帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

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2章

28 地獄の入り口、もしくは地獄の一丁目

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 ロイドとアリッサを乗せた魔導車は外周区東エリアにある教会の近くに停車した。

 教会付近には人混みが出来ており、車を降りたロイド達は教会に近づいていく。教会の入り口は閉められているが、中からは銃声と人の悲鳴が外に漏れ聞こえていた。

「あ! 軍人さん! 教会が襲われているんだ! 教会の人達を助けておくれよ!」

 人混みに近づいたロイドに気付いた主婦が懇願するように言うと、彼女の言葉を聞いた他の者達もロイドへ一斉に顔を向ける。

 どいつもこいつも不安そうな顔を浮かべて、教会を心配するような言葉を口にする。

 教会の真実を知るロイドからしてみれば騙されている……いや、洗脳されているんじゃないかと思えるような光景だ。

「分かった、分かったから。通してくれ!」

 ロイドがそう叫ぶと人混みは左右に割れて、教会までの道が開いた。ロイド達は教会の入り口まで歩み寄る。

『ギャアアアアッ!?』

 中から聞こえるのは魔導具らしき物の独特な稼働音。それと男の断末魔。

「入りたくねえー……」

 ロイドは大きくため息を零した。魔導具の稼働音と断末魔、どちらを聞いて最悪と判断したのだろうか。

 彼は後ろにいたアリッサとローラへ振り返る。

「いいか。絶対に中へ入るな。こればっかりはマジだ」

 真剣な顔でアリッサへ釘を刺す。

 シャターンを捜査していた際に彼女はマフィアの事務所や現場へやって来た前科があるが、魔導車の中で話した通り今回ばかりは絶対にダメだとロイドは真剣な顔で告げた。

「分かりました」

 前回と違って、今回ばかりはロイドの負担になると思っているのかアリッサも了承して頷きを返した。

 ロイドは腰にあったマグナムを抜く。カートリッジが装填されている事を確かめると、教会の扉を少しだけ開けて体を潜り込ませる。

 中へ入ったあと、ロイドはすぐに扉を閉めた。そして、彼が再び前を向いた瞬間――男の死体がロイドに向かって飛んで来た。

「クソッタレ!」

 間一髪のタイミングで横に飛び退き、飛んで来た死体との直撃を回避する。ロイドに躱された死体は教会の扉にぶつかって大きな音を立てると床に落ちた。

 教会最後列にあった長椅子に隠れながら、飛んで来た死体を見るロイド。

「あーあー……。マジで最悪だ」

 死体の首から上が無い。それどころか、右肩から左脇腹にかけて斜めに切断されている。辛うじて脇腹の肉で繋がっているような状態だ。

 長椅子の後ろに身を隠しながら教会内を観察すると、右奥にあった石の柱には腹に魔導剣がぶっ刺さって吊られる男の死体。

 中列にある長椅子の背には両手が切断された男の死体が乗っかっていて、床はどこもかしこも血の海である。

 凄惨な教会内の状況を確認したロイドは舌打ちを鳴らすと大きく息を吸い込んだ。

「おい! ババア! いるんだろ!?」

 教会の奥に向かって叫ぶロイド。すると、コツコツと杖をつく音が聞こえてくる。

「おや。坊やじゃないか。久しぶりだね」

 ロイドが身を隠していた場所までやって来たのは杖を使って歩く老婆。シスター・マリアと呼ばれる教会の責任者だ。

 教会の中では男の断末魔と魔導具の稼働音が鳴り響き、そこかしこに血と肉が飛び散る状態だというのにシスター・マリアの表情は至って冷静といった具合である。

 それどころか、ロイドの顔を見るなり笑顔さえ浮かべてみせた。

「風の噂によれば憲兵隊を辞めたんだってね? 今は皇女様に首輪を嵌められたそうじゃないか。飼い犬生活が嫌になってウチに来る気になったのかい?」

 そう言ったシスター・マリアは「どっこいせ」と零しながらロイドの隣に腰を下ろす。

「んなわけねえだろ。ババア」

「そりゃ残念だ。ウチの福利厚生は良いって評判なんだがねぇ。が来てくれりゃ、私も楽できるのに。」

 ロイドの横に座ったシスター・マリアは白い修道衣のポケットからソフトパッケージのタバコを取り出して、開け口の横をトントンと指で叩き始めた。

「こりゃどういう状況だ?」

「神の家に土足で上がり込んだ馬鹿が教会の中で弾ぶっ放し始めたのさ。誓って私らが起こした事じゃないよ。私らは巻き込まれたんだ」

 開け口から飛び出した2本のタバコのうち、一本を摘まんで自分の口へ。もう一本は飛び出した状態のままロイドに差し出した。

 ロイドは彼女からタバコを受け取ると、自前のオイルライターで火を点けてからライターを彼女に向けて差し出した。

 ライターを差し出されたシスター・マリアも遠慮なく火を点けて、2人揃って煙を吐き出す。

「どういう事だ? 外周区の奴等、ここでドンパチしたらどうなるか分かってんだろ?」

 特に魔導銃を常に携帯しているような輩は教会戦士の存在を知っている。教会の中で銃撃戦など始めれば外周区の一般人からバッシングを受けるだけでなく、教会戦士と戦闘になる事くらい分かっているだろう。 

「逃げ込んで来たのは外周区のやつだね。そいつを追って来た輩がいるんだが、そいつらはどこかの国から来た新参者なんだろう」

 逃げ込んで来たのは恐らく外周区に住む帝国人。追手は別の場所、もしくは別の国からやって来た外国人。

 追手の男達は帝都にある教会がどういう場所なのか、どういったルールを定めているのか理解していなかったんじゃないか。

 そう彼女は推測を述べた。

「逃げ込んで来たやつは?」

 帝都人であるヤツはどいつだ、と問うロイド。すると、シスター・マリアは教会の右壁を親指で示す。

 彼女は示した場所には腹の中身と大量の血を撒き散らしながら壁に背を預けて死んでいる男がいた。

「おいおい。お得意様は殺さないんじゃないのか」

「馬鹿言うんじゃないよ。神の助けだってタダじゃないんだ。最低でも1000万ローベルグはしてくれなきゃ神様は救ってくれやしないよ」

 所謂、死んだ男は薬の購入額が足りなかった。聖職者達にお得意様と認識されるには寄付金が足りなかったようだ。

 ロイドはシスター・マリアの言い分に舌打ちする。

「だから神は嫌いなんだ。肝心なとこで助けてくれやしねえ」

「当たり前さね。汝、助かりたければ物乞いのケツを舐めてでも金を用意しろってウチの聖書にも書いてあるよ」 

 フゥーと煙を吐き出すシスター・マリア。

 とんでもないほど現金主義な神である。やはりこの世は金次第。

 人だけじゃなく神までイカれてやがる、とロイドは悪態をついた。

「それで……。追手はどこから来た連中なんだ?」

「さぁね。直接聞いて……は難しそうだねぇ」

 ロイドとシスター・マリアは身を隠していた長椅子の背から顔を覗かせて教会の奥を見た。

「あはッ! あははッ! ヒヒッ! ねえ、どう? 今どんな感じ? ねえ、ねええええッ!? ボクに教えてよおおおおおッ!!」

「ギャアアアアア!?」 

 そこには魔導剣の刃を回転させながら、男の腹に刃を差し込むツインテールの美少女が。

 腹を掻っ捌き、剣を上にスライドさせていって男の体を生きたまま解体し始める。男の体から飛び出す返り血を浴びまくって、白い修道衣はすっかり赤色に変わっていた。

「アレ、止めろよ」

 ロイドが狂ったように笑う美少女を指差しながら言うが、シスター・マリアはゆっくりと首を振った。

「無理だね。見な、目が完全にキマってるよ。ああなったら、あの子は止まらないんだ。全員殺すまでね。まったく、まだまだ教育が必要だねえ」

 シスター・マリアは再び長椅子に背中を預けると、まるで他人事のように言ってタバコを楽しむ。フゥーと煙を吐き出す顔は、まるで子供の成長を見守る親のようだった。

 だが彼女の言う通り、美少女を止めるのは難しいと言わざるを得ない。魔導剣で男を解体する美少女は、その行為自体を楽しんでいるように見える。

 口からは悪魔のような鳴き声を発して、相手の血肉を浴びようと笑ったまま。

 白い歯を剥き出しにしながら笑う口の端には白い泡が漏れ出ていて、誰がどう見ても正気じゃないのは一目瞭然である。

「ふざけんな! アンタの部下だろうが! テメェが止めずに誰が止めんだッ!」

 しかしながら、捜査のヒントを得たいロイドとしてはたまったもんじゃない。

 彼の言葉を皮切りに、ロイドとシスター・マリアによるいつものコミュニケーションが始まった。

「ババアに無茶言うもんじゃないよ! あの子を止めるのにどんだけ苦労すると思ってんだい!」

「あ"ぁ"!? 魔導剣を奪って止めりゃいいじゃねえか! それかお得意のお祈りで神か悪魔に助けを乞えよ! Amenアーメン Hallelujahハレルヤ fuckin'クソbastard野郎ってよ!」

「神の家で神様を馬鹿にするたあ良い度胸だねッ!」

「どこが神の家だッ! 老眼キマった目で周りを見てみやがれ! どう見ても地獄の一丁目じゃねえか!」

「いい度胸だ! あんたも地獄に堕ちたいようだね!?」

「ハァーッ! 上等だッ! 堕とせるモンなら堕としてみやがれッ! 地獄の悪魔と一緒に中指おっ立てて、タップダンス踊りながら言ってやるよッ! 次はテメェの番だってなッ!!」

「言ったねえ! 飼い犬に成り下がった猟犬がどこまでやれるか見てやろうじゃないかッ!」

 汚らしい言葉で罵倒し合うロイドとシスター・マリアだったが、しばらく経って2人は教会内に響いていた魔導剣の稼働音と男の断末魔が止んだ事に気付く。

 2人揃って長椅子の背からそーっと顔を出し、静かに奥を覗くと返り血で真っ赤に染まった美少女がぼけっとその場に立っていた。

 傍には男達の死体が散乱しており、美少女が全員を殺害し終えたようだ。

 手に魔導剣は持っているものの、起動させるグリップトリガーは握り込んでいない。教会の天井を虚ろな目で見上げながら、2人には聞こえぬ小さな声でブツブツと何か呟いていた。

「……やれやれ。終わったようだねぇ」

 どっこいしょ、と立ち上がるシスター・マリア。加えていたタバコを最後に大きく吸い込むと、近くにあった血だまりに火のついたタバコを投げ捨てる。

「ほら。坊や、ババアとの楽しいお喋りは終わりにして仕事を済ませとくれ」

 良い暇潰しができた、と言わんばかりに口角を吊り上げながら笑うシスター・マリアは、床に座るロイドを見下ろしながらそう言った。

「ハッ。言われなくとも」

 とはいえ、死人は喋ってくれない。教会内でドンパチしていた者達の身元は解体された死体を探って確認せねばならぬようだ。

 負けじと大きな態度を取るが、スプラッタな現場を捜査するのは誰でも気が滅入るだろう。

「フゥー……。やってらんねえ……」

 彼は奥へ歩いて行くシスター・マリアの背中を見送りながら最後の一口を吸い終えると、血だまりにタバコを投げ捨てて立ち上がった。
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