105 / 134
本編
98 春の訪れと共に
しおりを挟む雪が降る日々が続いていた大陸であったが、徐々に雪の降る日が減り始めて冬が終わる気配が見えてきた。
連邦人は春の訪れを感じ始め、活動的な季節に向けて準備を始める。
連邦中央政府も軍行に支障の出る季節が終わると同時に攻勢へ出ようと目論んでいたのだが……。
春に向けての準備は大幅に遅れる事となった。その始まりは1ヵ月前に遡る。
「ウワアアアアッ!」
「きゃああ! 助けて!」
「向こうで男が刃物を振り回している! こっちだ!」
連邦各地方、特に西部と南部を中心に一般人による暴行・暴走事件が多発。事件は連日昼夜問わず発生したのだ。
連邦中央政府は被疑者リストに難民と連邦国籍による若者が含まれる事から、当初は国への抗議かと予想していた。
しかし、事態は徐々に深刻化していく。
中央政府が西部・南部に駐留する連邦軍を事件の鎮圧に投入するが、徐々に被疑者の中に事件を鎮圧するはずの連邦軍人が含まれ始めたのだ。
一般人や難民による刃物を振り回した傷害事件から魔法銃を使用して無差別に人を殺す重大事件に変貌を遂げる。
これにより、西部・南部に駐留する軍や街の一般市民に大きな被害を出した。
しかし事件は終わらず、事態は一向に収まる気配が無い。
ようやく重い腰を上げた連邦中央政府が調査に乗り出す。
中央政府が調査した結果、西部と南部の街を中心に麻薬が流行っていると分かった。
しかも、その麻薬は製造地が一切不明。どこから流れて来たのかと流入経路を追うと、一部は共和国の難民が持ち込んだ物であると判明。
その線を追って調査していくと見えたのは敵国の姿だった。
リリィガーデン王国が連邦を麻薬汚染させようとしている。連邦中央政府はようやく真実を見抜いたのだが…もはや手遅れであった。
連邦政府が麻薬を使用しないよう呼び掛けるが、麻薬を摂取した被疑者による暴走事件の発生は未だ続く。
中央政府が派遣した調査隊による臨検で販売組織の存在を掴み、拠点を潰して回るが末端の売り子しか拘束できず。
この時既に、2ヵ国の難民と連邦人を含む40% 以上が麻薬に汚染されていた。
しかも、そのほとんどが難民と軍人。加えて未来を担う連邦の若者達。
リリィガーデン王国との戦争中、一番の戦力となり得る層が汚染されてしまっていたのだ。
すぐに中央政府は薬の根絶に動き出す。摂取した者達を隔離したり、治療しようともした。
しかし、麻薬とは怖い物である。依存症になった者達はクスリで見れる『夢』を忘れられなかった。
「ようやく入荷したよ」
春と同時に連邦が地獄を迎える発端となったのは、依存症状が軽い者から始まった。
中央政府の調査隊による取り調べを上手くすり抜けた者、一般人の中に潜んで未だ発見されていない者。
彼等は摘発以降、新しく入荷した『夢見るクスリ』を購入。
新しく入荷したクスリは以前よりも効果が高く、すぐに夢の中へ堕ちた。依存症状が軽かった者もすぐに重度のジャンキー化に至る。
しかし、本人達は「大変満足」と評価した。何たって、前よりも効果が高くすぐに夢を見れるのだから。
購入者達は今度は政府に潰されないよう、信頼できる者同士の口コミで存在を広げた。
この行為が後に調査隊が出遅れてしまった原因、地獄の始まりであった。
「あはは……たまんね~」
新しいクスリを購入した連邦の若者が仲間と共に裏路地でクスリを使用していた。
彼等は新しいクスリを使用した回数は僅か2回。たった2回の使用で製造者が望む効果が現れた。
「本当だよ――ああ? あ? あれ、光が……」
若者の1人が目を虚ろにしながら鼻血を垂らした。
鼻血を垂らした若者が地面へと倒れ、太陽の光を見ながら――そのまま死亡した。
「ああ~? なん……あれ? 眩しいなぁ……」
また1人、鼻血を垂らして地面へ堕ちる。
また1人。また1人と光を感じながら死んでいく。
若者達が大人から隠れてたむろしていた裏路地には6人分の死体が出来上がった。
中央政府が重い腰を上げた事で暴走事件の数はゼロにならなかったものの、確かに数は減りつつあった。
しかし、春の訪れと同時に今度は『変死事件』が多発したのだ。
現場を訪れた調査隊は捜査に乗り出すが、
「またクスリか……」
死因は明白であった。
何故なら死体の傍に『粉』の入った袋が落ちていたのだから。
以前に回収したクスリはマギアクラフトに成分調査を依頼しているが、今回もリリィガーデン王国の仕業だろうと調査隊はアタリをつける。
