帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

文字の大きさ
27 / 42
2章

26 後輩からの捜査依頼

しおりを挟む

 教会で銃撃戦が始まる前の事、ロイドは新居となった拠点2階にあるリラックスルームでリクライニングチェアでくつろぎながらタバコを吸っていた。

 シャターンとオーソーが起こした事件は被害者救出を終えて一旦の落ち着きを見せた。

 あれから人身売買が起きた噂も聞かず、死亡した被疑者の跡を継ぐ者は出なかったようだ。

 城では貴族2名が大犯罪を起こしていたという事で大騒ぎになって、第一皇子が派手にやらかしたようだがロイドには関係無い事である。

 アリッサは被疑者の背後に協力者がいるのでは、と推測していたようだが今のところロイドに捜査要請は出ておらず。

 彼女が動き出すまでロイドはゆっくりと過ごせるわけである。

「フゥー……」

 こういった暇な時はゆっくりするに限る。そう言わんばかりのリラックスムード。

 外で購入した週刊誌を読み終えたら一服して。さっそく地下にある酒保で酒を買い、軽く一杯やりながら眠気を誘う。

 惰眠を貪っては飯を食い、また酒とタバコを楽しんで眠る。ロイドにとって、これが極上の休日といったところなのだろう。

 静かでゆっくりとした時間が流れる中、ロイドの耳には「カラン、カラン」とベルの音が微かに聞こえた。

 これは敷地内に門番を配置させぬ富裕層クラスの屋敷には定番となっている、玄関に取り付けられた来客者用のベル音だろう。

 中途半端な大きさの屋敷ではドアノッカーを叩いてもよく聞こえない。その代わりとして、玄関にベルを取り付けて来客者に鳴らしてもらって家の者に来訪を伝えるといった手段の1つである。

 ただ、ベル音が聞こえたであろうロイドは立ち上がりもしない。

 ここは自分の家ではあるものの、持ち主はアリッサである。ならば持ち主であるアリッサのメイドが対応すべきだろう。

 下手に自分が対応して面倒事になっても申し訳ない。

 しかしながら、アリッサとメイドのローラは現在帝城に呼び出されていて不在である。

 他に対応できる人物はアリッサが経営する商会で雇っている会員だろうか。まぁ、なんにせよロイドは対応する気は無いようだ。

 よって、ロイドはノックに対して『無視』という対応を取った。御託を並べているが、簡単に言えば面倒臭いの一言に尽きるのだろう。

 タバコを灰皿に押し付けたロイドは瞼を閉じた。完全に寝る態勢である。

 ぼんやりと夢の中に落ちそうな感覚を楽しんでいると、魔導車のエンジン音と停止する音が聞こえる。その後、うつらうつらしていると屋敷の廊下からパタパタと誰かが歩く音がした。

 その足音はロイドのいるリラックスルームへ近づいて来るようだ。ぼんやりと夢の中へ片足突っ込むロイドはアリッサが雇った商会会員かと思っていたようだが……。

「ロイドさん!」

 リラックスルームのドアを開け、怒声に似た声を上げたのはアリッサだった。

 ロイドが半目で声の方向を見ると不機嫌そうな顔をしたお姫様がズンズンと向かって来ていた。

「あ~? どうした~?」

「どうした、じゃないですよ! 来客の対応して下さいよ!」

 腰に手を当てて、リクライニングチェアで横になるロイドを見下ろしながらぷりぷりと怒るアリッサ。

「アンタの客だったら面倒だろう? だから無視したんだ」

 ロイドは眠気を覚ますように伸びをしながら、用意していた言い訳を言って難を逃れようとするが彼女の機嫌は直らない。

「軍人だったなら、それ相応の対応が出来るでしょう! もう!」

 例えば敬礼して、第四皇女殿下はご不在ですと言えば良いだけだ。用件を伺えそうであれば後でアリッサに伝えれば良いだけである。

 どうせ面倒だったんでしょ! と本心を見破られてしまったロイドだったが反省の色は見えず。

「もう。来客対応の手段を考えなきゃ。ああ、それより、ロイドさん。貴方にお客さんですよ」

「俺に?」

 どうやらドアノッカーを叩いていたのはアリッサ目当ての客ではなく、ロイドに用件があったようだ。

 一体誰が、と問う前にアリッサが口を開いた。

「憲兵隊の隊員でした。貴方に相談があるそうです」

 
-----


 屋敷の1階にある応接室に向かうと、出された紅茶を口にしていたのは確かに憲兵隊員だった。

 帝国人らしい茶色の短髪、憲兵隊員にしては背が低く、顔も少々童顔寄りの人物。

「ロイド先輩!」

「よう、マルク。どうした?」

 ロイドを訪ねて来たのは憲兵隊時代の後輩であり、当時のロイドが信用していた数少ないまともな人間だ。

「いや、どうしたって……。先輩こそ憲兵隊辞めてから……。あのぅ、そのぉ……」

 マルクは言いかけた言葉を最後まで言わず、ロイドの横にいたアリッサを見るとゴニョゴニョと言葉を濁す。  

 見た目からしてマルクは気が弱そうだが、最高権力者である一族を前にしていつも以上に委縮しているのだろう。

「まぁ、色々あってな。ところで、どうして俺がここにいると分かったんだ?」
 
「先輩が新設された組織に所属したのは聞いていました。最初は軍の登録所を訪ねたんですが、軍の組織図に無かったので城の登録室で所在を聞きました」

 アリッサが組織した特務隊は軍の指揮下から外れている。故に軍にある組織・部隊の記録室に特務隊の記録は無い。

 あるとすれば城にある全国民の身分登録を保管、皇族に仕える者達の身分を個別で保管している特別記録室だろう。

 この城にある特別記録室は皇族派の貴族が仕切っている部署であり、仕切っている貴族は軍部をまとめる反皇族派のグレゴリーを目の仇にしている。

 軍人に対して冷たい態度を取るせいか、軍人からもすこぶる評判の悪い部署だ。

 気の弱いマルクであれば本来ならば近づきたくないような場所であるが、どうしてかこういった時だけ彼は思い切りが良い。  

 こうした思い切りの良さをロイドは気に入っているようであるが。

「なるほどね。んで、俺に相談とは? どうしたんだ?」

 ロイドはまた憲兵隊内部で何かあって、それを相談しに来たのかと予想していたようだが……。

「実は、ブラックマーケットで新しい麻薬が販売されているって情報が入ったんですよ」

「シャターンのとは違うブツか?」

「ええ。出所もまだ不明で、どういった効果なのかも不明です。ですが、不審な者達がブラックマーケットで販売しているそうで。貧困層の人達を中心に販売しているそうです」

 一旦間を置いたマルクはそのまま言葉を続けた。

「格安販売しているせいか、ジャンキー共の間で取り合いになっているようです。南エリアの貧困街では銃撃戦まで勃発したようで酷い有様なんですよ」

「ふぅん……。それで? 俺にどうしろと?」

「先輩はブラックマーケットに詳しいじゃないですか。それと、考えたんですが……。狙われたジャンキーが最終的に逃げ込む場所は――」

「教会、か」

 話を聞いていたロイドはマルクの言葉を最後まで聞かずに場所を当てる。

 言い当てられたマルクも頷いた。

「ブラックマーケットと教会。どちらも先輩は詳しいですし、知り合いもいるでしょう? 捜査に協力してほしくて」

 マルクがロイドを訪ねて来た理由は捜査協力だったようだ。

 合点のいったロイドも頷く。

「ちょっと、よろしいですか?」

 ただ、2人のやり取りに横から割り込んだのはアリッサだった。

「ひ、ひゃい!」

 お姫様の割り込みにビビるマルク。肩はビクリと跳ねて、ガチガチに緊張する彼の姿を見たアリッサは思わず吹いてしまいそうになった。

 皇族でありながらも城では貴族達に高級娼婦扱いされるのが彼女にとって普通だった事もあって、ここまで皇族として畏敬の念を向けられる体験は久々すぎて新鮮さすら感じるのだろう。

「緊張すんな。このお姫様はヘビじゃねえよ。お前を丸飲みしたりしない」

 しかし、ロイドの目には小動物が捕食者の前で怯えているように映ったのだろう。

 背の低いマルクが萎縮して縮こまっている姿は確かに小動物らしさがある。ニコニコと笑いながら相手の考えを探り、自分の有利な方向に事を進めようとするアリッサを捕食者と表現するのも納得か。

 彼はアリッサを揶揄うように鼻で笑うと、口角を吊り上げて挑発するようにアリッサの顔を見やる。

「誰がヘビですか。喉を食い千切りますよ」

「ヘビじゃなくクマかトラがお望みか? そっちの方が恐ろしいぜ」

 ムッとしながらロイドを見るアリッサ。相変わらず軽口を続けるロイド。

 2人のやり取りとしてはこれが通常営業であるが、2人のやり取りを初めて見るマルクは心臓がドキドキしっぱなしに違いない。

「おほん。それでですね。その件、特務隊に預けてくれませんか?」

 ロイドとのやり取りで漂う場の雰囲気をリセットしようと、アリッサは咳払いをしてからマルクにそう提案した。

「特務隊にですか?」

「ええ。実は城から同じような任務が下されました。恐らくは関連性があると思いますので、私達で捜査を行おうと思います。どうでしょう?」

「は、はい。お任せします」

 第四皇女に「どうでしょう?」と問われて首を縦に振らない一般人はいないだろう。気が弱いマルクであれば猶更か。 

「ありがとうございます。事件を解決しようと思ってくれた事へも皇族の一員として感謝申し上げます。貴方のような方がたくさんいれば、帝国はもっと平和になるでしょうね」

「い、いえ! そ、そんな!」

 ニコリと愛想たっぷりに笑ったアリッサのキラキラな皇女スマイルを全身に浴びたマルクの頬が赤く染まる。

「……タラシの人食いトラ」

 ロイドが小声でボソリと零した一言に、アリッサは笑顔を維持したままテーブルの下にあった彼の足をグリグリと踏みつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...