帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

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1章

5 JJ・Weapons

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 屋敷を出たロイドとアリッサは運転席にメイドが座る魔導車の後部座席に乗り込んだ。

「どこに向かうのですか?」

「まずは外周区に向かってくれ」

 アリッサの問いにロイドは外周区を目指せと言う。

 外周区の場所を説明する前に、まずは帝都の簡単な形から説明しよう。

 このローベルグ帝国帝都の形は円形の内周区と呼ばれる場所と川を挟んで反対側に半円型の外周区と呼ばれる場所が存在する。

 アリッサの屋敷がある帝城、その敷地は帝都の内周区北側最奥にある。

 城の後ろ側は背の高い山があり、背後を自然の要塞で敵の侵入を塞いでいるというべきか。こちらを内周区北エリアと帝国人は呼んでいる。

 次に城の西側にはロイドが所属していた憲兵隊本部や軍の施設、発展著しい魔導技術を用いた魔導具生産工場が多数置かれた内周区西エリア。

 内周区西エリアには帝国内地方都市と帝都を結ぶ魔導鉄道の駅、近年開発された魔導飛行船の発着陸上も存在する。

 東側は貴族達の豪邸が並ぶ貴族専用の住宅地が。こちらは貴族エリア、もしくは東エリアと呼ばれる場所だ。

 内周区中央エリアには大きな公園と高級商会などが並ぶ商業店が集まった場所があり、南エリアには爵位は持たぬものの一定以上の財を持つ富裕層が住む住宅地が。

 内周区の先には外周区と呼ばれ、帝都の人口増加に伴って増築された半円型の区画が存在する。

 内周区と外周区の間には幅の広い川が引き込まれており、魔導車も川を渡れるように太くて頑丈な橋が架かっている。また、外周区側にある橋の入り口には検問所が設置されている。

 何故、外周区側に検問所があるかと問われれば外周区に住む者達が中間~貧困層の住まう場所だからだ。
 
 格差激しい帝国では貧困層――貧しく汚らしい者達が高貴な者達の傍まで近づく事を良しとしない。

 中間層も残念ながら進入を制限されているが、運送業者など政府へ申請済みの商会所属者であれば証明書を見せて一時的に進入する事が可能である。

 しかし、証明書の無い者や勝手に進入しようとした際は最悪その場で銃殺される事すらもある。逆に内周区に住む人が外周区に出入りする際は特に何も言われない。

 加えて、敵が帝都を攻撃した際は橋を壊して内周への侵入を防ぐという。外周区に住まう人々は見捨てられる運命であるが、建国から現在までそういった事態に陥っていない事が幸いか。

 こういった帝都の造りに従って、ロイド達の乗った魔導車が橋へ進入すると軍人達が警備する検問所を抜けて行く。

 帝都内周区が綺麗に整った華の都と称するならば、外周区はみすぼらしい雑な街と言うべきか。

「相変わらず差が酷い街だ」

 内周区を越えたロイドは先ほどまで見ていた景色と、フロントガラスの先にある景色を比べて思わず言葉を漏らした。

 ロイドの借家は外周区の中間層が住まう場所にあるものの、格差を口にしてしまうのはそれほど差があるという事の証明だろう。

 内周区に建ち並ぶ富裕層の家はレンガ造りで統一されており、貴族の屋敷ともなれば白い外壁が常にピカピカの状態で常に維持されている。

 逆に橋を渡ってから見えるのは老朽化が進む木造の家ばかり。

 家と家の間隔も等間隔に整理されているわけでもなく、空いている土地に家を置きましたと言わんばかりの雑な街並み。

「帝都の外へ続く道路を外周区中央に敷くという案が議題に上がっていると一時は噂になりましたが、どうにも進んでいる様子はありませんからね」

 半円型である区画の中央には巨大な市場があって、中間・貧困層の人々はそこで買い物をする。よって、帝都最奥にある城から真っ直ぐ続く中央通りも外周区の中央エリア入り口で行き止まり。

 帝都から外に出るには半円型の外周区外側に敷かれた道路を通って西と東に設置された出口から出るしかない。

 加えて、外周区西・東・南のエリアに行く際も区画の外側にある外周道路を使うか、雑な外周区に作られた迷路のような小道を進むしか選択肢がない。

 アリッサが言った通り、各エリアへアクセスする不便さを解消しようという案は出ていたようだが、その案は空気となって消えたようだ。

「ハッ。貴族共が外周区の奴等の事を考えるはずねえよ」

 今の貴族が下々の事を考えているとは思えない。議題には挙げたものの、後回しにされているのか。それとも担当している文官や貴族が外周区に住む者達の税収で賄った工事費を着服してそのままか。

 どちらにせよ、今は雑でゴチャゴチャな街を大回りしながら移動するしかない。

 ただ、これは魔導車で外周区を回る場合と帝都の外に出る場合、外周区に住む者達の場合に限る話。

「貴族共はテメェ等が快適に暮らせれば良いのさ」

 貴族や富裕層達が帝都の外に出ようと思い立ったら、彼等は魔導鉄道か魔導飛行船を使う。貴族が魔導車を使うのは内周区を移動する時だけだ。

 地方都市へ魔導鉄道や魔導飛行船で移動した場合は、着いた先で魔導車をチャーターするのが常識である。

 よって、貴族や富裕層達は外周区に赴かなくても良いシステムが既に確立されている。

 こういった事情を聞くとますます工事が進むか怪しく思えてくるだろう。外周区に住む帝都民も期待はしていなさそうだが。

「外周区に入りますが、どちらへ参りますか?」

 検問所を抜け、外周区の外側にある道路前で一時停車してメイドが問う。

「まずは西エリアだ。西エリア入り口まで頼む」

「承知しました」

 メイドは再び魔導車を動かし始め、ハンドルを西に切った。

 外周道路を進んで西エリアの入り口と看板が掲げられた場所に到着。雑な家や店が左右に並び、中央には魔導車が辛うじてすれ違えるような舗装されていないデコボコ道が続く。

「道に入って最初の交差点で停まってくれ」

 ロイドの道案内通りにメイドが魔導車を走らせ、最初の交差点が見えると路肩に魔導車を停車させた。

 停車した高級仕様の魔導車に道行く人や西エリアに住む人々の視線が向けられる。外周区に高貴な者が来るなど珍しい、といった状況だというのがよく分かる光景だ。

 視線を浴びるロイド達は特に気にした様子もなく魔導車から降りると、ロイドは交差点の左側にある木造の店を指差した。

『JJ・Weaponsウェポンズ

 店のドアに掲げられた看板にはそう書かれた文字と魔導銃がクロスした絵が描かれている。

 ロイドは入り口のドアノブを捻って中へ入り、アリッサ達も彼に続いた。

「ヘイ! JJ!」

 店の中には棚がいくつか置かれ、魔導銃に使用するメンテナンス道具や魔導銃に使用する魔石カートリッジの入った木箱が陳列されていた。店の壁にはサンプルとして設置された魔導銃や魔導剣、魔導杖なども展示されている。

 ただ、店主の姿が見えない。

 ロイドが店主の名を呼ぶと店の奥にあったカウンターの更に奥、バックヤードから物が倒れるような音と男性の「イテェ!」という野太い声が響く。

「おう、らっしゃい……ってロイドか」

 バックヤードから頭をさすりながら登場したのはヒゲモジャの男性ドワーフ。

 JJと呼ばれたこの店の店主はドワーフ族の異種族だったようだ。

「よう、しばらくぶりだな。魔導銃を調達に来た」

「ああん? オメェ、憲兵隊の支給品はどうした?」

 カウンター越しに対面する2人。

 来店の目的を告げるロイドに対し、仏頂面で疑問をぶつけるJJだったが、質問を受け取ったロイドは「事情があってな」と詳細を省いた。

「まぁ、ちゃんと現金払いで買ってくれるなら問題ねえよ」

「大丈夫だ。今日は任せておけ」

 何とも意味深なやり取りだったが、ロイドの後ろにいるアリッサは店内を観察して聞いていなかった。

「それで、注文は?」
  
「魔導拳銃。カートリッジの差し込み口はスイングアウト式で重さがあるやつ」

 ロイドは使い慣れた拳銃タイプをチョイス。

 特徴としては重さがあって、カートリッジの交換をする際にカートリッジ差し込み口が横にスライドして交換するタイプ。

 ただ、JJの店で買えるのは民間販売用に限る。

 軍が正式採用している魔導拳銃は軍専用のトライアルを通過した軍専用の仕様と特別な生産工場で作られた物。

 使用素材は勿論の事、製造後も試射等のテストをクリアした一級品しか使われない。

 JJの店のような一般人が買える店には卸される事はなく。

 一般人が買えるのはコストを落とした二級品、量産を目的として作られた物だけになってしまう。

「これはどうだ? 帝都の工房で作られた第三世代だ」

 この世代とは開発・製造された年代を大雑把に表すものだが、現行品は第四世代とされている。

 現在の軍で採用されている物は第四世代型。第三世代の魔導拳銃をスリムにして軽量化を図った物が採用されているが、ロイドとしてはこの軽量化部分が気に食わないという事だろう。

 対し、JJが出したのは既に型落ちした物であるが、評判の良い工房が何度も改良を重ねて再販を繰り返した信頼性のある魔導拳銃だった。

 バレルは細い筒型、本体中心にカートリッジの差し込み部がスイングアウト式。グリップはやや太くなっているが滑り止めの加工がされていた。

 最初期に販売された物と比べて、最初期頃の面影は全く無い。だが、何度も改良を重ねた結果に行き着いた形はより実用的になったと言うべきか。

 カウンターに置かれた黒い魔導拳銃は信頼性と実用性に加えてメンテナンスのし易さなども考えられ、軍用品の特別仕様にも劣らぬ出来である。

 新規生産され、問題点が未だ改善されていない第四世代の量産品よりも確実に信頼性が高い。ロイドのような仕事をする人物であるなら、新しさよりも信頼性を重視するのは当然だろう。

 この辺りのチョイスからしてJJはロイドの事をよく分かっているようだ。

 ロイドはカウンターに置かれた魔導拳銃を手に取って、フィット感や構えた時の感覚を確かめる。

 アリッサに渡されたマグナムよりは軽いが帝国で生産されている魔導拳銃の中では重い部類に入るだろう。

「試し撃ちは?」

「頼む」

 JJの提案にロイドが頷くと、JJは店の裏に案内した。

 店の裏には3重で作られた石の壁があって、その前に木で作られたマネキンが3体並べられている。

 3体中2体は既にボロボロ。腹には何発もの穴が開き、頭部は半分ほど壊れていた。

「新しい方を使え」

 太く毛むくじゃらな腕を組んだJJは、まだ壊れていない最近置いたばかりであろう新品のマネキンを顎で示す。

 ロイドは魔導拳銃のセーフティを外して、片手で魔導銃を構えた。

 引き金を連続で引くと「ダンダンダン」と銃声が鳴って魔導弾が発射される。どれもマネキンの頭部に命中してロイドの腕の良さが証明された。

 一般的に第三世代から第四世代の魔導拳銃は弾を生成する為の魔石カートリッジにおける効率がアップしている。

 よって、1つのカートリッジで最大10発は撃てるのが今の常識だ。第二世代までは7~8発が限度だったが、この辺りに日々の技術進歩が窺えるか。

 1カートリッジ分、10発撃ち終えるとロイドは魔導拳銃のグリップ上にあるカートリッジリリースボタンを押した。

 すると、バレルの左右に空いた排出口からバレル内部の冷却に使用した魔力の残滓が白煙となって「ブシュー」と排出される。

 同時に本体中心にあったカートリッジの差し込み口が横にスイングアウトされた。

 ロイドが魔導拳銃を縦にすると、スイングアウトした差し込み口から空になった筒型のカートリッジがポロリと地面に落ちる。

 地面に落ちたカートリッジはそのままで拾わない。使い終わったばかりのカートリッジは熱くなっていて、触ると火傷してしまうからだ。

 新しいカートリッジをJJから受け取って差し込み口に投入。差し込み口を再び本体に押し戻してやればリロードが完了する。

「これを貰おう」

「まいど」

 使い心地は『普通』といったところか。別に悪くもなければ良くもない。

 魔導拳銃としては至って『普通』である。ただ、信頼性が高く戦闘中に故障しないという点が重要。

 その点はロイドもオススメしてきたJJを信じている、といった感じか。

「ついでにこれの試し撃ちも良いか?」

 ロイドは腰ベルトに差してあったマグナムを取り出してJJに見せた。

「あん? んだぁそりゃ?」

 民間の武器屋として店を構えるJJでも見た事がない魔導拳銃。従来品とは違うフォルムに目を鋭くさせた。

「あー……。ん、おほん、おほん」

 ロイドがJJにマグナムを見せた途端、背後で試し撃ちを見ていたアリッサの不自然な咳払いが聞こえた。

 2人は揃ってアリッサの顔を見る。すると、彼女はニコリと笑って言った。

「まだ世に出していない物なので、ここでは使用を控えて下さい」

 そう言ってニコニコ笑顔を見せ続ける。彼女の笑顔には有無を言わさない強さがあった。

 まぁ、当然だろう。こういった魔導技術を用いられて作られた製品はリリース前に情報が出回ると何かと面倒が起きる。
 
 民間の生活用魔導具の新製品に関する情報がリリース前に漏洩して、対立する工房が全く同じような物を作って同時に発売させた、なんて事も珍しくはない。

 マグナムを作った者はアリッサから支援を受けており、出資者であるアリッサが情報漏洩を気にするも当然だ。

「……分かった」

「俺は何も見ちゃいねえ」

 ロイドも素直に引き下がり、JJは両手を上げて首を振ると見た事を胸の中に仕舞う。

 まぁ、外見を見た程度ならどうにもならないのだが。

「ご理解頂き感謝します」

 アリッサは感謝の言葉を告げ、ロイドはマグナムを腰に差し戻す。

「そうなると試し撃ちはどこですりゃいい?」

「城にもまだ報告がいっていない物なので城の射撃場も使えません」

 ロイドの問いに少々悩む素振りを見せたものの、やはりニコリと笑って返すアリッサ。

「ぶっつけ本番で使えと?」

 試し撃ちすらできぬ魔導拳銃を持っていてどうするのか。

「そうなりますね」

 譲らぬアリッサにロイドは露骨に嫌そうな顔をする。 

「まぁまぁ。そんな顔せずに。ここの支払いはママがしてあげますから」

 ポンポン、とロイドの背中を優しく叩くアリッサ。

 ワガママを言う子供のように扱われたロイドだったが、満面の笑みでJJの顔を見た。

「言ったろ? 現金で払うって。ついでにツケてた金額も全額払う。優しいママで助かったぜ」
 
 そう言いながら笑うロイドは1人で先に店の中へと戻って行った。
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