帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

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1章

6 B・B・Pの姉兎

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 JJの店を後にしたロイド達は再び魔導車へと乗り込んだ。

「あの店でどれだけツケにしてもらっていたんですか!」

 少し不機嫌そうに言うアリッサの文句を聞き流しつつ、ロイドは次の場所に向かうようメイドへ指示を出した。

 場所は外周区の南西にある一画。中~低所得者向けのカジノや風俗店が集まったエリアである。

 まだ昼間だというのに酒で酔った男達がフラフラと道を歩き、魔導車の前に飛び出して来るようなクソッタレな場所。

 他にも道には半裸の女性が男を誘惑するような仕草と目線を送り、店へと誘っているような下品な場所。

 道で客引きしている女性店員や酔っ払いの数は昼間故に少なく、これが夜になると魔導車など通れないほどの数で溢れ返る。

 この場所を夜に訪れると大勢の人とピカピカ光るネオン看板の多さで、見ているだけでも酔ってしまいそうなエリアだ。

 総じて言える事はお姫様が来るような場所じゃない事は確かである。

 目的地である店の前まで到達するとロイドはメイドに車を停車させ、後部座席の扉を開けようとしていたアリッサへ顔を向けた。

「なぁ、次も一緒に来るのか?」   

「ええ。どういった場所で情報を仕入れているのか興味があります」

 ロイドは情報屋のいる店をチラリと見た。木造の建物に掲げられる看板は昼夜問わずネオンがギンギンに光り、店名をチカチカと点灯させる。

『バニー・バニー・プレイ』――略称、BBP。

 所謂、女性とニャンニャンする風俗店である。

 ロイドは再びアリッサへ視線を戻すと、もう一度問う。

「正気か?」

「ええ」

 お姫様を風俗店の中へ連れ込む。城の者に知られたら重罪にならないだろうか。

 ロイドは不安で喉が渇いてきたのかゴクリと唾を飲み込んだ。ただ、どれだけ問うてもアリッサは退かないだろう。

「ヘイ。俺は悪くないからな」

 彼は運転席に座るメイドへ念押しした。この件をどこかに漏らすとしたら彼女しか考えられない。

 彼女はロイドの言葉に答えず無言だったが無言は承諾とした。むしろ、承諾であってくれと祈るしかできない。

 ロイドが車から外に出るとアリッサとメイドも彼に続く。

 3人は風俗店の中へと入って行った。

 風俗店入り口にある重いドアを押し開けると、中はソファーや毛皮の絨毯が敷かれた広いホールがあった。

 いくつも置かれたソファーの上には、頭に兎耳のヘアバンドを乗せて白や黒色のバニーガールコスチュームを着た女性が。

 毛皮の絨毯の上にもバニーガールコスチュームの女性が絡み合うように寝そべって、たった今入店してきたロイドへと一斉に誘惑的な視線を向ける。

 ホールの先には大きな階段があって、2階へと続いている。ホールを囲むように作られた2階はいくつものドアがあった。

 ホールにいる女性の中から目当ての娘を選び、2階にある個室で……というシステムのようだ。

 ただ、ロイドはホールで「私を選べ」と言わんばかりの誘惑的な目線を向ける者達に用は無い。

 彼はホールの右手側にある無人のバーカウンターへ寄ると、カウンターをコンコンと叩きながら目的の人物を呼んだ。

「ヘイ! アルミラージ!」

 彼が名を呼ぶとバックヤードから1人の女性が現れる。

「ロイド?」

 彼女も他の女性達と同じくバニーガールコスチューム。だが、色は金色だった。

 後ろで束ねた長い髪も金色で、髪と合わせたコスチュームの色から他の者達とは違うと容易に窺える。

 ホールで待機する娼婦達よりも少し年上、容姿や雰囲気からはロイドと同年代くらいとだろうか。

 何よりも特徴的なのはホールにいる女性達の頭にある兎の耳は作り物に見えるが、アルミラージの頭にある兎の耳はのようだ。

 酒瓶とグラスを持って現れた彼女は手に持っていた物をカウンターに置くとクスリと笑った。

「1週間ぶりかしら? 憲兵隊を止めて、私の店に女の子を紹介する職でも始めたの?」

 彼女はこの店のオーナー。子兎を纏める親――いや、姉兎か。

 カウンターへ両手をつきながら豊満な胸の谷間を強調するよう、やや前屈みになって。相手の心や考えを見透かすような目線をロイドに向ける。

「酒とツマミをくれ。手短に。今日は1秒でも早く店を出たい」

 ロイドはアルミラージの言葉を無視して、後ろに控えるアリッサ達を親指で示しながら早く本題に入りたいと態度を示す。

「まぁ、そうよね。皇女様を風俗店に連れ込んだなんて知られたらぶっ殺されるでしょうし」

 私もね、と言いながら肩を竦めた彼女はグラスに酒を注ぎ始めた。

 皇女として顔を公表しているアリッサを本人だと見抜くのは容易だ。皇族所属の証を着るメイドまで連れているのだから。

 だが、クビになって1日しか経っていないロイドの情報はどこから得たのか。

 彼女は確かに優秀なのだろう。彼が言っていた情報屋とは彼女に違いない、と彼女を知らぬアリッサもやり取りで察したようだ。

「それで? 今日はどうしたの?」

「憲兵隊を辞めたから商売でもしようと思ってな。人が欲しい。忠実で、何でも言う事を聞く人間。人権すらも無いような人間がな。心当たりは?」

「……う~ん。そうねぇ」

 ロイドは知りたい事を言葉の包み紙で何重にも巻いて問う。

 いつも通りのやり取りなのか、言葉を受け取ったアルミラージのリアクションも普通に見える。

 注いだ酒をロイドの前にズラす間、彼女の頭の中では情報を検索しているのだろう。

「外周区西エリアのに行けば知っている人に出会えるかもね」

 彼女も答えも明確な組織名は告げない。だから密告とは違う、というスタンスなのだろうか。

 加えて、彼女はカウンターの下からツマミを取り出して小皿に置く。

?」

「YES」

 小皿には殻が剥かれたピーナッツが5粒。

 ロイドは「ハン」と鼻を鳴らすとピーナッツを2粒摘まんで口に運んだ。

 咀嚼した後にグラスに注がれたブランデーを飲み干すと、懐から1万ローベルグ札を2枚取り出してカウンターに置く。

「助かった」

「また来てね。今度は遊びに」

 慣れたやり取り、お互いに分かり合っているような自然な流れ。

 振り返ったロイドの目には「はぁ~」と感心するように口を半開きにしたアリッサの姿が映った。

「なんだ?」

「いえ。こういった場所によく遊びに来るのですか?」

「男なら普通だろう」

 アリッサの問いに平然と答えるロイド。なるほど、と頷くアリッサ。

「私の場合だとあちら側に紛れて情報を得る方が良さそうです」

 アリッサはホールにいる女性達に目を向けて、とんでもない事を言い出した。

「馬鹿言え。無理だ」

 皇族であり皇女の彼女が娼婦に紛れる。想像しただけでゾッとするが、そもそも温室育ちの彼女には紛れる事すら無理だろう。

 醸し出される雰囲気に品があり過ぎる。紛れるとしても、ここじゃなく高級娼館……と言いたいが、そちらでも彼女の持つ品の良さを持て余すか。

 だが、否定された彼女はムッとした表情で反論し始めた。

「できますし。自分で言うのもなんですが、私は卒なく何でもこなせます」

「無理だ。アンタ、ここがどんな場所か分かってんのか? あんたには程遠い場所だぞ」

「はぁ? 子供扱いしないで下さい。私の事、何歳だと思っているんですか? とっくに成人してますけど? 目にクソ溜まってんですか? 男の扱いも知っていますけど?」

 否定された上に子供扱いされた、と感じたアリッサは更にムキになり始めた。

 どうやら彼女は頭ごなしに言われる事が我慢ならない様子。

「ハッ! 馬鹿言ってんじゃねえ!」

 男の扱いも知っている、と大層な事を口にしたアリッサを鼻で笑うロイド。

「あの人よりも上手くできる自信ありますし!」

 アリッサはホールのソファーでこちらを見ていた女性を指差して言った。

「はぁ? それこそ何も分かってねえ! あいつの口の中に1日で何本のナニが吸い込まれてるか知ってんのか? あっちはプロ、アンタはアマチュア。背伸びしてんじゃねえ!」

「背伸びなんてしてませんけど! 城でそういう事も教育されますし!」

「マジかよ! テメェん家は娼婦養成所か!? クソッタレな野郎共が増え――あいたッ!?」

 白熱していく2人のやり取りだったが、ロイドの後頭部に何か硬い物が当たった事で中断される。

「ヘイ! お二人さん! 痴話喧嘩なら外でやってよね!」

 後頭部を抑えたロイドが背後を振り返ると、そこには酒瓶を持ったアルミラージの姿が。次はこれを投げつけるぞ、という意思表示と共に。

「……すまん」

「失礼しました」

 ロイドは迷惑料として更に1万ローベルグ札をカウンターに置くと、アリッサを連れて店の外へと出て行った。
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