「マズイですよ。流入経路の封鎖が出来ません。もう国内は荒らされてしまっていますし、これ以上防ぎようも……」
「ああ……」
連邦は気付くのが遅すぎた。
2ヵ国の同盟国を失い、既に国内も侵食されていたのだ。
中央政府も既に気付いているだろう。
2ヵ国を最初に狙ったのは連邦への一手を施しながら、最大の国土を持つ連邦を内部から腐らせる時間稼ぎであったと。
連邦は自覚せねばならない。圧倒的不利な状態から戦争が再スタートする事を。
中央政府は麻薬汚染に対して成す術無し……とは公表できず。国民に対して謎の奇病と苦しい言い訳をして、新聞社に圧力をかけると事件を封殺した。
その後、何とか事件から意識を逸らさせるべくポジティブな話題を捏造するといった手段を講じる。
軍人達には麻薬へ手を出せば厳しい処罰をする、と既に汚染された軍人や難民を射殺する場面を直接見せて。ジャンキー共を見せしめにして規律の強化を図った。
連邦中央政府は何とか体裁を整え、戦争に挑もうと西部と南部へ更に部隊を派兵しようとするが――
「マグランさんよ。万が一に備えて中央の守りを厚くした方が良いぜ」
「何故だね?」
大統領官邸、大統領執務室には連邦大統領マグランとマギアクラフト隊の隊長であるジェイコブが話し合いを行っていた。
「もう西部も南部も役に立たねえ。既に相手は西部に向けて大隊を向かわせているだろうよ。奴等の狙いは中央だ。この機会に乗じて一点突破してくるだろうな」
ジェイコブはマギアクラフト本部からの情報と連邦国内情勢を鑑みて、リリィガーデン王国の動きを予想した。
それを告げるとマグランは「馬鹿な」と一蹴。
麻薬汚染されたと言っても、連邦軍にはまだ戦力が残っている。西部にはまだ正常な軍人達は残っているのだ。
そんな早く突破されるなどあり得ない。
リリィガーデン王国をまだ過小評価する……いや、現実を直視できないマグランは否定し続けるが――
「大統領! 西部の前線基地が堕ちました! 敵は街に向けて侵攻したと報告が!」
執務室の中へ慌てて駆け込んできた秘書官は顔面蒼白で叫ぶ。
「ほらな?」
対し、ジェイコブは「くくく」と小さく笑いながら言った。
「国内復興の考えを今からまとめておくんだな」
「なに?」
そう言って立ち上がったジェイコブに大統領は苦虫を噛み潰したような顔で問う。
「主戦場となる連邦の西部は荒れるだろう。なんたって、うちのお嬢2人が出るんだからな」
マギアクラフトもいよいよ本気でリリィガーデン王国と――いや、リーズレットと対峙する事にしたようだ。
ジェイコブは魔法少女2人が戦場に投入される事を告げ、執務室を出て行った。
長く続いた戦争もマギアクラフトの本格的な介入によって、いよいよ終盤を匂わせ始めた。
果たして勝つのはどちらか。いや、生き残るのは誰なのか。
大統領官邸の廊下を歩くジェイコブはニヤリと笑う。
「巻き込まれて死ぬのだけは御免だぜ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました
丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、
隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。
だが私は知っている。
原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、
私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。
優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。
私は転生者としての知識を武器に、
聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、
王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。
「婚約は……こちらから願い下げです」
土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。
私は新しい未来を選ぶ。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる