が射殺されて血飛沫が舞う。門と繋がる壁や地面に共和国兵の血が飛び散って赤く染まった。

「今だッ! マムに続け!」

 首都の外に向けた攻撃が止むと、コスモスとマチルダ率いる魔導車部隊が内部へ突入を開始する。

 外に展開した部隊の後処理は後続部隊に任せ、首都内部制圧を命じられた隊が続々と侵入を果たす。

 リーズレットとサリィの乗る魔導車を追い越してメインストリートを真っ直ぐ進み始め、最奥にある議事堂と丁度半分の距離まで到達すると全車停止した。

「制圧部隊展開! ここで相手を止める!」

 議事堂からの援軍、首都東西に控える部隊が入り口を再確保しないよう塞き止めるのがコスモスとマチルダの役目であった。

 遅れて制圧部隊を侵入させる為に先陣を切ったリーズレットとサリィが合流すると、議事堂から大量のドラゴンライダーが飛び上がった。

 50以上のドラゴンライダーは首都の上空に散ると空から射撃と爆弾を投下してリリィガーデン王国軍を殲滅する気のようだ。

 メインストリートを制圧するリーズレット達に向かって空を飛ぶドラゴンライダーが殺到するが、リリィガーデン王国軍にも空を飛ぶ兵器が存在する。

 議事堂までの道を封鎖する部隊へ攻撃を続けるリーズレット達の頭上を追い越していくのは2機のイーグル。

 片方はドラゴンライダーの殲滅に。もう片方はブラックチームが率いる2次突入部隊の移送を行う為に。

 2機のイーグルがリーズレット達を追い越していくのも事前に決めていた作戦通りであったが――

 空を見上げるリーズレットはイーグルに向かって飛んで来る物体を見つけ、すぐに通信機を手にして叫ぶ。

「イーグルッ! 回避行動ッ!」

 しかし、彼女の叫びは虚しく終わった。ブラックチームを降ろそうと降下していたイーグルの横っ腹に命中したのだ。

「イーグルが!」

 ドラゴンライダーに代わって空を支配したばかりのイーグルはマギアクラフト製の最新対空兵器の攻撃を喰らって首都西側へ墜落していった。

 クソ、と声を漏らしながら墜落していくイーグルを目で追うリーズレット。

 魔導兵器が配備されている事はドローンで偵察済みであったが、まさかイーグルの特殊合金でも耐えられぬとは。

 奥歯を噛み締める彼女であったが、すぐに判断を下す。

「マチルダ! 貴女は3小隊を率いて救出に向かいなさい!」

「イエス、マム!」

「残りは私と共に対空兵器を破壊しに行きますわよッ!」 

 対空兵器を放置していては、空中でドラゴンライダーとやり合うイーグルもいつやられるか分からない。

 ここは多少強引に突破して議事堂周辺に配備された対空兵器を破壊しようと、サリィに前進するよう命じた。


-----


 イーグル墜落の少し前、議事堂周辺に配備された魔導兵器の周りにはマギアクラフト兵が技師を守るように警備していた。

 技師と魔導兵器を守るマギアクラフト私設兵団を統括する全身を覆う黒いアーマーを着た男――ジェイコブは技師長と共に開発部統括であるベインスより受けたデータ収拾任務について話し合っている最中であった。

 ジェイコブは片手に銃、もう片方に黒いフルフェイス型のヘルメットを抱えて銃声と炎が上がる首都入り口へ顔を向けながら眉間に皺を寄せていた。

 彼と同じく首都入り口を見てガッカリするように肩を落とす技師長が口を開く。

「防御魔法発生装置はあまり役に立たなかったようですね」

 技師長が既に首都内部に侵入された事から魔法防御を発生させる兵器はまだ未熟であると断定する。

「配備した数が少なかったのだろう。街を丸ごと囲むか包むかせねば無理だ」

 ジェイコブはそう言って、首都の空を飛ぶリリィガーデン王国軍のイーグルへ向かって顎をしゃくった。

 あの空から攻撃してくるイーグルが存在する限り、魔法防御発生装置は現在の使い方では街を守れないと指摘する。

「あれは堕とせそうか?」

「恐らく可能でしょう」

 少々期待外れだった魔法防御発生装置に続いて、マギアクラフトは対空兵器の実地テストを行う事に。

 技師長は対空兵器のコンソール前にいた部下へ顔を向けて頷くと、部下はコンソールを操作し始めた。

 新型対空兵器の威力としては、従来の魔導兵器よりも3倍は増している。単純に使用する魔石量を増やしただけでなく、様々な部分が改良された結果だ。

 コンソールを操作する技師は空を飛ぶイーグルをロックオンすると赤色の発射ボタンを押した。

 ロケット砲に近いフォルムをした対空兵器の銃身から巨大な魔法の弾が発射される。発射された弾は最初丸かったが、徐々に槍のような形状へ変化した。

 空を飛ぶイーグルの動きを追いかけるように動き出した魔法の槍が、相手の横っ腹に突き刺さった。

「こちらは上々か」

「ええ。威力も挙動も想定通りですね」

 対空兵器の性能は満足いくものに仕上がっていた。

 もう1機に対して発射するも、こちらはフレアによって回避される。

「連射すれば当たりそうですね。次は――」

「いや、待て」

 もう1機のイーグルも撃墜させようとする技師長にジェイコブが手で制す。彼は空を見上げ、上空を旋回するドラゴンライダーを見ていた。

 ドラゴンライダーの騎手は小さな光を連続して点滅させる。それを見たジェイコブは技師長へ顔を向ける。

「データを持って回収しろ。例の女がこちらにやって来る」

 そう言いながら、ジェイコブは自分の部下達に配備された対空兵器へ爆薬をセットするよう命じた。 

 まだ数発しか撃っていないが、ここで欲を出して技師達が死んでは話にならない。

 技師長も素直に受け入れ、実戦データの入ったストレージを魔導兵器から引き抜くと撤収の準備を始めた。

「防御魔法発生装置のデータは我々で回収しておく」

「分かりました。では、お先に」

 技師を護衛するマギアクラフト兵が脱出ルートに向かって道案内を始め、ジェイコブ隊はその場に残って彼等の背中を見送った。

「お前とお前はストレージの回収だ。残りは俺と来い。墜落した敵機のデータを頂く。任務を果たしたら予定通り、首都を脱出して合流ポイントに迎え」

 自分の部下達へ指示を出すと、ジェイコブは抱えていたヘルメットを被る。

 全身黒のアーマーに覆われたジェイコブはヘルメットのバイザーを下ろして魔法銃のセーフティを解除した。

「さて、給料分は働くか」
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