19 / 50
2章 学園パートの始まり
第18話 悪役貴族の青春学園生活(絶望編) 2
しおりを挟む朝が来た。
早朝ランニングと筋トレを終え、飯を食い、制服に着替えてと変わらぬルーティーンをこなしているのだが……。
「行きたくねえ……」
鏡の前で頭を抱えそうになった。
どうしてこうなった。
どうして勇者と実技授業を受けなきゃならんのだ。
「はぁ……。仮病で休みてえわ」
でもなぁ……。一日一度はリリたんの声を聞かないとなぁ……。
ガキの頃は我慢出来ていたけど、リアルで生なリリたんボイスを味わってしまってはもう無理だ。
一日でも欠かせば全身に蕁麻疹が出て吐血して血便出て死ぬだろうな。
もうジャンキーだよ。
俺はリリたんボイスジャンキーだ。
「……何度か付き合えば向こうも飽きるかな?」
むしろ、それを願うしかないか。
ため息を吐きながらも鞄を小脇に抱え、机の上に置いてあった鍵を取る。
またしてもため息を吐きながら部屋を出ると――
「ん? あ、おはよう」
「あっ、あっ……。お、おはよう、ございます」
部屋を出たタイミングがお隣さんと重なった。
相変わらずオドオドしている子だなと思いつつも、どうしても顔に注目してしまう。
……どう見ても女の子にしか見えないんだよなぁ。
でも、制服は男子用のズボンを履いているし、そもそも男子寮に入寮しているし。
性別は男で間違いないんだろうけど、彼の顔を見る度に脳がバグりそうになる。
「――っ」
俺が顔を見すぎたせいか、彼は鞄を抱えて小走りで去って行ってしまった。
悪いことしちゃったな。
「はぁ……」
ネガティブな考えを抱くと、余計に気分が憂鬱になってしまった……。
◇ ◇
憂鬱な気分のまま教室に入ると、既に席に着いていたリリたんが笑顔で迎えてくれた。
「レオ君、どうしたの? なんだかいつもと違うね?」
彼女の前では普段通りの自分を装っていたはずなのだが、些細な変化が顔に出ていたのかもしれない。
可愛くて気が利く彼女はその変化を感じ取り、心配そうに表情を歪める。
「ううん、何でもないよ」
ああ、マイヒロイン。僕の癒しよ。
この憂鬱な気分を感じ取ってくれるなんて、君はどれだけ良い子なんだ。
と、そんなことを考えながら席に着くと――斜め前方向に座っていた勇者が顔を向けて微笑んでやがる。
実技授業が楽しみで仕方ないって顔だ。
誰のせいでこんな気分になっていると思ってやがる。心底ムカつく勇者様だぜ。
――一度本気出してボッコボコにしてやろうかな?
いや、いや! ダメだ! ダメダメ!
この考えだけは絶対にダメ! 下手に勇者をボコって『魔王を倒すには君の力が必要だ!』って事態になったら最悪も最悪。
王都にリリたんを残して旅立つ、なんて人生は絶対に避けなければならない。
「ん? どうしたの?」
最悪のルートを想像しながらも、リリたんの顔を見つめてしまった。
こちらの視線に気付いてニコリと笑う彼女は、いつ見ても天使だった。
「いや、今日も制服姿が似合っているなって思って」
「え~。なにそれ」
恥ずかしそうに笑う君も好きだよ。
……ああ、俺のストレス値がどんどん下がっていくのがわかる。
ちゅき♡
授業二コマ分ほどリリたんに癒してもらい、遂に問題の実技授業の時間がやって来た。
実技授業に関してだが、生徒は前衛系と後衛系に分かれることとなる。
剣術や体術を得意とする生徒は講師見守りの元で模擬戦を行い、魔法を得意とする生徒は魔法使いである講師の元で魔法を発動する練習。
どちらも野外訓練場で行うのだが、魔法側の授業は最初の数十分ほど講義を受けたあとは自主練となる。
都度、自習中に質問があれば講師に問う感じ……なのだが、魔法側の講師はとんがり帽子を深く被って毎回居眠りしている。
たぶん、やる気がないだけだ。
そういう背景もあって、講師の目が無くなった魔法使い達の視線は自然と模擬戦を行う生徒達の方向に。
毎度熱い近接戦闘を繰り返す模擬戦に釘付けとなっていき、結局は堂々と見学する生徒達が大盛り上がりするのがお馴染みとなっていた。
毎回、何かしらの大会が行われているような雰囲気だ。
本日も講義を受け終わった魔法使いの雛達が友人や恋人を応援する声を上げるのだが……。
「レオ君っ! がんばれー!」
「リアム! 負けたら承知しませんわよ!」
模擬戦用のサークルに入って勇者リアムと対峙すると、後方から二人の声が聞こえてきた。
チラリと後ろを窺うと、リリたんとマリア嬢が肩を並べる姿があった。
「お互い、応援に応えたいね」
そうだね。
可能なら爽やかに笑うその顔をぶっ飛ばしたいよ。
「過去のことは忘れて! 僕には遠慮しなくていいからね!」
俺を気遣って言っているんだろうが……いや、待てよ?
向こうはまだ俺がトラウマを抱えていると思っているんだよな? となると、これを活かす方向で動いた方がいいんじゃないか?
「始め!」
最近、お互いに筋肉を称え合っている男性講師が開始の合図を告げた。
先に飛び出したのはリアム。
遠慮するなと言っておきながら、向こうも向こうで遠慮がない。
「ハァァッ!!」
初手から全力全開っぽい上段からの一撃を振るってきたが、俺は難無くバックステップで回避する。
しかし、回避されるのは織り込み済みだったようで、リアムは間髪入れずに間合いを詰めてきた。
「フッ!」
「おっと」
横薙ぎの一閃は腹をヘコめる感じでギリギリ回避。
続けて、勢いを殺さずに放たれた下段からすくい上げるような攻撃も横へステップして回避。
この瞬間、リアムに僅かな隙が出来た。
対する俺は既に踏み込む準備が出来ている。
――ここで一つ、演技を入れておこう。
俺はスムーズな流れでリアムの懐に入り、魔物を殺す時と同じ本気レベルの殺意を抱く。
イケメン死すべしっ! リア充死すべしっ!
今の自分は棚に上げて、前世で感じていた劣等感からの怒りを思い出しながら脇に拳を引き絞る。
「――ッ!!」
潜り込んだ瞬間、リアムの顔が歪むのが見えた。
そうだ、その顔が見たかった! ゲヒヒ!!
完璧な潜り込み、完璧な溜め――だが、楽しむのはここまで。
「…………」
引き絞った拳を繰り出すも、俺はリアムの腹にチョンと当てるだけに留める。
拳が当たった瞬間、リアムは大きくバックステップして距離を取った。
「……まだ怖いのかい?」
顔に汗を浮かべるリアムは、服の袖で拭いながら問うてくる。
「…………」
今回も何も言わない。
弱々しく笑うだけ。
否定も肯定もしないでいると、リアムは「大丈夫だよ」と爽やかな笑みを浮かべた。
何が大丈夫なのかは分からんが、向こうは納得してくれたらしい。
「もうちょっと時間があるみたいだね。このまま続けて慣れていこう!」
……お優しいねぇ。
正直、騙していることに罪悪感を覚えそうだよ。
ただ、こればっかりはしょうがねえんだ。許してくれよな。
内心で謝罪しつつも、リアムとの模擬戦を続けた。
数十分後、終了の合図が告げられる。
「今日もナイス筋肉!」
「先生もね」
最後は男性講師に自慢の上腕二頭筋をアピールし、向こうも自慢の広背筋をアピール。
互いに目で「いいね!」と賞賛しつつも、サークルの外へ向かった。
「レオ君っ! お疲れ様!」
リリたんからタオルを受け取り、顔の汗を拭いていく。
汗を拭い終えると、タオルはリリたんに回収されてしまった。
「洗って返すよ?」
「ううん、大丈夫だよ」
使用済みのタオルを畳むリリたん。良いお嫁さんになるでしょう。
でへっ。
「貴方、リアムと対等に戦えるなんて。そこそこ強いようですわね」
リリたんとのラブラブタイム中に声を掛けてきたのは、なんとメインヒロイン様である。
侯爵家の令嬢である彼女の言葉遣いと態度は偉そうに見えるが、声音は本気で驚いているようだ。
「それは……。どうも」
もうちょっと媚びた声にしておいた方が良かったかな?
でも、リリたんの前だからな。カッコつけたいな。
「自己紹介がまだでしたわね。私の名前はマリア・レイエス。レイエス家の長女ですわ」
よろしく、と笑う彼女からは実に高貴な雰囲気が溢れ出る。
――彼女は正しくお嬢様って感じのキャラクターだ。
俺としてはあまりタイプなキャラクターではなかったのだけど、前世では人気が高いキャラクターでもある。
人気の理由はギャップだろう。
リアムと恋人関係になると甘々でデレデレなキャラになるんだが、それがたまらんと言う人が多かったっけ。
逆にリアム以外の他人に対してはやや高圧的って感じ。
しかしながら、他人に対して「侯爵家の生まれである私を知っていて当然でしょう?」という態度を出さないところは好感が持てる。
……ゲーム終盤で敵として登場した俺を容赦なく風の魔法で斬り刻み、更には「王国の恥じ」「クズ」「ゴミ」と罵声を浴びせるんだけどね。
「ねぇ。せっかくだし、お昼は四人で食べない?」
「あら、よろしいのではなくて? そろそろリアムにもお友達を増やして差し上げたいところでしたし」
リアムの提案に対して、マリア嬢は「ふふん」と鼻で笑いながら肯定した。
そうだ。学園パート中のマリア嬢は主人公に対して世話焼きお姉ちゃんタイプなんだっけ。
これもまたギャップを強めるスパイスの一つなんだろうな。
「レオ君、行こう?」
「あ、うん」
勇者パーティーのメンバーと交流を持つのは危険だが、リリたんに誘われちゃ断れねえ。
授業終了後、食堂に向かって四人で歩いていると――
「レオ、また戦おうね?」
「……うん」
馴れ馴れしく名前を呼ばれながら再戦を約束されてしまった。
今後もトラウマ作戦で誤魔化すとして、授業とは別に本気で戦う場も用意しなきゃな。
実家暮らしの時と比べて、現状じゃ物足りねえよ。
……そろそろ、魔物でも狩りに行ってみようか?
三人の背中を眺めつつも、自分が経験値を積む方法について考え続けた。
14
あなたにおすすめの小説
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる