帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

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2章

31 ネズミの王

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 2階にあった応接室に通されたロイド達。

 彼等を案内したズロアは引き連れていたボディガードに「下がれ」と言い付けると、ボディガード達は渋々ながらに退室していく。

 ボディガードを見送って、少しだけ間を開けたズロアはロイドの顔を見るとぐしゃぐしゃと顔を歪めた。

「ロイドの旦那ァ! 勘弁して下さいよぉぉ~!」

 ズロアは今にもその場で泣き崩れそうな情けない声と態度を披露する。

 先ほど、1階で見せた『王』たる態度は消え失せて。両手をゴマを擦るように合わせ、前歯を下唇に押し当てながら態度を豹変させた。

 その変わり様は流石のアリッサも目を点にしてしまうほど。

「困りますよぉ~! ロイドの旦那が来るといっつもこうなんですからぁ~! しかも、皇女殿下まで連れて来るなんて正気なんですか!?」

「仕方ねえだろ。成り行きだ」

 今回ばかりは俺のせいじゃない、と態度で表すロイドに「そんなぁ~」とズロアは情けない声を追加した。

「あ、あのぉ……。どういう事です?」

「言ったろ。コイツはネズミだってな」

 アリッサがズロアの豹変っぷりを問うとロイドはため息を零しながら言った。

 ネズミは体が小さく、1匹では脅威を感じぬような動物だ。しかし、すばしっこく小賢しい。

 彼はネズミの王と呼ばれるように、その小賢しさは群を抜いている。

 元々上位階級の下に就いていたせいもあるのか、彼は『強い者、自分よりも格上な者』に対しては服従してみせる。

 それは彼がこれまでの人生の中で学んだ事、生き残る為に得た知識なのだろう。

 今でも繋がっている貴族は勿論の事、腕っぷしの強さで勝るロイドにも『歯向かう気はございません』と服従して己の命を守る。

 特に今回は皇女殿下までご一緒である。彼がこうなるのも当然であるが、一度隙を見せて自分よりも格下だと思えば……。

 ネズミは群れで獲物を襲うだろう。

 まぁ、ロイドが帝都にやって来てから3年間、そういった態度も兆しも無いのだが。

「私なんて小さき存在は一瞬で殺されてしまいます。ブラックマーケットを仕切ろうと、貧困層を支配しようと、お貴族様や皇女殿下からしてみれば道端のゴミと同然でしょう」

 へへへ……。とズロアは卑屈に笑う。

「で、ですので。どうか、お見逃し下さい。ご希望であれば売上の一部を献上致します!」

 金を渡すから商売を見逃してくれと自ら申し出るとは。天晴なほどの小悪党っぷりだ。

 アリッサが苦笑いを浮かべていると、ロイドが口を開く。

「ちげえよ。今回はお姫様が気まぐれに起こした摘発行為じゃねえ」

「では、何のご用件で?」

 ホッと胸を撫でおろすズロア。ロイドはポケットの中にあった小瓶を取り出すと彼に見せた。

「コイツを売ってたヤツはどこにいる?」

「うう~ん? これは……。ああ、例のクスリですか!」

 ズロアは現物を見て思い出したのか、両手を叩いて軽く音を鳴らす。

「今、貧困街に住む者達の間で話題のやつですよ。飲むと物凄く気持ちよくなって、空の上までぶっ飛ぶような感覚に陥るらしいです。でも、摂取しすぎると中毒を起こして死んでしまうとか。それでも味わった快楽に負けて過剰摂取する者も多く、貧困街では死体が増えているそうで」

 やはりアリッサが城で聞いた情報通り、危険な麻薬のようだ。

 恐らく死んだ貴族の子弟とやらも初回に味わった快楽を求めて何度も摂取を繰り返し、人体の許容量を超えたのだろう。

 といっても、こういったオーバードーズによる中毒死はクロイツア産の麻薬でも起こり得る。今回の問題点はその許容量と効果の高さなのだが。

「私の部下が言うには、販売員は外国人だったようです。フード付きのローブを被った男。あと、なんでしたっけ? マギフィリア人が好きな帽子……。ええっと、そうだ! ハンチングだ!」

 ズロアはマギフィリア王国がよく被っている帽子の名を思い出すと、人差し指を立てて揺らしながら「そうだ、そうだ」と小さく言った。

「それで、ローブを被った男とハンチングを被った男がメインの販売員で。他にも荷物運びと護衛を兼任したような屈強な男を連れてマーケットの西側で店を開いていたようです」

「開いて?」

「ええ。ほら、外国産の麻薬販売は帝都の中で厳しいでしょう? がいますから」

 アレ、と言ったズロアは手を合わせてお祈りするようなポーズをとった。教会の事を示しているのだろう。

 犯罪渦巻く貧困街をよく知る彼ならば、教会が裏で自国産の麻薬が独占状態になるよう暗躍している事を知っていてもおかしくはない。

「ウチが巻き添い食らっても嫌なんで退去勧告させに部下を送りました。ついでに数日分の露店設営費も回収しようと思ったんですが……」 

 設営費とはブラックマーケットで露店を開いた売り手側がズロア商会に支払う場所代のようなものだ。

「それで?」

 話の続きを促すロイド。しかし、ズロアは肩を竦めながらため息を零す。

「向かった部下は死体になって見つかりましてね。売ってた男達は消えて設営費も回収できず。もう最悪ですわ」

 どうやら話をしに行ったズロアの部下はその場で殺されて放置。殺害したと思われる麻薬販売の男達はブラックマーケットから姿を消したという。

「逃げた先に心当たりは? そいつらの特徴は?」

 ロイドが捜査らしい質問をすると、ズロアは顎に手を当てながら少し考えた後に話し始めた。

「そりゃあ、逃げた先は貧困街じゃないですかねぇ? 最近、住人が新種の麻薬が出て効き目はバツグンだーって噂していました」

 販売していた男達は未だ帝都にいるのは確実だろう。教会に逃げ込んだ男がこの麻薬を持っていたことが何よりの証拠である。

 教会の目を掻い潜るべく貧困街という無法地帯に紛れ込み、売り方を変えたのかもしれない。

「そうだ。それとマーケットで売っていた時の話ですが、買い手は獣人ばっかりだったとか」

「獣人?」

「ええ。他の種族にも売ってはいたそうなんですが、中でも多かったのは獣人だったようです。獣人には安くする、なんて事も店先で言ってたそうで」

 麻薬販売というのはリスクがある。教会に狙われる事が最大のリクスではあるが、憲兵隊やロイド達のような組織にも狙われるだろう。

 さっさと売り捌きたいと思っても割引してはリスクを冒した意味がない。

 なのに何故、獣人には格安で売るなんて事を言ったのか。一定の種族をターゲットとする目的は何なのか。

「……何か裏があるな」

 この麻薬を売っている者達は、ただの金目的で売っているわけじゃないのは明らかだろう。

「どうしますか?」

 逃げた販売員達の目的について考え込むロイドにアリッサが問う。

「そりゃあ、俺のセリフだ。どうする? 貧困街の中に入って追うか?」

 捜査を続けるのであれば帝都で犯罪件数ナンバーワンのエリアに立ち入らねばなるまい。そんな場所にお姫様が足を踏み入れて良いものだろうか。

「行きますよ。仕事ですし」

 しかし、アリッサには迷いが無かった。

 話を聞いていたズロアの方が「マズイですよ」と心配そうな表情を浮かべる。

「分かった。助かったぜ、ズロア」

 もうお姫様を止めようとはしない。止めても無駄だとロイドは分かりきっているからだろう。

「ちょ、だ、旦那!」

 ズロアに礼を告げて、応接室から出て行こうとする彼の背中にズロアが待ったをかける。

「こ、今回の礼を言うなら、き、教会に口添えして下さいよ。ロイドの旦那なら教会にも顔利くでしょう?」

 ズロアは顔だけで振り返ったロイドに「巻き添えは嫌だ」と必死に懇願する。

「お前、教会にこれまで幾ら払った?」

「え? ……400万くらいでしょうかね?」

 ズロアが支払った金額を聞くと「うーん」とわざと考え込むロイド。最後はニヤリと笑って告げる。

「足りねえかもな。まぁ、運が良ければ殺されねえだろ」

 ズロアの不安を掻き立てるような言い方をすると、ロイドは「じゃあな」と残してドアへ歩き出した。

「ちょ、ちょっと旦那ァー!?」
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